第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第2話、鍛冶師ガレッド その3
第2話その3
結論から言うと、長槍を構えていた数人の衛兵達だったが、槍の達人ならばともかくたかが街の衛兵が冒険者ランク13のドレイクに敵うはずもなく、ものの数秒で全員叩きのめされ地面に這いつくばる結果となった。当然全員目を回している。
「何だ、張り合いがねえなぁ」
手をはたきながらそんなことを言っているドレイク。フリルフレアは何か言いたそうにジト目でドレイクを睨んでいたが、今更文句を言っても始まらないと諦めたのか深々とため息をついていた。ちなみにローゼリット達他のパーティーメンバーはドレイクのいつも通りの行動に対し、無反応だったり、苦笑いしたりしている。しかしゴンザレスとメイプルは眼をまん丸くしていた。そしてそんな中、衛兵たちと言い争っていたドワーフがドレイクの元へと寄ってきた。
「お、お前さん強いのぅ!外から来た冒険者かい?」
「ああ、そうだ」
「なるほどのぅ!」
ドレイクの答えにドワーフはしきりに感心している。そしてドレイクのことをマジマジと見つめていた。
「ん?俺に何か付いてるか?」
「イヤすまん、リザードマン自体久しぶりに見たのもあるんじゃが……赤い鱗っちゅうのは初めて見たんでな」
「ああ、そのことか……」
ドワーフの言葉に思わず苦笑いするドレイク。最近は『赤蜥蜴』という二つ名と共にラングリアはもちろんのことアレストラル王国内でもかなりの知名度を誇るようになったドレイク。もちろん赤い鱗のリザードマンの噂はかなり広まっているため、最近はあまり鱗の色で驚かれることも減ってきていたのだ。だが、やはりゲオルシュバッハ帝国までは噂は広まっていないようで、さすがに驚かれたようだった。
「しかし………ワシが言うのもなんじゃが……お前さん達ちとマズイことになったかもしれんぞ?」
「マズイこと?」
ドワーフの言葉に思わず訊き返すフリルフレア。ドワーフは顔をしかめながら倒れている衛兵達を見た。
「ワシはコイツらに因縁を付けられていたんじゃが……ワシがドワーフである以上、コイツらに何を言われても言い返せんのじゃよ」
「どういうことだ?」
ドワーフの言っていることがよく分からないドレイク。しかしドワーフは肩をすくめていた。
「帝国はヒューマン至上主義じゃからな。ヒューマン以外の種族は立場が低いんじゃよ」
「あ、なるほど」
確かにそう言う話だったという事を思い出しポンと手を叩くフリルフレア。そしてふと嫌な予感がして周囲を見回すと、野次馬達のいる方角から野次馬とは別の……怒号のような声が聞こえていることに気が付いた。
「どけー!」
「ヒューマンに楯突いたドワーフがいるのはここか⁉」
「ドワーフ以外にも奇怪な亜人種共がいるとのことです!」
「このゲオルシュバッハ帝国で亜人風情がデカい顔をできると思うな!」
「隊長!見つけましたあの者達だと思われます!」
「よし!唯一人間種たるヒューマンの我らに刃向かう愚か者共を血祭りにあげろ!」
「うおおおおお!殺せぇぇぇぇ!」
そんなメチャクチャな怒号が聞こえてくる。そしてフリルフレア達に向かって数十人の衛兵たちが押し寄せてきていた。
「ハッ!雑魚が数人から数十人に変ったところで何の意味もねえよ!返り討ちにしてやるぜ!」
そう言って大剣に手をかけたドレイクをフリルフレアは慌てて止めた。
「ちょ……ドレイクちょっとストップ!」
「あん?何だよ?」
「さすがにこれ以上騒ぎを大きくするのはまずいよ!」
「大きくなんかならねえよ。あの程度の連中なら皆殺しにするのに数分もかからねえ」
「皆殺しにしてどうすんのよ!アホなの⁉」
ドレイクの意見に思わず頭を抱えるフリルフレア。そんなフリルフレアの肩をローゼリットがポンと叩いた。
「赤蜥蜴がアホなのは今に始まったことじゃないから諦めろ。それより………」
「さすがにこのままはまずくない?」
「はい!もちろんマズイです!」
ローゼリットとスミーシャの言葉にブンブン首を縦に振るフリルフレア。しかし、どうにかするにも衛兵たちはもうすでにすぐそこまで来ている。悩んでいる暇はない。
フリルフレアはこの場に居るメンバーに素早く視線を向ける。
(ドレイクは足も速いし力もある。ローゼリットさんとスミーシャさんならスピードと身軽さには信頼がおける。アレイスローさんは魔導士だけどエルフだから敏捷性に関してはは問題ない。フェルフェルさんはバードマンだからそもそも飛べる。つまり問題は………)
フリルフレアの視線が先ほどのドワーフとゴンザレスとメイプルの所で止まる。
(特にゴンザレスさんは良いトコのお嬢様っぽいからそんなに足も速くなさそう………)
結論を出したフリルフレア。衛兵たちが迫ってくるのと逆の方向を指差す。
「とりあえず逃げます!皆さん全力ダッシュで!あとドレイクはゴンザレスさん運んで!」
「了解!」
「うん、分かった!」
「急ぎましょう!」
「……うぇ~い…」
フリルフレアの指示でローゼリット、スミーシャ、アレイスロー、フェルフェルがフリルフレアの指差した方へ走り出す。
「ドレイク!お願いね!」
「任せとけ!どんくさそうなドワーフ二人もついでに運んでやるぜ!」
そう言うとドレイクはまず先ほどのドワーフの首筋を引っ掴むとそのまま背中に乗せた。
「お。おわわ……ワ、ワシ重いが……お前さん大丈夫か⁉」
「どうってことねえよ!」
ドワーフの言葉を鼻で笑うドレイク。そしてそのまま呆然としているゴンザレスとメイプルを両脇に抱え込んだ。
「おいフリルフレア、お前はどうすんだ?」
「私、ちょっと足止めしたら飛んで追いかけるから」
「オッケー!」
そのままフリルフレアを置いて走り出すドレイク。そのパワーとスピードはすさまじく、ドワーフ2人とヒューマン1人抱えているのに既にローゼリット達に追いつきそうだった。
「おい赤蜥蜴!フリルフレアはどした⁉」
「足止めしてから飛んでくるってよ」
「ちょっと、足止めならアンタがしなさいよ!」
「この状態で出来るかアホ!」
走りながらローゼリットとスミーシャに文句を言われたが、とりあえずゴンザレスたちを抱えているので仕方がない。とにかく走るドレイク達。そしてそれを見送りながらフリルフレアは精神を集中させていた。
「あそこだ!まずはあの小娘を捕らえろ!」
怒号と共に迫る衛兵。だが、フリルフレアは落ち着いたものだった。そして素早く詠唱を開始する。
「アクセス!水の精霊ウンディーネよあなたの命の滴を私に分け与えて…『メイクウォーター!』」
ザバァァァァァァァァァン!
フリルフレアの魔法で衛兵たちの前方に多量の水が溢れ出し巨大な水たまりを作る。
「それがどおしたぁぁぁ!」
「舐めるな小娘がぁぁぁ!」
「とらえて拷問にかけてやる!」
物騒な衛兵たちの叫びにもひるまないフリルフレア。そして………。
「さらにアクセス!氷の精霊スノーホワイトよ!あなたの凍える吐息を我が手の中に!『フリーズ!』」
パキイィィィィィィン!
2発目のフリルフレアの魔法により、先程作った巨大な水たまりが一瞬で凍り付いた。その結果…………。
「う、うわああぁぁぁぁぁ!」
「な、なんだこれはぁぁぁ!」
「す、すべ…滑るぅぅ!」
ガラガラガッシャァァァァァァン!
突然できた足元の巨大な氷により衛兵たちが皆盛大に転倒していった。それを見たフリルフレアは満足げに鼻を鳴らしている。
「フフン!どんなもんですか!」
そのまま翼をバサリと広げたフリルフレアは「待てー!」とか「逃がすなぁ!」とか言っている衛兵たちを尻目に空に跳び上がるとそのまま翼を羽ばたかせてドレイク達が逃げた方へと飛んで行ったのだった。
「バイバ~イ!まあ、もう会うことも無いと想いますけどね~」
「おのれ堕天使めぇぇぇぇ!」
フリルフレアの背中に衛兵たちの悔しそうな叫びは届いていなかった。




