第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第4話、イライラローゼリット その4
第4話その4
『おおっと⁉これはどうしたことだ!女性の選手たちが5人集まり、その内の一人を取り囲んでいる!これではまるで私刑を行おうとしているようだ!』
『囲まれているのは先ほどの黒髪ハーフエルフの選手ですね。他の女性選手4人が集まって取り囲んでいます。状況は1対4みたいですね』
『先ほどは3人を相手に圧倒したあの黒髪の選手ですが、今度は不意討ちではなく、相手も警戒しています。どう立ち向かうか……それが見ものです!』
実況と解説のそんな勝手なアナウンスが響き渡る中、ローゼリットは自分を取り囲む4人と対峙していた。ちなみに先ほどローゼリットが踏みつけていた一人は、ローゼリットに踏まれたままの状態で器用に抜刀し、倒れたままの姿勢でローゼリットに攻撃を仕掛けてきた。当然ローゼリットは難なく避けるが、その間に倒れていた選手は立ち上がって、ローゼリットから距離を取っていた。
「あ、あなた……まさかあたし達4人を全員相手にするつもりなの?」
先ほどまでローゼリットに踏まれていた女は長剣を片手に構えながらローゼリットに対してそんなことを言っている。そんな女剣士に対してローゼリットは冷ややかな視線を送っていた。
「いまさら何を言っている?私は最初からお前達全員相手にするつもりだったぞ?」
「くっ………」
全く動じていないローゼリットに気圧されている女剣士。だが、他の女達も意を決したのか武器を構えてローゼリットに向けてきた。
一人は長鎗、少し大柄な一人は戦斧、少し小柄な最後の一人は武器は持たずに拳を構えている。どうやら女鎗使いと女斧使い、そして女格闘家だったようだ。そして女剣士を含めた4人でローゼリットを取り囲む。
「そう………なら仕方がないわ!あたしたちが勝ち残るためにあなたにはここで脱落してもらうから!」
「覚悟してもらうわよ!」
女剣士と女鎗使いの言葉にローゼリットはわずかに笑みを浮かべながら両手に短剣を握りしめて腰を低く落とした。いつでも飛び出せる態勢だ。そして………。
「御託はいい、来ないならこっちから行くぞ!」
ローゼリットはそう叫んだ瞬間地面を蹴って一気に間合いを詰めた。ローゼリットがまず最初の相手に選んだのは………女斧使い。
「くっ!まずは私の相手ってわけかい!………舐めるな!」
女斧使いは叫びながら迫るローゼリットに向かって大上段から戦斧を振り下ろす。ちょうど迫ってきていたローゼリットは正面からその戦斧の一撃を受けてステージに沈んだ………はずだった。
「何⁉」
女斧使いの驚愕の声が響き渡る。振り下ろされた戦斧は完全に空を切っていた。そしてローゼリットを完全に見失った女斧使いは………。
「上よ!」
女剣士の声が響き渡り、女斧使いがハッ!となって上を見上げた瞬間。
ガキッ!
「ガハッ!」
戦斧を振り下ろして無防備になったその頭部にローゼリットの踵落としがキレイに炸裂していた。女斧使いの戦斧の一撃を身軽に高々と跳躍して避けたローゼリットはそのまま落下の速度を利用しながら空中で一回転してその勢いのまま女斧使いの脳天に踵落としを叩き込んだのだ。たまらず倒れ込んだ女斧使い。今の一撃で完全に眼を回している。
「くそっ!それなら!」
「これでどうかしら!」
「はあああああ!」
女斧使いが一撃で気絶したのを見て焦ったのか、女剣士、女鎗使い、女格闘家が一斉にローゼリットに襲い掛かる。だが、ローゼリットは特に焦った様子もなく冷静に対処していた。
まず、武器の間合いの関係から女鎗使いの長鎗が最初にローゼリットに襲い掛かるが、ローゼリットは長槍の穂先を短剣で受け流すと、そのまま長鎗を突き出した姿勢のままだった女鎗使いの懐に潜り込んだ。
「うっ!」
アッサリと間合いの内側に入られ焦る女鎗使い。そして次の瞬間にはローゼリットの短剣が女鎗使いの喉元を直撃していた。
「ゴフッ⁉」
何が起きたのか分からなかったが、とにかく喉元への攻撃をくらった事だけは分かった女鎗使い。だが、喉元を狙ったその一撃はあまりにも的確で、女鎗使いはそのまま激しく咳込んでいる。そしてその隙にローゼリットは次に背後から襲い掛かるであろう長剣や拳の一撃に備える。
まず振り向きざまに両手の短剣を投擲するローゼリット。その短剣は女剣士のすぐ横を通り抜けていく。
「お生憎様!当たらなかったみたいね!」
「そうでもないさ」
「……?」
攻撃が当たらなかったのに余裕の態度を崩さないローゼリットを訝しむ女剣士。だが、そんな疑念もローゼリットを倒してしまえば問題ないことに気が付く。そして女剣士の長剣の一撃が武器を手離したローゼリットに迫り………。
ガッ!
次の瞬間、女剣士の大上段からの長剣の一撃は、ローゼリットに振り下ろされる瞬間何故かローゼリットに届かずに止まってしまう。長剣が振り下ろされた瞬間ローゼリットが女剣士に向かって両手を突き出したのだ。それはまるでその手から発せられる見えない力によって女剣士の攻撃が止められてしまったかのようにも思える。そしてそれと同時に女剣士の背後で「グッ!」と声がする。女剣士が視線だけで振り返れば、先ほどローゼリットの投げた2本の短剣が女格闘家に命中している。さすがに女格闘家も防御していたため大したダメージに放っていないが、それでも女格闘家の脚は十分に止まっていた。
「くっ………この!」
なぜ自分の剣が止められたのか分からなかったが、とにかく焦ったように再び長剣を振り上げようとする女剣士。だが………出来なかった。
「な………身体が…⁉」
驚愕の声を上げる女剣士。そして女剣士はいつの間にか自分の身体中に細い糸の様なものが絡みついていることに気が付いた。
「こ、これは……⁉」
女剣士の驚愕の声にローゼリットはかすかに笑みを浮かべる。よく見れば、突き出されたローゼリットの両手からは細い糸のような物が伸びており、それが女剣士の身体に絡みつき彼女の動きを封じていたのだった。




