第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第1話、ドレイクとフリルフレアの鎧探し その5
第1話その5
「ただいま戻りました」
虎猫亭に入るとムスッとしてすさまじく不機嫌なままフリルフレアはそう告げた。その後ろから入ってきたドレイクは「戻ったぜー」とボソッと言っただけでフリルフレアの方を見ないようにしている。
「あ、フリルちゃんお帰り!先にご飯食べてる………」
そう言ってフリルフレアの方に視線を向けたスミーシャだったが、次の瞬間カシャン!と音を立てて手に持っていたナイフとフォークを落としていた。そして目をまん丸くしながらフリルフレアの方を見ている。いや、眼をまん丸くしているのはなにもスミーシャだけでは無かった。
スミーシャが座っているのは6人掛けのテーブルで、そこにはスミーシャ以外にもローゼリットとフェルフェル、アレイスローの3人も座っていた。そしていち早く声をかけたスミーシャだけでなく残りの3人も目をまん丸くしてフリルフレアの方を見ている。
「え、ええええええ!何、何何何⁉フリルちゃんどうしたのその格好⁉きゃわいいーー!」
「ど、どうしたんだフリルフレア。ま、まさかメイドにでも転職したのか?」
「…フリル…その…恰好…どう…したの…?」
驚く3人…いや4人。アレイスローも別段言葉には出していないが驚いている事が表情で分かった。
「お前らも何か言ってやってくれよ。こいつ、この格好で冒険に行くつもりなんだぜ?」
「この格好で⁉フリルちゃんグッジョブ!」
ドレイクの言葉に、グッと右手の親指を立ててフリルフレアに突きつけるスミーシャ。ちなみに興奮のあまり鼻血を吹き出しており、左手で鼻を押さえている。
「いや、グッジョブて……」
思わずツッコミを入れるドレイクだったが、スミーシャはそんなことは全く聞いていなかった。そして、「キャーキャー」言いながら席を立つとフリルフレアに駆け寄っていく。そしてそのまま思いっきりフリルフレアを抱きしめた。
「何これ何これ⁉可愛いー!フリルちゃんかわいいーー!」
思いっきりスミーシャに抱きしめられて若干迷惑そうなフリルフレアだったが、それでもあえて上目遣いでスミーシャを見上げる。そして一言……。
「ミイィィィィ……。スミーシャさん、私のこの格好、似合いませんか?」
「そんなこと!そんなこと無いわよフリルちゃん!このエプロンに合ってる!この国で一番……ううん!この世界で一番に合ってるよ!」
そう言って抱きしめる手にさらに力を込めるスミーシャ。それに対し若干苦しそうにしてるフリルフレアだったが、その顔は少しドヤ顔をしていた。そしてそのドヤ顔のままドレイクに「それ見た事か」と言わんばかりの視線を送っている。
「フリルフレア!どうしたんだその格好は⁉」
「フリル…防具屋に…行ったんじゃ…なかった…の?」
ローゼリットとフェルフェルも食事の手を止めてフリルフレアに近寄っていく。まあ、さすがに防具屋に行ったはずの仲間がいきなりエプロンを着けて帰ってくれば驚きもするだろう。
そんな驚くローゼリット達を見ながらフリルフレアは少し得意げに自分が身に着けているエプロンを指差した。
「実はですね……なんとこのエプロン、防具なんです!」
そう言うと防具屋で聞いた話を嬉々として説明し始めるフリルフレア。そんなフリルフレアの説明を半ばポカンとしながら聞いているローゼリットとフェルフェル。ちなみにスミーシャは未だにフリルフレアを抱きしめている。
「つまりですね、このエプロンは見かけよりもずっと優秀な防具なんです!」
グッと拳を握りしめながらエプロンの説明をそう締めくくったフリルフレア。説明を聞いていたローゼリットとフェルフェルは一応納得した様だった。
「なるほどな……確かに、この軽さで金属鎧並みの防御能力を持っているのなら、防具としては優秀だな」
「…しかも…可愛い…」
ウンウン頷くローゼリットに、口の中で「可愛い…可愛い…」と呟きながら魔法のエプロンに触るフェルフェル。ちなみにスミーシャは相も変わらず、淫魔の様な笑みを浮かべながら若干涎を垂らしてフリルフレアのお尻を撫でている。
女性陣がフリルフレアの服装に好意的な態度を取っている中、アレイスローもフリルフレアに近寄っていく。そして、魔法のエプロンの裾を掴むとまじまじと見ていた。
「なるほど……その性能でこの外見とは……驚きますね…」
「そうだろ?フリルフレアの奴に一言言ってやってくれよ」
うんざりした表情で言うドレイクだったが、アレイスローは首を横にフルフルと振っている。
「いえ、こんな外見でも防具としてしっかりとした能力を持っている。これはなかなかの逸品ですよ」
「………ちくしょう、お前もか弐号…」
ドレイクはつまらなそうにそう呟くと、ため息をつく。どうやらアレイスローも味方では無かったようだ。
自分の意見が少数派だった事実にガックリと肩を落とすドレイク。そんなドレイクを見てフリルフレアは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「それ見なさいドレイク。やっぱりこのエプロンはすごい防具なのよ!それこそ、数さえそろえばみんなで装備するほどね!」
「あ、いえ、たとえあっても私は装備しませんよ?」
そう言ってバタバタと手を振るアレイスロー。
「ミイィィィ⁉どうしてですかアレイスローさん⁉」
「いえどうしても何も、私には似合わないでしょう」
笑いながらキッパリとそう言うアレイスロー。「そんな⁉」とショックを受けているフリルフレアにさらに追い打ちがかかる。
「いやフリルフレア、悪いが私もこれは着れないぞ?」
「ローゼリットさん⁉」
「フリル…フェルも…これは…着れない…」
「フェルフェルさん⁉」
「いやー、ゴメンねフリルちゃん。フリルちゃんが着てるのは良いんだけど、自分で着るのはちょっと……」
「スミーシャさんまで⁉」
自分と同意見だと思っていたメンバーの突然の裏切りに「ガーン!」とショックを受けるフリルフレア。ローゼリットとフェルフェルは気まずそうに視線を逸らし、スミーシャは「ゴメンねフリルちゃん」とか言いながらフリルフレアから離れる。
その様子を見ていたドレイク。今度はこちらがニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「どうしたフリルフレア?すごい防具なんじゃなかったのか?」
「グヌヌヌ………」
煽るドレイクに対し、口惜し気に唸るフリルフレア。
「な、何よ!このエプロンが可愛いことに変わりはないんだから!それにドレイクなんか、デザイン気にしすぎて結局防具買えなかったじゃない!」
「別にデザイン気にして買わなかったんじゃねえよ」
フリルフレアの言葉に、ジト目で睨み返しながら言い返すドレイク。
「何だ、赤蜥蜴は結局防具を買ってないのか?」
「良い物がありませんでしたか?」
ローゼリットとアレイスローに言われたドレイク。しかし、首を横に振ってため息をついた。
「あの防具屋、女向けの防具は品ぞろえが良いんだが、男向けのは大したものが売って無くてな……。金もなかったし、今回は諦めた」
そう言って肩をすくめるドレイク。
「まあ、別にあんたの場合防具なんて必要ない気もするけど」
「前にも言ったろ?鎧が無いと落ち着かないんだよ」
スミーシャの言葉にそう答えたドレイクはそのまま空いている席に座った。それにならいフリルフレアも空いている席に着き、ローゼリット達も元の席に着く。
「とりあえず防具の話はこれで終わりだ。飯食ったら、仕事探しに行くぞ」
ドレイクはそう言うとメニューを開いて、何を食べようかと料理を選び始めた。




