第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第5話、本戦開始!第一試合ドレイク対スコルド その5
第5話その5
「再度言うぞ!この鎧の名は魔ギンジャーZ!アンペイ様より賜りし、無敵の黒鉄の城壁!」
「大事な事だから二度言ったみたいなこと言ってんじゃねえ!そもそもさっきと名前違うじゃねえか!さっきは確か………『みかんキックカルチャーショック』とか言ってたじゃねえか!」
「言っとらんわたわけ!それを言うなら『ギガンティックソルジャーメイル』だ!誰がカルチャーショックだ誰が!カルチャーショックなのは貴様のその記憶力の無さだ馬鹿者!」
「んだとこのヤロウ!」
不毛な言い争いを始めるドレイクとスコルド。だが、スコルドの方は少し得意げにその巨大な鎧を見せつけてくる。
「良いか!良く聞け愚かな蜥蜴男よ!この鎧は『対魔獣用決戦魔導鎧ギガンティックソルジャーメイル』………すなわち魔ギンジャーZ!」
「テメエ……………………『Z』は何処から出てきたんだ、『Z』は⁉」
「フ………………もちろんカッコイイからつけただけだ!」
「アホかテメエ!」
「貴様にアホ扱いされる筋合いはない!」
ギャーギャー喚きあうドレイクとスコルド。しかしそれに対して観客達が「口喧嘩してないでさっさと戦えこのヤロウ!」等とブーブー文句を言い始めていた。
「フッ……どうやら観客達が退屈しているようだな。仕方がない、まずは貴様をさっさと片付けることにしよう」
そう言うとスコルドは魔ギンジャーZとか言う鎧のままズシン、ズシンと音を立てて歩き出す。それに対してドレイクは「チッ」と舌打ちしながらスコルドの前で拳を握りしめて構えを取った。
「馬鹿め!抵抗するだけ無駄だ!………死ぬがいい!」
そう言うとスコルドは一度立ち止まると、拳を振り上げる。
「くらえ鉄拳!マジックパーーーンチ!」
ドカーーン!
スコルドの掛け声とともに先ほどの魔力のこもった鋼鉄の拳が飛んでくる。
「そんなもん二度もくらうか!」
先ほどは意表を突かれてしまったためもろに直撃をくらったドレイクだったが、今はそうではない。しっかりとスコルドの魔力鉄拳を回避する。
「今度はこっちの番だ!」
叫びながら一気にスコルドとの距離を詰めるドレイク。そしてスコルドを叩きのめすべく拳を振り上げ………。
「馬鹿め!これでもくらえ!高火力ビーム!」
スコルドが叫んだ瞬間、スコルドの鎧……魔ギンジャーZの頭部と言うか兜の眼の部分から光が、光線となって撃ち出された。
「おわっ⁉」
突然の攻撃に対し、咄嗟に両腕を交差させて光線を防ぐドレイク。
「……ぐっ…」
その名前の示す通り高い火力を誇るのか、ドレイクの両腕に焼けつく様な痛みが走る。その痛みに思わず呻くドレイク。腕を見てみると、ドレイクのミスリル並みに硬い鱗の表面が少し焦げてはいるが、鱗を貫通したわけではないようだ。魔力による光線が鱗の隙間からドレイクの皮膚を焼いたのだろう。
確かに中々のダメージがあったが、まだまだ戦える。ドレイクは再度スコルドへの接近を試みた。
「おらあああああ!」
今度こそスコルドの懐……零距離まで間合いを詰める。そして再び拳を握りしめ、右腕を引いて力を込め………。
「チャァリャアアアァァァ!」
ドゴン!
ドレイクの拳がスコルドの魔ギンジャーZの腹部に撃ち込まれる。だが………。
「ふははははは!馬鹿か貴様は!何度言わせるつもりだ!この対魔獣用決戦魔導鎧ギガンティックソルジャーメイル…通称魔ギンジャーZはオリハルコン製だ!拳で傷など付けられるものかよ!」
高笑いと共に勝ち誇るスコルド。だがドレイクは当然そんなスコルドの態度が気に食わなかった。
「……そんなもん…」
そのままドレイクは再び拳を握りしめ、力を込める。右の拳を再び後ろに引き、そこに身体の中で練り上げた『氣』を集めていく。そして………。
「俺が知るかぁぁ!」
ダガアァァン!
次の瞬間『氣』を纏ったドレイクの拳がスコルドに撃ち込まれる。
「げぼおぉっ!」
魔ギンジャーZの中でスコルドがカエルの潰れたような声を上げる。なんと、ドレイクの拳が魔ギンジャーZの腹部に撃ち込まれ、その拳が魔ギンジャーZの腹部を破壊していた。
「ば、馬鹿な………オリハルコン製だぞ……」
呻きながら腹部を押さえて膝をつくスコルド。
「まだまだぁ!」
チャンスとばかりに、畳みかけるべく再び拳を握りしめ『氣』を腕に集めるドレイク。そして右腕を引き、上半身に力を込め………。
「図に乗るな!ミストハリケ―ン!」
グオオオオオオオオォォォ!
「おわっ⁉」
スコルドの叫びと共に魔ギンジャーZの頭部……兜部分の口にあたる部分が開き、そこから凄まじい勢いで霧が吐き出された。しかもただの霧ではなく、かなり猛烈な勢いの突風と共に吐き出されたため、渾身の拳を叩き込もうとしていたドレイクは衝撃で押し戻され、それどころか後ろへと吹き飛ばされていった。
「チッ!次から次へと妙な武装を…………何⁉」
吹き飛ばされながらも何とか着地するドレイク。思わず悪態をつくが、それよりも驚愕の事態に思わず声を上げる。なんと、ドレイクの周囲……と言うよりステージ上のほとんどが濃い霧に包まれていたのだ。
『おおっと!これはどうしたことだ⁉スコルド選手の鎧……ええっと、魔ギンジャーZとやらの口から凄まじい勢いの霧が吐き出されたぁ!この濃い霧ではステージの上がほとんど見えない!ステージの上は一体どうなっているのかぁ⁉』
『霧による目眩ましとはなかなか考えましたね。これではドレイク選手はうかつに動けないでしょう。下手に動けばステージから落ちて場外負けになってしまうかもしれませんからね』
『なるほど、これはスコルド選手!再び優位に立ったようです!』
実況と解説がやはり勝手なことを言っている。盛り上げることが彼らの仕事なため仕方がないが、スコルドの反則を全く咎めようともしていない。
「何よあれ!どこまで卑怯な手を使えば気が済むの⁉」
観客席ではフリルフレアがキャーギャー文句を言っているが、会場全体には『面白ければそれでいい』そう言った雰囲気が満ちており、フリルフレアの声に耳を貸す者はほとんどいなかった。




