第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第5話、メープルとゴンザルド その7
第5話その7
帝国内で新しい銃器がいくつも開発されている事実にローゼリット達は警戒心を強めていた。
「しかし……それだけ強力な銃器をいくつも開発しているという事は………確かにここに攻め入ってくる可能性は高いな……」
「そうだね~、その開発された新しい銃がどれだけ強力かは分からないけど………」
ローゼリットとスミーシャはそう言って頷いている。しかしそこでアレイスローが口を挟んできた。
「確かに新たに作られた銃は強力でしょうが………ここに攻めてくるのはどうでしょう?」
「え?攻めて来ないっていうの?」
「はい…………まあ、可能性の話なんですが……」
スミーシャの疑問にそう応えたアレイスロー。しかしアレイスローの言葉にローゼリットが眉をひそめている。
「どういうことだ?もしかして開発された銃はまだ数が揃っていないってことか?」
「いえ………ですがある意味それよりも厄介な問題があるはずなんです」
「厄介な問題?」
「はい」
キッパリと頷いたアレイスロー。言葉の割にはその表情は自信に満ちている。恐らく彼なりに帝国がすぐには攻めて来ないと確信があるのだろう。そしてアレイスローは一度皆を見回してからおもむろに口を開いた。
「銃の弾……弾丸という問題をクリアしないといけないんです」
「銃の弾?」
ポカンと言葉を繰り返すスミーシャ。アレイスローの言おうとしていることがいまいち分かっていないように見える。しかし、銃の弾と聞いてローゼリットとジャックライトは何かに気が付いた様にハッ!としていた。
「そうか!今までの銃と違い、新たに開発された銃は今までの様なただの鉛玉を詰めて撃つ訳では無いということだな⁉」
「恐らく専用の弾丸が必要……そう言う事か!」
「はい、恐らくですが……」
ローゼリットとジャックライトの言葉に頷くアレイスロー。スミーシャはそんな様子を見てポカンとしている。
「え?え?……どゆこと?」
どういうことなのか理解できていないスミーシャ。ローゼリットは「つまりだな……」とか言いながら相棒に説明を始める。
「今までの銃というのは筒の様な銃身の中に火薬を詰め、その上から丸い弾丸を入れる。そして火薬に火をつけて弾丸を撃ち出すんだ」
「うん、それはあたしも知ってるけど……。え?新型の銃は違うの?」
「ああ。あくまで推測でしかないんだが………さっきのメープルの話だと、新型の銃は懐に入れて携行できたり、超長距離からの狙撃が出来たり、異常は程速く連射が可能だったりするらしいからな。特に超長距離狙撃用の銃と高速連射式の銃は銃身に火薬を詰めるやり方じゃ絶対に実用化できない。狙撃用の銃は弾丸の射程を伸ばすには火薬を増やすしかない。だが、従来の銃ではただ火薬の量を増やしてもわずかにしか射程が伸びないはずだ。むしろ銃身を痛めて、最悪暴発する危険背もある。射程を伸ばすには、弾丸の形状や構造を見直さなければならないはずだ」
「な、なるほど……」
ローゼリットの説明に納得するスミーシャ。
「連射式の銃というのも同じです。どういう構造なのか……残念ながらまだ未知数ですが、少なくとも今までの銃では連射は不可能。連続で弾丸を撃つなら銃弾を連続で撃ちだす機構の銃身と、それに合わせた連結させた弾丸が必要になるはずです。ならば当然その専用の弾丸を大量に作る必要がある」
「しかしその弾丸がどれだけの威力かは知らんが………俺達巨人の里を攻撃するには凄まじい数の弾丸が必要…………そしてそれを用意するにはまだまだ時間がかかるはず………そう言う事だな?」
「ハイその通りです」
ジャックライトの言葉に頷くアレイスロー。ちなみにアレイスローの横ではフェルフェルが相変わらず茶菓子を貪りながら「……なる……ほど……」とか頷いていたが、本当に理解しているかどうかはかなり怪しかった。
「でもさ、そればら別に今すぐ帝国との交流を無くさなくても良いんじゃない?」
「そうだな……早いに越したことは無いだろうが……今すぐ早急にという訳でもないだろう。どうだメープル?とりあえずガレッドがザルガンドに戻り、その後帝国内にいるここへの通行証を持った者達を集めて一度話し合い、その上で協議するというのでは?」
スミーシャの言葉に頷いたローゼリットはそのまま今後の対応についてメープルに提案した。ローゼリット自身は自分の言ったこの提案を少々悠長かもしれないと考えていたが、それでも決して手遅れにはならないはずだと考えていた。だが、その言葉にメープルは首を横に振った。
「いえ、申し訳ございませんがそんな悠長にことを構えている暇はございません。ことは一刻を争う……そう考えていただいても差し支えないのです」
「……うぇ~い……そんなに…急いで……どう……するの?」
メープルの言葉にフェルフェルが不思議そうな顔をしている。やはり状況を理解していないらしい。
「ですが……フェルの言葉ではありませんが、そこまで急がなくても大丈夫ではありませんか?いくら数年前から新しい銃器を開発してきたとはいえ、銃に合わせて必要な形の弾丸も作らなければならないのでしょう?たかだか数年でそんなに大量に作れるものなのですか?」
アレイスローの言葉に、しっかりと頷いたのがゴンザルドだった
「それが……すでに作られているのです。銃器……拳銃や狙撃銃、連射銃と呼ばれるものですが、それにあった規格の弾丸も既に大量につくられております。それこそ皇帝陛下が命を下されば、すぐにでも帝国兵たちはここに押し寄せて来るでしょう」
「何だと⁉」
「何ですって⁉」
弾丸の製造が間に合わないからすぐには攻めて来ないはず……という自身の過程を根本から覆されて驚きの声を上げるローゼリットとアレイスロー。スミーシャとジャックライトも顔だけは驚いている。
「どういうことだ?その狙撃銃や連射銃の弾丸はそんなに簡単に作れるものなのか?」
「いえ……かなり精密に作らなければなりません。それこそ…………ドワーフの鍛冶師たちが精魂込めて作らなければならない程……」
ジャックライの疑問にそう答えたゴンザルド。そしてゴンザルドの言葉を聞いたローゼリットは「まさか!」と思わず声を上げていた。
「帝国で貴族階級以外自由に国外に出られない理由は……!」
「そうです。ワシらドワーフの……特に鍛冶師を逃がさないためです。現在帝国では周囲の国からもドワーフの鍛冶師を集めております。その方法もかなり強引で、大半が拉致や脅迫によって無理やり連れて来られた者達です。そして……そんなドワーフの鍛冶師たちは帝都にある軍事施設で強制的に新型の銃器やそれらのための弾丸の製作に当たっているのです」
「ひ、ひどい……」
ゴンザルドの説明に思わず呟くスミーシャ。
「まったくです。そのうえ、労働時間は異常なほど長く、かつドワーフの鍛冶師たちが過酷な労働のせいで身体を壊しても帝国側は何もしてくれません。文字通り鍛冶師達の命は帝国にとって替えの効く駒でしかないのです」
「鍛冶師達が死んでも新しい鍛冶師をつれてくればいい………そういう考えだということか………」
ゴンザルドの言葉にローゼリットは顔をしかめ、スミーシャは思わず歯をくいしばり、アレイスローでさえ不快感を露わにすることを抑えきれていなかった。




