第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第2話、バードマンの集落を求めて その3
第2話その3
「チェアリャアーーー!」
迫りくる山賊達に対し、ドレイクは片手で大剣を薙ぎ払う。本来ならば両手でしか扱えない大剣を片手で振り回すドレイクの腕力は相当なものだ。そしてドレイクの薙ぎ払いは眼前の山賊達の胴体を一撃で両断する。しかもドレイクの攻撃は一振りで3人の山賊を同時に仕留めていた。さらにドレイクは両手で大剣を握りしめながら同時に大剣を振り被る。そして凄まじい速度で踏み込むと、裂帛の気合と共に一気に大剣を振り下ろした。
「チェストオオーーーー!」
ズドオオォォーン!
ドレイクの大剣が地面を砕く。振り下ろされた刃が眼前に迫っていた山賊2人を縦に両断しそのまま大地を砕いたのだ。
「ひぃ!な、何だこいつ⁉」
「ひ、怯むんじゃねえ!お頭の仇だぞ!」
口ではそう言いながらもドレイクの戦闘力を前に及び腰になっている山賊達。ドレイクを前に攻めあぐねている間にローゼリットとスミーシャが躍り出ていた。そして山賊達の間を駆け抜けながら刃を閃かせる。
「はああああああ!」
「てえーーーーい!」
ローゼリットが両手に持った短剣で山賊達の首筋を斬り裂いていく。そしてスミーシャは右手に爆発の魔剣を持つと、それを軽々と振り回しながら踊るように山賊達を斬り捨てていった。魔剣の切れ味にスミーシャが歓声を上げる。
「ほほー!スゴイねこの剣!爆発させなくても切れ味十分だよ!」
「そいつはよかったな……だが!」
歓声を上げて魔剣に感心しているスミーシャの隙だらけの背中に山賊が忍び寄っていた。そして山賊が手に持った手斧を振り被った瞬間ローゼリットの手が閃き、短剣が撃ち込まれる。短剣は狙いをたがわず山賊の喉元に突き刺さりその命を奪っていた。
「感心するなら後にしろ、今は戦闘中だ」
「テヘッ、そうでした!」
テヘペロとばかりにペロッと舌を出して片手で自分の頭を小突くスミーシャ。「いっけなーい」とでも言いたげにウィンクもしているが、すぐに表情を引き締めると再び魔剣を振り回した。
一方、前衛のドレイク達に対し、後衛のフリルフレア達も援護に回っていた。
フェルフェルが3連装式速射クロスボウを構える。そしてさほど狙いも定めずに3連続で矢を撃ち出す。
バスバスバス!
連続で撃ち出された矢がアレイスローまで接近していた山賊に命中する。矢は全弾胸部に命中しそのまま山賊は倒れ込んだ。
「……次…撃ち抜く…」
フェルフェルは手早く次の矢を装填すると次に接近してこようとしている山賊に狙いを定めた。そしてその間にアレイスローの術が完成する。
「撃ち抜きますよ!『ライトニングジャベリン!』」
ズガガーーーーン!
アレイスローに杖の先端から電撃が撃ち出される。そしてその電撃は縦に並んで迫って来ていた山賊達を一撃で撃ち抜いた。そのまま倒れ込む山賊達。それを見届けたアレイスローはすぐに次の魔法を発動させる。
「次、皆さんあまり効果範囲内に近寄らないで下さいよ……『ポイズンミスト!』」
次の瞬間山賊達の群がる一角に毒々しい紫の霧が発生する。そしてその霧を吸い込んだ山賊達が次々と泡を吹き涎を垂らしながら倒れ込んだ。中にはビクビクと痙攣している者もいる。
アレイスローの魔法が炸裂する中、フリルフレアも負けじと精神を集中させていた。覚えたての魔法のためまだ慣れていないが、精神を闇の精霊界に接触させる。
「闇の精霊グレムリンよ、今こそあなたの悪戯を見せつけて!『ダークネス!』」
次の瞬間一部の山賊達の頭に闇が覆い被さる。光を遮断する闇を頭の周りに発生させることで視覚を遮断しているのだ。
「今だよ、ドレイク!」
「任されたぁ!」
フリルフレアの声掛けにいち早く反応するドレイク。闇で視界が奪われた山賊達に一気に肉迫すると大剣を両手で水平に構えた。そして山賊達の胴体を一気に薙ぎ払う。
ザッパーン!
ドレイクの剣閃により5人の山賊が胴体を両断される。そして更に返す刃で一閃。大剣で斜め下から斬り上げて山賊を斬り捨て、さらにそこから別の山賊を袈裟懸けに斬り捨てた。
次々と倒れ込み、あるいは両断されていく山賊達。そんな仲間の様子を見て残った山賊達は及び腰になってくる。
「どうした!かかってこないのか⁉」
ドレイクの咆哮の様な声に「ひぃ!」だの「あわわ…」だの言いながら後退る山賊達。まあ、山賊達の攻撃など全く当たりもせずほぼ一方的に仲間が殲滅させられていく様子を見れば逃げ出したくもなるだろう。実際既に山賊達の残りは10人にも満たなくなっている。
「かかってこないなら……こっちから行くぞ!」
ドレイクが叫んだ瞬間だった。蜘蛛の子を散らすように残った山賊達がその場から逃げ出していく。「うわああ!」だの「死にたくない!」だの言いながらそのほとんどがその場から逃げ出していった。
そして気が付けば、一人の山賊を残して生き残った山賊全てがその場から逃げ出していった。その残った一人の山賊も逃げようとしているのだが、腰が抜けているのかその場でもがいているだけにしか見えない。
ドレイク達はその山賊を取り囲む様に集まると、そのまま腕を組み、仁王立ちになって山賊を見下ろした。
「それで……なんで俺たちに襲い掛かって来た?」
凄みを利かせ、睨み付けるドレイク。それを見上げた山賊は「ヒイィィィ」と情けない声を上げている。
「わ、悪かった!俺たちが悪かった!だから命だけは……」
「俺はなんで俺たちに襲い掛かって来たのか訊いてるんだが?」
命乞いをするだけの山賊に少し苛立ちを見せながらそう言うドレイク。それを見てさらにビビった山賊は土下座とばかりに頭を地面に擦り付ける。
「ほ、本当に…本当に悪かったよ!もう二度と強盗なんてしないから……」
「お前…俺の話聞いてるか?」
「ひぃ!」
話の通じない山賊に苛立ちを隠せないドレイク。山賊がビビって話にならない状態だったが、ローゼリットがため息をつきながら少し前に出る。
「お前じゃビビらせ過ぎだ赤蜥蜴。ここは私がやろう」
「…………分かった」
ビビらせ過ぎと言われたのが不満なのか少しムスッとしたドレイクだったが、一歩下がるとそのまま黙ってしまった。そんなドレイクに代わってローゼリットが尋問を始める。
「お前…何故私達を狙った?」
ローゼリットの言い方は物静かだったが、その手の中には短剣が握られている。そして手持ち無沙汰だと言わんばかりに短剣を弄んでいた。
「ち、違うんだ……別にあんた達を狙ったんじゃなくて……誰でもよかったんだ!」
「誰でもよかった?」
「そ、そうなんだ!お、俺たちは元々レンドリオン高地の付近を根城にしてたんだが、最近そのあたりに化け物が現れるようになって……、それに近くの集落でも馬鹿みたいに腕の立つウルフマンの用心棒を雇いやがったから……、こっちまで逃げて来たんだよ!」
「それで?」
「だから俺たちも金がなくって…眼についた奴らを片っ端から襲っていたんだ!」
「……なるほどな」
ローゼリットはそう言うと手に持っていた短剣を山賊に投げつける。ヒュンッと音を立てて投げつけられた短剣は山賊の頬を少し切り裂いて後ろの地面に突き刺さった。
「ひぃ……お、お助けーーー!」
恐怖に耐えきれなくなったのかその場から一目散に逃げだす山賊。どうやら抜けていた腰はいつの間にか治っていたみたいだ。
「特にあたしたちを狙ってた訳じゃないみたいだね」
「そうですね」
スミーシャとフリルフレアが頷き合っている。
「しかし、今の話ですとレンドリオン高地に魔物が出没しているみたいですね」
「…どんな…魔物か…訊けば…よかった…」
「確かにそうですね。逃がしたのは失敗でしたか」
フェルフェルとアレイスローが山賊を逃がしてしまったことを後悔していたが、いまさらそんなことを言ってもしょうがない。
「今さらそんなことを言っても始まらないさ。馬車に戻って目的地を目指そう」
ローゼリットの言葉に皆が頷く。そして全員馬車に乗り込んでいく中ドレイクだけは遠くを見ながらポツリと呟いていた。
「ウルフマンの腕の立つ用心棒………か」
「ドレイクー、行くよー?」
「ああ、すまん。今行く」
気になることがあったドレイクだが、今は目的地へ行くことの方が優先だろう。そう思いなおしドレイクも馬車へ乗り込んだ。




