第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第6話、ローゼリットとハムズの因縁 その4
第6話その4
『おおっと!ハムズ選手とローゼリット選手、一気に間合いを詰めていきます!』
『先ほどまではお互いに間合いを取っていましたからね。恐らく、それでは埒が明かないと思ったんでしょう』
『なるほど!しかしこの場合、ハムズ選手とローゼリット選手、どちらが有利なんでしょう?』
『やはりこの試合の形式を見る限りではハムズ選手の方が有利ですね。いかに強くても女性のローゼリット選手の打撃ではあの巨体を持つハムズ選手に有効な打撃を与えるのは難しいでしょうからね』
『なるほど!』
実況と解説は相変わらず好き勝手なことを言っている。だが、ローゼリットもハムズもそんな話は全く聞いていなかったし、気にもしていなかった。そして互いに突撃し、武器を構えたまま…………。
「うおおおおおぉぉぉ!」
先に仕掛けたのはハムズの方。巨大な棍棒はハムズの筋力と相まって文字通り殺人的な破壊力を生んでいる。そしてその棍棒を肩の辺りに無造作に構えると、そのまま一気に横に振り回す。
「チッ!」
舌打ちをしながらもローゼリットは一瞬で高く跳躍する。そして棍棒が振り回された瞬間ローゼリットは空中で身体をひねり紙一重で棍棒を回避する。そして、そのままハムズの頭上を越えて背後に着地した瞬間………。
「ぬるああああぁぁぁぁ!」
ドガッ!
「ぐっ!」
ローゼリットは着地した瞬間背後から、つまりハムズの方から嫌な圧力を感じた。その瞬間反射的に振り返ったローゼリットはとっさに両手で逆手に構えていた短剣を眼前で交差させて防御態勢をとる。そして次の瞬間ローゼリットの眼前にはゴツイ拳の裏拳が迫っていた。そのまま交差させた短剣で防御し直撃は免れたが、それでもその拳より放たれる強烈な裏拳の衝撃で一気に吹っ飛ばされるローゼリット。防御が間に合ったおかげでステージの上から落ちることは無かったが、それでもギリギリのところまでは殴り飛ばされていた。
「チッ!………ハムズ!」
何とか一瞬で体勢を立て直し、再びハムズに向かって突撃してそのまま両手の短剣を何度もハムズに叩き込むローゼリット。
「フンッ……そんなもんか!」
しかしローゼリットの連撃をアッサリと受けきるハムズ。やはりローゼリットの腕力では、刃のついていない短剣で殴ったところで大したダメージにはならないようだ。そしてそのことはローゼリット自身も分かり切っているようだった。
「まだまだ!はあぁぁぁぁぁ!」
叫びと共にローゼリットは再度短剣による連撃を繰り出す。いや……短剣だけでは無かった。ローゼリットは短剣による斬撃、突き以外にも回し蹴りや踵落とし、足払いなど蹴りによる攻撃も織り交ぜていく。そしてそれらの攻撃は的確にハムズに当たっていったが、それでもハムズの筋肉の鎧の前には大したダメージにはならなかった。
「クソッ………この筋肉バカめ」
「どうした?こういう試合の場合は俺の方が有利なのは分かり切っていただろう?」
「それがどうした!」
叫びながら両手の短剣を投げつけるローゼリット。
ドガッ!
「チィッ!」
この状況で武器を投げてくるとは思っていなかったのか反応が遅れて投げつけられた短剣の直撃を受けるハムズ。だが、もちろん直撃と言っても刃が付いてる訳では無いので短剣が刺さったりすることは無い。ただ………投げつけられた短剣はハムズが思っていた以上の威力があり、直撃した肩や腕の辺りに鈍い痛みが走った。
そして痛みで顔をしかめているハムズから間合いを取るために後ろに飛び退いたローゼリットはそのまま懐に手を突っ込み、後ろに飛び退くと同時に懐から取り出したシューティングニードルの代わりの鉄の棒を一気に投げつける。
ドドドドッ!
「グッ⁉」
突然鋭くなったローゼリットの攻撃を捌ききれずに鉄の棒の直撃を受けるハムズ。ローゼリットが一気に投げつけた鉄の棒は全部で8本。それらはローゼリットの投擲技術によりある種の殺人的破壊力を持ってハムズの身体を直撃していた。正直なところ、今投げつけた鉄の棒の威力は相当なもので、筋肉の鎧を持つハムズだからこそ耐えられたのであり、普通の人間が直撃を受ければ、そのまま骨が砕けたり内臓が破裂していたりしかねない程の威力がある投擲だった。
「チッ!この投擲術…………ロッテーシャのシューティングニードルか!」
思わず吐き捨てるように言いながら身体にめり込んだ鉄の棒を払い落とすハムズ。油断なく棍棒を構えながらローゼリットを睨みつける。
「まさかあのメギツネの技を使うとは………」
「ロッテーシャは私の母親だ。娘の私が技を受け継いでいても何も不思議じゃないだろう?」
「何言ってやがる。あのロッテーシャが自分の技を人に教えたりするかよ。……一体どうやって身に着けた?」
皮肉混じりにそんなことを言うハムズ。それに対してローゼリットは珍しく得意げな表情になっていた。
「フンッ………なら見せてやろう。私がどうやってシューティングニードルの投擲術を身につけたか」
そう言った瞬間、ローゼリットの双眸が金色の光を発しだした。




