第6章 赤蜥蜴と赤羽根と過去の絆 第5話、遺跡の中で待ち受けるモノ その9
第5話その9
フリルフレアとエクレアは落下した遺跡の地下を歩き回っていた。エクレアが魔法で生み出した光球に照らされた通路を歩き続けてすでに一時間以上経過している。だが、遺跡の地下は相変わらず真っ暗で、落下した場所と同じような光景しかフリルフレアの眼に映ることは無かった。
「ミイィィィ………ずっと同じような場所しか見当たりません……」
「そうですねぇ……確かに変わり映えはしませんねぇ…」
フリルフレアの言葉にエクレアも「うんざりした」と言わんばかりにため息をついている。
遺跡の地下はかなり広い空間になっているようだった。辺りは広い空間になっているが、時々通路があり、また次の広い空間に繋がっている……そんな感じだった。それに通路らしき場所は天井までの高さはせいぜい3m程だったが、広い空間の天井までの距離は10m以上ありそうだった。そしておそらくその天井の上にも通路や空間が広がっているのだと思われた。
「…ミイィィ……あの、エクレアさん………ここってこの遺跡のどの辺りなんでしょうか……」
フリルフレアが不安そうにエクレアの法衣の裾を掴みながらそんな事を訊いている。エクレアは「そうですねぇ……」とか言いながら頭の中で遺跡の内部の地図を思い浮かべてみた。残念ながら遺跡の内部の地図もルーベルが持っているため今の場所と照らし合わせて現在地を探ることは出来ないが、それでも大まかな場所の予想は出来そうな気がする。
そしてそれによってエクレアが導き出した結論は………。
「恐らくですけど……ここ、遺跡の最下層じゃないですかね?」
「さ、最下層⁉」
「はい」
最下層と聞いて驚きの声を上げるフリルフレアと、事も無げに頷くエクレア。だがフリルフレアはビビっているのか足をガクガクさせながらエクレアにしがみ付いてきた。
「ど、どうしたんですか?急に…」
急にしがみ付いてきたフリルフレアに驚くエクレア。だがフリルフレアの方はそれどころではない様子だった。足の震えだけでなく既に半ベソかいている。
「さ、最下層ってことは………つまり今地震が起きたら私たち生き埋めになっちゃうってことですよね⁉」
「え?………いや、まあ…そうですけど……………あなた結構嫌なこと言いますね…」
本気でそんなことにビビっているフリルフレアの事を思わずジト目で見てしまうエクレア。条件反射でツッコミを入れてしまったとはいえ、少しばかり素が出てしまい誤魔化すように「……オホン」と咳払いしている。
「大丈夫ですよ。この手の遺跡はなんだかんだ結構頑丈に作られているモノなのです。ちょっとやそっとの地震で崩れたりはしませんよ」
素が出たのを誤魔化すためと、不安がっているフリルフレアを一応落ち着かせるために諭すエクレア。しかしフリルフレアはまだ半ベソかいている。
「でも………この遺跡ボロボロじゃないですか………天井もここまで穴空いてたし………」
「いや……まあそうですけど……」
フリルフレアのツッコミに思わず言葉が返せないエクレア。
(なんだか面倒くさい子ですねぇ………)
フリルフレアの想像力と言うか……妄想力と言うか…とにかく、正直に言って面倒くさいことを言っているフリルフレアに対して若干苛立ちながらもエクレアはそれを何とか表に出さずに済んでいた。
「それでも大丈夫ですよ。いざとなったらわたくしの魔法があります。フリルフレアさん、あなたの身の安全はわたくしが必ず守りますのでご安心ください」
「ほ、本当ですか………?」
「もちろんです。何も心配はいりませんよ」
エクレアはそう言うとフリルフレアに向けてウィンクして見せた。余裕ぶって見せることでフリルフレアの不安を取り除こうとしているのだ。
一方のフリルフレアは、まだどこか胡散臭そうなものを見るような眼でエクレアを見ていたが、それでも一応は納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
それからしばらくは何も言わず黙って歩き続けていたフリルフレアとエクレア。何ヶ所か通路のような所と広い空間を通り抜けた後に、ひときわ大きな空間に辿り着いていた。
「……………わぁ………広い…」
そのひときわ広い空間の広さに思わず呆然としながら天井を見上げるフリルフレア。残念ながら天井までは光が届いておらず、暗闇が広がるばかりだ。恐らく地上のすぐ下までこの空間は広がっているのだと考えられた。
「………………」
「あ、待ってくださいエクレアさん」
その広い空間に出てからはとりあえず空間の中心を目指して歩いていくエクレア。何か考え事をしているのか黙ったままスタスタと歩いていくエクレアについて行くフリルフレア。エクレアは心なしか急いでいるようにも見えるが、フリルフレアは特に気にもせずにエクレアの後をついて行った。
そしてその広い部屋の奥には………何か祭壇の様なものが設置されており、その祭壇の上には巨大な石像が立っていた。
「……ふわぁ……………大きい……」
その巨大な石像を見上げて思わず感嘆の声を漏らすフリルフレア。なにせ石像の大きさはかなりのものだ。石像の頭の部分は天井近くにあるのか、エクレアの光球の光の届く範囲にはなく、どんな頭をしているのかよく見えない。だが………それ以外の部分は蛇の様な下半身と筋肉質なヒューマンの女性の上半身をしていることが分かる。さらに背中からは蝙蝠の様な翼が生えているのが見えた。
「……す、すごい………」
その大きさと迫力にビビっているのか、思わず数歩後退るフリルフレア。何の神を祀っている祭壇だかは知らなかったが、どことなくその石像からは何か邪悪な雰囲気を感じ取ることが出来た。
「こ……怖い…ですね、エクレアさん…」
フリルフレアが不安げにそんなことを言っているが、エクレアの方は特にその言葉に応えることなく………と言うか、完全にシカトして、光球を操作し、祭壇の一角にあった何かの装置らしきものに光球を入れる。
パアァァァッ。
「え?え⁉………な、何これ………すごい…」
何が起きたのか一瞬分からずパニクるフリルフレア。エクレアが光球を操作し、装置の中に入れた瞬間、この地下の広い部屋が一気に明るくなったのだ。どうやら、魔法の光球をその魔導装置に入れると装置が動き出し、この部屋全体に設置された無数の魔力灯が起動する仕組みになっていた様だった。その結果この部屋全体を見渡すことが出来るほど明るくなったのだ。フリルフレアは部屋の明るさに驚愕しているようだったが、操作していた当のエクレアは特に感激した様子もなく淡々と作業をしていたように見えた。
意外と反応がドライなエクレアに疑問を覚えつつも、それ以上に明るくなったこの大きな部屋がどうなっているのか気になるフリルフレア。キョロキョロと周りを見回していたフリルフレアだったが、奥の祭壇の上の石像の顔を見た瞬間にその動きが固まっていた。
「ヒッ!………」
思わず小さな悲鳴を上げるフリルフレア。その石像の顔は………おぞましいものだった。
確かにヒューマンの女の顔なのだが、その表情が狂気と怒りの形相になっており、口は耳元まで裂け、頭髪の代わりに蛇の頭が無数に生えていた。
その姿はまるで………。
「な、何なのこれ………」
顔を青くさせながらそう呟くフリルフレア。その石像はまるで今にも動き出しそうな悪魔の姿を形作っていた。遺跡の最奥で待ち構えていたのは巨大な悪魔を模した石像だったのだった。




