第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第12話、意外な切り札 その3
第12話その3
「フリルフレアアアァァァァァァァァァ!」
ドサッ………。
ドレイクの叫びが響き渡る中、フリルフレアの小さな身体が前のめりに倒れ込んだ。
「フリルフレア!おいフリルフレア!」
倒れ込んだフリルフレアに駆け寄りその小さな身体を抱き起し、声をかけるドレイク。だが、反応は全くない。フリルフレアの腕は力なく垂れさがっている。その小さな胸……ちょうど心臓の辺りを撃ち抜かれたのかポッカリと穴が開いていた。
「フリルちゃん!」
「嬢ちゃん⁉」
スミーシャとゴレッドの叫びが響き渡る。アースゴーレムの相手をしていたも、フリルフレアの事は気にかけていたようだ。もちろんそれはローゼリット、アレイスロー、フェルフェルも同じである。叫ばなかったと言うだけでフリルフレアの方を見てわずかだが動きを止めてしまっている。そして、反射的に走り出そうとするスミーシャとゴレッド。
「よくもフリルちゃんを!」
「待っとれ嬢ちゃん!今治療を!」
「待て!」
飛び出そうとしたスミーシャとゴレッドを止めに入るローゼリット。飛び出そうとした二人の前に立ち塞がる。それと同時に背後から襲い掛かろうとしていたアースゴーレムをシューティングニードルで撃ち抜き破壊していた。
「何じゃローゼの姉ちゃん!ワシがいかねば嬢ちゃんが!」
「フリルフレアなら大丈夫だ!むしろあそこに加勢に行ったらお前が死ぬぞ!」
ゴレッドに対してそう言い放つローゼリット。そしてスミーシャの方を見た。
「お前だって分かっているだろうスミーシャ!フリルフレアなら大丈夫だ!」
「で、でも………必ず……絶対に生き返るとは限らないって…」
「それでもだ!カオスラグナの前に出ればお前は殺される!フリルフレアと違ってお前は死んだらそれで終わりなんだぞ!」
「そ、そんなの……フリルちゃんだって終わりかもしれないじゃん!」
「それでもだ!それでも……私はお前を行かせるわけにはいかない!ここでお前に恨まれようとも!」
「ロ、ローゼ……」
ローゼリットの剣幕に少し押されるスミーシャ。ゴレッドも何か事情があるのかと察して口を挟まずにいた。
「今はフリルフレアが無事に生き返ることを信じよう……」
「……うん……ゴメンローゼ、取り乱した」
「分かっている、いつものことだ」
互いに目配せしてそのまま戦闘に戻るローゼリットとスミーシャ。ゴレッドはどういうことなのかよく分からなかったが、とりあえず今は戦闘に集中することにした。
そして、ローゼリットやスミーシャ達がフリルフレアの事を信じて戦いに集中する中、ドレイクはフリルフレアの身体を抱きしめながら叫んでいた。
「あああああああぁぁぁぁ!フリルフレアアアァァァァァ!」
ドレイクとてフリルフレアが死んでも甦ることは知っている。むしろもっともその現場に居合わせているはずだ。だが、それでもフリルフレアが死ぬことには慣れないし、何度も死ぬたびにその恐怖と痛みを味わっているフリルフレアを想うとそれだけで胸が張り裂けそうだった。だからドレイクは密かにフリルフレアを守ると決めていたのだ。だが……そんな決意も虚しくまたフリルフレアを傷つけ、死なせてしまった。そのことに激しい怒りを覚える。その怒りの矛先は手を下したカオスラグナはもちろんのこと、フリルフレアを守れなかった自分自身へも向けられていた。
「ぐ……ぐぅ………あ……」
「どうしたアウドラギウス?邪魔な足手まといがいなくなって少しは………」
「グウウガアアアアアアアアアアアアアゴガアアアアアアァァァァァァァァ!」
「⁉」
ドレイクの突然の咆哮に少し驚くカオスラグナ。だがその竜の如き咆哮を聞き、僅かに笑みを浮かべている。
「ほう………今の叫びはまさに竜のそれ……さらに力を取り戻しつつあるという事だな。クックック……わざわざ狙って下等生物を一匹殺した甲斐があったというものだな」
「黙れええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
カオスラグナの言葉を遮るように叫ぶドレイク。フリルフレアの身体を足元に横たえると、そのまま静かにカオスラグナの方へと歩き出した。
「それで?さらに力を引き出したのかアウドラギウス?」
「黙れと言ったんだこのクソ野郎オオオォォォォォ!ぶっ殺す!」
怒りのあまり口汚く罵倒するドレイク。そして、それと同時にドレイクの身体からドレイク自身の『氣』と『炎』が混ぜ合わさり融合した『炎闘氣』が一気に噴き出していく。
まるでドレイク自身を燃やしているかのような勢いで燃え盛っている炎闘氣はまさに巨大な炎の柱のようでもあった。そしてそのまま炎闘氣が一度ドレイクを覆い隠すほどに激しく燃え上がると、次の瞬間一度爆ぜて再度ドレイクの身体から炎闘氣が燃え上がっていた。ただ、その炎闘氣の炎の燃え上がり方は先程までよりは小さかったが、炎の燃える勢いは強かったように見える。そしてさらに、ドレイク自身の姿に変化があった。ドレイクの背中からは竜の翼が生えていたのだ。これは以前ドレイクが悪夢の中で『ナイトメアチャイルド・ウッドレンホニー』と戦った時に最後に見せた姿だった。
「なんだ?翼が生えただけか?」
ドレイクの姿を見てつまらなそうにそう言うカオスラグナ。だが、ドレイクはさらに両拳を握りしめるとそのまま凄まじい咆哮を上げていた。
「ガグルギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
その瞬間さらにドレイクの姿が変化する。背中の竜の翼が少し変化する。まるで竜の翼の被膜の所が少し膨れ上がる様に変化し、その先にまるでなにか噴き出しそうな穴が開いている。そしてさらにドレイクの頭の側頭部後方の辺りに巨大な角が生えていたのだ。その角は後方に大きく伸び、また枝分かれして前方にも少し伸びている。色は黒く、そこに赤い紋章の様なものが刻まれている特異な形状の角だった。
それを見たカオスラグナは明らかに一目見て分かるほどの笑みを浮かべていた。
「ほう………紋章角を出したか……それこそが俺達真なる竜の証…」
「黙れこの野郎!」
「どうした?本来の力をいくばくか取り戻した証だ。素直に喜んだらどうだ?」
「黙れと言ったんだああぁぁぁぁぁ!」
ドガアァァン!
次の瞬間、地面を踏み砕く音を残してドレイクの姿がその場から掻き消える。そして……。
「ウオオオオォォォォォォ!」
凄まじい速度からの渾身の一撃がカオスラグナに叩き込まれていった。




