第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第7話、赤き竜の咆哮 その4
第7話その4
「クッソー、どうすっかなー、これ……」
あまりの状況の悪さに思わずドレイクはぼやいていた。
チックジャムを倒したドレイクは大岩を押し返しながらもと来た道を戻って行った。元来た道を戻るだけなので順調に進めるかと思っていたが、大岩により破壊された罠の残骸が邪魔になり大岩はなかなか転がらない。正直頭の中に流れ込んできていたフリルフレアの映像が消えてしまったので多少なり焦りもある。そのせいもあり余計に進むのが遅くなっていた。
そして、地道に道を戻っていた時に突如巨大な地震があり壁や天井が崩壊してきたのだ。当然のように瓦礫の中で生き埋めになるドレイク。それだけならばすぐに脱出できただろう。だが、間の悪いことにちょうどその瞬間地面に空いた落とし穴にはまってしまったのだ。
行の時は大岩に追われて走っていたため無意識に飛び越えていたみたいだが、そのせいで落とし穴の存在を失念していた。そしてその落とし穴は意外に深く、さらに瓦礫が穴に入り込んできたため常人ならば脱出不可能な状況に陥っていた。
落とし穴は広さが直径3m程の円形、高さは6m程だろうか。そして底には多数の竹槍が仕込まれていたが、落ちてきたドレイクの下敷きになりそのほとんどが折れ曲がっていた。
(面倒くせえなぁ…)
上を見上げるドレイク。頭のすぐ上まで瓦礫が詰まっており、ほんの僅かな光が入ってくる以外ほとんど視界が利かない。そのうえ、頭のすぐ上の瓦礫は拳で叩けば崩れるが、その分連鎖的に上の瓦礫も崩れて行ってしまい余計に落とし穴に瓦礫が詰まるだけだった。
さらに言えば、先ほどからずっと断続的に地震が続いている。あまりに地震が続いているため、もしかして巨人が地団太でも踏んでいるんじゃないかと思えてくる。
しかも、先ほどからわずかに聞こえてくる外の音は何か爆発音の様な音が混じっており、その音が余計にドレイクを苛立たせた。
「もしかして外で戦闘でも起きてるのか?……クソッ!」
苛立たし気に頭上の瓦礫に拳を叩き込むドレイク。ガスッ!と音を立てて叩きこまれた拳により、さらに瓦礫がガラガラと落ちてくる。
「ホントに、どうすっかな…これ……」
珍しく頭をひねるドレイク。元来答の出ないことは考えない性分なのだが、今回ばかりはそうも言っていられない。脱出を諦めたら自分は餓死してしまうし、それ以上にフードの男に担がれていったフリルフレアが気になる。実はもうフリルフレアはとっくにバレンシアの手で救いだされていたのだが、ドレイクはそれを知る由もない。それどころか瓦礫の山の外ではすでにフリルフレア達がゴレッド達と合流し巨大大喰い蟲に立ち向かっているところだった。しかしそのことを知らないドレイクの焦りも募るばかりだった。
気が付けば、爆発音らしきものは聞こえなくなっていたがそれでも地震は続いている。
「こんな瓦礫の山、一気に叩き壊して……」
瓦礫を見上げて苛立たしげにつぶやくドレイク。だが、次の瞬間とあることを思いついた。
(待てよ……下から少しずつ崩していくから余計に崩れて来るんだ。下から一気に吹き飛ばせば……)
次の瞬間ドレイクはニヤリと口の端を歪める。その口の端からはわずかに炎が燻ぶっていた。
そしてドレイクは息を深く吸い込むと、顔を頭上の瓦礫に向けた。そして口を大きく開き、一気に炎のブレスを吐き出した!
グヴォオオオオオォォォォ!
凄まじい炎が柱の様に立ち上り瓦礫を吹き飛ばしていく。ドレイクはその強力な炎のブレスで落とし穴の中の瓦礫をすべて吹き飛ばしていた。
「よし!」
すぐさまドレイクは『氣』を脚に集中させる。そして一気に跳躍し落とし穴の外に躍り出た。
「キシャアアアアアアアア!」
ズズン!ズズシン!
突然響き渡る謎の鳴き声と振動。その鳴き声に驚き後ろを振り返ったドレイクの眼に、巨大大喰い蟲の巨体が飛び込んできた。
「な、何だありゃ⁉」
驚きの声を上げるドレイク。同時に巨大大喰い蟲の姿に何か既視感の様なものを感じる。
この巨大な魔蟲をどこかで見た覚えがある気がするのだが、それがどこで見た何なのか全く分からない。それでもこの巨大大喰い蟲を…正確に言えばこの巨大大喰い蟲によく似たものを確かに過去に見た覚えがあった。
(何だこいつは⁉……まさか、俺の過去に何か関係があるのか?)
考えたところで答えは出ない。だが、暴れまわるこの巨大大喰い蟲を見て一つ確信したことがあった。それは……。
「こいつを放っておいたら確実に国中に被害が出るな……」
そう呟いたドレイクの額を冷たい汗が伝い落ちる。
どうやってこの巨大なミミズの化け物を止める?頭は幅だけで10m程もありそうだったし、恐らく全体の長さは200m程もあるだろう。いかにドレイクでもそんな巨大な魔蟲をどうやって止めればいいのか分からなかった。
それでもドレイクは背中の大剣を抜き放つ。僅かに赤い光を放つ赤みを帯びた刀身がギラリと輝く。
「ウオオオオオオオ!」
大剣を構え巨大大喰い蟲に突撃するドレイク。正直に言えば先にフリルフレアを探しに行きたかった。だが、この巨大な魔蟲が暴れている場所ではそんな悠長なことはしていられない。今はフリルフレアが誰かに救出されてこの場から避難していることを信じるしかなかった。
一気に駆け寄ったドレイクが大剣を一閃させる。
ガキィィィン!
甲高い音が響き渡る。金属と岩がぶつかる様な音がして巨大大喰い蟲の表面の皮膚が削られる。だが、それは皮膚を削っただけで肉にまでは達していなかった。
「クソ!何つー固さだ!」
吐き捨てる様にそう言ったドレイクは「それなら…!」と言いながら大剣を横に構える。そして次の瞬間大剣に炎のブレスを吐きかけた。
グヴォオオオオオオ!
炎が大剣の刀身に絡みつき渦巻く。そして大剣が炎を纏うとドレイクは軽く2~3回振り回した。
「切り札その1『劫火の太刀』……いくぜ!」
再び巨大大喰い蟲に肉迫するドレイク。そしてドレイクは大剣を振り被った。
「チェアリャアァァ~~!」
ザン!ザザン!ザシュッ!
次の瞬間炎を纏ったドレイクの大剣が巨大大喰い蟲の皮膚を斬り裂き肉を断ち斬る。
「キシャアアアアアアアア!」
巨大大喰い蟲の鳴き声が響き渡る。実はアレイスローやゴレッドの魔法でもほとんどまともに傷をつけられなかった巨大大喰い蟲だったが、ドレイクの剣撃は有効だったようだ。
しかしその事でドレイクを外敵と認めたのだろう。次の瞬間巨大大喰い蟲の巨体がドレイクを弾き飛ばす。
「チッ!」
舌打ちし、吹き飛ばされながらも体勢を崩さずに着地するドレイク。だが、その眼前に巨大大喰い蟲のその大きな口が迫ってきていた。
瓦礫を呑み込みながら迫る巨大大喰い蟲の口。迫り来るその先端の触手を剣閃で斬り飛ばしなおも距離を取ろうとするドレイク。だが巨体ゆえか巨大大喰い蟲の顔が迫るスピードは凄まじい。
「クソ!そんなら、これでどうだ!」
叫んだ瞬間ドレイクは地面を蹴った。その眼前には巨大大喰い蟲のあまりに大きすぎる口。そしてドレイクは咆哮を上げ、大剣を振り回しながらその巨大すぎる口の中へと飛び込んで行った。
 




