第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第10話、ラグナの正体 その4
第10話その4
カオスラグナを上空へとぶん投げたドレイク。そのまま自身も凄まじい脚力で地面を蹴り上空へ跳躍する。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
いや、それどころかドレイクはカオスラグナを飛び越えてさらに上昇している。その背中にはいつの間にか炎で出来た竜の翼があった。炎闘氣を翼の形にして背中から発生させているのである。これも、以前の悪夢の中で習得した技だ。そしてドレイクは空中に投げられたカオスラグナの遥か上空で一度止まり、その場で大剣に炎のブレスを吹きかけた。
ゴオオオオオオオオォォォォ!
大剣が炎に包まれ、さらにドレイク自身の『氣』を大剣と炎に流し込む。そして炎と『氣』が混ざり合いより強力な『炎闘氣』となった。つまり、ドレイクの大剣は今、炎闘氣を纏って燃え上がっている状態だ。ドレイクの大剣は魔剣である。だからフォルトとの試合の時の様に剣が炎闘氣に耐えきれずに砕けてしまう心配も無かった。
そして、ドレイクは大剣を両手で握りしめると、いまだドレイクに投げられた勢いのまま上昇しているカオスラグナめがけて一気に急降下した。ヒューマンの姿をとっていることで翼を持たないカオスラグナが空中で態勢を整えられるはずがない。ドレイクの一撃が直撃するのは間違いなかった。
「これが……劫火と豪鎚の合わせ技……名付けて炎鎚の太刀!チィエエストオオオォォォォォォォ!」
ズガアアアアアアァァァァァァン
ドレイクの渾身の一撃がカオスラグナに叩き込まれる。その一撃は、単純にドレイクの強靭な腕力から繰り出されただけではなく、上空から翼を羽ばたかせて落下する速度を加速させて、さらにドレイクの全体重を乗せた本当の意味でのドレイク渾身の一撃だ。
そしてその一撃が直撃したカオスラグナをそのままドレイクは地面に向かって加速しながら一気に大剣を振り抜く。
ドゴオオオオオオオオオオオォォォォォォン!
轟音とともに、カオスラグナは地面に叩きつけられた。もちろんドレイクは大剣を振り抜いている。恐らくカオスラグナの身体は肩の辺りから両断されている………はずだった。
「ド、ドレイク……」
ベルフルフの治療を続けながらも思わずドレイクの方へ視線を向けてしまうフリルフレア。もっとも、それはフリルフレアに限った話ではない。ローゼリット、スミーシャ、フェルフェル、ゴレッドも思わず顔を上げてドレイクが落下した方を見ていた。アレイスローだけは魔王竜に関する知識を持っていた分、カオスラグナに対して畏怖の念が強かったため顔を上げることは無かった。もっとも、それでも視線だけはドレイクの方へ送っていたが……。また、いまだ身体をまともに動かすことも出来ないベルフルフは何とか顔だけを上げてドレイクの方へ視線を送る。その他にも、アレイスローの呼びかけで頭を下げていた者達………聖騎士団長フォルトや副団長イーガラスト、バッセルモン家のアンペイや親衛隊のスコルドなど、他の者達も多数思わず顔を上げてドレイクとカオスラグナがどうなったのかを見ていた。そして………………。
「なん………だと…⁉」
絞り出すようなドレイクの声。ドレイクとカオスラグナが落下し地面に衝突した衝撃で砂煙が上がっていたが、それが晴れていく。
そして次の瞬間……。
パキィン!
あっけない……あまりにもあっけない音を立ててドレイクの大剣が刀身の半ばで折れた。
そしてカオスラグナは手に持ったドレイクの大剣の刀身をまじまじと見ている。そう………カオスラグナはドレイクの渾身の一撃をいとも簡単に片手で受け止めていたのだ。それも投げ飛ばされた先で、すなわち上空でだ。そして当然落下からの着地もいとも簡単にやってのけた。つまり………ドレイク渾身の一撃はカオスラグナに全く通用していなかったのだ。そしてそのまま片手でドレイクの大剣の刀身を簡単にへし折ったのである。
五年前……記憶にある限り気付いた時には既に傍らにあった愛用の大剣が折れたという事実に思わず思考が止まるドレイク。そんなドレイクと折れた大剣の刀身を見てカオスラグナは深々とため息を吐いた。
「………この剣…ブレイゼルドだな?…こんなおもちゃでこの俺に傷をつけられると本気で思っていたのか?」
カオスラグナはそう言ってドレイクの大剣……魔剣ブレイゼルドの折れた刀身を放り捨てた。
「なかなか面白いおもちゃではあるが……所詮は巨人共が戯れで造った試作品でしかないな。お前、今までこんなものを使っていたのか?」
カオスラグナの問いにドレイクはギリッ!と歯をくいしばる。約5年間ずっと使い続けてきた愛用の魔剣だ。馬鹿にされればさすがにムカつきもする。
「テメエ……よくも俺の愛用の魔剣を…」
ドレイクは折れた魔剣を背中の鞘に収めると、そのまま拳を握り締めた。
「それならこいつはどうだぁ!」
バッシイイィィィィィン!
ドレイクとが拳と拳をかち合わせる。そして次の瞬間ドレイクの両拳が『氣』に包まれ、ドレイクはそこに炎のブレスを吹きかける。次の瞬間ドレイクの氣と炎が合わさり、『炎闘氣』となった。ドレイクの両拳を球形の炎闘氣が包み込んでいる……爆火双球・拳である。
爆火双球を纏った拳を構えるドレイク。カオスラグナはそれを見て少し楽しそうに笑っている。
「爆火双球か………随分久しぶりに見たな」
「………何だと?」
カオスラグナの言葉に怪訝な表情になるドレイク。カオスラグナの口ぶりではまるで爆火双球の事を知っているみたいだった。だが………ドレイクはそこで考えるのをやめる。例えカオスラグナが爆火双球を知っていようといまいと関係なかったのだ。そう………今ここでカオスラグナを倒してしまえば何も問題はない。ドレイクはぞのまま全力でもってカオスラグナに殴りかかった。
バシイイイィィィィィン!
ドレイクの爆火双球・拳を易々と止めるカオスラグナ。だが、ドレイクはそれでも何度も拳を撃ち出す。そして…………。
ガシイィン!
再びドレイクの拳を受け止めるカオスラグナ。
「この程度か?何を躊躇っているのかは知らんが……お前の炎も拳も…この程度では無いだろうが…」
わずかに笑みを浮かべてそう言い放つカオスラグナ。そして………。
「なあ、そうだろ?……アウドラギウス」
カオスラグナのその言葉に辺りは静まり返っていた。




