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第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第6話、ローゼリットとハムズの因縁 その7

     第6話その7


 『決着を付けよう』と言ったハムズは棍棒を両手で握りしめ、大上段に振り上げる。それに対しローゼリットは鉄の棒を何本も両手に構える。そして、互いに武器を構えたまま相手の隙を伺い、一種の膠着状態に陥っていた。ローゼリットは棍棒を両手で振りかぶっているハムズを前にして、かなり慎重になっていたのだ。

(あの大上段からの一撃を受けるのは得策じゃない。どうやってハムズに先に仕掛けさせるか………)

 いまだ解析眼を発動させたままハムズのわずかな動きさえ見逃さぬように視線を集中させるローゼリット。だが正直な話、慎重なローゼリットとは反対に、ハムズの方は今にも飛び出しそうな様子であった。そもそもハムズは先程のローゼリットの攻撃で両肩を負傷している。両肩からの出血がある以上あまり時間はかけていられなかった。だから………膠着状態から先に動いたのはハムズの方だった。

「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉ!ローゼリットォ!」

「来るか!ハムズ!」

 雄叫びと共に棍棒を大上段に構えて突撃してくるハムズ。馬鹿の一つ覚えの様な突撃からの全力攻撃だが、ハムズの様な力のある体格に恵まれた者ならば下手な小細工をするよりもその方が強力なのだ。そして一気にローゼリットの眼前まで間合いを詰めてきたハムズ。大上段に振り上げた棍棒がまるでローゼリットを叩き潰さんとばかりに凄まじい勢いで振り下ろされる。

(…………ここだ!)

ドゴオォン!

 凄まじい衝撃がステージを揺らす。大上段から渾身の力で振り下ろされたハムズの一撃は………しかしローゼリットを捕らえてはいなかった。

 ギリギリまで解析眼でハムズの隙を探していたローゼリット。そして棍棒が振り下ろされた瞬間、解析眼の力も借りてローゼリットはわずかに横に避けただけの紙一重の回避に成功していた。

(チッ!避けられたか………だが、ローゼリットの手の中にあるのはシューティングニードル、この至近距離では撃てないはず………⁉)

 次の瞬間自分の眼を疑うハムズ。先ほどまでローゼリットはシューティングニードルの代わりの鉄の棒を複数本両手に持っていたはずだ。だが、気が付けば彼女の手の中にはそれらの鉄の棒は見当たらず、代わりに少し太い金属製の糸………鋼線が握られていた。

(鋼線⁉バカな!いつの間に持ち替えた⁉)

 思わず動揺し、反応が一瞬遅れるハムズ。そして………その一瞬の遅れが致命的だった。

「はあぁぁぁ!」

 次の瞬間ローゼリットが両手を勢いよく振るう。そしてそれに連動する様にローゼリットの手の中から鋼線が閃いた。

「くっ!」

 反射的に棍棒から手を離し、身体を守るように防御態勢をとるハムズ。そんなハムズの身体に鋼線が絡みついていく。反射的に身体を固くするハムズ。この鋼線が試合用の少し太い鋼線で身体を切断されることは無いと分かってはいても、反射的に背中から嫌な汗が流れ落ちるのを止めることは出来なかった。

ガッ!

 身体に絡みついた鋼線がハムズの動きを妨害する。反射的に舌打ちしそうになりながらハムズは身体に絡みついた鋼線を振り回そうとした。動きが妨害されているとはいえ、その鋼線はローゼリットの手の中から延びているのだ。ならば、こちらの動きが妨害されても鋼線ごと振り回せば、ローゼリットが鋼線を手離したり、あるいは上手く行けば場外まで投げ飛ばせる可能性があると考えたのだ。。

 そしてハムズが身体に力を込めて全力で鋼線を振り回そうとしたその瞬間………首筋にっ鋭い衝撃が走った。

ガッ!

(何⁉)

 衝撃の正体が分からず混乱するハムズ。だが、衝撃の正体はすぐに分かった。それは………シューティングニードルの代わりの鉄の棒だった。鉄の棒がハムズの首筋に撃ち込まれ、そしてステージ上に落ち………。

(何だ……?何かおかしい……)

 すぐにその理由が分かる。時間にすれば一瞬のことだが、明らかに鉄の棒が落ちる速度がおかしいのだ。ステージの上へ落ちて高い金属音を響かせるはずなのにそれが起きない。

(それに………そもそもこれは一体何処から……?)

 それに気づいた瞬間、ハムズは背筋がゾッとするのを抑えきれなかった。

(これは今俺の首筋にあたった。俺は今下を向いている。つまり首筋に当たったってことはこの鉄の棒は上から落ちてきて………)

 反射的に上を見上げるハムズ。その視線の先には無数の………鉄の棒があった。

(あれは………さっきローゼリットの手の中にあった鉄の棒か⁉上空へ放り投げていたのか!)

 そこまで考えて、とあることに気が付くハムズ。

(だが………なぜ一本だけ先に落ちてきた⁉それに………あの鉄の棒は………⁉)

 そして気が付く。鉄の棒一本一本に鋼線が結び付けてあったのだ。それを見た瞬間ハムズは………。

「ローゼリットオオオォォォォ!」

「終わりだ、ハムズ!」

 次の瞬間、さらに手の中の鋼線を閃かせるローゼリット。そしてそれに呼応して鋼線の結びつけられた上空の鉄の棒が一斉にハムズへと凄まじい勢いで撃ち込まれた。

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

「ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 無数の鉄の棒がハムズに撃ち込まれる。そしてさらにローゼリットの手の動きは止まらない。鋼線を巧みに操り、撃ち込まれた鉄の棒を再度鋼線を操って上空から撃ち下ろしたり、手元に引き寄せて再度撃ち込んだりしている。それを繰り返すことにより、わずか十数本の鉄の棒が数十、数百の鉄の棒であるかのようにハムズの身体に撃ち込まれていった。そして………ついにハムズの巨体がステージの上へと倒れ込んだのだった。

「勝負あり!勝者、ローゼリット・ハイマン!」

 倒れ込んだハムズが気を失っているのを確認した審判により、この瞬間ローゼリットの勝利が宣言されたのだった。

「ふぅ………まったく、何て頑丈な奴だ……」

 勝利が決定したローゼリットは呆れたようにそう呟きながら深々と息を吐いてその場に座り込んだのだった。


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