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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第5話、暴かれる真実 その1

     第5話、暴かれる真実


     第5話その1


 フリルフレアを担いだオルグは部屋の奥の扉に入り、さらに歩みを進めていた。扉の先は再び通路になっていたが、そこは何か魔法がかかっているのか天井自体から光が発せられていた。

(オルグさん……私をどこへ連れて行くつもりなの?)

 担がれたままオルグの行き先に疑問を感じるフリルフレア。恐らくはこの通路の先に向かっているのだろうが、この先に何があるのかは見当もつかない。

(まあ……行き先が分かっても、この状態じゃ逃げられないんだけど……)

 思わずため息をつきそうになる。両手両足を厳重に縛られ口にはきつい猿轡をされたこの状態では逃げるのは不可能。かといってオルグが拘束を解いてくれるとは思えなかった。

(何とか拘束を解かないと…………そうだ!)

 突如閃いたフリルフレア。担がれたまま身体をモジモジと動かす。

「う~、む~う~…」

 呻き声も上げてみるが、オルグは特に気にした様子もなく歩き続けていた。

「う~う~、むううむ~」

 さらに激しく呻き声をあげて体を動かしてみる。流石に担ぎにくくなったようだったがオルグはフリルフレアを下ろしはしなかった。それでも声はかけてくる。

「何だ?」

「ふ~う~う~」

「どうした?」

「ふ~う~う~!」

 少し激しく呻くフリルフレア。身体をバタバタさせてみたがオルグが手を離す様子は無い。それでも何か感じ取ったのか声はかけて来た。

「もしかしてトイレか?」

「ふんふん」

 激しく頷くフリルフレア。

 ………嘘である。

 この女、トイレだと嘘をつき拘束を解かせてその隙に全速力で飛んで逃げようと画策している。

「漏らして構わん。どうせお前にはあとで身を清めてもらう」

「……………」

 オルグの言葉に開いた口が塞がらないフリルフレア。いや、まあ正確に言えば口は塞がれているのだが……。

(漏らしていいってどういうこと⁉って言うか、もし大きい方だったらどうするつもりだったの⁉)

 思わずはしたない考えが頭に浮かぶが、どちらにしろ作戦は失敗に終わった。一瞬本当に漏らしてやろうかとも考えたが、別段尿意も無いうえに女子としてあまりにもはしたない行為なのでやめておいた。

(………ん?身を清める?)

 先ほどオルグはそう言った。後でフリルフレアの身を清めると……。何のために?

(そう言えばさっき、最後の贄にふさわしいとか何とか……)

 不穏な単語が頭をよぎる。

 『贄』

 どう考えても生贄の事だろう。と言う事はオルグはフリルフレアを何かの生贄に捧げようとしていると考えられた。

(……生贄って……冗談じゃないんだけど!)

 何を持ってフリルフレアを「最後の贄にふさわしい」と感じたのかは分からないが、正直な話、冗談では無かった。人を勝手に生贄に選ぶなどいい迷惑である。

 ………と言うか、迷惑どころの話ではない。生贄=「お前の命貰うよ」と言っているのと同じである。

(……私、なんか最近つくづくついてない気が……。バイル村でも捕まって売り飛ばされそうになったし……)

 単に祭事で使う宝珠を届けに来ただけなのに何故こんな目に合うのかと理不尽さを感じるフリルフレア。行方不明事件の調査をしているアレイスロー達と知り合えたのは良かったが、そのメンバーからも死者が出てしまい、今回の仕事は不幸な事続きだった。正直呪われているのではないかと疑ってしまう。

 だが現状を呪っていても仕方が無いのも事実だった。逃げることが出来ないのならば、頭を巡らせるしかない。

(この神殿が行方不明事件に関係があるって言ってたけど……一体?)

 今は逃げる方法を考えた方が良いのだが、神殿の事が気になっていたのも事実だった。宝珠を届けに来た神殿がどのように行方不明事件に関わっているのか?謎は解ける気配を見せなかった。

(あれ?待って……行方不明って……バイル村?)

 フリルフレアの頭にある考えが浮かんだ。

(そう言えばバイル村では村長さんたちが結託して旅人を捕らえて金品を強奪してたんだよね?その中には低レベルの冒険者もいたらしいし……もしかしてこれが冒険者行方不明事件の真相なんじゃ……)

 バイル村の村長たちが捕らえた旅人たちをその後どうしていたのかは分からないが、少なくとも無事に帰したとは考えにくい。それどころか、命を奪っていた可能性が高い。

(やっぱり!行方不明事件はバイル村の住人が犯人!)

 そこまで考えたところで別の疑問が生じた。

(あれ?でもそれだとこの神殿が関わっているって言うのはどういう事だろう?……あ、それにバイル村の人たちじゃ中堅の冒険者の相手は出来ないよね…行方不明の冒険者には中堅のパーティーも居た筈だし……)

 となると、バイル村の件は無関係なのだろうか?何か引っかかるが、真相が分かる訳では無い、今は推理することしかできなかった。

(あ、でもさっきオルグさん「最後の贄」って言ってたよね。……最後ってことは今までにも生贄がいたってこと?まさかそっちが真相?)

 確かに先ほどのオルグの剣捌きを見れば、中堅冒険者位なら圧倒できるだけの剣技を持っていそうだ。それに仲間がいないとも限らない。

(オルグさんが行方不明事件の真犯人?でもそれなら何で依頼についてきたのかな?)

 正直分からないことだらけだった。だが訊ねてみたところでオルグが正直に話してくれるとは思えない。それにそもそも猿轡のせいで訊ねることもできない。

 そんなことを考えていると、フリルフレアを担いだオルグの足が止まった。担がれたまま視線を送ってみると、正面に扉があった。扉の大きさは先ほどの扉よりもずっと大きい。それにどこか物々しい装飾がされていた。

(大きな扉………もしかしてここで私を生贄に捧げるつもり⁉)

 ヤバいと思いジタバタと暴れるフリルフレア。しかしオルグは特に気にすることも無くしっかりとフリルフレアを担いで押さえ込んでいた。ローブ越しでも分かる筋肉質な腕に押さえ込まれており逃げ出すことは出来そうもない。

(でも……オルグさんってこんなに筋肉質だったっけ?)

 ちょっとした疑問だった。共に山道を歩いていた時にはタキシードを着ていたせいか、あまり筋肉質には見えなかったオルグ。むしろヒョロッとした印象を受けていた。だが目の前のオルグは中肉中背ながらがっしりとしており明らかに戦闘職なのが分かる。

(もしかして……それを隠す為にタキシードを着ていたの?)

 しかし、それならば隠していた理由は一体……?

 フリルフレアがそんな疑問を感じている中、オルグはその巨大で重そうな扉を片手であっさりと開けると中に足を踏み入れた。

 その中は先ほどの部屋よりもずっと広く、部屋の中央付近にはやはり祭壇の様な物があった。そしてその祭壇の後ろには直径10m以上はあろうかという大きな穴が口を開けていた。

 オルグはそのまま祭壇付近に歩み寄ると、そこでフリルフレアを下ろした。

「ふ~、むうぅう、んんん~!」

 少し大きめに呻き声をあげるフリルフレア。いい加減拘束を解いてほしいというアピールだったが、オルグに通じるかどうかは謎だった。

「どうした?苦しいのか?」

 オルグの言葉に、これ幸いとばかりにウンウンと頷くフリルフレア。それを見たオルグはため息をついてしゃがみ込んだ。

「まあ、ここまでくれば多少騒いでも外へは聞こえんだろう」

 そう言うとオルグはフリルフレアの猿轡を外した。残念ながら手足の拘束は解いてくれなかったが……。

「ぷは!…ケホケホッ」

 涙目になりながら咳き込むフリルフレア。それでも気丈にオルグをキッと睨み付ける。

「どうしてこんなことをするんですか?……私をどうする気ですか?」

「さっきも言っただろう。お前は贄になるんだ。そう……最後の贄に…」

「最後の贄って……私を何の生贄にするつもりなんですか⁉」

「決まっているだろう?魔王序列第6位、暴食の魔王ランキラカス様復活のための生贄だよ」

「え?………ランキラカス……?」

 思わぬ名前の登場に呆然と聞き返すフリルフレア。この男は何と言ったのか?自分を魔王復活の生贄にするというのか?

 驚きを隠せないフリルフレアに、オルグは得意げな口調で話し続けた。

「その通りだ。ランキラカス様の復活には魂の依り代となる巨大大喰い(ジャイアントイーター)が必要だ。そしてその巨大大喰い蟲に100日の間に100人の生贄を餌として捧げる。最後に魂の宝珠でランキラカス様の魂を依り代に降臨させれば我らが暴食の魔王は復活を果たす!」

「魔王復活って……そんなことをして一体どうするつもりですか⁉まさか世界征服を企んでいるんですか⁉」

「くくく…世界征服?バカを言うな。世界を治められるのはランキラカス様だ……いや、違うな。世界は全てランキラカス様の糧になるのだ!」

「か、糧?」

 意味が分からないと言った風なフリルフレアに、オルグは低い笑い声をあげる。

「はははは、そうだ。世界の全てはランキラカス様に喰われるのだ。そして地上には何も残らない。暴食の魔王が世界を蹂躙する、これぞ代々ランキラカス様にお仕えしてきた我がセレド家の悲願!」

「そんな……世界を滅ぼす気なんで…………え?…セレド家?」

 オルグの言葉に……否、オルグと思っていた男の言葉に狂気すら感じながら、フリルフレアはそれ以上に衝撃を受けていた。

「あ、あなた……オルグさんじゃないんですか⁉」

 フリルフレアの口から悲鳴の様に高い声で言葉が発せられる。先ほどから感じて板違和感の正体。

「フッ、オルグ……か。まあ確かにそう思わせようとはしていたがな」

 そう言ってオルグを装っていた男は被っているフードごとローブをばさりと脱ぎ捨てた。

 顔にはオルグと同じ仮面。だが、髪は短髪で切りそろえられており、身体は筋肉質だった。

「あ……あ、あなたは……」

 フリルフレアの瞳が驚愕で見開かれる。目の前にその男がいることが信じられなかった。

 なぜならばその男は……死んだはずである。

「くくく……何故俺が生きているのか不思議みたいだな」

 そう言うと男は仮面を外した。

「やはり貴様が全ての黒幕じゃったか」

 その時突如響き渡った声。その声はバレンシアの物だった。

「のうチックチャックよ……」

 扉の陰から怒りの形相をしたバレンシアが薙刀を担いで姿を現した。

「やはりお主がランビーの仇じゃったか!」


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