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第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第9話、衝撃 その9

     第9話その9


「………おのれ……おのれ…おのれおのれおのれ!貴様ぁ!我らが王たるランキラカス様の魂に一体何をしたぁ!」

 激高しラグナに襲い掛かろうとするチックラズン。だが、魂の宝珠を失ったことで力が急激に落ちたのか、それともこのマン・キメラの身体になれていないのか、とにかくチックラズンはそのまま震える膝で何とか立ち上がるだけだった。

「答えろ!ランキラカス様の魂をどうしたんだ!」

「消滅させた」

「………は?………」

「耳が悪いのか?消滅させたと言ったんだ」

 まるで「くだらんことを何度も言わせるな」と言いたげなラグナの言葉。しかしそれを聞いたチックラズンは衝撃でしばらく動けなかった。

「しょ、消滅させた……?何を言っている貴様!ランキラカス様は序列6位の暴食の魔王だぞ⁉たとえ宝珠に入っていたのがその魂の欠片にすぎないとしても貴様などに消滅させることなど………!」

 あまりにショッキングなことを言われたせいか、唾をまき散らすほど興奮しながらそうまくしたてるチックラズン。だが、ラグナの方はそんなチックラズンをつまらなそうに見ているだけだった。

「おのれ………かくなる上は!ベルズィー殿!まだ動けるだろう!助力を願う!この男を血祭りに上げるぞ!」

 興奮状態のまま叫ぶチックラズン。もしかしたらマン・キメラになり、更にランキラカスの魂の欠片の恩恵が無くなったので少し精神に異常をきたしているのかもしれない。しかし、そんな状態のチックラズンとでも二人がかりならラグナを倒せると思ったのか、ベルズィーも腹部を押さえたままヨロヨロと立ち上がる。

「そうだねぇ……もう一度コイツを喰う事に……挑戦するのも悪くないかな!」

 殺してからなら喰えるに違いない、そう考えたのかベルズィーも戦闘態勢に入ろうとしていた。だが………。

「……くだらん…。何故今更この俺が貴様ら如き死にぞこないのザコ共の相手をしてやらねばならんのだ……」

 そう言って心底興味無さそうにチックラズンとベルズィーの方を見ているラグナ。そしてラグナはため息交じりに口を開いた。

「もういい………スパンド、ラークシュナーク」

「「はっ!」」

 ラグナの言葉に応える声が二つ。そして次の瞬間事の状況を見守っていた冒険者たちの中から二つの人影が飛び出してきた。

 その人影は………大戦技大会の1回戦でベルフルフにアッサリと敗れた青龍刀を携えた青鱗のリザードマンの戦士スパンド・ベオと同じく1回戦でチックラズンに破れたヒューマンの戦士ラークシュナーク・シュリンクだった。ただし、ラークシュナークに関しては大会の時の様な片手半長剣は持っておらず、それどころか魔導士の(メイジスタッフ)を持ちローブを纏っていた。そして二人はラグナを前に跪いている。

「お呼びでございましょうか、我らが王よ」

「何なりとお申し付けください」

 スパンドとラークシュナークは頭を垂れたままラグナにそう問いかける。そして、それに対してラグナはただ一言……。

「消せ」

「「御意!」」

 ラグナの命令にそう答えたスパンドとラークシュナークは立ち上がるとチックラズンとベルズィーの方に向き直った。一方のチックラズンとベルズィーはスパンドとラークシュナークを見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「誰かと思えば、一回戦でベルフルフに惨敗したリザードマンではないか。それに……」

 チックラズンはそう言ってラークシュナークの方へ視線を向ける。

「お前は一回戦で俺に負けた…ラークシュナークだったか?貴様如きが今更何の用だ?」

 現れた二人が共に一回戦で敗れた存在と知り、明らかに見下した態度をとり出したチックラズン。ベルズィーの方も死にかけのくせに明らかに人を馬鹿にしている雰囲気をかもし出している。それに対してスパンドとラークシュナ―クは特に表情も変えずにそれぞれ青龍刀と魔導士の杖を構えている。そして、両陣営睨み合ったまま………。

「ならばまずは貴様らから血祭りだぁ!」

「コイツを喰って回復だぁ!」

 チックラズンとベルズィーがある種の狂気をはらんだ叫びを発しながら一気に突進してくる。その速度はかなりのもので、とてもベルズィーが死にぞこないであるようには見えなかったしチックラズンの方も先程まで膝が震えて立っているのがやっとだったのが嘘のようだ。もしかしたら傷が少しずつ自然に再生していたのかもしれない。そしてベルズィーがその屈強な肉体の拳を振り上げ………。

ゴトッ!

 次の瞬間ベルズィーの流動する白と黒の縞模様が付いた大きな球体の様な頭部が地面に落ちていた。ベルズィーの顔はその異様な外見ながら笑みを浮かべているのが分かる。つまり……ベルズィーは自分の首が落ちるその瞬間まで自分の身に何が起きたのか理解しないまま命を落としていたのだ。そして、今この場においてベルズィーの首を刎ねた青龍刀の一撃に気付けた者がどれだけいただろうか?大半の者が気付いた時には既にベルズィーの首が落ちていたのだ。つまり………それほどまでにその青龍刀の一閃…スパンド・ベオの一撃は凄まじい速さだったのだ。

「……ぐ……あ、あの……ヤロウ……やっぱり……一回…戦……で……手を…抜いて……いやがっ…たん…だな……」

「ベルフルフさん⁉」

 絞り出すような声に思わず驚きの声をあげるフリルフレア。回復のための魔法に集中していたため気付かなかったが、どうやらベルフルフが意識を取り戻したようだった。

「よ、よかった!……で、でもまだ動かないでくださいね!傷はまだ塞がってませんから」

「へっ……どうせ…まだ……動けや……しねえ…よ……」

 どうやら何とか首を動かせる程度には回復したようだが、それでもまだ体を動かせるほどには回復していないようだった。

「……恐…らく……だが……あの…スパ…ンド……て……ヤロウ…は……俺…様に……匹敵……する…実力…者……だ……」

「べ、ベルフルフさんに匹敵する⁉」

 思わず驚きの声をあげるフリルフレア。フリルフレアの知る限りベルフルフに匹敵すると言える戦士はドレイクだけだ。そのドレイクにしたってベルフルフは自分の方が強いと言っている。そのベルフルフが自分に匹敵すると認めたのだ。それはつまり……スパンド・ベオが凄まじい剣の使い手であることの証明に他ならなかった。

「べ、ベルズィー殿……」

 一撃で仲間の首が落ちたことに驚愕し思わず動きが止まっていたチックラズン。その異形の姿のまま悔しそうに歯ぎしりしている。

「お、おのれ………我が同胞をよくも……ならば!まずは貴様を血祭りに上げてくれる!」

 怒りの感情のままラークシュナークに向き直るチックラズン。そしてその両腕と背中の大小さまざまな腕を振り上げて一気にラークシュナークへ肉迫し………。

「愚かな……『ブラッドボイル』」

 次の瞬間ラークシュナ―クの杖が光を放ち、その光がチックラズンに吸い込まれるように消えていく。そして………。

「バカが!そんな訳の分からん魔法がこの俺に通用する……訳が……」

 そう言ったところでチックラズンの動きが止まる。そして、その身体が少しずつ膨らんでいき……。

「え?……あで……お…おで……なにが…」

 身体がどんどんブクブクと膨らんでいくチックラズン。そしてついに限界を迎える。

ブシュウウウゥゥゥ!

 チックラズンの膨らんだ体の一部が破裂しそこから血が噴き出していく。さらに、他の部分も体中が破裂して血が吹き出していく。しかもその血は……凄まじい高温になり沸騰していた。チックラズンの身体中の血液が沸騰しその蒸気により身体が膨らんでいたのだ。沸騰した血液はその高温で地面を焼きながらも蒸発し赤い水蒸気となっていた。

「一回戦で私に勝ったから私より強いと思っていたのですか?……私は見ての通り魔導士ですよ?剣の勝負に何の意味があると言うのですか」

 ラークシュナークのその言葉はチックラズンに向けての言葉だったが、既にチックラズンはその命を終えておりその言葉を聞くことは無かった。


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