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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第2話、バードマンの集落を求めて その5

     第2話その5


「ふぅ……」

 フリルフレアは手の中にあるカップの中のハーブティーを一口飲むと息を吐いた。

 今は深夜、フリルフレアは野営の見張りの最中だった。6人パーティなので見張りは1時間交代。もっとも体感時間なので人によって見張り時間が多少前後するのだが……。

 今日の見張りの順番は最初がフェルフェル、次がローゼリット、次いでスミーシャ、フリルフレア、ドレイクと続き、最後がアレイスローだった。実はフリルフレアがスミーシャに起こされそうになった時に、スミーシャのディープなキッスで起こされそうになったのだが、唇と唇が触れそうになった時にフリルフレアが飛び起きたので事なきを得た。もっとも代わりにスミーシャのおでこに盛大に頭突きをお見舞いする羽目になったのだが……。

 頭突きをお見舞いされたスミーシャは目を白黒させながら馬車の荷台に入っていった。今頃ローゼリットにでも抱き付いて寝息を立てている事だろう。

 とにかく焚火の傍に座り見張りについたフリルフレアは若干痛むおでこをさすりながら、育ての親であるマディ・アーキシャ、通称「ママ先生」直伝のハーブディーを淹れてくつろぎながら見張りをしていた。

 見張りを初めて10分程、視界の片隅に蠢く影が見える。影の方に視線を向けると、ドレイクが毛布を剥いで起き上がっていた。大きな口で盛大に欠伸をしている。

「どしたのドレイク?おトイレ?」

「いんや」

 ドレイクはそう答えると再び大欠伸をした。そしてそのまま首をパキパキと鳴らしながらフリルフレアに近づくとすぐ隣に腰を下ろす。

「どうしたの?」

「別に……眼が覚めちまっただけだ。それよりお前、美味そうなもの飲んでるじゃんか」

「ハーブディーだけど…。美味しいって言うよりは気持ちが落ち着いて体があったまるものなんだけど……飲む?」

「ああ、もらう」

 ドレイクの言葉に「オッケー」と答えたフリルフレアはポットに入れてあったハーブティーを焚火で温め直す。そして適度に温まった所でカップに注ぐとドレイクに手渡した。

「はい、どうぞ」

「サンキュー」

 ドレイクはカップを受け取ると中のハーブティーをズズズと音を立てて啜った。

「アチチ、まだ熱いな」

「あ、熱すぎた?ごめん」

「良いよ、ゆっくり飲むから」

 ドレイクはそう言うと再びチビチビとハーブティーに口をつけた。

 そんなドレイクを少し微笑ましく見ていたフリルフレア。自身もハーブティーを口に含む。若干冷めてしまったが、まだわずかに暖かいハーブティーを飲み干すと、お代わりをカップに注ぐ。そして再び熱々のハーブティーに口を付ける。

 そのまましばらくの間ドレイクとフリルフレアがハーブティーを啜る音だけが辺りに響き渡っていた。

「ねえ、ドレイク」

「何だ?」

 ポツリと呟いたフリルフレアの方に視線を向けるドレイク。フリルフレアはカップを両手で握りしめて何処か思いつめたような表情をしていた。そんなフリルフレアの次の言葉をドレイクは黙って待つ。

「私ってさ……みんなに迷惑かけてるよね?」

「…何でそう思うんだ?」

「だってドレイク、今わざわざ起きてきてくれたんでしょ?」

「………何の事だ?俺は喉が渇いたから起きただけだ」

「ウソばっかり……。それなら水飲んでさっさと寝ればいいのに」

「良いだろ別に…」

 そう言うとドレイクはハーブティーを口に運ぶ。そんなドレイクを、フリルフレアは抱えた膝に頭を乗せながら見上げる。そしてしばらく見つめていた。

「でもありがとうドレイク。私のこと心配してわざわざ起きていてくれてるんだもんね」

「まあ、心配なのは事実だな。お前じゃ見張りの最中に寝落ちしかねないからな」

「何それ、ひど~い」

 プウッと頬を膨らませるフリルフレア。しかしすぐに表情を和らげると、ドレイクに微笑みかけた。

「まあ、実際みんな私なんかよりランクも実力もずっと上だからね……。足引っ張っちゃってる自覚はあるんだけどさ……」

「まあ、このパーティーの奴らはみんなランクよりも実力は上みたいだからな」

「そうだよね。それに比べて私は…」

「いや、それはお前も含めての話だ」

「え?」

 意外そうな声を上げるフリルフレア。ドレイクの口からまさかそんな言葉が飛び出すとは思ってもみなかった。若干信じられない思いでドレイクをマジマジと見つめる。

「私も……?」

「そうだ。お前は、こと魔法に関してだが、ランク2以上の実力を持っていると俺は思ってる」

「ホントに?」

「ああ、実際お前の使う炎の精霊魔法はかなり強力だ。そのうえランク2にしては魔力もかなり多い。正直、魔法だけ見ればお前の実力はランク4……いやランク5に匹敵するとさえ俺は思っている」

「そ……そうなの⁉」

 突然のドレイクの誉め言葉に思わずフリルフレアの頬が紅潮する。あまりドレイクに褒められた事が無かったため思わず興奮してしまうフリルフレア。しかしそんな興奮状態のフリルフレアの鼻先をドレイクが人差し指で押さえる。

「ただし、お前の場合生身での戦闘能力はランク1の頃とほとんど変わってない。そのことは肝に銘じておけよ?」

「う、うん。分かった」

 嬉しそうに頷くフリルフレア。注意すべき点があったとはいえ、ドレイクに褒められたことがよほど嬉しかったらしい。その表情は嬉しそうな笑顔に満ちていた。逆にドレイクの方は少し褒め過ぎたかと思い、咳払いでその雰囲気を誤魔化そうとしていた。

「あ、でも迷惑って言えばお前がみんなに迷惑かけてることがあるよな」

「え、あ…うん。そりゃいっぱい迷惑かけてると思うけど……」

 ドレイクに急に迷惑をかけていると言われ、先ほどまでとは一転してショボンとしてしまうフリルフレア。最初に言ったのは自分だったが、それでも人に言われるとやはり落ち込んでしまうものだった。

 少し落ち込んだ雰囲気になってしまったフリルフレア。だが、ドレイクはそんなフリルフレアを見てニヤリと笑うと、少し楽しそうな口調で告げた。

「お前のそのエプロン。やっぱ冒険者がメイド雇ってると思われるのは迷惑だよな」

「ミイイィィィ!メイドじゃないもん!」

「いや、でもエプロン冒険者ってのも何か恥かしいだろ」

「恥ずかしくないし、このエプロンは防具としても優れモノなの!後、誰がメイド兼冒険者よ!」

「いや、メイド兼冒険者は言ってないぞ」

 魔法のエプロンの話題を出され、思わず顔を赤くして言い返すフリルフレア。心の中では迷惑をかけている部分が魔法のエプロンだというドレイクの言葉に若干安堵していたが、それでもお気に入りの防具をバカにされては黙っていられない。思わず「ミイイィィィ!」と叫びながら言い返しそうになるフリルフレアと、声を上げて笑うドレイク。

 そんな和気藹々とした二人に不機嫌そうな声が投げかけられた。

「あの……お二人とももう少し静かにしてほしいんですけど……」

 静かな怒気を含んだアレイスローの声が響く。そのあまりの怒気に思わず口をつぐんだ二人は恐る恐るアレイスローに視線を向ける。半身を起こしたアレイスローは眠気も相まってか、人を殺しそうな鋭い視線をドレイクとフリルフレアに向けていた。

「ああ、悪い悪い…」

「し、静かにしま~す……」

 大人しくなったドレイクとフリルフレアに満足したのかアレイスローは毛布をかぶって横になった。

 そんなアレイスローを見届けると、ドレイクとフリルフレアは声のトーンを落とした。

「ねえ、そう言えばドレイク」

「何だ?」

「山賊を撃退した後何か気になってたみたいだけど……馬車の中や食事中も何か考え事してたみたいだし、どうしたの?」

「ああ、その事か」

 フリルフレアの言葉にドレイクは一度腕を組んで考え込んだ。そして目を閉じてしばらく考え込んでいたがおもむろに目を開けるとフリルフレアの方を見た。

「いやなに、山賊の言ってた近くの集落で雇った腕の立つウルフマンってのがもしかしたら俺の知っている奴かも知れないってだけの話だ」

「そうなの?」

「実際にはわからん。ただ……確かに俺の知っている奴は馬鹿みたいに腕が立つ」

「そう…なんだ……」

 フリルフレアはそう言うと黙ってしまった。ドレイクの表情からその知っている奴と言うのがあまり友好的な相手では無い事を察したからだ。

 ドレイクは険しい顔をしながら、その集落の用心棒と言う奴と関わり合いにならないことを祈っていた。


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