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第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ プロローグ

赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ




     プロローグ


「しかしまいったよなぁ~……」

 馬車の中で赤鱗のリザードマンは鞘に収められた大剣を見ながらそんな事をぼやいていた。

 その赤い鱗のリザードマンは、金属製の部分鎧を身に付け、背中に背負っていた大剣を手に持って掲げ、ジロジロと見ている。大柄な体格にまるで竜の様な顔立ちのその赤鱗のリザードマンはドレイク・ルフトだった。ちなみに本当はリザードマンでは無くて真なる(ヴァーハイトドラゴン)であり、竜王で暴竜とも呼ばれる炎帝竜アウドラギウスである。もっとも、本人はその事実を一応思い出しはしたが、その他の記憶はまだほとんど忘れたままだ。

 バレスタイルで行われた大戦技大会に竜王にして魔王でもある魔王竜カオスラグナが現れた日から約4ヶ月が経過していた。

 あの後、約1ヶ月かけてラングリアまで戻ったドレイク達。表向きはバレスタイルを襲ったアースゴーレムの討伐を手伝ったという事になっていたが、実際は序列二位の憤怒の魔王を退けたのである。当然その功績は大きく、秘密裏にではあるがバレンタイン王国からかなりの額の報奨金をもらっていた。そのため帰り道は特に途中で仕事等をすることも無く真っ直ぐにラングリアへと帰ることが出来たのだ。

 報奨金のおかげでかなり懐に余裕が出来たドレイク達は、虎猫亭に泊まりながらしばらくのんびりすることにした。報奨金の使い道は各々異なり、ドレイクはカオスラグナに折られた魔剣の代用となる剣と、金属製の部分鎧を新調した。

「別にドレイク、鎧いらないんじゃない?」

 真紅の翼を持ち長い赤毛を三つ編みにしたバードマンの少女であるフリルフレアにそう言われたが、どこか落ち着かないからと言って部分鎧を購入したのだった。

 そして、当のフリルフレアは報奨金の全てを実家の孤児院に仕送りした。アーキシャ孤児院もかなり年季の入った家なため、修繕や増改築に費用が掛かるのだ。そのための費用だと言って育ての父親であるアベルにもらった報奨金の全額を渡していたのをドレイクは見ていた。

 黒髪ミディアムヘアで少し耳が尖ったハーフエルフの盗賊……いや、暗殺者であるローゼリットは、報奨金の使い道を一旦保留にし、貯金することにした。面白みのない使い道だが、これが一番堅実だろう。

 オレンジの髪に猫耳猫尻尾が生えたケット・シーである踊り子のスミーシャも相棒であるローゼリットと同様に貯金に回したようだった。

 いつも眠そうな眼をしている青髪ポニーテルで青い翼を生やしたバードマンの狩人フェルフェルは「……ちょっと……買いたい…もの……あるの……」などと言ってどこかへ買い物に行っていた。ちなみに何を買ったのかは教えてくれなかった。

 最後に銀髪長身耳長イケメンエルフ魔導士のアレイスローは何やら魔導士ギルドから魔導書の類を買っていた。

 各々報奨金は好きに使うとして、後はラングリアで少しのんびりしながら簡単な依頼をこなしていたドレイク達。2ヶ月近くもラングリアを留守にしていたのでフリルフレアが家族を心配して少し遠出を控えたいと言ったのだ。まあ、実際は軽いホームシックと、育ての両親に少し甘えたいという気持ちがあったのだろう。ドレイクは正直そういう感覚はよく分からなかったが、ローゼリットやスミーシャがフリルフレアの好きにさせてあげる様、ドレイクに言ってきたので、ドレイクは大人しく引き下がることにしたのだった。親がいないローゼリットとスミーシャからそんな提案が出たのはちょっと意外な気もしたが、逆に二人とも親がいないからこそ、育てのとはいえ両親が健在なフリルフレアには親孝行してほしいと考えたのかもしれなかった。

 そんなこんなで1ヶ月ほどはラングリアに滞在していたドレイク達。だが、その間の仕事で現状に問題がある事が発覚した。カオスラグナとの戦いでかなりのパワーアップを遂げたドレイク。炎闘氣を使った戦いはもちろんだが、基本的な身体能力がかなり上昇していたのだ。そのため………普通の鍛冶屋が作った大剣ではドレイクの力に耐えきれなくなっていたのだ。

「………コイツ絶対鈍らだろ……」

 大剣を折るたびにそんなことを言っていたドレイク。一度フリルフレアに素手で闘えばいいのではないかと言われたのだが、ドレイク的にはやはり大剣の方がしっくりくるらしい。なので、フリルフレアのホームシックが治まったのを見計らって鍛冶屋をやっているゴレッドの弟を訪ねることに決めたのだった。

 何故最初からゴレッドの弟を訪ねなかったのかと言うと、ゴレッドの弟は実はかなり遠くで暮らしており、そこに行くのにまたラングリアを長期間空けなければならなかったのだ。だからフリルフレアの様子を見て一時保留にしていたのである。

 そして、今まさにドレイク達は馬車に乗ってゴレッドの弟がいると言う街を目指していた。

 ゴレッドの弟の名はガレッド・ガンデル。ラングリアから見ると遥か北方に位置する険しい山脈に囲まれた帝国……ゲオルシュバッハ帝国の南端に位置するザルガンドという街にいると言う。ザルガンドに行くにはラングリアからは途中まではバレンタイン王国に行く道と同じ道を通り、途中から険しい山脈の方面へ向かって進んでいく。だが、馬車で進むとどうしても街道にそって山を迂回して通らなければならないため、結果としてはラングリアからは馬車で2ヶ月近くもかかってしまう位置にあった。

 そして今まさにドレイク達はザルガンドの近くまで来ており、あと数時間も馬車で走れば街が見えてくるであろうと思われた。

 御者台ではアレイスローとフェルフェルが道を確認しながら手綱を握っている。荷台の方では、ドレイクが先ほどから鞘に収めたままの大剣を掲げてジロジロ見ており、実は結構邪魔だ。フリルフレアはドレイクの隣に座り、ドレイクの金属製の部分鎧にペタペタ指紋を付けている。多分暇なのだ。そしてその向かい側ではローゼリットがシューティングニードルの手入れをしており、スミーシャはフリルフレアに向かって「フリルちゃん♡暇ならお姉ちゃんが遊んであげるよ~♡」などと言って両手を広げて待っているが、完全にシカトされていた。どうやらフリルフレア的にはどんなに暇でもスミーシャの相手をするよりはしょうもない暇つぶしで時間を潰した方がマシだと考えているらしい。

「……ねえドレイク、さっきからどうしたの?」

 頭の上に?マークを浮かべたままフリルフレアが声をかけてくる。対してドレイクはとりあえず大剣を置き、そのまま腕を組んでいた。

「やっぱこんな安物じゃ話になんねえなってことだよ」

 深々とため息を吐くドレイク。やはり魔剣でないと話にならないらしい。

「これって何本目だっけ」

「ちょうど10本目」

「まあ……安物って言っても大剣は大きい分普通の長剣とかより割高だからね~…」

「そうなんだよなぁ……そのくせ1本目なんか初撃でぶっ壊れたし…」

 大剣が折れた時の状況を思い出す。

 一時的な代用品としてラングリアの武器屋で適当に見繕って買った両手持ちの大剣。最初に思ったことは「ん?妙に軽いな……」だった。ドレイクの腕力が上昇していたせいもあり、普通の大剣の重さでは軽く感じられてしまったのだ。そしてその大剣をもってラングリアの近くに出没する魔物の討伐に向かったドレイク達。

「それじゃ……試し斬りといきますか!」

 そんな事をほざきながらたかだかゴブリン相手に大上段から振りかぶった一撃をお見舞いしたドレイク。その斬撃はゴブリンを一瞬でただの肉塊にすると同時に、大剣の刀身を一撃でへし折る結果となった。

 その後も何回か仕事の依頼を受け、魔物討伐、盗賊団の壊滅、商隊の護衛、遺跡調査などを行ったが、そのたびに新しく購入した大剣を叩き折る結果となった。

 改めて今まで折れた剣を思い出し再度ため息を吐くドレイク。完全に無駄金だったとは言わないが、最初からもうちょっとましなものを探していればこんな事にはならなかったかもしれない。記念すべき10本目である今の剣は一応ラングリアの武器屋で探した中ではかなり出来の良いものだったので、簡単には折れないと思うが、それでも心もとないのは事実だった。

「ドレイク、魔剣は持ってきてるんだよね」

「あ、ああ……まあな」

 フリルフレアの言葉に応えながら荷物の中から折れた魔剣……カオスラグナ曰く魔剣ブレイゼルド……を取り出した。もちろん半ばでポッキリ折れているので使い物にならない。

「あの魔王カオスラグナの言葉が本当なら……巨人が作った剣なんだよね?」

「カオスラグナの野郎はそう言ってたがな……」

 少しムスッとしながらそう答えるドレイク。正直、魔王竜カオスラグナの話題はあまりしたくない。一応退けたとはいえ、実際のところ完敗もいいところなのだ。なにせカオスラグナはそもそも本来の力の一割も出していなかったのだから……。

「それにあの野郎、この剣をおもちゃ扱いしやがったからなぁ…」

 思わず顔をしかめるドレイク。カオスラグナはドレイクの魔剣を見て「こんなおもちゃを使っているのか?」と言ったのだ。曲りなりにも5年間使い込んだ愛刀をおもちゃ扱いされればドレイクとて気分が悪い。だが、その愛刀がカオスラグナに簡単にへし折られてしまったのもまた事実なのだ。

「何とかしてコイツを修理………するだけじゃなく、強化してもらわないとなぁ……」

「強化って……そんなこと出来るの?」

「それを訊くためにも、とりあえず巨人の刀匠ってのに会わないとな」

「と言うか、その刀匠さんに取り次いでもらうためにまずはゴレッドさんの弟さんに会わないとね」

「そうだな」

 ドレイクとフリルフレアがそんな事を話し合っていた時だった。

「キャアアアァァァァァァァァァ!」

 どこか遠くから女の悲鳴が聞こえてきた。

 素早く荷台から顔を出すドレイク。耳を澄ますと金属がぶつかり合うような音が聞こえてくる。

「おい弐号!」

「分かってます!」

 ドレイクの言葉に応えるアレイスロー。そのまま馬車を走らせ、悲鳴の聞こえてきた方角へと急ぐのだった。


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