第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第8話、後始末 その5
第8話その5
「そのまま意識を失った私は、このマゼラン村の人に発見されて保護され、そのまま介抱されたという訳です」
そう言って言葉を切ったアレイスロー。チックチャックが生きていたというのには驚いたが、すでに倒されているという話を聞きフリルフレアはホッと胸をなでおろした。
「…アレイ…チックチャックの…死体は…どうしたの?」
「息が無いのを確認した村の方が埋葬したそうですよ」
「…そう…」
フェルフェルはそう呟くと、どこか面白くなさそうに顔を逸らした。
「どうかしたんですかフェルフェルさん?」
「…別に………ただ…悪人の…チックチャックは…死体を…埋葬…したのに…バレンシアの…ことは…埋葬…してあげられなかった…のが…面白く…無くて……」
「……そうでしたね……」
フェルフェルの言葉に頷くフリルフレア。確かにチックチャックの遺体は村人が埋葬したし、ランビーとオルグの遺体(オルグの遺体は下半身だけだが…)は山中に埋葬してある。だがバレンシアだけは自爆により身体もろとも爆発してしまったため遺体が残らなかった。そのため埋葬と言う形が取れなかったのだ。そのことが悔やまれてならない。
「私…バレンシアさんのこと、忘れません。それでいつか……私に子供が出来たら教えてあげたいです。私達を助けるために命を懸けた美しくて勇敢な青鱗の竜司祭がいたことを…」
「そうですね。彼女に救われた命、これからの人生を精一杯生きるのがバレンシアさんへのせめてもの供養になると思います」
フリルフレアとアレイスローが頷き合う。周りを見れば、フェルフェル、ゴレッド、スミーシャ、ローゼリットの4人も頷いていた。1人、ドレイクだけがどこか遠くを見る様な視線で少しボーっとしていた。
「……ドレイク?」
「ん?ああ……いや…本当に、惜しい奴を亡くしたと思ってな……」
腕を組み、遠くを見つめるドレイク。バレンシアは誇りを重視するリザードマンの中でもとりわけ誇り高い女だったと思う。同時にあれだけの腕を持つ竜司祭はなかなかいないはずだ。それだけに、ドレイクにとって同胞と言えるバレンシアの死は残念でならなかった。
「どうしたのドレイク?……あ~、もしかしてドレイク、バレンシアさんが美人だからってちょっかい出そうとしてたんでしょ?」
「ちょっかいって……お前なぁ……」
「まあ確かに、バードマンの私が見てもバレンシアさん美人だったからね。ドレイクじゃ釣り合わないんじゃない?」
そう言って「プププ」と可笑しそうに笑うフリルフレア。ドレイクはそんなフリルフレアのほっぺたを両手でつまむとそのまま左右に引っ張った。
「不細工で悪かったな。どうせ俺と釣り合うのはお前くらいだよ」
「ろ、ろれいく……いひゃいいやい!(ド、ドレイク……痛い痛い!)」
ほっぺたを引っ張られ痛がるフリルフレア。ドレイクはそのまま少し強めにフリルフレアの頬を引っ張り続けた。
「いひゃい!ろれいくやええ!(痛い!ドレイクやめて!)」
引っ張られる頬の痛さに思わず瞳に涙が滲むフリルフレア。
「ちょっと赤蜥蜴!フリルちゃん痛がってるじゃない!」
「そのくらいにしておけ。フリルフレアの顔が歪んでしまうぞ」
「フリル…かわいそう…」
女性3人から攻められるドレイク。だがドレイクは特に気にした様子もなくフリルフレアの頬を引っ張っていたが、突然手を放した。
「いったーい……何するのよドレイク!」
痛みのあまり涙をポロポロとこぼしながら文句を言うフリルフレア。だがドレイクはそんなフリルフレアの頭を少し乱暴に撫で回しながら少し優しい声音で呟く様に言った。
「大切な仲間が死んだんだ。我慢してないで泣け」
その言葉が耳に入った瞬間、フリルフレアの動きが止まった。そしてそのままフルフルと震えだす。瞳からは涙が溢れ出していた。そしてそのまま膝から崩れ落ちるとドレイクのお腹に顔を埋めて泣きだした。
「う、ううう……うわああああん!…バレンシアさん……」
そう、フリルフレアは……ずっと我慢していたのだ。バレンシアが命懸けで救ってくれた自分たちの命。そのバレンシアに報いるために今まで気丈に振る舞っていただけだった。フリルフレアの心はとっくの昔に……そう、バレンシアの死をその眼で見てしまった時に、すでに悲鳴を上げていたのだ。それを必死に隠しながら戦っていたのだ。
「何で……何でバレンシアさんは…死ななきゃ…ならなかったの…?………どうして…ランビーさんと…オルグさんは…殺されなきゃいけなかったの?」
泣きながら搾り出す様にそう言ったフリルフレア。心の悲鳴がそのまま口をついた様な言葉にドレイク達は何も答えられなかった。
「わしらはその3人には会ったことが無いから何も言えんが……」
ゴレッドがフリルフレアに声をかけようとするが、うまく言葉がまとまらない様子だった。
「でも、命懸けでフリルちゃん達を守ろうとしてくれたそのバレンシアさんって人にはお礼を言いたいよね……」
「そうだな……」
スミーシャとローゼリットも自分の想いを口にはしたが、それでもフリルフレアにどう言葉をかけたらいいか分からなかった。そんな中、フェルフェルが立ち上がるといまだドレイクのお腹に顔を埋めて泣いているフリルフレアの肩に触れた。
「でも…フリル……バレンシアの…仇は…討った…よ?」
「そうですよフリルフレアさん。それにランビーさんやオルグさんの無念も晴らしたじゃないですか」
フェルフェルに続きアレイスローが声をかける。それらの言葉にフリルフレアは顔を上げた。まだポロポロと涙を流しているし、「ひっく、ひっく…」としゃくり上げてはいるが、とりあえず声を上げて泣くのは止まったようだ。
「迷惑探偵の無念はどうでも良い気がするが……」
「そうでもないですよドレイクさん。チックチャックにそそのかされたとはいえ、最初から殺される予定だったみたいですし、チックチャックに出会いさえしなければ彼は今頃生きて探偵を続けていたはずです。ある意味では彼が一番の被害者だとも言えますよ」
「んー、確かにそう言われると……」
アレイスローの言葉に納得した様なしてない様な表情で唸るドレイク。だが、確かにアレイスローの言うことももっともだと思った。
「こんなことしかできんが、せめて冥福を祈ろうかの……」
「そうですね……」
ゴレッドの言葉に頷くアレイスロー。そして各々両手を握ると、バレンシア、ランビー、オルグの冥福を祈った。
「バレンシアさん、ランビーさん、オルグさん、どうか安らかに眠ってください。私達、皆さんの分も精一杯生きて行きます………」
皆で祈りをささげる中フリルフレアの言葉が静かに響き渡る。その言葉は空に舞い上がり、天国のバレンシア達に届いた………そんな気がした……。




