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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第6話、魔王の器の恐怖 その5

     第6話その5


「いやあああああ!バレンシアさん!」

 フリルフレアの悲鳴の様な叫び声が響き渡った。自分の見た光景が信じられなかった。青鱗の竜が巨大大喰い蟲に喰われ、その後激しい光と爆発があった。巨大大喰い蟲の口からは、口内が焼け爛れたのだろう、黒い煙が上がっている。バレンシアが命と引き換えに自爆したのだとフリルフレアにはわかった。涙が込み上げてくる。その場に呆然と立ち尽くし……いや、膝から崩れ落ちただただ涙を流すフリルフレア。

 バレンシアから脱出する様に言われたフリルフレアはそのまま出口を目指していた。そして出口から出た後にドレイクを探すつもりだったのだ。だが、巨大大喰い蟲出現の振動により神殿は崩壊、フリルフレア自身も危うく生き埋めになるところだった。いや、正確に言えば一度は生き埋めになりかけた。それでも何とか瓦礫から這い出した時にフリルフレアが見たのは青鱗の竜が巨大大喰い蟲の触手に捕らえられ腕や翼を喰い千切られる場面だった。先程バレンシアの竜化を見ていたフリルフレアには、その青鱗の竜がバレンシアであることは一目瞭然だった。

 そして止める間も、助けに入る間もなくバレンシアはその命を散らした。だが、口内での爆発はさすがの巨大大喰い蟲も応えたのだろう。口の中から黒い煙を吐き出さ胃ながら、頭部を振り回しのたうち回っている。その衝撃で神殿はさらに崩れ去っていった。

 フリルフレアはそんな暴れまわる巨大大喰い蟲をキッと睨み付ける。手が白くなるほどきつく握りしめる。バレンシアの死か悲しかった。だが、それ以上に怒りが込み上げてきた。

 自分に対して優しくしてくれたバレンシア、常に前線で刃を振るいながら同時に仲間を気遣う優しさを持っていた。魔王の器だか、魔王そのものだか知らないが、そんな奴らのせいで殺されていい人ではないはずだ。

 だからフリルフレアは目の前の巨大大喰い蟲が……絶対に許せなかった。

 立ち上がるフリルフレア。眼前に立ちはだかるのは魔王の依り代、伝説の巨大大喰い蟲。蟲の大嫌いなフリルフレアにとってその姿は恐怖の対象でしかないはずだった。しかし、今はその恐怖を上回る怒りが彼女の心を埋め尽くしている。

 フリルフレアは乱暴に涙を拭うと翼を全開で羽ばたかせ一気に巨大大喰い蟲の頭を超える高さまで飛翔した。そして上空で両翼と右腕を前に突き出すと精神を集中させた。

「よくも……バレンシアさんを………『フェザーファイア!』」

ドドドドドドドドドドォン!

 フリルフレアの両翼から無数の炎の羽根が撃ち出される。その炎の羽根が巨大大喰い蟲の皮膚に当たり爆発を起こしていたが、それでもその頑丈な皮膚を貫くことは出来なかった。しかし、それでもフリルフレアはフェザーファイアを撃ち続ける。まるで撃ち続ければいつかはその皮膚を貫けるとでも言いたげに……。

「わああああああああ!」

 叫びながらなおも炎の羽根を撃ち続ける。そうすることがまるでバレンシアに対する弔いであるかのようにひたすら魔法を撃ち続けた。

 再び瞳に涙が溢れてくる。バレンシアはマゼラン村やアラセア、ラングリアなどアレストラル王国の人々の命を………いや、これからこの巨大大喰い蟲の犠牲になるであろう全ての人を守るために犠牲になったのだ。ならば残った自分たちはその遺志を継がなければいけない。この巨大な化け物ミミズを山から下ろしてはいけない。

「この場で……止めなきゃ!」

 なおも炎の羽根を撃ち続けるフリルフレア。だが、それでも巨大大喰い蟲には大して効いている様子もない。そして次の瞬間、フリルフレアの身体がガクッと傾いた。

「……くぅ……」

 ずっと撃ち続けていたフェザーファイアが途切れる。それと同時にフリルフレアの身体に耐えがたい疲労感が襲い掛かった。

(いけない……魔力を一気に使い過ぎた…)

 身体が上手く動かない。意識が遠くなっていく。羽ばたきをやめたフリルフレアの身体はついに落下を始める。かなりの高さからの落下だったが、地面はどんどん近づいて行った。

(あ………私このまま…落ちて死んじゃうの…かな…?)

 ぼんやりとそんな考えが頭をよぎった。この高さから落ちたら絶対に助からない。しかし地面はどんどん近づいて来ていた。

 羽ばたこうにも体が思うように動かず、意識も朦朧としてきた。それでも死を覚悟し、思わずきつく目を閉じ身を固くした……その瞬間だった。

バサバサッ!

 フリルフレアの耳元で翼が羽ばたく音が聞こえた。それと同時に今まで感じていた落下感がなくなり、自分の身体を掴み抱きしめる柔らかい感触を感じる。

「……え?」

 思わず眼を開く。そこには自分を抱えて飛翔するフェルフェルの姿があった。

「フリルフレア…間一髪…」

「フェ、フェルフェルさん……」

 眼を見開くフリルフレア。フェルフェルによって間一髪地面との激突を逃れたのだとすぐに気が付く。

「どうして……」

 ここに…と続けようとしたフリルフレアだったが、それよりも早くフェルフェルが口を開いた。

「青い竜…爆発したの…見て…その後…フリルフレアが…魔法…撃ちまくって…落ちていくの…見えたから…」

「…そうだったんですか……」

 フリルフレアが呟く中、フェルフェルは少し離れた林の中に着地した。そこにはアレイスローもおり、フリルフレアとフェルフェルを見ると駆け寄ってきた。

「アレイ…間に合った…」

「間一髪でしたね、お手柄ですよフェル」

 フリルフレアを下ろし親指をグッと立てるフェルフェルと、それに対し同じように親指をグッと立てて応えるアレイスロー。

 林の中から見ても巨大大喰い蟲はあまりにも巨大なうえ、未だのたうち回っている。このまま地上からでは近寄ることも難しい。

 それでもフリルフレアはあの巨大大喰い蟲をどうにかしなければと考えていた。それがバレンシアの遺志なのだから……。

「しかし…どうしたものでしょうね」

「…あんな…化け物…倒せない…」

 アレイスローとフェルフェルが頭をひねっている。この状況をどうにかしたいのだが、敵があまりにも強大で次の一手が思いつかなかった。

「でも…あの青い竜の…自爆のおかげで…あの大ミミズ…少し弱ってる…今がチャンス…」

「そうですね………しかし、さっきの青い竜は一体…?」

 フェルフェルとアレイスローの言葉に、ここだ!と思うフリルフレア。今伝えなければ、きっと伝えにくくなる。そうなる前に伝えることを決意した。

「あの青い竜は………バレンシアさんです…」

「何だって⁉」

「え⁉…あれが…バレンシア…?」

 思わず驚きの声を上げるアレイスローとフェルフェル。フリルフレアはバレンシアが竜化の魔法を使って青鱗の竜に変化したことを説明した。そして、それは同時に二人にバレンシアの死を伝える結果となった。

「そうですか………バレンシアさんが……」

「…そんな…バレンシア…」

 バレンシアの死にショックを受ける二人。だが、バレンシアがやろうとしたことは二人にも伝わっていた。アレイスローとフェルフェルは巨大大喰い蟲をキッと睨み付ける。

「ならば……バレンシアさんの弔い合戦と行きますか!」

 アレイスローの言葉にフリルフレアとフェルフェルは力強く頷いた。


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