第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第5話、メープルとゴンザルド その6
第5話その6
「なるほど……ギルガストというその皇帝がそれだけのことをやりかねない男だという事は理解できた。だが……」
メープルやゴンザルドの言葉に理解を示したジャックライト。しかしそれでも彼は首を横に振る。
「生憎だが、俺達ハイ・ジャイアントは本来の巨人の姿に戻れば一人一人が一騎当千の力を持つ。忘れているかもしれないが俺達ハイ・ジャイアントは普通の巨人種よりも上位の存在、戦闘技術も戦術も、もちろん魔法も使う。それに俺達にはランドルフを始めとした魔法の武具を創り出す職人が多数存在する。たとえ帝国兵が1万人来ようが2万人来ようが物の数ではない」
「な………」
心配は無用だと言わんばかりのジャックライトの言葉に、今度はゴンザルドが言葉を詰まらせる。どうやら彼はハイ・ジャイアントたちがそれほどの戦力を持っているとは考えていなかったようだ。しかし言葉を失っているゴンザルドとは裏腹に、メープルの方はそれでも険しい表情を崩していなかった。
「例えそうだとしても油断は禁物です。それに………ジャックライトさんは『銃』と呼ばれる武器をご存知ですか?」
「銃?……確か、火薬を使って鉄の球を撃ち出す武器だったな?」
ジャックライトの言葉に頷くメープル。
「はい、銃………あれは危険な武器です。例え戦闘の心得の無い者でも、使い方次第で武術の達人を殺せてしまう………そういう武器なのです」
「たかが鉛玉を撃ち出すだけの武器がか?」
メープルの言葉に怪訝そうな表情になるジャックライト。
「確かにヒューマンなどの人間種にはある程度の脅威となるだろうが………俺達の様な巨人を相手にするには心もとないと思うが……?」
ジャックライトの口調は険しいモノだった。決して銃という武器を侮って言っている訳では無いことが分かる。むしろ、メープルの言葉から自分の知らない情報を持っているのではないかと慎重に話を進めている感じだ。
「今までの銃ならばその通りでしょう…………ですが、今現在帝国で開発が進められている銃器は従来のただ鉛の球を火薬で撃ち出すだけのものとは比べ物にならない威力と精度を秘めているのです」
「新型の銃を開発しているのか⁉」
メープルの言葉に思わず驚きの声を上げるローゼリット。ローゼリット自身、銃の存在は知っていたし、暗殺者として離れた位置からターゲットを仕留められる銃は興味深い武器ではあった。だがどうしても長い筒状の銃身がかさばるし、何よりも発砲音を消す手段がない。暗殺の現場で使うには使いづらい武器だと感じていたのだ。
「帝国ではかなり前から………そう、父上が皇帝の座についた直後から大々的に新型の銃の開発を行ってきました。そして、その中には懐に忍ばせて携帯できるサイズの銃や、超長距離からの狙撃を可能にする銃、更に異常なほどの連射速度を持つ銃など様々な銃が存在するのです」
「な、なんだと………⁉」
メープルの言葉に驚きを隠せないローゼリット。帝国内で銃器がそこまで発展していたことを全く知らなかったのだ。いや、それはローゼリットに限ったことではなかった。スミーシャもアレイスローも………帝国領内の近くに入口があるローバスヘイムの長であるジャックライトさえも知らなかった事だった。
「で、でも………どうやってそんな新しい銃をいくつも開発してるのよ?そもそも新しい武器ってそんなに簡単に作れるものなの⁉」
「いや………そこはたとえ剣だろうが銃だろうが同じだ。既存の物を作るのとまったく新しい物を創り出すのではかかる労力も時間も段違いだ。いくら帝国の軍事力が高くともそう易々と新しい銃器をいくつも創り出せるとは考えにくい」
スミーシャの疑問にそう答えたジャックライト。既に彼の中ではある種の仮説が立っていた。
「ならこう考えるべきだろう。………すなわち、新しく開発された銃器の設計図は外部から持ち込まれたもの………………あるいは以前から存在していた物である可能性が高い」
「なるほど………つまり、何かしら外部からの干渉があった可能性が高いという事か…」
ジャックライトの言葉に頷くローゼリット。だが、仮に外部からの干渉があったのだとしても、それらが一体何処から持ち込まれたモノなのか?ローゼリット達には全く分からなかった。




