第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第3話、大戦技大会予選開始 その2
第3話その2
『これより、第30回バレンタイン王国大戦技大会を開始いたします!』
そんなアナウンスが会場であるコロシアムに響き渡り、バレンタイン王国大戦技大会は幕を開けた。
一応開会式の様なものは行われていたが、開会の宣言と大まかなルール説明、そして国王の挨拶などが行われた程度で、意外と早く終わった。仮にも一国の王がこんな野蛮な祭りを見に来るのかと思わなくもなかったが、どうやら国王は毎年観戦に来ているらしかった。もちろん国王の周囲には厳重な警備が敷かれている。また、国王の挨拶の中で今回の大戦技大会が記念すべき第30回目の大会であることから、優勝者は王宮の宝物殿から好きな魔法の品が一つもらえることが分かった。
(いい加減新しい鎧も欲しかったところだし、ちょうど良いのがあったら魔法の鎧ってのもありだな)
開会式の最中、欠伸をしながらそんな事を考えているドレイク。完全に頭の中では優勝した気になっている。そしてそんなドレイクの周囲には腕自慢の屈強な冒険者や傭兵、中には騎士なども混じっていた。
そして開会式も滞りなく終わり、そのまま続けてアナウンスが流れた。どうやら特殊な魔法の道具を使っているらしく、コロシアム内のどこにいてもアナウンスは耳に入ってくる。
『これより、予選を開始いたします!今年は例年よりも参加者が多かったため、予選は4回に分かれて行われます!予選の内容はいたってシンプル!コロシアム内のステージの上で戦い、他の選手をステージの下へ落としてください!落とされた選手は失格!そしてどんな手を使ってでもステージの上に残っていれば予選突破になります!なお、予選の突破人数は合計32名!予選の各試合ではそれぞれ残り8名になるまで戦っていただき、最後にステージの上に残っていた8名がその予選を突破となります!なお、各予選は24人ずつでのバトルロイヤルとなります!』
そんなアナウンスが流れる中、ドレイクはコロシアムに入場した時に配られたカードを見ていた。その紙には『予選A組』と書かれている。
『それではこれより、予選A組の試合を開始いたします!予選A組と書かれたカードをもらった選手24名はコロシアム中央のステージへお集まりください!』
「お、最初か」
響き渡ったアナウンスによりすぐに自分の試合だと知り、思わずニヤリと笑みを浮かべるドレイク。バトルロイヤルだか何だか知らないが、こういうのは手っ取り早く終わらせるに限る。
『なお、鎧の着用は認められておりますが、武器に関してはこちらで用意した刃を潰したものを使用していただきます!ご自分の武器は係りの者に預け、代わりの武器を受け取ってください!』
そんなアナウンスが響き渡ったので、思わずドレイクが前方を見るとコロシアムのステージの横で何やら武器を預かったり、代わりの刃を潰した武器を貸し出したりしている。
ドレイクはそのまま少しキョロキョロ見周りを見回したが、目あての人物を見つけてそこに駆け寄っていった。そこは観客席の最前列でその辺りは出場者の関係者用の特別観客席として開放されている場所だった。もちろんそこも満席だったのだが、その最前列にフリルフレアとスミーシャ、アレイスロー、フェルフェルの4人が座っていたのだ。実は楽しみにしていたらしいアレイスローとスミーシャが寝ぼけまなこのフェルフェルを無理矢理叩き起こして朝早くから席を確保しに来ていたのだ。ちなみにスミーシャ的には本当はローゼリットも一緒に連れてきたかったらしいのだが、ローゼリットはスミーシャよりも早く起きていたらしく、スミーシャが起きた時に「ちょっと出かけてくる」と言って出かけてしまったのでこの場には居なかった。さらに言えば、スミーシャ的にはフリルフレアも一緒に連れて行きたかったらしいのだが、「ドレイクが寝坊したり道に迷ったりするといけないから一緒に会場に行きます」と言われ、キッパリと断られてしまったのだった。
とにかく、アレイスローとスミーシャのおかげで最前列の良い席を確保できたフリルフレア達。ローゼリットの分の席もあるのだがとりあえず今は誰も座っていない。そしてドレイクはそんなフリルフレア達の所へ駆け寄り、背中の大剣を下ろすと………。
「おい、フリルフレア!」
「ん?何?」
「預かっててくれ」
そう言ってドレイクは無造作に鞘ごと大剣をフリルフレアの向かって放り投げた。
「ふえ⁉……わ!あわわわわわ!」
突然放り投げられた大剣が眼前に迫り、慌てるフリルフレア。ワタワタしながらも何とか大剣をキャッチした…………と言うよりはしがみ付いた感じだった。
「ちょっとドレイク!危ないじゃない!」
「わりぃわりぃ!でもお前に預けとくのが一番安心だからよ!」
「え?い、一番安心⁉」
「そうそう」
「そ、そっか~………そ、そりゃ私はドレイクの相棒だもんね!私に預けとくのが一番安心だよね……♪」
どうやら自分に預けるのが一番安心といわれたのがよほど嬉しかったらしい。急に上機嫌になったフリルフレアは「まあ、それじゃ仕方ないわよね♪」とか言いながら鼻歌交じりに大剣を抱えたまま席についた。そんなフリルフレアを見つめるスミーシャ、アレイスロー、フェルフェルの視線。スミーシャはどこか悔しそうに「フリルちゃん!赤蜥蜴の剣なんてその辺に捨てておけばいいのよ!」とか言っているし、アレイスローは苦笑いしている。そしてフェルフェルは半眼の視線のまま、どこか呆れた様なため息をつき、「……ちょろっ…」とかボソッと呟いていた。
そんな視線には全く築かず、フリルフレアはドレイクに向かって手を振った。
「ドレイク!頑張ってね!」
「おう!」
フリルフレアの声援に軽く手を振って応えるドレイク。
「赤蜥蜴!優勝したら賞金山分けよ!」
「ドレイクさん!まずは予選突破ですよ!」
「……うぇ~い……赤…蜥蜴…賞金…で…みんな…で…豪遊…する……」
「え?お、おう……」
スミーシャとアレイスロー、フェルフェルから声援?のようなものを送られ若干戸惑い気味ながらも応えるドレイク。
(なんであいつら俺が賞金もらえたら山分けみたいな雰囲気になってんだ?)
図太いと言うか厚かましいと言うか何と言うか……とにかくドレイクは気にせず、ステージ横で貸し出している代わりの武器を受け取るべく駆け寄っていくのだった。




