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第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第4話、イライラローゼリット その5

     第4話その5


「す、すごい!ローゼリットさん、鋼線を使って相手の動きを封じてる!」

「まあ、普段の鋼線だったら拘束なんて面倒なことしないで、相手を括ってバラバラにしてるだろうけどね」

 ステージ上でローゼリットが女剣士に鋼線を絡みつかせて動きを封じているのを見て感嘆の歓声を上げるフリルフレアとスミーシャ。もっともスミーシャの言う通り、これが普段ローゼリットが使っているミスリル製の鋼線だったらならば今頃女剣士はその死体をバラバラに切断されてステージ上が文字通り惨状と化していただろう。その辺りはやはり、殺傷能力のある武器を禁じて試合用の武器を提供した大会運営を賞賛すべきなのだろう。

 とにかく、ステージ上で女剣士の動きを完全に封じたローゼリットが優勢なのは誰の目にも明らかだった。

「でもさフリルちゃん……」

「ん?何ですかスミーシャさん?」

 少し真剣な面持ちのスミーシャの言葉に、フリルフレアも若干気を引き締める。フリルフレアには分からないが、スミーシャから見たら何か気がかりがあったのだろうか?

「ドSなローゼが相手を縛り付けてるって考えると………かなりエロいよね」

「え?…………………いえ、あの……何処もエロくないと思うんですけど……」

「……フェルも…分る…」

「分かるんですか⁉」

 真剣な面持ちのまましょうもないことを言いだしたスミーシャとそれに賛同したフェルフェルに思わずツッコミを入れるフリルフレア。別にエロいとか思わないし、そもそもそんなことを言っている場合では無いと思う。その証拠に、フェルフェルとスミーシャに対してアレイスローが苦笑いしながら若干呆れたような視線を送っていた。

 そして、そんなフリルフレア達がなんかどうでも良いことを言っているころ、ステージ上で女剣士を拘束しているローゼリットに背後から迫る人影があった。

 素早く迫るその人影は……女格闘家だった。短剣の投擲には驚いたが、それでも大したダメージになっている訳では無いので、そのままローゼリットの隙をついて攻撃しようとしているのだった。ローゼリットは女剣士を鋼線で拘束するのに意識を向けているため、女格闘家の動きに気付いた様子はない。さらには、先ほど喉元に短剣での打撃をくらった女鎗使いも復活してきて、長鎗を構えてローゼリットへと向かって行く。双方ローゼリットの斜め後ろから迫ってきており、完全に二人とも背後を取った状態だった。

「やああぁぁぁ!」

「くらえぇぇ!」

 次の瞬間女鎗使いの長鎗と女格闘家の拳の一撃がローゼリットの背中に叩き込まれた。

ヒュンッ!

 いや、叩き込まれたはずだった。

「え⁉」

「な、何⁉」

 攻撃しようとしたローゼリットの背中が突如消えた事に戸惑いの声を上げる女格闘家と女鎗使い。

「そんな殺気丸出しの攻撃をくらってやるほど私も甘くないんでな」

 そんな声が上空から聞こえてくる。二人が上を見上げれば、そこには二人の攻撃を上空に跳ぶことで回避したローゼリットの姿があった。

「……くっ…だが、空中ならば避けられまい!」

 素早く長鎗を引き戻した女鎗使いが、空中でうまく回避できないであろうローゼリットに向かって長鎗を突き出していた。

「そうでもないさ」

 次の瞬間ローゼリットは空中で身体をひねる。女鎗使いの繰り出した長鎗を空中ながら紙一重で回避するローゼリット。

「なっ⁉」

 驚愕の叫び声を上げる女鎗使い。それに対してローゼリットの方はまだまだ余裕の表情をしている。そしてそのままステージ上へ着地するローゼリットだったが、その着地の瞬間を狙って女格闘家がローゼリットへと迫る。

「はぁっ!」

 ローゼリットが着地した瞬間女格闘家の強烈な足払いがローゼリットの着地した左足に襲い掛かる。ちょうど足の先が地面についたその瞬間を狙われたため、さすがのローゼリットも避けきることが出来なかった。

「うわっ!」

 足を払われ盛大に体勢を崩し、その場に倒れ込むローゼリット。その瞬間女格闘家の顔に勝利を確信した笑みが浮かぶ。

「もらったぁ!」

 叫びながら倒れたローゼリットに向かって足を振り下ろす女格闘家。踏みつけると言うよりは踏み砕くとでも言えそうなほど殺気のこもったその一撃はそのままローゼリットの腹部へ叩き込まれた。

「うげっ!」

 カエルの潰れたような声が響く。そしてそれと同時に女鎗使いが長鎗を構えてローゼリットに止めを刺すべく迫ってきて…………。

「…え⁉」

「こ、これは……⁉」

 その瞬間、女鎗使いと女格闘家の困惑した叫びが響き渡る。女格闘家が踏み抜いたもの……、女鎗使いが貫こうとしたもの……、それは………ローゼリットでは無かった。

「う、うぐ………」

 女格闘家の脚を鳩尾にくらって泡を吹いて眼を回していたのは………ローゼリットの鋼線によって動きを封じられた女剣士だった。

「何で……一体どういうことなの⁉」

 味方を攻撃してしまったことに動揺する女格闘家。女鎗使いの方も訳が分からにといった表情をしている。そんな二人に対して、先ほどまで女剣士がいた場所で立ち上がったローゼリットは懐から短剣を取り出すとそのまま呆然としている女鎗使いと女格闘家の無防備な頭部に向かって短剣を投げつけた。

ガッ!ガスッ!

 女鎗使いと女格闘家はその短剣の一撃を頭部にくらって始めてローゼリットが自分たちの攻撃を避けたことに気が付いた様子だった。しかし時すでに遅く、何が起きたのか正確に理解できないまま頭部への衝撃により意識を手離すこととなった。

「ふぅ……あぶないあぶない」

 そんなことを言いながら余裕そうに体の埃を払うローゼリット。

 そんなローゼリットの様子を観客席から見ていたフリルフレア達。フリルフレアは完全に頭の上に?マークを浮かべていた。

「えっと………あれって…ローゼリットさん一体何をしたんですか?」

「あはは………まあ、分かりづらいよね」

 意味が分からないと言った風なフリルフレアに対し、苦笑いするスミーシャ。

「あのねフリルちゃん、ローゼはあの格闘家や鎗使いの攻撃を避けた時、あの剣士を拘束した鋼線をまだ手に持っていたでしょう?」

「え?…あ、はい。そうですね、持ったまま器用にジャンプして……それに空中でも避けてました」

「そう、それでその後あの格闘家の足払いをくらっちゃったんだけど、ローゼはね、あの攻撃も呼んでたの」

「そ、そうなんですか⁉」

「うん、だからジャンプして槍や拳を避けて、そのまま着地するまでずっと剣士を拘束している鋼線をずっと持っていたの。そしてあの足払いをくらった瞬間に……」

「くらった瞬間に?」

「正確に言えばくらったと見せかけて身体をひねりながらその場から飛び退いて、代わりに鋼線を思いっきり引っ張ってあの剣士を自分のいた場所に身代わりとして置いておいたってわけ。もちろんその時にはローゼは入れ替わる様にあの剣士の居た場所に行ってるってわけ」

「えっと………それってつまり…?」

「えっと、何だろう……東の方の国で言うところの……身代わりの術?…的な奴ってことで」

「は、はぁ………」

 スミーシャから説明を受けたが理解が追い付いていない様子のフリルフレア。正直なところまだ頭の上に?マークがいくつも浮かんでいる。そしてその横では自分達は分かっていると言いたげなアレイスローとフェルフェルが何やら「さすがですねローゼリットさん…」とか「……うぇ~い…ローゼ…リット…なかなか…やる……」とか言いながらウンウン頷いていた。


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