第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第3話、巨人の里を目指して その5
第3話その5
ドレイク達を挟み撃ちする形で姿を現した巨大なマンティコア。通常のマンティコアは大きくてもせいぜい2m位の大きさなので、今現れたマンティコアは約3倍の大きさだという事になる。しかしドレイク達は特に慌てた様子もなかった。
武器を構えているドレイク達に対しじりじりと少しずつ間合いを詰めてくるマンティコア。その動きはまさに獲物をしとめようと隙を伺っている肉食獣だ。
それに対し、やや大きい方のマンティコアの前にドレイク、もう1体の方の前にローゼリットとスミーシャが立ち、ガレッドとゴンザレス、メイプルを守る様にフリルフレアとアレイスロー、フェルフェルが武器を構えていた。
そしてマンティコアが迫る中、ドレイクとローゼリットがピクリと何かに反応する。
「おい赤蜥蜴、気付いたか⁉」
「ああ、小せえのが……結構いるな……」
ローゼリットとドレイクがそう言葉を交わしていると、再び唸り声の様なものが聞こえ、茂みの奥の方から20数匹は居るであろう小さな影が現れた。
「あれは………ヘルハウンドか?」
「どうやらそのようですね。………あの数が一度に攻めてくるとちょっと厄介かもしれません」
ローゼリットの言葉にそう答えたのはアレイスローだった。そして、二人の言う通り、茂みから現れたのは体長1m程もある大きな犬だった。しかも全身を真っ黒い毛で覆われており、ヘルハウンド……つまり地獄の犬という名前にも納得がいく外見だった。
敵が増えたことで状況が変化し、フリルフレアは頭の中で素早く状況を整理していく。そしてドレイクの方を見て一言。
「ドレイク!あのマンティコア1体倒すのにどれくらいかかる⁉」
「一撃で行ける」
「オッケー!」
巨大な魔物に対しアッサリと一撃で倒せると言ってのけるドレイク。そしてフリルフレアはその言葉を全く疑っていなかった。
「ドレイクは目の前のを倒したらそのままもう1体のマンティコアをお願いね!ローゼリットさんとスミーシャさんはとにかくヘルハウンドの殲滅をお願いします!アレイスローさんは状況を見てローゼリットさん達の援護かもう1体の足止めをお願いします!フェルフェルさんはガレッドさんとゴンザレスさんを守りながら援護射撃してください!もう1体のマンティコアの足止めは私がやります!」
状況を見て手早く指示を飛ばすフリルフレア。ここ最近のフリルフレアの戦闘における指示はかなり的確だった。実際、ローゼリットやスミーシャは動きやすくなったと感じていた。
そして各々武器を構えて………。
「一気に殲滅します!戦闘開始!」
フリルフレアの掛け声で一斉に動き出すドレイク達。
「チェアリャアアァァァァァァァァァ!」
一瞬でマンティコアとの間合いを詰めたドレイクが大剣を振りかぶり一気に縦一文字に振り下ろす。
ザバアアァァァァァン!
「な、なんじゃと⁉」
思わず驚愕の声を上げるガレッド。巨大なマンティコアだったが、その巨体が突っ込んでくる前に、ドレイクが一瞬で間合いを詰め、大上段に振りかぶった大剣を一気に振り下ろしたのだ。そしてその大剣は6mはある巨大なマンティコアを正面から縦に一撃で両断し、そのまま地面に叩きこまれたのだった。
ヒュンヒュンヒュン。
同時に何かが回転するような音、そしてガッと音を立てた何かが地面に突き刺さった。舞い上がった土煙が晴れると、そこには半ばで折れた両手剣が突き刺さっていた。もちろん刺さっているのは切っ先から半分くらいまでの長さの刀身、そして刀身の半ばから柄までの部分は………ドレイクの手に握られていた。………つまり、ドレイクの一撃に耐えきれず大剣が半ばで折れてしまったのだ。
「チィッ!鈍らが!」
舌打ちしながら大剣を放り捨てるドレイク。そして踵を返すようにもう一体のマンティコアに向かう。
一方、フリルフレアはドレイクが踏み込んだ時に同時にもう一体のマンティコアに攻撃を開始していた。
「『フェザーファイアァァァァ!』」
ズドドドドドドドドドドドドドドン!
地面に立ったまま、手のひらと翼の先をマンティコアに向けて無数の炎の羽根を撃ち出すフリルフレア。炎の羽根が直撃し、マンティコアの脚や肩を撃ち抜いていく。
「グルルルアアアアアアアァァァァァ!」
フリルフレアの魔法による痛みのせいだろうか?叫ぶように吠えるマンティコア。フリルフレアの魔法は特にマンティコアの肩……前足の付け根の辺りを集中して狙っていたので、その辺りが抉れて出血していた。
今のフリルフレアの魔法はあえて炎の羽根を収束させて撃ち込んでいた。やはり巨体で分厚い毛皮のあるマンティコアの防御を貫通させるには炎の羽根を広範囲にばらまくより、集中させて一か所を狙った方がいいという判断だった。また、炎の羽根を空中から広範囲にばらまく様に撃ち出せば、マンティコアには足止め程度にしかならなかっただろうが、その足元にいるヘルハウンドたちには有効な手であっただろうと思われる。だが、それをしなかったのは今ヘルハウンドたちを倒して回っているローゼリットとスミーシャを巻き込まないためだった。さらに言えば、ガレッドやゴンザレスたちも巻き込む可能性があったので、収束した撃ち方を選んだのだ。
「ウガアアァァァァァ!」
前足の付け根辺りを抉られながらも、まるで気にしないかのように前足を振り上げるマンティコア。その長くて太い前脚と、そこから伸びる鋭い爪をまともに喰らえばただでは済まない。素早くその場から飛び退くフリルフレア。次の瞬間フリルフレアがいた辺りの場所をマンティコアの鋭い爪が斬り裂く!
「あ、あっぶな~……」
さすがに冷や汗が流れるフリルフレア。しかしすぐに体勢を立て直す。そして次の瞬間………。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
3連速で風を切る鋭い音が響く。そして……。
ドッドッドッ!
「がぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マンティコアが再び悲鳴のような叫び声を上げる。見れば、マンティコアの顔面に3本の矢が突き刺さっており、それぞれ左頬、鼻の頭、そして左眼に突き刺さっていた。さすがの魔物も眼球を撃たれれば悲鳴を上げるらしい。そしてそれを撃ったのは………。
「……フ…フヘヘ………3連続…命中……」
そう言って構えていた3連装式速射クロスボウを下ろしたフェルフェルが相変わらずのキモい笑みを浮かべている。彼女の撃った矢がマンティコアの顔面を撃ち抜いたのだ。
「助かりましたフェルフェルさん!」
「……うぇ~い……ナイス…フェル……」
フリルフレアの礼の言葉に親指をグッと立てて応えるフェルフェル。ただ、彼女自身の言葉は完全に自画自賛だった。
そして、そうしている間に後ろの方ではドレイクが1体目のマンティコアを討伐し…同時に大剣を折ってしまったのだが…フリルフレア達の方へ向かってきていた。
「チャンス!一気に決めます!アレイスローさん!」
「了解ですよ!準備はOKです!」
既に魔法のための精神集中を終えたアレイスロー。魔法を撃つべく杖を構えている。
「合わせます!フェルフェルさん、足止めを!」
「……りょ……任せて…」
次の瞬間翼を羽ばたかせ、一気に空中へ飛び上がるフェルフェル。既に矢をセットし直した3連装式速射クロスボウを構えて一気に撃ち出す。
ドドドッ!
「グギャアアアァァァァァァァ!」
再びマンティコアの悲鳴、先程よりもさらに短い間隔で撃ち出された矢はそのままマンティコアの右前脚を地面に縫い付ける。そしてその後にはフリルフレアとアレイスローが既に魔法を撃つ準備を終えていた。
「「「受けなさい!『ライトニングジャベリン!』」」」
「いっけぇぇぇ!『フェザーファイアァァァァァァ!』」
ズドドドドドドドドドドドドドォン!
ズガガガガガガガァァァァァァァァン!
フリルフレアの翼の先から再び無数の炎の羽根が撃ち出され、さらにアレイスローが構えた杖の先からは3本の雷光が槍のように伸びマンティコアを撃ち貫いていた。
「ガギャアアァァァァァァァァア!」
悲鳴のように吠えるマンティコア。それでも構わずにフリルフレアの方へ突っ込んでくる。そして、フリルフレアを喰おうというのだろうか?大きな口を開けてフリルフレアに喰らい付こうとして………。
「させるかオラアアァァァァァ!」
次の瞬間、飛び込んできたドレイクの拳がマンティコアの顔面を地面にめり込ませる。フリルフレア達の所まで駆け寄ったドレイクが一気にマンティコアの頭の高さまでジャンプしその前頭部に強烈な一撃を叩き込んだのだ。そしてその拳の勢いのままマンティコアの頭部後と地面に叩き込んだのだった。地面にめり込んだマンティコアの頭部は前頭部の辺りからすでに叩き潰されており、グロテスクな脳みそらしきものが少し覗いている。
「うっへ……汚ねえ……」
手についたマンティコアの肉片や血を払うドレイク。
「片付いたみたいだな」
「案外大したことなかったね」
そんな言葉と共にローゼリットとスミーシャも寄ってきた。周囲を見れば、20匹以上いたヘルハウンドが全て討伐されていた。
「討伐完了ですね。お疲れ様です、ご飯に戻りましょうか」
戦闘が終わったことを確認したフリルフレアはそう言ってポンと手を打っている。しかし…………。
「さすがにこいつらの死体を始末してからじゃねえか?」
ドレイクが親指でクイクイッと指さしたのは当然マンティコアとヘルハウンドの死体である。特にマンティコアは一刀両断されていたり、頭部が潰されていたり、若干見た目が黒い。さっきからゴンザレスが真っ青な顔をしているのがその証拠だ。
「そ、そうだね……さすがに片付けようか」
「そうと決まればさっさと片付けよう」
「そうだな」
フリルフレアの言葉にスミーシャとローゼリットが周囲を片付け始める。当然ドレイクもマンティコアの残骸をどこかに放り捨てていく。あと、念のため炎のブレスで焼いておいた。アレイスローとフェルフェルもフリルフレアと一緒にヘルハウンドの死体を茂みの中へ放り捨てていた。そしてその光景を見ながらガレッドは………戦慄していた。
(強い!何者じゃこやつらは……!特にあの赤鱗のリザードマン…ドレイクの異常な腕力…………それに、フリルフレアの使っていた魔法……あれは何じゃ⁉あんな魔法聞いたことも無いぞ⁉)
巨大なマンティコアを含めた魔物の襲撃をアッサリと退けたドレイク達の力量に、ガレッドは果たしてドレイク達を巨人の里へ案内していいモノかどうか、不安を覚え始めていた。




