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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第7話、赤き竜の咆哮 その1

     第7話、赤き竜の咆哮


     第7話その1


「いやはや、まいったわい」

 そう呟くと、鋼神アルバネメセクトに仕えるドワーフの神官戦士ゴレッド・ガンデルは額の汗を拭った。後ろを振り返るとたった今渡り切った吊り橋がユラユラと揺れている。

「なに~?ゴレッドもしかして吊り橋、怖かったの?」

 そう言ってニヤニヤ笑っているのはオレンジ色のショートカットの髪をしたケット・シーの踊り子スミーシャ・キャレットだった。そしてその隣には肩くらいまである黒髪に金色の瞳を持つハーフエルフの盗賊ローゼリット・ハイマンが腕を組みながらゴレッドを見下ろしていた。

「何だゴレッド。もしかして高い所は苦手か?」

「いや、高所恐怖症までは言わんけど、あの高さはさすがに怖いじゃろ」

 ローゼリットの言葉に、手をパタパタと振りながら答えるゴレッド。確かに、身軽そうなローゼリットやスミーシャと比べるとゴレッドはドワーフ特有のズングリムックリ体型であり、吊り橋の上でアクシデントがあったらそのまま落ちてしまいそうだった。

「まあ、そんなことはどうでも良いんだけど。それより先を急ごうよ、そろそろフリルちゃんと赤蜥蜴に追いつくでしょう?」

「地図によれば、この先2時間くらい進めば赤蜥蜴とフリルフレアが向かった神殿があるらしい」

 スミーシャの言葉に、ローゼリットは地図を広げながら答える。ゴレッドも横から地図の覗き込んでいた。

「しかし不思議じゃの。こんな山の中にあるなんて一体どこの神を祀っておる神殿じゃ?」

「案外アルバネメセクト神の神殿だったりして…」

 そう言って「プププ…」と笑うスミーシャ。それを見たゴレッドはさも分かっていないと言いたげに肩をすくめながら首を横に振った。

「分かっておらんのう。我らがアルバネメセクト神は鍛冶と鉄の神じゃ。こんな不便な所に神殿を造る訳なかろう。それにアルバネメセクト神の神殿は鉱山のある町や、ドワーフの多く住んでいるところにこそ多く建てられておるのじゃ」

 そう言って「やれやれ、そんなことも知らんのか。まったく近頃の若い者は……」とか言いながら得意げにしているゴレッドだったが、その様子はどう見てもじじくさい老人のそれである。それに、それを聞いたスミーシャは「ふ~ん、あっそ…」と完全に興味なさげだった。

「ゴレッド、もうすぐ神殿なのは良いが、ちゃんと例の宝珠は持っているんだろうな?」

「そう心配するでないわローゼの姉ちゃん。ほれ、ちゃんとここにあるわい」

 そう言うとゴレッドは背中のリュックサックに括り付けた箱を出すと、その中に入っていた宝珠を取り出した。その宝珠はわずかに紫がかった半透明な宝珠で、装飾の類は何もついていなかった。

 ちなみにこの宝珠の入っていた箱、フリルフレアが依頼で運んでいた宝珠の入った箱にそっくりだった。また、中の宝珠もわずかに色が違うだけでそっくりである。

「しかしのう……。まさかギルド職員の手違いで宝珠を取り違えてしまうとはのう…」

 そう言うとゴレッドは手の中にある宝珠をマジマジと見た。ローゼリットとスミーシャも同様に宝珠を覗き込んでいる。

 実はこのゴレッド、今から約3週間ほど前(ちょうどローゼリットとアサシンギルドの件でドレイク達が動いていたころ)、ある宝珠を封印するためにアラセアから少し遠くの町までその宝珠を運ぶ仕事をしていた。その封印する宝珠とは「狂乱の宝珠」というマジックアイテムで、その宝珠の光を浴びると人間でも魔物でも狂戦士化(バーサーク)してしまうという物だった。また、その宝珠を破壊しその破片を体内に取り込むと半永久的に狂戦士化してしまうという代物らしい。ゴレッドはその危険なアイテムをある町の神殿で封印してもらうために運ぶ仕事をしていたのだ。だが、その宝珠の他にもう一つ、祭事で使う宝珠という物がありそれは宝珠自体もそっくりながら、宝珠を収めておく箱が全く同じものだった。そして3週間前、ゴレッドに宝珠を渡したギルド職員が、間違えて祭事に使う宝珠の方を渡してしまったのである。そしてゴレッドはそれに気が付かずそのまま目的地の神殿まで運んでしまった。しかし当然目的地の神殿では間違った宝珠を渡されたため封印ができない。そこでゴレッドは泣く泣くアラセアに帰ることにしたのだ。そしてゴレッドが帰還したことで初めてアラセアの冒険者ギルドで宝珠の取り違えが発覚、しかしその時にはすでにドレイクとフリルフレアが祭事に使う宝珠だと思い込み、狂乱の宝珠をコルト山中の神殿へ運ぶために出発した後だった。手違いに焦ったアラセアの冒険者ギルドマスターはゴレッドに必要経費と追加報酬を支払うことを条件にドレイクとフリルフレアを追いかけて宝珠を交換して来るように改めて依頼したのだ。仕方なくそれを承諾したゴレッドはそのままコルト山に向かったのである。ちなみにローゼリットとスミーシャの二人は、スミーシャの「最近フリルちゃんに会えてな~い!」という叫びと共にフリルフレアを探し回っていたが見つからず、たまたまラングリアに居る時に見かけたゴレッドにフリルフレアを知らないか尋ねたところ、ドレイクと共に神殿へ宝珠を届けに行っている事を知り、ゴレッドがそれを追いかけていると聞いてこれ幸いとばかりに仕事でもないのについてきたのである。

「宝珠の事なんかどうでも良いのよ!あたし、早くフリルちゃんに会わないとフリルちゃん成分が不足して死んじゃうよ!」

「………いや、それは死んだ方が良いんじゃないか……?」

「ローゼがヒドイ⁉」

 相も変わらず辛辣なローゼリットの言葉に悶えるスミーシャ。だが、こんな言い方をしつつもローゼリットはフリルフレアを心配している。同じ冒険者として、共に冒険をした仲間として、そして友人として、妹分として、ローゼリットもスミーシャもフリルフレアのことを大切に思っていた。

 正直に言えば、二人ともフリルフレアを自分たちのパーティーに引き込みたいと考えていた。あの粗野で乱暴なドレイクと一緒にいるより、自分たちと一緒の方が彼女のためになると常々考えている。しかし、この話をするとフリルフレアは頑として自分はドレイクの相棒だと言い張っていた。その決意の固さに泣く泣く諦めているのが現状だ。

「しかし……まあ、フリルフレアが心配なのも事実だからな…」

「そうだよね!そう思うよねローゼ!」

「ああ……分かったからくっつくなスミーシャ、暑苦しい」

 ローゼリットが自分と同じ意見だと再確認し、思わず頬っぺたにスリスリするスミーシャ。スリスリされているローゼリットは鬱陶しいのか思いっきり嫌な顔をしてスミーシャを引っぺがしていた。

「アホやっとらんでさっさと行くぞい」

 ゴレッドは宝珠をしまい込むとため息をつきながら歩きだした。ローゼリットとスミーシャもその後に続いた。

 そしてそのまま歩く事約2時間。道中特にトラブルもなく神殿の近くまでたどり着いた3人。いや、正確に言えばトラブルはあった。何処からか地鳴りの様な音が響き渡り、時々「キシャアアアアアアアア!」という謎の叫びが響いて来ていた。それが何なのか分からずに歩みを続けた3人はついに神殿……その地鳴りや叫びの元凶までたどり着いた。

「な………何じゃありゃ……」

 その光景に思わず言葉を失うゴレッド。そこにはあまりに巨大で何だか分からないが、恐らくミミズの様な姿をした魔物が暴れまわっていた。その魔物はその巨大な口で瓦礫や岩、木々を貪り喰っている。そのあまりにひどい光景に言葉を失う3人。

 だが、その時スミーシャが上空のある一点を指差し叫び声をあげていた。

「ねえ、ち、ちょっとあれ!もしかしてフリルちゃんじゃないの⁉」

「何だと⁉」

「何じゃと⁉」

 スミーシャの言葉に驚きつつ、ハモりながら彼女の指さす方に視線を向けるローゼリットとゴレッド。そこには上空で羽ばたきながらその巨大なミミズの化け物に魔法で炎の羽根を撃ち出すフリルフレアの姿があった。そのすぐ横には巨大なクロスボウを構えた見たことのない青い翼のバードマンの少女もいる。

「な、何じゃ何じゃ⁉一体何がどうなっとるんじゃ⁉」

 状況がつかめず混乱するゴレッド。しかしそれはスミーシャやローゼリットにしても同じだった。目の前の状況に全くついて行けない。

 あの化け物ミミズは何なのか?隣の青い翼の少女は何者なのか?ドレイクはどうしたのか?何よりも、何故フリルフレアがあの化け物と戦っているのか?あまりにも分からないことだらけで思考がまとまらない。それでもスミーシャは考えることを一旦放棄し、フリルフレアに呼び掛けることにした。

「おーーーい!フーリールーちゃーん‼」

 ありったけの大声で叫ぶスミーシャ。それを聞いたフリルフレアが思わず声がした方に視線を向ける。

「え………え……ええ⁉…スミーシャさんとローゼリットさん⁉それに…ゴレッドさん⁉」

 いったん魔法を止めたフリルフレアが、こちらを見下ろしているのが分かる。それを確認したスミーシャは「おーい!」と叫びながら両手をブンブンと振っていた。

 驚いた様子だったフリルフレアだったが、そのまま隣の少女と頷き合うと巨大ミミズの化け物を警戒しながらローゼリット達の所へ降りてきた。

「ローゼリットさん!スミーシャさん!ゴレッドさん!どうしてここに⁉」

 3人に駆け寄ってくるフリルフレア。スミーシャが「キャー!フリルちゃん久しぶり!」とか言いながらフリルフレアに抱き付き、頬っぺたにスリスリしていたが、ローゼリットとゴレッドは巨大大ミミズに視線を向けたままだった。

「しかし……ありゃ何じゃ一体…?」

「あれは巨大大喰い(ジャイアントイーター)。暴食の魔王ランキラカス復活の依り代にするためにある男が用意した伝説の魔蟲です」

 ゴレッドの言葉に答えるように後ろから男の声が聞こえた。その声に何となく聞き覚えがある様な気がしつつも振り返る3人。男は疲労の色をにじませながらゴレッドたちに近づいて行った。

「ここは危険です。可能ならばご助力願いたいところですが……無理強いは出来ませ…」

「「「ロックスロー⁉」」」

 男…アレイスローの言葉が終わる前に、ゴレッド、ローゼリット、スミーシャの叫び声が響き渡る。3人の叫びは綺麗にハモっていた。


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