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第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第6話、ローゼリットとハムズの因縁 その8

     第6話その8


「ん………こ、ここは……?」

「目が覚めたか、ハムズ?」

「ローゼリット?」

 ベッドで寝かされていたハムズが身体を起こし、どうやらまだぼんやりしているらしい頭を軽く振って意識をはっきりさせている。そしてキョロキョロと周りを見回しているハムズを見てここが何処か分かっていない事を察したローゼリットは思わず苦笑いをした。

「ここは医務室だよ。気絶したお前をここまで運ぶのは大変そうだったぞ?」

「大変そうってことはお前が運んだわけじゃないのか?」

「何で試合直後の私がそんな面倒くさいことをしなきゃいけないんだ?当然コロシアムのスタッフが数人がかりで運んだに決まっているだろ」

「ああ、そういうことか……」

 思わず納得するハムズ。同時にハムズは自分がローゼリットとの試合に負けたことを思い出した。そして渋い顔になる。

「チッ………ああも完全に負けるとはな、完敗だ」

「完敗?何言ってるんだ、正直紙一重の勝ちだったんだぞ?」

「そっちこそ何言ってやがる。あれが実践だったら俺は何度死んでいたか分からんぞ。お前の武器は刃を潰した試合用だったんだからな。それに比べて俺の武器はいつもと大差ない棍棒だ。お前の方が攻撃力は格段に落ちていただろうが」

 そう言って睨んでくるハムズにローゼリットは思わずため息をついた。

「そうは言うが、私の持っている武器でお前の筋肉を貫通できたかどうかは分からんぞ?それにお前だって普段の武器は棍棒じゃなくて大型のメイスだそうじゃないか。条件はほぼ五分だっただろう?」

「フンッ………俺とてこんな試合で無駄に人を殺したくはないからな」

「元暗殺者とは思えない発言だな」

「お前に言われたくないぞ」

 そう言い合って思わずにらみ合うローゼリットとハムズ。だが、そのまま睨み合っていた二人はすぐに吹き出すと、そのまま声を上げて笑い出した。

「しかし、何だな……想像以上に腕を上げたなローゼリット」

「そうか?まあ、この数カ月間なかなか大変な事件に巻き込まれたりもしたからな。少しくらい腕が上がっていてくれないと困る」

 ローゼリットが渋い顔でそう言っていると、ハムズが少しニヤニヤし始める。

「大変な事件っつうと……ラングリアのアサシンギルドの一件とか……あと、アルミロンドの集団昏睡事件とかか?」

「そうだが……?ラングリアの一件はともかく、なんでお前がアルミロンドの事件の事を知ってるんだ?」

 思わずキョトンとするローゼリット。アルミロンドで起きたナイトメア事件は既にかなり広く知れ渡っているが、ローゼリットがその事件に関わっていたことを知るのは一部の人間だけのはずだ。思わず頭の上に?マークをいくつも浮かべるローゼリット。そして何やらハムズがにやけ面のまま「実はな……」とか言った、次の瞬間だった。

バアァン!

 勢いよく医務室の扉が開かれる。そこには長い金髪のストレートヘアで黒いゴスロリのドレスを着た20歳位の美女が立っていた。思わずその美女を見て思わず小首を傾げるローゼリット。

(……はて?何処かで見たことがある様な………)

 ローゼリットがそんな事を考えながらその美女を見ていると、その美女はキョロキョロと医務室の中を見回し………そしてローゼリットを見てその視線を止めると、ビシッとローゼリットを指差し………。

「いたわねローゼリット・ハイマン!」

「へ?わ、私………?」

 思わずポカンとして自分を指差すローゼリット。だが美女はそれには答えずおもむろにその長いスカートをめくり上げた。

「……は?」

 美女の行動の意味が分からずまだポカンとし続けるローゼリット。だが……めくり上げたスカートの下に見覚えのあるものを見つけたため、その行動の意味を理解することとなった。美女のスカートの下に見えたモノ………それは、ホルスターになっている美女のガーターベルトに装填されている投擲用の長い針……シューティングニードルだった。

「…………!」

 下着があらわになるのも気にせずにそのシューティングニードルを素早く引き抜いた美女を見て思わず声にならない悲鳴を上げるローゼリット。どう考えても自分を狙っているのは明らかだ。そして………。

「死ねえぇぇぇ!」

「ちょっと待てええぇぇぇ!」

ドガガガガアァァァン!

 美女が投げたシューティングニードルがローゼリットとハムズのすぐ後ろの壁を盛大に破壊する。とっさに避けていなければローゼリットの頭が吹き飛んでいたかもしれない。思わず背筋がゾッとする。

(なんて威力だ……まるでロッテーシャのシューティングニードル……)

 そこまで考えてローゼリットは目の前の美女が誰であるか気が付いた。

「お、お前………ローレン…ローレン・シュレイカーか?アルミロンドの暗殺者ギルドのギルドマスターの……」

「そうよ………だから何?」

「いや、だから何?って………なんであんたが私に攻撃してくるんだ?……まさか、誰かに依頼されて私の命を……」

 そこまで言ったところで違和感を覚えたローゼリット。

(いや……おかしい。仕事で私を殺そうとしたなら何であんな大声で『死ね』とか叫んでたんだ?暗殺なら静かに殺すのが常識………それにコイツは一応ギルドマスター、直接動くなんて普通はあり得ない。だとすると…………?)

 この美女……ローレン・シュレイカーの行動の意味が分からず再び頭の上に?マークを浮かべるローゼリット。だが、どちらにしろ命を狙ってきたことにはかわりはない。ローゼリットは素早く腰に下げた短剣に手をかけ………。

「おいおい、危ないからこんな所で武器を出すなよローリエ」

「はう!そ、そうだよね!ゴメンねハムズぅ♡ローリエ、うっかりしちゃった!てへ♡」

「…………………は?」

 ハムズに声をかけられ、可愛らしい声で応えて最後の『てへ♡』でペロッと舌を出したローレンを見て、何か見てはいけないものを見た様な……それでいて頭の処理が追い付かないような、そんな微妙な顔になってローゼリットは……結局ポカンとしていた。

 目の前の二人のやり取りを理解することを頭が完全に拒否している。

「それにローリエ、ローゼリットは俺がその才能を見込んだ暗殺者だぞ?殺しちゃダメだろ」

「そ、そっか!そうだよね!ゴメンねハムズ!ローリエ、また間違えちゃった!」

「大丈夫だ。幸い今の攻撃は当たってないからな。でも何でいきなり投げ針を投げつけたりしたんだ?」

「だ、だってだって!このローゼリットのバカが!ローリエのハムズに酷いことしたんだもん!ローリエ、ハムズのことが心配で心配で………だからまずはローゼリットが許せないから殺しちゃえって……」

「そっか、心配かけて悪かったな。俺はこの通り大丈夫だから、ローゼリットのことは許してやれよ」

「う、うん………ハムズがそう言うなら………許してあげる」

「いや、ちょっと待て貴様ら」

 何やら甘々な雰囲気で話しているハムズとローレン。完全にローゼリットを無視して二人の世界に入っているハムズとローレンにローゼリットは頭痛と同時に怒りを感じた。そして反射的に「ちょっと待て」と言いながらグッと立てた親指を下に向けていた。当然頭には怒りマークがいくつも浮かんでいる。ローゼリット的にも一方的に攻撃された挙句、上から目線で「許してあげる」などと言われても納得できるものではない。というか、そもそもいい年こいたオバサンのローレンが甘えた声を出していることに苛立ちと気持ち悪さを覚える。………まあ、オバサンとは言ってもローレンの外見は20歳位にしか見えないのだが………。

 まあ、とにかくイラついたローゼリットはローレンに向かってその苛立ちをぶつけるべく、自身も懐からシューティングニードルを引き抜いていた。

「人に向かって不意討ちしておいていい度胸だなローレン。てか、ローリエって何だよ?あと声がキモいんだよ、オバサンのくせに」

「は?………人の本名に何ケチつけてんの?………って言うか、今私のことオバサン呼ばわりした?…………………………ホントに殺すわよ小娘?」

 医務室の中にローゼリットとローレンの殺気が充満していく。正直他に人がいなくてよかったと思われる。正直傷に障るレベルの殺気だ。だが、そんな中でもハムズは意外とケロリとしていた。

「おいおい、お前らとりあえず落ち着けって…ここ医務室の中なんだろ?」

 ハムズの言葉にハッとするローゼリットとローレン。とりあえず互いにしぶしぶと武器をしまい込むのだった。


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