第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第10話、ラグナの正体 その6
第10話その6
「………………」
フリルフレアのフェザーファイアの直撃を顔面に受けたカオスラグナ。だが、特に傷らしいものは全くついていなかった。表情だけで「それがどうした?」と問いかけているようにも見える。だが、その時………。
ツーー………。
わずかに……本当に僅かに……小さな傷が一つ。カオスラグナの頬からほんの一すじ血が流れていた。フリルフレアのフェザーファイアがカオスラグナの頬に傷をつけていたのだ。
「………………」
再度無言のまま、頬を手で触るカオスラグナ。その手にわずかに血がついていたのを見て目を吊り上げながらも口元には笑みを浮かべていた。
「ほう………この俺に傷をつけるとは………貴様ただのバードマンでは無いな」
「そうですか?ただのバードマンだと思いますよ?……それにしても、私なんかの魔法が通用しちゃうなんて……魔王って案外大したことないんですね」
カオスラグナを見上げて睨み付けながらそう言い放つフリルフレア。ちなみに偉そうに言っていても実はちょっと脚が震えている。さらに言えば、そんなフリルフレアを見てアレイスローが顔を真っ青にしている。言葉には出していないが「何で挑発してるんですか⁉バカなんですか⁉死にますよ⁉この国滅びますよ⁉」と言いたそうなのが一目でわかる。
「そんな安い挑発にこの俺が乗ると思っているのか?小娘……今の魔法は聖炎魔法………不死鳥の力だな?」
「さあ、知りませんね。精霊魔法じゃないですか?」
「答えるつもりは無い……という事か。しかしアウドラギウスもなかなか面白いモノを飼っているな」
「ムカッ!私別にモノじゃありませんし!ドレイクに飼われてるペットでもありませんし!なんなら私これでもドレイクの相棒ですし!」
ムカついたせいで逆に落ち着いたのか、脚の震えが止まり、毅然と言い放つフリルフレア。
カオスラグナは面白いモノでも見つけたような眼でフリルフレアを見ていたが、その時黒い影がフリルフレアとカオスラグナの間に入り込んでいた。
「陛下!ご無礼をお許しください!」
その黒い影……一瞬で入り込んできたのでそう見えたのは、カオスラグナの配下であるスパンド・ベオだった。その右手には魔力の光に包まれた青龍刀が握られている。
「小娘!貴様、偉大なる真なる竜であり竜王にして魔王であらせられるカオスラグナ様の御顔に傷をつけ、さらに数々の暴言………万死に値する!」
叫びながら青龍刀をフリルフレアに向かって振り下ろすスパンド。
「フリルフレア!」
思わず叫ぶドレイク。だが、カオスラグナの拳の直撃を受け相当なダメージを受けているのですぐに走り出せるような状態ではない。そして次の瞬間……。
ガキイィィィィィン
「何⁉」
思わず驚愕の声をあげるスパンド。スパンドの振り下ろした青龍刀は剣によって受け止められていた。そしてその剣を握っているのは……一瞬で起き上がり魔剣を抜き放ってスパンドの青龍刀を受け止めたのは………ベルフルフだった。
「べ、ベルフルフさん⁉」
「よう嬢ちゃん、回復魔法助かったぜ。さすがの俺様もさっきの攻撃をまともに受けたのはまずかったな。死にかけるところだったぜ」
「………死にかけるところだった……ってことは、実は死にかけてなかったんですか?」
「……そう言うツッコミは後にしてくれるか?」
スパンドの青龍刀を受け止めながら絞り出すような声を出すベルフルフ。
「貴様………我が王の攻撃を受けて生きているとは……」
「死にかけてたのは事実だけどな。だが………」
ベルフルフは鍔迫り合いの状態に持ち込みながら一度そこで言葉を切る。そしてニヤリと何処かいやらしい笑みを浮かべた。
「魔王竜なんて言っても案外大したことはねえな」
ベルフルフがそう言った瞬間、スパンドの青龍刀にかける力がグッと強くなる。主であるカオスラグナを愚弄されて頭に血が上ったのだ。
「良いだろう!牙狼剣、まずは貴様から血祭りに上げてくれる!」
「はっ!やれるもんならやってみろよ!魔王の腰巾着風情が!」
「貴様ぁ!」
ガキイィン!
スパンドが青龍刀でベルフルフを弾き飛ばす。やはり、いかに回復したと言ってもまだまだ万全とは言い難い様子のベルフルフ。吹っ飛ばされながらも受け身は取るが、それでも脚がよろけてしまう。
「そんな状態でこの俺に敵うと思っているのか!片腹痛い!」
そのまま一気にベルフルフとの距離を詰めて大上段から一気に青龍刀を振り下ろすスパンド。
ギイィン!
しかし次の瞬間ベルフルフは素早く立ち上がり、スパンドの青龍刀を正面から魔剣で受け止める。
「何⁉」
「おぅおぅ、片腹いてえのかぁ?胃に穴でも開いてんじゃねえのか?ぎゃっはっはっは!」
「き、貴様………よろけたのは演技か!」
「ご名答。まあ、まだ万全じゃねえのは事実だからな。面倒くせえからこっちが突っ込むんじゃなくてそっちに来てもらった訳だ」
「この俺を……謀ったと言うのか!」
「へっ!剣の腕はなかなかのもんだが、脳みその方は単純みてえだな。やっぱお前、一回戦で全力でかかってきたとしても俺様には勝てなかっただろうぜ」
「言わせておけば!」
そのまま互いに剣を弾き、一度間合いを取るベルフルフとスパンド。だが、すぐに互いに突撃し、激しい剣戟を繰り広げていく。
周囲を忘れてそんな1対1の勝負を繰り広げ始めたベルフルフとスパンド。そんな2人を見てカオスラグナは深々とため息を吐いた。
「何やってんだスパンドのヤツ……まあいい……………じゃあとりあえずこっちは…」
そんなことを言いながらフリルフレアに手を向けるカオスラグナ。その手に少しずつ黒い魔力が集まっていき………。
「もうここまでだアレイスロー!これ以上は看過できない!」
「あんたがこのまま頭を下げ続けるって言ってもあたし達はフリルちゃんを助けるよ!」
そう叫んでフリルフレアを庇う様にカオスラグナの前に立ち塞がったのはローゼリットとスミーシャだった。二人ともすでに武器を抜き放って構えている。
「えええ⁉ちょ、ちょっとローゼリットさん!スミーシャさん!相手は魔王竜公なんですよ⁉」
「知ったことか!このままフリルフレアが殺されるのを黙って見ている事など出来ん!」
「そうそう!そもそもこんなに可愛いフリルちゃんを殺そうとするなんて……やっぱり魔王って美的センスがゼロなんじゃない!」
そんなことを言いながらどさくさに紛れてフリルフレアに抱き付くスミーシャ。
「ミイィィィ………スミーシャさん、苦しいです……」
メチャクチャ嫌そうにしているフリルフレア。それでも3人とも魔王を前にして戦闘態勢をとる。そしてさらに………。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
突如響く鋭い発射音。しかもそれが3つ。
3連続で発射された矢がカオスラグナに直撃……する直前に左手の裏拳一発でアッサリ弾き飛ばされる。
それを見た瞬間、嫌な予感がしたアレイスローは恐る恐る自分の横を見上げると、そこにはいつの間にか三連装式速射クロスボウを構えたフェルフェルが立っていた。
「………チッ………外し…た…」
舌打ちと共にそんな事を苦々しく言っているフェルフェル。いつも無表情な彼女が珍しく少し不快そうな雰囲気をかもし出している。
(いや、外してませんよね。相手が防いだだけである意味当たってますよね!てか、当てちゃダメですよ!)
心の中でそんなツッコミを入れるアレイスロー。そしてそんなアレイスローの肩をポンと叩く人物がいた。
「どうじゃアレイスローよ。ここはひとつ、わしらも腹を括らんか?」
「ゴレッドさん……」
「確かにあいてはあの魔王竜じゃ、まず勝ち目なんぞなかろう。じゃがのう……お前さん一つ忘れとりゃせんかい?」
「私が……忘れている?」
「そうじゃ。あの魔王竜が言っとったじゃろうが………もう一人の真なる竜の名を……」
そう言ってゴレッドは瓦礫の中から立ち上がり「チッ!」と舌打ちしながら身体の埃を払っているドレイクの方を見た。
「赤蜥蜴がアウドラギウスってのがどういうことなのか分からんが………この状況を何とか出来るとしたら……」
「そうですね……ドレイクさんしかいません」
「そうじゃろ?だからわしらは赤蜥蜴の奴が気兼ねなく戦えるように嬢ちゃんを守りながらアイツのサポートをするんじゃ!」
「そ、そうですね………わ、分かりました!」
アレイスローも立ち上がり、杖を構える。ゴレッドも戦鎚を構えていた。
そして、ドレイクもまたカオスラグナを睨みつけながら全身に『氣』を巡らせていく。
それを見たカオスラグナはニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほど………アウドラギウスが少しやる気になったか?………ラークシュナーク」
「はっ!ここに!」
カオスラグナの呼び掛けですぐにそばにやってくるラークシュナーク。
「アウドラギウスの相手は俺がやる。他の連中はお前が遊んでやれ」
「仰せのままに」
頭を下げるラークシュナーク。そしてカオスラグナがドレイクの方へ向きなおると、ラークシュナークはそのままフリルフレア達の前に立ち塞がった。
「あなたたちの相手はこの私がして差し上げましょう」
そう言ったラークシュナークは呪文の詠唱も無しに空中に浮かび上がりフリルフレア達を見下ろしていた。




