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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第4話、その神殿は何が為 その2

     第4話その2


「ランビー……何故じゃ……」

 膝から崩れ落ちるバレンシア。もう動く事のない弟分の亡骸を抱きしめひたすら涙を流していた。

 ランビーの遺体を発見したドレイクとフリルフレアはすぐさまバレンシア達にそのことを伝えに行った。そしてランビーの遺体を見たバレンシアはショックのあまり崩れ落ち、ランビーの亡骸を抱きしめたのだった。

「何故……何故…こんなことに……」

「バレンシアさん……」

 涙を流し続けるバレンシアに声をかけようとするフリルフレア。だがそんなフリルフレアの肩をドレイクがそっと押さえる。見上げるフリルフレアにドレイクは黙って首を横に振った。「今はそっとしておいた方が良い」そう言う事なのだろう。

 また、アレイスローとフェルフェルも衝撃を受けていた様だった。こうも立て続けに仲間が死んでは平静を保つことなどできないだろう。アレイスローは地面に座り込み項垂れていた。フェルフェルも表情こそ変えていないがランビーの亡骸をじっと見つめている。その拳は固く握られプルプルと震えていた。

「…ランビー…誰が…こんなこと…」

「分かりません……」

 フェルフェルの言葉に力なく首を振るアレイスロー。いくら臨時のパーティーとはいえ2人も死人が出ているなど、何か呪いの様なものをかけられているのではないかと疑ってしまう。それでも意を決すると、アレイスローはバレンシアに近寄った。

「バレンシアさん………その、言い辛いのですが……」

「分かっておる……ランビーの遺体を調べたいのじゃろう?」

「……はい」

 バレンシアは涙を拭こうともしなかったが、ランビーの亡骸を横たえるとアレイスローに場所を譲った。

「弐号、何する気だ?」

「ランビーさんの死因を特定させます。それが分かれば誰に殺されたか分かるかもしれません」

 アレイスローの言葉に「なるほど」と納得するドレイク。しかしドレイクも平静を装ってはいたがその握りしめた拳からは血が滲んでいた。

 そしてアレイスローはランビーの遺体から服を脱がせると、身体全体を調べ始めた。

「傷は……胸の刺し傷だけのようですね」

「胸の傷だけ?」

 口を挟んできたドレイクに、アレイスローはしっかりと頷いた。

「しかも明らかに人の手で作られた刃物による刺し傷……いや致命傷。恐らく武器は剣か槍でしょう。しかも犯人はかなりの手練れです」

「手練れ……ですか?」

 フリルフレアの疑問にしっかりと頷くアレイスロー。

「はい、間違いありません。恐らく後ろからの攻撃、不意打ちだったのだと考えられますが、それでも正確に一撃で急所を貫いてます」

「つまり、ランビーはここで何かをしているところで不意打ちを受け……殺されたと…」

 辛そうのそう言うバレンシアに頷くアレイスロー。

「ここで何をしていたのかは分かりませんが、恐らく……ん?」

 ランビーの遺体を調べていたアレイスローが何かに気が付いた様子だった。

「どうした弐号?」

「いえ、それが……口の中にこんなものが…」

 アレイスローがそう言ってランビーの口から取り出したのは小さな石だった。ランビーの口の中で血で赤く染まったその小石だったが、本来は白い石だと言う事が分かる。

 なぜ小石が口の中に入っていたのか分からず頭をひねるアレイスロー。しかしバレンシアは震える手でその小石をつまみ上げた。

「この……この白い小石が……口の中に入っておったのか?」

「はい、そうですが………何かご存知なんですか?」

 アレイスローの問いにバレンシアは答えず小石を握りしめて黙り込んでしまった。そして涙を拭うと、小石を握りしめた拳を震わせながらただ一言「何と言う事じゃ」と呟いた。

 バレンシアの様子に小石に何か意味がありそうな気がしたドレイクは彼女に小石の意味を問おうとしたが、やめておいた。もしかしたらランビーを殺した犯人に繋がる手掛かりかも知れなかったが、それを見つけるのは自分では無くバレンシアの役目だと思った。それにもし自分たちに知らせるべきことならばバレンシアはちゃんと自分たちに小石の意味を教えるだろう。それを言わないと言う事は彼女なりに考えがあるのだと思った。

「でも……ランビーさん、ここで何をしていたんでしょう……?」

 フリルフレアの疑問に答えたのは意外にもフェルフェルだった。彼女はその手に折りたたみ式のスコップを持っていた。

「これ…そこに…落ちてた…ランビー…これで…チックチャックの…遺体…掘り起こしてた?」

「恐らくそうでしょうね。なぜ彼がそんなことをしていたのかは分かりませんが……」

 フェルフェルの言葉に頷くアレイスロー。そしてスコップを受け取りバレンシアに見せた。

「ランビーさんの物ですね?」

「ああ、そうじゃ。ランビーの盗賊ツールに入っておったスコップじゃ」

 そう言って頷くバレンシア。するとドレイクが手を伸ばしてスコップを取った。

「ならとりあえず、コソ泥が何のために死体を掘り起こそうとしていたのか調べようぜ」

 そう言うとスコップを伸ばし、チックチャックの遺体を掘り返し始める。

「ドレイク殿……穴をもう一つ……良いか?」

「……分かってる」

「………すまぬ」

 バレンシアに頼まれるまでも無く、チックチャックの遺体を掘り起こしたらランビーも一緒に埋葬するつもりだったドレイク。一度は寝食を共にした者をこの手で埋葬しなければいけない事実に思わず顔が歪む。だが今はせめて二人の冥福を祈り、ランビーを殺した犯人を捕まえて仇を討つしかなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・

 しばし無言の時が過ぎる。ドレイクの穴を掘るザッザッという音だけが響いていた。チックチャックの遺体はそれほど深い穴に埋葬した訳では無いのですぐにその一部が姿を現した。

「よし、もう少しだな」

「助かりますよ、ドレイクさん」

 アレイスローがそう言った瞬間だった。

ボゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!ボガン!

 突然後方で響いた轟音に振り替えるドレイク達。そこには全長5メートル以上はある牙の生えた大きなミミズの化け物がいた。突然現れた様に見えたが、恐らく地面の中を通ってきたのだろう。その大きな口を開けてこちらを威嚇していた。

「マンイーター⁉何故こんな所に⁉」

 アレイスローが驚きの声を上げる。そこにいたのは以前ブレインイーターと共に襲ってきた人を喰うミミズの魔物マンイーターだった。

「キシャアアアアア!」

 奇声を上げながらマンイーターがドレイク達の方へと突っ込んでくる。

「チッ!」

 舌打ちしながらスコップを放り出し、マンイーターの突進を避けるドレイク。アレイスローも同様に避けていたが、マンイーターは構わず突っ込んでいった。

「な、何なの、一体⁉」

 フリルフレアが不安の声を上げる中、マンイーターはその大きな口を開くと、足元に空いているその穴に顔を突っ込んだ。その穴とは………ドレイクが先ほどまで掘り返していたチックチャックを埋葬した穴だった。

 穴に顔を突っ込むというよりは、穴ごと口の中に放り込むといった感じだったマンイーター。再び頭を上げた時、その口には物言わぬチックチャックの遺体が咥えられていた。

「いけません!チックチャックさんの遺体が!」

 アレイスローの叫びも空しく、チックチャックの身体はマンイーターの鋭い牙によりあっさりと喰い千切られてしまった。そして地面に落下する下半身。マンイーターはチックチャックの上半身を口の中で咀嚼してしまう。

バリ!ゴキ!ゴリ!グギャ!

 人間の身体を咀嚼するという悪趣味な音があたりに響き渡る。

「やだ……うそ…」

 フリルフレアが青い顔をして呟く。いくら遺体とはいえ共に行動していた仲間の身体が喰い千切られる現場を見れば青ざめもするだろう。それに対しフェルフェルは無表情なまま背中のクロスボウを取り出すと素早く矢筒の矢を装填し、躊躇うことなくマンイーターを撃った。バスッ!と音を立ててクロスボウの矢がマンイーターに突き刺さる。

「これ以上…は…やらせない…」

「その通りじゃ!」

 フェルフェルに続くようにバレンシアが薙刀を振りかざしマンイーターに肉迫する。

「ランビーの遺体まではやらせぬぞ!」

 叫び薙刀を振り下ろすバレンシア。ランビーの命を守れなかった分、せめて遺体だけは綺麗なまま埋葬してやりたいというバレンシアの思いが感じられた。

「ドレイクさん!」

「おお!」

 杖の先に精神を集中させ魔法の準備に入るアレイスローに、大剣を抜き放つドレイク。ドレイクも一気にマンイーターに近づいた。

「チェアリャァァァァ!」

 次の瞬間ドレイクの大剣が唸り、マンイーターに斬りかかる。ドレイクの大剣がマンイーターの身体に深々と食い込んだ。

「ライトニングジャベリン!」

 次いでアレイスローの魔法が炸裂する。ズガガガーーン!と轟音を立てて雷の槍がマンイーターを貫いた。

「これで止めじゃ!」

 叫びと共にバレンシアが高々と跳躍する。

「せいやー!」

 そのまま薙刀を逆さに持ち、刃でマンイーターの頭を貫くバレンシア。ザクッ!と音を立てて薙刀がマンイーターの頭部に刺し込まれる。

「キシェェェェェ!」

 奇声を上げながらバタバタと暴れ回るマンイーター。だが、それもすぐに大人しくなり地面に倒れ込んだ。すぐに砂の様に崩れ去っていく。

「な、何で……何でこんな魔物が突然……」

「分からぬ…」

 フリルフレアの言葉に首を横に振るしかないバレンシア。なぜ突然マンイーターが現れたのか?偶然にしては確かにタイミングが良すぎるきがしたが、だからと言って理由が分かる訳では無かった。

 どちらにしろチックチャックの遺体はあまりに損傷が激しくなりすぎて、これでは調べ様が無かった。これでランビーが何を調べようとしていたのかは分からなくなってしまった。

「バレンシア…どうする?」

「ドレイク殿……致し方あるまい。ランビーの遺体はここに埋葬しておくことにする」

「良いのか?」

「良いも悪いも無い。……まさかこのまま連れて行くわけにもいくまい」

 寂しそうにそう呟くバレンシア。そして一行はそのまま残ったチックチャックの下半身と、ランビーの遺体を埋葬し、山頂近くにあるという神殿を目指して進んでいった。


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