第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 エピローグ
エピローグ
「これで良し」
ドレイクはそう言うと、丸みを帯びた大きな岩をその場に置いた。
『青鱗の竜司祭バレンシア・ワーグナー ホビットの義賊ランビー・フロイツ 名探偵オルグ ここに眠る』
そう彫り込まれた岩の表面を撫でるとドレイクは一息つき、後ろを振り向いた。
「うん」
フリルフレアが頷きながら大きな岩の前に出る。その手にはマゼラン村の近くで摘んで来た花が花束になって握られていた。
フリルフレアやドレイク達のいるこの場所はランビーとオルグの遺体が眠っている場所だった。埋葬したランビーとオルグ、そして遺体は残らなかったがバレンシアの墓を作ってあげたくて何か遺品になる物がないか山頂の爆破跡を探したのだ。そしてそこで奇跡的に残っていたバレンシアの薙刀の先を持ってランビーとオルグを埋葬した場所に戻ってきた。
そして墓石代わりに手頃な岩を探して表面に文字を刻み込んだのだ。
簡素な墓ではあったがせめてもの供養になれば………そんな気持ちで作った墓だった。
フリルフレアがしゃがんで手に持った花束を墓前に供えた。そして両手を合わせて握りしめる。
「バレンシアさん……バレンシアさんが守ってくれたから私はこうして元気でいられます。ランビーさんとももっとお話がしたかったです。オルグさんにももっと私のお料理を食べてほしかったです……皆さん、どうか安らかに……」
握りしめて手がわずかに震える。眼の奥がツーンとなり、涙が滲みそうになる。それでもフリルフレアは涙ぐみながらも、涙をこぼさないように必死に耐えた。そして頭を下げると少し後ろに下がり墓石の前を空けた。その時、涙が一滴だけ頬を伝って落ちた。
次いで、アレイスローが墓石の前に立つ。そして手に持っていた瓶の封を開けると、その中身を墓石の上から注いだ。それは……アレイスローがマゼラン村で買ってきた白の葡萄酒だった。
「バレンシアさん、ランビーさん、オルグさん。今回だけの臨時パーティーだったとはいえ、ちゃんと酒を酌み交わせなかったのが残念でなりませんよ。皆さんの好みが分からなくて恐縮ですが、せめてこれを飲んでください……」
そう言うとアレイスローは葡萄酒を半分まで注ぐと、残り半分を入れたまま瓶を墓石の前に置いた。そして静かに両手を合わせると、その場を空けた。
その次にフェルフェルが墓石の前に立つ。そしてその場にしゃがみこむと、両手を合わせて握りしめた。
「フェル……バレンシアの事…好きだったよ…ランビー…とは…もっと…話が…したかった…オルグ…探偵の…仕事の…話…聞きたかった………みんな…安らかにね…バイバイ…」
フェルフェルは立ち上がると、次の人にその場を譲った。
次に墓石の前に立ったのはゴレッドとローゼリット、スミーシャの3人だった。3人とも両手を合わせて握りしめ、目を閉じている。
「すまんのう……わしらはお前さんたちには直接会っておらんのじゃが…」
「それでも、フリルちゃん達を助けてくれたことにはお礼を言いたいよ」
「後の事は気にしないで安らかに眠ってくれ……」
ゴレッドは略式ながら聖印を切り冥福を願う祈りの言葉を紡ぐ。その言葉を紡ぐ間、スミーシャとローゼリットも会った事が無いながらも3人の冥福を祈った。
そして、祈りの言葉を終え3人が場所を開けると、最後にドレイクが墓石の前に立った。その手には山頂ごと吹き飛んだ神殿の爆破跡で見つけたバレンシアの薙刀の先が握られていた。そしてドレイクはその薙刀の先を墓の前に突き立てた。
「じゃあな、バレンシア」
ドレイクはそれだけ言うと、そのまま踵を返した。正面を見据えるとフリルフレアと視線がぶつかる。ドレイクはそのままフリルフレアの目の前まで行った。
「ドレイク、もうちょっと……」
ゆっくりと話していっても良いのではないかと言いたいのだろう。しかしドレイクは軽く首を横に振ると、フリルフレアの頭をワシャワシャと撫でた。
「良いんだよ。こんなもんで…」
そう言うとドレイクは墓に背を向けたまま歩きだした。少し不満げながらもフリルフレアが後に続く。アレイスロー、フェルフェル、ローゼリット、スミーシャ、ゴレッドもその後ろに続いた。
気のせいだとは思ったが……墓石の前で、バレンシアとランビー、オルグが見送ってくれている……そんな気がした。
「それで、お前さん達これからどうするんじゃい?」
山を抜けたところでゴレッドがそう声をかけて来た。山を抜ければ後は各々行き先は別である。ソロやコンビの集まりだったので、この場で解散と言う事なのだろう。
「そう言うお前はどうするんだ灰色石頭?」
「わしか?わしは依頼人の所に事情を説明しに行かにゃならんからのう……」
そう言って三つ編みにした髭を撫でるゴレッド。
「ここからなら直接依頼人のいる町まで行った方が早いからのう、わしはそこに向かうつもりじゃが?」
「そうなんですか?じゃあゴレッドさんとはここでお別れですね?」
フリルフレアが少し残念そうな声を上げる。
「まあ、そうじゃな。フリルの嬢ちゃんはどうするんじゃ?」
「私とドレイクは一度アラセアに寄ってこの宝珠を冒険者ギルドに預けてからラングリアに帰ろうと思います」
フリルフレアの言葉に頷くドレイク。正直、こんな魔王の魂を降臨させえる宝珠などさっさと封印してほしいものだが、それはギルドに任せることにする。
「私達はどうする?」
「もっちろんフリルちゃんと一緒にラングリアに帰る!」
ローゼリットの言葉に即答するスミーシャ。ローゼリット自身もそのつもりだったのか、はたまたその答えを予想していたのか、特にツッコミは入れていなかった。
「フェルフェルさんはどうするんですか?」
フリルフレアの言葉に、フェルフェルは少し考えた後、フリルフレアに近寄りその服の袖をつまんだ。
「フェル…フリルと…一緒に…行く…」
「え……一緒に来てくれるんですか⁉」
フリルフレアの言葉に無言でコクコクと頷くフェルフェル。それを見たスミーシャが「ムキー!ライバル出現!」とかわめいていたが特に誰も気にしていない。
「ドレイク!フェルフェルさん一緒に来てくれるって!」
「ああ、まあ好きにすると良いだろ」
ドレイクは特に興味無さげに言ったがフリルフレアは非常にうれしそうだった。やはり同種族がいるというのは心強いのだろう。
「あの~ドレイクさん」
「おう弐号、何だ?」
「……何でそんな不機嫌そうに答えるんですか?」
若干ドスの効いた声で答えるドレイクに及び腰になるアレイスロー。
「おい弐号、前から思ってたんだが……お前『ドレイクさん』って呼ぶのやめろ」
「はあ?じゃあ何て呼べばいいんですか?」
「別に『ドレイク』で良い。さん付けで呼ばれると落ち着かないんだよ」
そう言って首の後ろを掻くドレイク。それを見ていたアレイスローは少しジト目でドレイクを睨んでいた。
「ドレイクさんが私の事を『弐号』って呼ぶのをやめたら考えてあげますよ」
「何ぃ……じゃあ、お前の事なんて呼べばいいんだよ」
「いや、普通にアレイスローって呼んでくださいよ」
「やだ。長くて覚えらんね~」
「じゃあ、私もドレイクさんって呼びます」
「ぐぬぬぬぬ……」
どこまでも平行線な会話を続けるドレイクとアレイスロー。そんな二人を見てフリルフレアがため息をつく。
「あのアレイスローさん。何か言う事があったんじゃ……」
「そうでした…。良かったら私もラングリアまでご一緒したいのですが…」
「それは構わないが……何でだ?」
ドレイクの言葉にアレイスローは頭の後ろをポリポリと掻いた
「いえ、ラングリアに兄の墓があると聞いたので……1度行っておこうと思いまして…」
「ロックスローの墓はわしが造ったんじゃが……遺品の類は入っておらんぞ?」
「それでも一応お墓参りをしておきたいんですよ」
「まあ、お前さんがそう言うならわしは止めんが……」
ゴレッドはそう言うと、道を指差した。
「そう言う事ならわしだけここでお別れじゃな。わしはこっちの道から行くとするかのう」
ゴレッドはそう言うと指差した道の方に歩き出した。
「じゃあのう。わしはこのまま行くが達者でな。あと赤蜥蜴!」
「何だよ」
「あんまりフリルの嬢ちゃんを泣かせるもんじゃないぞ?」
「余計なお世話だ、さっさと行け!」
ドレイクの言葉に豪快な笑い声で答えたゴレッドはそのままドレイク達と別れて道を歩いて行った。
「さて、それじゃまずはアラセアに向かって、だね!」
スミーシャがアラセアへと続く道を指差す。
「そこで宝珠を預けたら次はラングリアだな」
ローゼリットが腰に手を当てて道の先を見つめる。
「ラングリアに就いたら、まずは兄の墓参りをしましょう」
アレイスローが提案だとばかりににこやかに言っている。
「ラングリア…美味しいもの…ある…?」
フェルフェルがお腹がすいたとばかりにお腹を押さえている。
「それじゃ……行こっか、ドレイク」
「ああ、そうだな」
ドレイクとフリルフレアがアラセアに続く道を歩き出す。スミーシャにローゼリット、アレイスローにフェルフェルがそれに続いた。
この凸凹チームの旅はしばらく続きそうだった。
赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 完




