第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第4話、その神殿は何が為 その8
第4話その8
「何もない…かな…」
神殿の周りを半分ほど見て回り、そう呟いたフェルフェル。入り口が3つもあり、かなりの大きさだと感じられた神殿の周りには予想に反して特に何もなかった。
まだ残り半分を見てはいないが、この調子では何かある可能性は低いだろう。もしかしたら他の入り口や管理小屋などがあるかと思って見て回ったのだが、どうやら予想は外れた様だ。
「残りの半分…どうしよう…」
正直サボっても良い気もしてきたが、これでもし見回っていない残り半分に何か重大な物が隠されていたら後で何を言われるか分からない。
(まあ…今のメンバー…は…あんまり…キツイ事…言わない…だろう…けど…)
死んでしまったメンバーや居なくなったメンバーもいるが、今残っているメンバーはなんだかんだ言って気のいいメンバーだと感じていた。
今回の依頼で臨時パーティーを組み、リーダーを買って出てくれたアレイスローは魔導士らしく頭が良く、また意外にも気が利く優等生。バレンシアは少し物言いが古風で偉そうだけど、意外に謙虚で周りの人間を大切にしている。依頼は違うが同行することになったフリルフレアはいかにもなお人好しで、恐らく他人に文句を言うより自分の非を探してしまうタイプだと感じた。フリルフレアの相棒のドレイクだけはズケズケと他人に文句を言いそうな気がしたが、それでも理不尽なことは言わないだろう。
そう考えるとこの依頼の後でこのメンバーでパーティーを組むのも案外悪くないかもしれないと感じていた。
「もっとも…それも…この仕事を…終わらせて…から…」
次の瞬間フェルフェルは腰の後ろに備え付けていたクロスボウを取り出すと素早く矢を装填する。そして木々の一角に向けて狙いを定めた。
バスッ!
瞬時に引き金を引くフェルフェル。弾けるような音と共に矢が撃ち出される。神殿を取り囲む木々の中から何かの気配を感じたフェルフェルはその場所に向かって矢を放ったのだった。
フェルフェルは油断なく次の矢を装填し、木々の中に向けてクロスボウを構えた。そのまましばしの時が流れる。
・・・・・・・・・・。
特に悲鳴なども聞こえず、矢が当たった感触は無い。恐らく外したのだろう。それでもフェルフェルが油断なくクロスボウを構えていると、カシャカシャと金属音の混じった足音が聞こえてきた。
そしてその音の主はすぐにフェルフェルの前に姿を現した。
灰色の全身鎧を身にまとい、フェルフェルが撃った矢を手に持ったその者は、手に持ったその矢を足元に放り投げるとそのまま鋼鉄の鎧を纏うその足で踏み砕いた。
「フェルフェル・ゼリアだな」
「…そう…だけど…誰?」
フルフェイスの兜をかぶっているため顔は分からないが、声からして男だと分かるその灰色の全身鎧を着た人物。自分の名を知っている事に疑問と警戒心を覚えたフェルフェルは、半眼の眼をさらに細めて男を睨み付けた。
「我が名はチ……ボルン。貴様を贄として捕らえに来た者だ」
「…贄?…何?」
贄という言葉に疑問を感じるフェルフェル。贄……恐らく生贄の事だろうが、一体何の生贄だというのか?フェルフェルには全く心当たりが無かった。
「知る必要はない。お前はただ、俺と共に来てその命を贄として差し出せばいい」
ボルンと名乗ったその男はそう言うと、背負っていた武器を取り出した。
その武器は………弓矢。
鋼鉄で作られた強靭で頑丈な弓。腰の矢筒に入っている矢はどれも長く太い。一見しただけでその弓矢の破壊力を想像することが出来る。
………だが。
「射撃戦で…重要なのは…破壊力…じゃなくて…命中精度…と…」
次の瞬間フェルフェルは問答無用で引き金を引いた。バスッ!と音を立てて矢が放たれ、一直線にボルンに向かって飛んでいく。
「射撃速度…だから…」
だが、次の瞬間フェルフェルの放った矢はボルンに当たる直前に減速、そのまま当たることなく地面に落ちた。
「同感だ。もっともそれは……対等な条件での話だがな」
そう言うとボルンは弓を構え矢をつがえる。そして弓の弦をギリギリと引きそのまま矢を放つ。
バシュッ!
激しい音を立てて放たれる矢。フェルフェルは咄嗟に横に飛んで避ける。矢はそのままドォン!という轟音を立てて後ろの木の幹に当たりその幹を半分近く破壊した。その破壊力にゾッとしながらもそのままクロスボウの矢を放つフェルフェル。
バスッ!
再び放たれた矢はまたしてもボルンに当たる直前で減速し、その手前に落下した。
「無駄だ。この鎧は矢避け鎧、クロスボウの矢など当たりはしない」
「…矢避け鎧…?」
ボルンの纏う灰色の全身鎧は魔法の鎧なのだろう。矢が当たらない特殊な魔法がかかっているのは分かる。だが……。
「…あなた…何で…フェルの…所…来たの?」
「話を聞いていなかったのか?お前を贄とするためだ」
「違う…そうじゃ…ない…何で…都合…良く…フェルの…所に…矢が…通じない…人が…来たの?」
フェルフェルの言おうとしている事がいまいち理解できていないのか、黙っているボルン。
「例えば…あなたの鎧…きっと…避けるの…矢だけ」
「確かに、そうだが?」
「何で…最初に…フェルの…所に…来れたの?…アレイでも…バレンシアでも…なく」
「ああ、そう言う事か」
フェルフェルの言おうとしている事がやっと理解できたボルン。
「つまり君はこう言いたいわけか?何故、矢の効かない私が都合良く自分の所へ来たのか?と…」
ボルンの言葉に頷くフェルフェル。それを見たボルンは初めて笑い声をあげた。
「クククク、まあ疑問に思うのも無理はないか。何故都合よく自分たちが分散したところを狙えたかも謎だろうからな」
そう言うとボルンは再び弓を構えて矢をつがえた。
「簡単な話だ。お前たちの行動は我々によって監視されていたのだよ。身近な所からな」
そう言うとボルンは再び矢を放った。




