第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第12話、意外な切り札 その8
第12話その8
フリルフレアの頭上に炎の鳥たちが集結し、融合し巨大な炎の鳥となった。その姿はまさに不死鳥………フェニックスと呼ぶにふさわしいモノとなっていた。
恐らく15m以上はあるであろう巨大な炎の鳥だ。翼を広げればもっと大きいかもしれない。当然その威力も相当なものであることが伺える。
「へぇ……フリルフレアのヤツ、やるじゃねえか」
フリルフレアの進化した魔法に思わず笑みがこぼれるドレイク。もちろんドレイクとて負けてはいられない。
「それなら俺は……コイツだ!」
そう叫んだドレイクは全身の炎闘氣を一気に燃えがらせる。そして……その炎闘氣をドレイクの頭上に集め収束させ、巨大な炎の球にしていく。
「あれは……」
フリルフレアの口から思わず呟きがこぼれる。ドレイクの頭上で大きさを増していく巨大な炎の球。見覚えのあるその技は……現実で見るのは初めてだった。ナイトメアチャイルドとの戦いで決定打となったその一撃……この巨大な炎の球からさらに変化していく。
「ウオオオオオオオォォォォォォぉ!」
ドレイクの咆哮と共に全身からあふれ出た炎闘氣が頭上で巨大な……それこそ直径20m近い火球となる。そしてドレイクは一度自らの右腕に炎のブレスを吐きかけ、そのまま炎を纏う右腕を頭上に振り上げた。その瞬間、右腕の炎が頭上の巨大な火球に撃ち込まれる。そしてドレイクが振り上げた右腕の拳をグッと握りしめると、その瞬間その巨大な火球の形が変化し、巨大な炎の球が巨大な炎の腕になっていった。
「………何だ、あれは?」
ドレイクの創り出した炎の腕に眉をひそめるカオスラグナ。
「どうやら爆火双球と違って、こっちは知らないみたいだな!」
「確かに知らんな……だがそれがどうした!俺の魔法でテメエら二人とも吹っ飛ばせはそれで済む話なんだよ!」
「はっ!出来るもんならやってみろ!」
「後悔するなよアウドラギウスゥゥ!」
その叫びと共にカオスラグナはドレイク達に向けて漆黒の巨大な魔力球を撃ち出した。その巨大な魔力球はやはりすさまじい破壊力を秘めているのが分かる。
「消えろアウドラギウスゥゥゥ!」
カオスラグナの叫びが響き渡る。もはやドレイクを殺さないようにしていた事などきれいさっぱり忘れていそうだ。そしてドレイクとフリルフレアに巨大な魔力の塊が迫っていく。そして次の瞬間……。
「まだだあぁぁぁ!」
ドレイクの叫びと共に巨大な炎の腕が動く。ドレイクが自分の右腕を巨大な魔力球に向けて突き出す。まるでその魔力の球をそのまま掴もうとしているようだ。そしてドレイクの動きに連動するように、巨大な炎の腕がカオスラグナの漆黒の魔力球を受け止めていた。
「何いぃ⁉」
さすがにその動きは想定していなかったのか驚愕の声を上げるカオスラグナ。カオスラグナとしては、炎の球を炎の腕に変化させたのは、格好をつけただけか、さもなくば単純に炎を収束させて威力を増すためくらいだろうと考えていたのだ。だが、実際は炎の腕は手を開き、カオスラグナの魔力球を受け止めていた。そして………。
「ウオオオオォォォォォォォ!」
そのままドレイクは力任せに右腕を上に振り上げる。そしてそれに連動して炎の腕が漆黒の魔力球を上に押し上げ、結果カオスラグナの魔力球は軌道を逸らされ空へと飛んで行くことになった。
「アウドラギウスウウゥゥゥゥゥ!」
思わず激高し叫ぶカオスラグナ。だが、このチャンスを逃すドレイクとフリルフレアではない。次の瞬間、ドレイクは右の拳を握って拳打の構えをとり、フリルフレアは両手を思いっきり上にあげる。そして………。
「終わりだカオスラグナ!これが……滅鎚の炎拳…チィィエストオオオォォォォォ!」
「これでもくらえ!……燃え盛る鳳凰の一撃!『フェニックスクラァァァァァッシュ!』」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!
叫びと共にドレイクは拳を突き出し、フリルフレアは両手を振り下ろす。そしてそれに連動するように巨大な炎の腕と炎の鳥がカオスラグナめがけて撃ち出された。
凄まじい熱気だった。巨大な炎の腕と巨大な炎の鳥……いや燃え盛る鳳凰。二つの巨大な超高温の炎がカオスラグナに叩き込まれる。
「クソが!舐めるなあぁぁぁぁぁ!」
しかし、カオスラグナとてまともにくらいつもりは無い。迫る炎の腕と燃える鳳凰を前にして、一度その場を離脱しようとして………。
「逃がすかよカオスラグナァ!」
次の瞬間ドレイクが突き出した拳を開く。それはそのまま炎の腕も手を開くという事であり………。
「な、何ぃぃぃ⁉」
再度の驚愕の叫びをあげるカオスラグナ。手を開いた炎の腕がカオスラグナに迫っていき、そしてその身体を掴んだのだ。
「くっ………テメエ…アウドラギウスウゥゥゥ!」
「これで終わりだカオスラグナァ!」
そして次の瞬間、カオスラグナを掴んだままの炎の腕と巨大な燃え盛る鳳凰がそれまでと軌道を変え……そして正面からぶつかり合っていた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォン!
その瞬間巨大な炎の腕と燃え盛る鳳凰がぶつかり合って大爆発を起こしていた。その爆発はあまりにすごく、そのあまりの威力に周囲に衝撃が走り、その余波だけでコロシアムの壁がボロボロと崩れ去っていく。さらにコロシアム内にいた冒険者たちやアースゴーレムも破壊されたり吹っ飛ばされたりしていた。
凄まじい爆発に、その爆煙もすさまじく、煙で視界がほとんど利かなくなっている。
「や、やったの……?」
思わずフリルフレアがポツリと呟く。多分、聞く人か聞けば「それ、フラグだから言わない方が良いよ」と言われかねないセリフだが、とにかくフリルフレアはカオスラグナがこれで倒れてくれることを願っていた。だが………。
「チッ……」
ドレイクの舌打ちが聞こえる。そして煙が晴れていき、そこには先ほどまでよりもさらにズタボロになりながらも何とか立っているカオスラグナの姿があった。ただ、さすがに全身が傷だらけだ。文字通り立っているのがやっとに見える。
「やっぱ……まだ生きてやがったな……」
苦い表情でそう言うドレイク。カオスラグナの方は肩で息をしながらドレイクの事を鼻で笑っている。
「何だアウドラギウス。この俺がこの程度で死ぬとでも思ったか?」
「思ってねえよ。てか、そもそもお前……その身体は分身とか精神体みたいなもんなんだから、その身体が壊れてもテメエはかすり傷一つ負わねえだろうが」
「ククク……なんだ、バカなテメエでもそこは分かっていたか」
そう言っておかしそうに笑うカオスラグナ。その言葉にフリルフレアはげんなりする。
「って言うか、本体じゃない仮初めの身体ならそろそろ壊れてくれません?」
フリルフレアの言葉にカオスラグナがギロリと睨んでくる。
「テメエみてえなクソ生意気な小娘ごときに殺される(やられる)なんざゴメンなんだよ」
「はいはい、そうですか」
クソ生意気な小娘扱いされてムッとするフリルフレア。そしてドレイクはそのままカオスラグナの正面に近寄っていく。
「どっちにしろ、もう立っているのがやっとのテメエなら、このまま終わりにしてやる」
「ほう、俺がボロボロになったらずいぶん強気になったなぁ」
煽ってくるカオスラグナに顔をしかめるドレイク。そしてドレイクがカオスラグナの正面まできた瞬間……。
「おいおい、油断しすぎだぜアウドラギウスゥゥ!」
カオスラグナがそう叫んだ瞬間、カオスラグナの身体から凄まじい魔力が溢れ出てきた。
そもそも今のカオスラグナの身体は、本当のカオスラグナの身体から魔力を放出させ、その魔力を魔法で固定させて物質化させた作り物の身体である。そしてその仮初めの身体にカオスラグナの魂のほんの一部と、意識だけを移したのがこのカオスラグナの身体だ。だから、実は魔界にあるカオスラグナの本体からいくらでも魔力を供給することが出来るのである。もちろん魔力の許容量はあるが、そもそもカオスラグナの魔力で創り出したのでその辺りの容量はかなりのものだ。だから……実はパワーアップさせようと思えばいくらでもパワーアップさせられる物なのだ。だが、今までそれをしなかったのは、ドレイクの今の力を測っていたためであった。そして、ドレイクとフリルフレアの予想以上の奮闘に追い詰められた以上、このまま力を押さえておく必要もなくなったという事だった。
本体から魔力が送られてきてカオスラグナの魔力が増幅、それに伴い、ボロボロになっていた身体も元通りに修復されていく。そもそも魔力で創り上げた身体なので魔力が補充されればそれだけで傷も塞がってくるのだ。
そして、カオスラグナは完全に元通り……いや、魔力が増幅している以上先程までよりも強くなった状態で、かつ体力も全快の状態でそこに立っていた。
「さあアウドラギウス、そろそろテメエを叩きのめしてそこの小娘を……」
「いや、予想通りだったぜ」
「なに?」
余裕の表情のカオスラグナに対し、ドレイクは素早く背後に回り込んでいた。そして背後からガッシリとカオスラグナを羽交い絞めにする。
「………何のつもりだアウドラギウス。俺を押さえつけたところで攻撃が通らなきゃ意味がねえぞ?」
ドレイクの行動に少し苛立った様子のカオスラグナ。無駄な抵抗をしていることが気に食わないのだろうか?だが、ドレイクはそんなカオスラグナの言葉など聞いてはいなかった。それどころか……カオスラグナが力を取り戻し、さらに力を増していくことも予測していたのだ。
そしてドレイクはカオスラグナを押さえつけたまま叫んでいた。
「やれ!フリルフレア!俺ごとコイツを撃てぇ!」




