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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第5話、暴かれる真実 その3

     第5話その3


「うおおおおおお!」

 咆哮と共にドレイクの大剣が緑の鎧の男に向かって振り下ろされた。しかしそれは男に当たる直前にあらぬ方向に向きを変え、盛大に空振りしてしまう。

「チィッ!さっきからなんなんだ⁉」

 ドレイクが苛立ちの声を上げる。

 ドレイクは緑の全身鎧の男との戦闘に入っていた。そして先手必勝のごとく振り下ろされたドレイクの剣は間違いなく男に命中するはずだった。しかし男は避けるそぶりも見せずにただ立っているだけ。それなのにドレイクの剣は男に当たらず空を切る結果となった。

 意味が分からないドレイク。なぜ自分の攻撃が当たらないのか謎だったが、それでも何度も大剣を振り下ろし、薙ぎ払っていた。しかしそれらは一向に男には命中しない。

 さらに言えば、途中からドレイクの頭の中にフリルフレアが襲われて捕らえられる映像が流れ込んできており、それのせいで戦闘にも集中できずにいた。

 そう言う意味では先ほどの「なんなんだ」は二重の意味を持っていた。

「クッソ!フリルフレアも助けに行かなきゃならないってのに!バレンシアの奴何やってんだ!」

 思わずぼやきが口をつく。頭に流れてくる映像ではフリルフレアはローブを着た男に突き飛ばされ、後ろの三つ編みを掴まれていた。恐らくすぐに拘束されてしまうだろう。

 正直な話、そう言う体質なのかはたまたそう言う星の元に生まれたのかどうだかは知らないが、こう何度も敵の手に落ちるフリルフレアにいい加減にしてほしいい気持ちもあった。その都度こんな映像が頭の中に流れてくるし、大概助けに行くのは自分である。少しはこっちの迷惑も考えろと言いたい。

 もっとも、それを口に出して言う訳にもいかなかった。いい加減にしろと言ったところで、フリルフレア自身別に好きで誘拐されている訳では無い。文句など言おうものなら「そんなの私を攫う犯人に文句を言ってよ!」と涙目で言い返されるのがおちだ。それにこの映像にしてもフリルフレアの危機をドレイクに知らせているだけだとも考えられる。最も知らせるタイミングがどう考えても手遅れなタイミングだという事実もあるのだが……。正直に言えばこの映像は、フリルフレアの掛けた呪いではないかと思えてしまう。

 とにかくそんな映像が流れてくるせいで戦闘に集中できない状態でドレイクは緑の鎧の男と戦っていた。しかも自分の攻撃は先ほどからかすりもしない。

「チッ!どうなってやがる!」

 苛立ちと共にドレイクは再び大剣を振り被る、そして男に向かって1度2度と連続で斬りかかった。

ビュン!ヴォン!ヴオ!フォン!ヒャン!

 ドレイクの大剣が風を切る音だけが響く。しかし連続で繰り出した大剣は1度としてかすりもしない。

「くくく!ムダムダァ!」

 ドレイクの攻撃が止んだタイミングで男は長鎗を繰り出してくる。ヒュンヒュン!と音を立てて繰り出される鋭い突きだったが、ドレイクは大剣で弾き、身体を逸らして避ける。

 ドレイクからすれば男の攻撃はそこまで鋭い物では無かったが、それでも攻撃が通用しないのが痛手だった。防戦一方になってしまう。

「チッ!クソ!」

 それでも大剣を振り続けるドレイク。何度も何度も大剣を繰り出すが、それらは一向にかすりもしない。

 そしている間にもドレイクの頭の中にはフリルフレアの状況が映像として流れ込んでいた。映像の中でフリルフレアはローブの男に馬乗りになられ、猿轡をされ、両手を縛り上げられている。多少面倒だと思っていても、一刻も早く助けに行かなくてはならない状態に違いは無かった。正直、焦りが募るばかりだ。

 そしてそんな中ドレイクの大剣と男の長鎗がギイン!と音を立ててぶつかる。そしてそのまま鍔迫り合いの状態になり、フルフェイスに隠れた男の顔を睨み付けた。

「そもそもお前はなんなんだ⁉フリルフレアを捕らえて何をしようとしている⁉」

「フン!ここで死ぬ貴様が知る必要はないだろう。……だが、自分を殺す相手の名前も知らないのは不憫だな」

「何だと?」

「せっかくだ名前くらいは名乗ってやるよ。俺の名はチックジャム・セレド。セレド家に代々伝わる4つの魔法鎧の内、刃避け(アンチブレードメイル)を受け継いだ者だ!」

「刃避け鎧……?」

 チックジャムと名乗った男の言葉に何となく納得するドレイク。恐らくドレイクの大剣が当たらないのはその刃避け鎧とやらの力なのだろう。最も、納得はしたが打開策が見つかった訳では無いのだが……。

 それに、チックジャム・セレドと名乗ったその男の名前が誰かに似ているような気がしたが、それが誰だったのか……?

「イチゴジャム・トースト……なんか聞き覚えがある名前に似ている気が…」

「それは絶対気のせいだろう。勝手に人の名前を朝ごはんにピッタリのイチゴジャムを塗ったトーストにしないでもらおうか」

「え?違ったっけ?」

「貴様……俺をバカにしているのか?チックジャム・セレドだ!」

 思わず怒鳴るチックジャム。しかしドレイクは大剣で長鎗を弾くと、いったん距離を取った。そして顎に手を当てると少し考え込む。だがすぐに顔を上げてチックジャムを睨み付けた。

「チョコジャムだかチックタックだか知らんがそんなことはどうでも良い!」

「よくあるか!貴様俺の名前を侮辱するつもりか!」

「別にそんなつもりは無いが……。やっぱりお前の名前、誰かに似ている気が…」

「フン!当たり前だ、チックチャック・セレドは俺の兄だからな!」

 チックジャムの言葉に思わずポカンとするドレイク。そう言えばと思い出す、死んだチックチャックに名前が良く似ている……いや、姓に関しては同じだった。だが、弟だと言われれば、名前が似ているのにも納得する。

「だが、お前の兄は死んだぞ?」

「クククク……やはり馬鹿だなドレイク・ルフト。兄は…チックチャックは生きているんだよ!」

「何⁉」

 チックジャムの言葉に驚愕の声を上げるドレイク。チックチャックは自分が埋葬しただけにその言葉はにわかには信じられない。

「お前たちが兄上の死体だと思ってたのは、偽装工作を施したオルグという男の死体だ」

「あの死体が、迷惑探偵の死体だと⁉」

 再度驚きの声を上げるドレイク。その様子を楽しそうに見ていたチックジャムだったが、すぐに視線を鋭くすると長鎗を構えた。

「さあ、お喋りはここまでだ。ここで死ぬ貴様にこれ以上語る舌は持たない」

「そうか、なら俺もさっさとここを出てフリルフレアを助けに行かないとな」

 そう言うとドレイクも大剣を構えた。未だに頭にはローブの男に担がれて運ばれているフリルフレアの映像が流れていた。

「シェアアアアアア!」

 チックジャムの連続の突きがドレイクに襲い掛かる。鋭く何度も繰り出される突きをドレイクだ大剣で捌いていった。

「オオオオオオ!」

 反撃に出るドレイク。大剣を何度も振り抜く、上段からの斬り下ろし、横からの薙ぎ払い、斜め上からの袈裟斬り及び逆袈裟、腰溜めからの突き、全てが空を切る。鎧の魔力により、攻撃が全く当たらなかった。

「ククク、無駄だ。刃避け鎧はあらゆる刃を回避する魔法がかかっている。何度斬りつけても当たりはしない。諦めて大人しく死ぬんだな!」

 そう叫びながら長鎗を繰り出すチックジャム。その瞬間ドレイクは紙一重で鎗を避けると、そのまま鎗の間合いの中へと入り込んだ。そしてそのまま左手でチックジャムの右肩を掴んだ。

「なら、これはどうだ!」

 叫んだドレイクは左手でチックジャムを掴んだまま、右手一本で大剣を薙ぎ払った。大剣としても間合いの内側であったが、強引にチックジャムの胴を薙ぎ払う。否、薙ぎ払おうとしてチックジャムの胴の直前で大剣が止まる。見えない壁に阻まれるように大剣の刃は止まっていた。

「グヌヌヌヌヌヌ!」

 しかしドレイクは両手を放さない、チックジャムをしっかりと掴んだまま、右手の大剣を振り抜こうとしていた。

「無駄だ!我が鎧の前ではいかなる刃も意味をなさない!」

「ぬおおおお!これでどうだ!」

 叫んだ瞬間ドレイクの右腕の筋肉が膨れ上がる。そしてそのままじわじわと力を込めていき、そのまま力任せに一気に大剣を振り抜いた。

ガシュッ!

 金属同士がぶつかり、何かが破れる様な音が響いた。それは……ドレイクの大剣がチックジャムの鎧の脇腹の部分を斬り裂いた音だった。

「な、何ぃ⁉バ、バカな!我が最強の刃避け鎧が!」

 思わず驚愕の声を上げるチックジャム。ドレイクの大剣は確かに鎧を斬り裂いた。だが、そこから血が流れていない所を見ると、チックジャム本人には傷を与えられなかったようだ。

「お、おのれ……我が刃避け鎧に傷をつけるとは……許さん!断じて許さんぞ!」

 叫んだ瞬間チックジャムは滅茶苦茶に長鎗を繰り出してきた。自慢の鎧に傷をつけられたことで頭に血が上ったのだろう。長鎗を突き出し、薙ぎ払い、石突で打ち、再び突き出す。

 頭に血が上ったことで滅茶苦茶に攻撃してきたチックジャムの長鎗を大剣で捌いていたドレイク。

「クソ、やっぱり面倒くせぇな!」

 叫んだ瞬間ドレイクは大剣を背中の鞘に納めた。それを見たチックジャムは笑い声をあげる。

「クククク、やっと諦めたか。では大人しく死ね!」

「嫌なこった!」

 次の瞬間ドレイクはチックジャムに一気に接近、そのまま長鎗を掻い潜りながら槍の間合いの内側に入ると、その拳を握りしめ腕を振り上げた。

「何⁉」

「ヌアリャアァァァ!」

ドガン!

 激しい音を立ててドレイクの拳がチックジャムの顔面に叩き込まれる。

「ぐふぇ!」

 妙な悲鳴を上げながらチックジャムの身体が吹き飛んだ。そしてドレイクの拳はチックジャムの被っていたフルフェイスの兜を変形させる程の威力で、さらに兜を弾き飛ばしていた。顔面がひしゃげた兜がカランカランと音を立てて床に落ちる。

 その下から出てきたチックジャムの顔は、ドレイクの知るチックチャックと全く同じ顔だった。

「お前……白騎士野郎と兄弟って、双子だったのか?」

「ぐ……白騎士野郎?……兄上の事か?生憎だが俺と兄上は双子じゃない」

「そんなに瓜二つなくせにか?」

「ああ、そうだ。何故なら俺たちは……四つ子だからな」

「よ、四つ子⁉」

 思わず驚きの声を上げるドレイク。一方のチックジャムは殴られた痛みに顔をしかめていた。

「き、貴様……何と言う拳の威力…」

「ああ、刃避け鎧って言うくらいだから刃物じゃ効率悪そうだったんでな。殴ってみた」

「おのれ……この俺の顔に傷をつけ、我が誇り高きセレド家に代々伝わる我が鎧の兜を破壊した。……万死に値する!」

「そうかよ、生憎とこんな所で死ぬつもりは無いけどな!」

 再び対峙するドレイクとチックジャム。チックジャムは先ほどよりもさらに鋭く何度も鎗を繰り出してくる。ドレイクはそれを紙一重で避けながら一気に肉迫し、拳を振り上げた。そしてそのまま一気に拳を叩き込む。

バキョッ!

「グフッ!」

 金属のひしゃげる音と殿にドレイクの拳がチックジャムの腹に叩き込まれる。鎧にかかった魔法は拳の前には意味をなさないのか、ドレイクの拳はあっさりと鎧をひしゃげさせた。さらにドレイクはそのまま連続で拳を叩き込む。

「オオオオオオオオオオオ!」

ドドドドドドドド!

 激しいドレイクの連打。拳が叩き込まれるたびに、チックジャムの鎧はひしゃげ、折れ曲がり、破壊されていった。

 そして数分の後、ドレイクの前には見るも無残なほど破壊された鎧を纏い、自身もボロボロになったチックジャムが横たわっていた。ピクリとも動かないのでもしかしたら死んだかもしれない。まあ、仮に生きていても手足の骨は砕かれ肋もほぼ全て折られているような状態なので動く事は不可能だろう。

 チックジャムのことは放っておいて、フリルフレアの元へと向かおうとするドレイク。部屋の中にはざっと見た限りでは入り口以外に扉は無い。フリルフレアの所へ向かうにはもと来た道を戻らなければならなかった。

(そう言えば、大岩で塞がれてたんだよな)

 厄介な事実を思い出す。この大岩の罠を仕掛けた人物は相当性格が悪いだろうと思いながらドレイクは部屋を出た。そして通路を塞ぐ大岩に手をかける。

「ヌオオオオオオオオオ!」

 全身に力を込めて大岩を押し返すドレイク。ゆっくりと動き出した大岩を見ながら「このまま地道に押し返すしかないか」と思うドレイク。

 頭の中ではすでにフリルフレアの映像が流れて来なくなっていた。


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