第7章 赤蜥蜴と赤羽根と大戦技大会 第1話、カレーを食べよう その2
第1話その2
「人気ってわりには結構すいてねえ?」
ドレイクのツッコミに、「ふむ」と思わず顎に手をあてるアレイスロー。
「そうなんですよね。私も白鳩亭は激辛カレーで人気だから年中混んでいると思っていたんですよ。実を言いますとだから最初ここがカレーで有名な宿だって気が付かなかったんです」
「なるほど」
アレイスローの説明に一応納得するドレイク。しかし、だとするとなぜこんなに客がいないのか気になってくるというものだ。
「でも何でこんなにお客さんがいないんでしょうね?」
ドレイクと同じことが気になったのか、フリルフレアが疑問を口にする。そしてそれは全員の共通の疑問でもあったようだった。思わず皆が好き勝手なことを口にし始める。
「……実は…辛い…だけで…マズかった…とか……」
「いえ、私の聞いた話では味もかなり美味しかったと聞いています」
フェルフェルの意見はアレイスローによってキッパリと否定された。
「シェフが代わって味が落ちたんじゃない?」
「ここのカレーは完全にレシピ化されているらしいので……人が代わっても味はそれほど変わらないと聞き及んでいますね」
「そうなんだ…」
スミーシャの意見もアレイスローによって否定される。
「も、もしかして………そのカレーライスが辛すぎて人が死んじゃったとか!」
「それだったら今頃この宿は潰れていますよ。アホですねぇ」
「ガーーン!……アホって言われた………」
フリルフレアはしょうもないことを言った挙句、キッパリと否定された上にアホ扱いされ思わず落ち込んでいる。
「しかしそれなら何故こんなに客が居ないんだ?」
「街ん中も活気だってて冒険者だって沢山いたよな?」
どうしてなのかよく分からないと言った風なローゼリットとドレイク。アレイスローも「そうなんですよねぇ」とか言いながら頭をひねっていた。
その時、一人の男がドレイク達のテーブルへと近づいてきた。白鳩亭の主人兼一階の食堂兼酒場のマスターだった。
「ご注文はお決まりかね?」
「そうだな……ま、とりあえずはエールだろ」
「ミイィィ……リンゴジュースください」
「私は…葡萄酒を頼む、赤で」
「あたしははちみつ酒!」
「私はいつも通り白の葡萄酒にしておきましょう」
「…フェルは…リンゴの…お酒…」
思い思いに飲み物を注文するドレイク達に「あいよ」と答えながら注文をメモするマスター。
「料理は……私はせっかくだからカレーライスとやらにしてみよう」
「あ、あたしも!」
ローゼリットがカレーを注文し、スミーシャも「はい!はい!」と手を上げている。
「はいよ、カレーライス2個ね。辛さはどうするんだい?」
「「とりあえず普通の辛さで」」
「あいよ」
ローゼリットとスミーシャの声がハモる中、マスターは注文をメモしていく。
「他にご注文は?」
「ええっと……それでは私は………シーフードカレーにしましょう!辛さは………8で!」
「はいよ、シーフード………って、おいおい、いきなり辛さ8なんて大丈夫かい?お前さんエルフだろう?薄味が好みじゃないのかい?」
「いえ、エルフの全てが薄味好みじゃないですからね。それに私、今辛い料理にはまっているので!」
「そうかい?……まあ、辛すぎて喰えなくてもお代はもらうから良いんだが……」
ノリノリで激辛シーフードカレーを注文したアレイスローにマスターは思わず呆れていた。
「……フェルは…ビーフ…カレーに…する…辛さ…5で……」
「はいよ、辛さ5ね。………辛さ5でも結構辛いけどお嬢ちゃん大丈夫かい?」
「……フェルに…死角は…ない…大…丈夫……ふへへへ……」
フェルフェルもかなりの辛さで注文しており、マスターに思わず心配されていた。しかしそれに対してフェルフェルはいつも通りの眠そうな半眼のまま不敵な………というよりは若干キモい笑みを浮かべていた。
ちなみに今更だが、ローゼリット達の頼んだ普通の辛さは辛さ3にあたり、数字が上がっていくほど辛くなる。逆に辛さ2と1はだんだんと辛味の薄い甘口カレーになっていく。
「う~ん……どうしよう……私辛いの苦手なんだよね……」
「なら別のもんたのみゃ良いじゃねえか」
何やら悩んでいるフリルフレアにジト目で突っ込むドレイク。しかしフリルフレアはそんなドレイクに対して不満そうに頬を膨らませている。
「せっかく珍しい料理なんだから食べてみたいじゃない」
「辛さなしにしときゃ良いんじゃねえか?」
「でもせっかくスパイシーな料理なんだから辛いの食べてみたいじゃない」
「………んじゃ、好きにしろよ……」
優柔不断なフリルフレアに呆れたドレイクは気にしないことにして自分の注文を決めるためにメニューに視線を落とした。そんな中「う~ん……どうしよう…」とか悩み続けているフリルフレア。
その時……。
「それなら、辛さを1にすれば少し辛いくらいだから辛い物が苦手な人でも食べられるくらいだが……どうするかね?」
「そうなんですか?それじゃ私辛さ1で……」
マスターの出してきた助け舟に便乗するフリルフレア。さらに………。
「もしそれでもだめそうなら辛味を押さえられるようなものをトッピングするのもありだ。例えばチーズとか蜂蜜とか……あと卵なんかもありだな」
「卵⁉」
マスターの言葉にフリルフレアの瞳がピュピーン!と輝く。
「あの……すいませんマスター、もしかして半熟ふわトロのオムレツをライスの上にのせてその上からカレーをかけてもらう事って出来ますか⁉」
「おや?お嬢ちゃん、もしかしてオムカレーを知っているのかい?」
「オムカレー?」
「ああ、オムライス……ライスの上にオムレツを被せた物に更にカレーをかけた物なんだが………」
「知らなかったですけどそれ出来ますか⁉」
「ああ、出来るよ」
「辛さ1でオムカレーお願いします!」
「あいよ、オムカレーね。元気なお嬢ちゃんだねえ」
オムカレー………オムライスにカレーをかけた物と聞いて卵好きのフリルフレアが黙っている訳がなかった。嬉々として注文するフリルフレアにマスターはどこか嬉しそうに笑っていた。どうやらマスターはフリルフレアを冒険者パーティーのメンバーではなく付き人の様なもので子供と思っているらしくどこか微笑まく思っているようだった。
「リザードマンの兄さん、あんたはどうするんだい?」
「そうだな……んじゃとりあえず、全種類辛さ普通で」
「は?」
ドレイクの雑な注文に、頭の上に?マークを浮かべるマスター。
「いや、だからとりあえず全種類、カレーライスとチキンカレーとビーフカレーとシーフードカレーと野菜カレー。全部辛さは普通で良いや」
「いや、5皿って………いくらお題はもらうって言っても、さすがに残すのを前提で注文されるのはちょっと……」
「え?残す?何を?」
「いや、だって……5種類全部味見したいからこういう注文にしたんだろう?」
「味見?何のことだ?」
「え?」
ドレイクとマスターの話がどこかかみ合っていない。思わず苦笑いするローゼリット達だったが、そんな中フリルフレアが助け舟を出した。
「あのマスター、ドレイクはすごくたくさん食べる人なんで、5皿くらいペロッと食べちゃいますよ」
「ええ⁉………いや、でも5皿だよ?そのリザードマンの兄さんそんなに食べられるのかい?」
フリルフレアの言葉にもっともな疑問を返すマスター。だが、当のドレイクはケロッとした顔で「ああ、喰えるぜ」とか言っている。
「そ、そうなのかい?………まあ、分かったよ。ただし、誰が食べても構わないから残さないで全部食べておくれよ。一人で無茶な量を注文したんだからそれくらいは守ってもらうよ。残したらお代は倍もらうからね」
「オッケー」
マスターの若干懐疑的な言葉にも余裕の表情で応えるドレイク。ドレイクのせいでやけに注文の増えたマスターは「ホントに大丈夫なのかね?」とドレイクの方を疑う様に見ながらカウンターの中へと消えていった。




