第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第2話、お祭り騒ぎの街中で その6
第2話その6
「それで、結局お互いに連帯責任ってことでドレイクが負けたら私も、相手のスコルドって言う騎士が負けたら貴族の息子のアンペイって人も勝った方の命令をきくことになっちゃったんです。まあ、さすがに命を奪うような命令は認められないし、ちゃんと命令に従うかどうか分からないから、公平を期すためにあの聖騎士団長のフォルトさんって人が中立の立場として立ち会うことになったんですけど………」
「なるほどのぅ………随分大変な目に合ったんじゃなフリルの嬢ちゃん」
「ホントですよ。まあ、あのフォルトさん曰く相手のスコルドって騎士じゃまずドレイクには勝てないだろうけどって言ってましたけどね」
「かっかっか!そりゃそうじゃろ。赤蜥蜴相手にまともに戦える騎士なんざそうそうおらんよ」
そう言って白髪交じりの灰色の髪をして長い髭を3本の三つ編みにした恰幅の良いドワーフはカレーライスを頬張ってモグモグと食べてから、エールをグビグビと飲み込んで「ぷは~っ!美味い!」などと叫んでいた。そしてそんなドワーフを見ながらドレイクは面倒くさそうな顔をしながら「うるせ~よ灰色石頭」とぼやいて自分もエールを喉に流し込んでいた。
そう、今ドレイクとフリルが座っている白鳩亭のバーカウンターで一緒に酒を飲んでいるのは、フリルフレアが最初にまともな冒険に行ったときに一緒にパーティーを組んだドレイクの飲み仲間のソロ冒険者、鍛冶と鉄の神である鋼神アルバネメセクトに仕える神官戦士のゴレッド・ガンデルだった。
あえてアンペイに威圧的な態度をしたのが功を奏したのか、フォルトの提案はアンペイとスコルドには受け入れられた。そして、自分の親衛隊長に絶対の信頼を置いているアンペイは「ならば僕たちが勝ったら、お前は僕の屋敷で愛玩奴隷として暮らすんだぞ!」などと鼻息も荒く言っていた。愛玩奴隷などと絶対にイヤなフリルフレアだったがドレイクが「おもしれえ、それなら俺らが勝ったらお前ら鼻からスパゲッティ食べながら逆立ちして街の中一周してもらうぜ!」などと何処かのジャイ〇ンか何かのようなことを言ってしまったため、結局その条件で決定してしまったのだ。正直アンペイとスコルドが鼻からスパゲッティ食べながら逆立ちで街の中を一周してもフリルフレア達には何の得にもならないのだが………決まってしまったものは仕方がなかった。それにその時フォルトがフリルフレアに「心配することは無い。スコルド殿の実力では彼にはまず勝てないよ」と耳打ちしながらドレイクの方を見ていたのでまあ安心だろうと思ったのだ。そしてフォルトが中立の立場として立ち会うことを約束しその場では不問となったのだ。
その後、白鳩亭に帰ってきたドレイクとフリルフレアだったが、何やら店内が騒がしいと思い入ってみれば、中でスミーシャがゴレッドと何やら楽しげに話し込んでいたのだった。
聞いたところによれば、ゴレッドもバレンタイン王国大戦技大会に出場するためにこの街バレスタイルに来たのだと言う。そして、街を歩いている時に偶然アレイスローを見かけ、少し話し込んでからドレイク達が泊まっている白鳩亭へ足を運んだという事だった。ちなみに今ゴレッドが食べているのはスミーシャが白鳩亭のマスターに頼み込んでレシピを教えてもらい、試作したカレーライスである。スミーシャが試作品のカレーライスを作り終えた時に丁度やって来たゴレッドを見てスミーシャが味見を頼んだのだ。味は………まあそれなりに美味しいらしい。
ちなみにゴレッドと会ったというアレイスロー本人は、魔導士ギルドへ行く途中だったらしく、白鳩亭の事をゴレッドに教えた後はそのまま魔導士ギルドへ向かったとのことだった。
「フリルちゃんも大変だったねぇ。ハイこれ、あたしが試作したカレーライス。味見して感想聞かせてねフリルちゃん♡」
そんなことを言いながらスミーシャが試作品のカレーライスをフリルフレアの前に置いた。ちなみに結構山盛りである。どうやらカウンターの奥でカレーライスの用意をしながらフリルフレアの話を聞いていたらしい。
「は、はい……あ、あの……」
スミーシャからカレーライスを受け取り、その量に冷や汗をかいているフリルフレア。かなりの山盛りでフリルフレア的には食べきれる自信が全くない。
「安心しろよフリルフレア、もし余ったら俺が喰ってやる」
眼を輝かせながらそんな事をほざいてくるドレイク。完全にフリルフレアが食べ残したカレーを狙っている眼つきだ。
「って言うか、最初からドレイクが食べればいいのに……」
そう言って山盛りのカレーを一口分スプーンですくうフリルフレア。そもそもこんなおやつの時間に山盛りのカレーなんか食べたら夕飯が食べられなくなってしまう。そう思いながらもとりあえずカレーを一口、口に運ぶフリルフレア。
「モグモグモグ………」
感想を聞かせろと言われた以上ちゃんと味わわなければならない。目を瞑って咀嚼し、舌先に神経を集中させる。さらに、次はカレーのルーだけをスプーンですくい、香りを確認してからルーを口に含み、その味わいを確認する。さらに具材を一つずつ別々に口に含み味を確認してみた。
「え、えっと………あの…フリルちゃん?別にそんな本格的に味を見なくても……あたし的には、ただフリルちゃんがカレーを食べてあたしに向かってニッコリ微笑みながら『カレーライスとっても美味しかったです!スミーシャお姉ちゃん大好き!』って言ってくれるだけで満足なんだけど……」
「いや、結構贅沢な願望入ってなかったか?」
「欲望がダダ洩れじゃな……」
スミーシャがしょうもないことを言っているのでドレイクとゴレッドが思わずツッコミを入れている。しかし当のフリルフレアはそんな三人を無視してカレーライスを五分の一程食べてからスプーンを置いた。そして考え込むように人差し指を顎に当てて虚空を見つめている。そしてそのまま一言。
「……………30点」
「さ、30点⁉」
ボソッと言ったフリルフレアの採点を聞き逃していなかったスミーシャ。思いのほか点数が低かったらしくショックを受けている。
「そ、そんな………そりゃフリルちゃん程料理上手じゃないけど………まさか100点中30点なんて……」
ショックのあまり崩れ落ちるスミーシャ。どうやら本人的には自信作だったらしい。そしてそんなスミーシャを見てフリルフレアは首を横に振った。
「違いますよスミーシャさん」
「え………?」
フリルフレアに違うと言われ思わず呆然としながらフリルフレアを見上げたスミーシャ。
(もしかして………30点満点中の30点だったってこと⁉それなら、あたしのカレーはフリルちゃんに認められて………)
そんな事を考えてわずかに表情が明るくなり、そのまま思考が妄想へと突入しようとするスミーシャ。だが、次の瞬間………。
「何言ってるんですか?1000点満点中30点に決まってるじゃないですか」
「1000点満点中⁉」
どうやら予想以上に評価が低かったらしく、悲鳴のようなスミーシャの声が酒場の中に響き渡った。




