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第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第12話、意外な切り札 その10

     第12話その10


「おっしゃ!それじゃ後は……」

「この残ったアースゴーレムを倒すだけだね!」

 カオスラグナが消えた事で、脅威となる存在は消えた。ドレイクとフリルフレアはそのままアースゴーレムを殲滅するために周囲を見回す。だが………。

「ソイヤァ!」

 ゴレッドの戦鎚がアースゴーレムの頭を叩き壊す。

「はぁぁぁぁ!」

「てりゃぁぁぁ!」

 ローゼリットの鋼線がアースゴーレムの四肢を切断し、スミーシャの爆発の魔剣がアースゴーレムの腹部を爆破し破壊する。

「……うぇ~い……狙い…撃つぜ…」

「これで終わりです……『ライトニングジャベリン!』」

 フェルフェルの三連装式速射クロスボウの矢がアースゴーレムの顔面を撃ち抜き、アレイスローの電撃の魔法がアースゴーレムの胸を撃ち抜き破壊した。

「よっし!討伐完了!」

「コロシアム内のアースゴーレムは今ので最後だな」

 そう言ってスミーシャとローゼリットがハイタッチしている。アレイスローとフェルフェル、ゴレッドも二人の言葉に周囲を見回し、アースゴーレムが残っていないことを確認した。

「本当に今ので最後みたいじゃな」

「そうですね。これで後は……」

 ゴレッドの言葉に応えたアレイスローは緊張した面持ちで周りを見回し……………。

「あれ?」

 首をひねって再度見回す。そしてそのまま首をかしげていた。

「あの……魔王竜公はどちらに?」

「あん?そう言えば……おらんのぅ?」

 そんなことを言いながら頭の上に?マークを浮かべているアレイスローとゴレッド。

 ポカンとしているアレイスローとゴレッドの元へローゼリットとスミーシャも集まっていく。そしてフェルフェルがアレイスローのローブの裾をクイクイと引っ張っていた。

「おや、どうしたんですかフェル?と言うか……今のしぐさ可愛いですね、もう一回…」

「……アレイ……あれ…」

 アレイスローの言葉を無視してフェルフェルが指さした方向には……。

「あれ………もしかしてもう終わりか…?」

「ミィィィ……そうみたいだね…」

 なんか気まずそうに立っているドレイクとフリルフレアの姿があった。誤魔化すためか二人とも頭をポリポリ掻いている。そしてそれを見た瞬間……。

「フ、フリルちゃああぁぁぁぁぁぁぁん!」

「フリルフレア!」

「……うぇ~い……フェルも…フェルも……」

 スミーシャがダッシュでフリルフレアの元へ突っ込んで行き、そのまま飛び付き抱きしめている。ローゼリットもスミーシャの反対側からフリルフレアを抱きしめていた。そしてフェルフェルはパタパタと飛んで行ってスミーシャとローゼリットに抱きしめられて押し潰されそうになっているフリルフレアの顔面を抱きしめていた。

「ちょ、ちょ……く、苦し……た、助け……」

 三人にモミクチャに抱きしめられて何とか隙間から手を出しているフリルフレア。ただしそろそろ窒息しそうな感じである。ちなみにその様子を見てアレイスローは「うんうん、良かったですねぇ」とか言って涙ぐんでいたが、ゴレッドは「こりゃ一体どういう事じゃ?」と頭をひねっていた。

 そしてそんな二人の肩をポンと叩くドレイク。

「おう、そっちも終わったみてえだな」

「まあのぅ……もっとも厄介な相手をお前さんと嬢ちゃんに任せちまったみたいじゃが………………って、おぬしその格好はどうしたんじゃ⁉」

「ん?」

 ゴレッドの叫びに改めてドレイクは自分が先ほど変身したことを思い出した。

「えっと……ドレイクさん…ですよね?」

 ドレイクを見て眼が点になっているアレイスローも恐る恐る訊いてくる。

「いや、どう見ても俺だろ」

「確かに……どう見てもドレイクさんなんですけど、どう見てもドレイクさんじゃないんですよね」

「何じゃいそりゃ……謎かけかい…」

 呆れているゴレッドだったが、アレイスローの言いたいことは分かったらしい。

 そして、女子三人にモミクチャにされていたフリルフレアが、何とか抜け出したのかフラフラしながらドレイクの元へ歩いてきた。ちなみに、スミーシャにしがみ付かれてほっぺたにメッチャスリスリされている。そしてその後ろをついて来ていたローゼリットとフェルフェル、ドレイクの方を見てビシッ!と指さした。

「おい、何か不審なドラゴンがいるぞ」

「……フ…フヘヘ……これで…フェルも……ドラゴンスレイヤー……」

 ジト目のローゼリットといつもの半眼だが三連装式速射クロスボウを取り出しているフェルフェル。そんな二人の態度にドレイクは深々とため息を吐いた。

「おいフリルフレア、元に戻った方が良いぞ」

「あ、そっか。……てか、それはドレイクもだよね」

 そう、フリルフレアも変身状態のままだったのだ。フリルフレアはそのまま「ふん!」とか言って身体に力を込めてから一気に脱力する。その瞬間、炎が弾ける様にしてフリルフレアの姿が元の姿に戻った。

「………こりゃ一体どうなっとるんじゃ?」

 事情を知らないゴレッドが眼をまん丸くしている。そしてそんな友人を見て苦笑いしながらドレイクは…………。

「………なあおいフリルフレア、お前いつも戻るときどうやってんだ?」

「え?」

「いや……どうやれば戻んのかよく分かんなくてよ……」

「は?」

 ドレイクの言葉にポカンとするフリルフレア。正直なところ、フリルフレアも何となく変身のオンオフをやっているのでそんなことを言われても困る。

「え、えっと………私の場合は……変身解除の時は…全身に一度力を込めてから一気に脱力する………感じ?」

「何か曖昧だなぁ」

「ムカッ!それなら勝手にすれば!別に私、ドレイクが変身したまんまで魔物扱いで街の中に入れなくても構わないもん!」

「ま、待て待て!冗談だ冗談!」

 機嫌を損ねたフリルフレアに慌てるドレイク。とりあえず何とかなだめておく。そしてドレイクもフリルフレアと同じように一度全身に力を込めてから一気に脱力すると、何とか変身が解除された。

「ふぅ……危ねえ危ねえ、宿や食堂で飯が食えなくなるなんて御免だからなぁ」

「やっぱり困るところはそこなんですね……」

 ドレイクの言葉に思わず苦笑いするアレイスロー。

 そんな和やかな雰囲気だったがローゼリットが鋭い視線でコロシアム内を見回した。

「おい赤蜥蜴、それで………魔王竜はどうした?」

「あ、そうよ!あのいけ好かない魔王!」

「ミィィ……フレンドリーな魔王っていうのもどうかと思いますけど」

 ローゼリットの言葉に思い出したのか憤慨しているスミーシャ。そんなスミーシャにフリルフレアがツッコミを入れている。

「カオスラグナのヤロウはとりあえず魔界に帰った。あの様子じゃまだ何か企んでそうだったが………まあ、俺の直感じゃあ当分表には出てこないじゃねえかな?」

「根拠はあるんでしょうか?」

 アレイスローの言葉にドレイクは肩をすくめている。

「言ったろ、直感だって。まあ……しいて根拠を上げれば……まず第一にアイツはあんなふざけたやつだが一応は魔界にある国の王だという事。さすがにそう易々と地上まで出てこれるほど暇じゃねえだろ」

「な、なるほど」

 ドレイクの言葉に一応納得するアレイスロー。だが、ローゼリットは納得していなかった。

「おい赤蜥蜴、お前今『第一に』と言ったな?他にも理由があるのか?」

「ああ、むしろこっちの方がメインの理由なんだが……」

 ドレイクはそう言うと、腕を組んで少しだけ考えこんだ。だがすぐに口を開く。

「どうもあの野郎は、俺に力や記憶を取り戻させたいらしい。つまり……力や記憶を取り戻すのなんざそう簡単な事じゃねえんだから、向こうもある程度こっちの様子を見てからちょっかいかけてくるんじゃねえかってことだ。ま、俺がさらに記憶なり力なりを取り戻したら、その時点でちょっかいかけてくる可能性はあるが……」

「なるほど、そういう事か……」

 ドレイクの言葉に一応納得したローゼリット。だが一人全く納得していない者がいた。もちろんゴレッドである。

「待て待て待て、おぬしらばっかり分かった気になっておるがのぅ……ワシャ何の事情も知らんのだぞ?何で嬢ちゃんが生きとるんじゃ⁉それにさっきの姿は何じゃ⁉おぬしもじゃ赤蜥蜴!何じゃさっきのあの姿は⁉」

 一気にまくしたてるゴレッド。確かにいろいろ事情を知らないゴレッドからしたらもやもやしている事だろう。

「ああ、そのことでしたら……」

 フリルフレアがゴレッドにいろいろ説明しようとしたその時だった。

「おいお前ら、コロシアムの中終わったんなら、街中で暴れてるアースゴーレムの討伐にも協力しろよな」

「あ、フォルトさん」

「お、聖騎士団長」

 突然後ろから現れたフォルトに思わず声をかけるフリルフレアとドレイク。そしてフォルトの言葉に「む、そう言えばそうじゃな!」と生真面目に応えるゴレッド。だが、そんなゴレッドを見てフォルトが苦笑いしていた。

「冗談だゴレッド・ガンデル。街中に出て行ったアースゴーレムは聖騎士団と冒険者の方で殲滅しておいた。こっちも終わったみたいだな」

 コロシアム内を見回すフォルト。当然コロシアム内はボロボロで目も当てられない状態だ。

「本当にあのカオスラグナを撃退したんだな」

「おう、まあな」

「本当に………大したヤツだな、ドレイク・ルフト」

「褒めるなよ、照れるじゃねえか」

「照れるなよ、キモいじゃねえか」

「何だとコノヤロウ」

 ドレイクとフォルトはそう言い合って睨み合っていたが、どちらともなく噴き出すとそのまま大笑いしていた。

「とりあえず大戦技大会はこのありさまだ、悪いが一週間ばかり事情聴取に付き合ってくれ。その間の宿代は出す」

「良いのかよ?」

「聖騎士団の方で出来るせめてもの謝礼だ。国王陛下に事情が伝われば正式に褒賞が出るだろうがな」

 そう言って苦笑いするフォルト。一方ドレイクはその待遇で満足なのかウンウン頷いていた。

「しかし……そう言えば…」

「ん?どうしたんじゃ聖騎士団長さんよ?」

 周りを見回しているフォルトに不思議そうな視線を送るゴレッド。何を探しているのかと疑問に思っているのだ。そしてフォルトは一言。

「なあ……牙狼剣の奴は何処に行ったんだ?」


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