第6章 赤蜥蜴と赤羽根と過去の絆 第5話、遺跡の中で待ち受けるモノ その6
第5話その6
「ん………うんん……」
小さく呻き声を上げながらフリルフレアは目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。
「………あれ?ここは……………?」
呆然と辺りを見回しながらそんなことを言っているフリルフレア。正直、周囲はかなり薄暗く、一体ここがどこなのか見当もつかない。
「……あ、そう言えば私……縛られてない?」
そう言いながら自分の身体を見回すフリルフレア。確かに彼女の身体はもう縛られていない。もちろん猿轡もされていない。それどころか布の様な物が敷かれていてそれの上に寝かされている状態だった。
「?????????」
今がどういう状況なのか全く分からない。
(えっと…………確かおじちゃんが地面をガンガン踏みつけて……それで地割れが起きて………………………って、地割れ⁉おじちゃんが踏んだだけで⁉)
覚えている限りの事を確認したところでその事態の異常さに気が付くフリルフレア。普通リザードマンだろうがドワーフだろうが地団太踏んだだけで地面を割ったりしない………と言うか出来ないはずだ。しかしそれをやってのけたドレイクという存在に対して感心を通り越して呆れてくる。
(あのおじちゃんどういう筋肉してるのかしら?……………って言うか、それのせいで地割れに巻き込まれたはずだよね……)
改めて周囲を見回すフリルフレア。辺りが薄暗く、ほぼ光が差し込んでいないのに辺りをある程度確認できる程度の光がある事を疑問に思ったフリルフレア。だが、その疑問の答えはすぐに解消された。フリルフレアの近くにランタンが置かれていたのだ。火の大きさを絞っているのであまり周囲までは見渡せないが、それでもフリルフレアの周りくらいは見渡せる。
「ランタン………それにこの布…」
改めて自分の下に敷いている布を確認するフリルフレア。恐らくマントの類だという事は分かる。しかし、当然フリルフレア自身はこんなマントを敷いた覚えも、ランタンを付けた覚えもない。というか正直地割れに巻き込まれて落下している間に気を失っていたのでここがどこなのか全く分からない。ただ、地割れによって落下したので恐らくは遺跡が地下へと広がっていてその中へ落ちたのだろうと思った。ただ、遺跡がどれほどの大きさなのかは全く分からない。光の届く範囲に天井は見当たらず、どれほどの距離を落下してきたのかは見当もつかなかった。
(でも……私の縄を解いて…ここに寝かせてくれた人が居るんだよね…)
そうは思ったが、光の届く範囲にそれらしい人影はいない。
(誰だろう?……おじちゃんかな?)
とりあえずドレイクの顔が思い浮かぶ。落下する前の状況で盗賊達に囚われていなかったのはドレイクだけだ。だが、フリルフレアの居た場所とドレイクの居た場所は少し離れていた。はたして同じ場所に落ちているかどうか疑問が残る。
(それともルーベルさん?でもルーベルさん縛られていたし……)
そうなるとルーベルの仲間の神官の少女…エクレアと言っただろうか?彼女だろうかとも思ったが、エクレアもかなり離れた位置にいたことを思い出した。それにエクレアも落下の直前には盗賊達に取り押さえられていたはずだ。しかし、だからと言って盗賊達がわざわざ自分の縄を解いて布の上に寝かせてくれたとも考えにくい。
(それじゃ……一体誰が…?)
不安に思いつつも改めて辺りに視線を送るフリルフレア。と、その時……。
コツコツコツ…。
何か足音の様な物が聞こえてきた。
(もしかして、私を助けてくれた人が戻ってきたのかな?)
そう思ってとりあえず、ランタンを手に取った。そしてランタンの明かりを大きくすると、それを足音らしき音がした方へ向けてみた。
コツコツコツコツ……。
コツコツコツコツ……。
フリルフレアはこの時初めて足音が一つではなく二つないし三つくらいであることに気が付いた。
(……?…足音が複数?……もしかしておじちゃんとルーベルさんが二人で助けてくれたのかな?)
そんなことを考えていたフリルフレアはそのまま足音の主が光の届く範囲に入ってくるのを待っていた。
ちなみにこの時、フリルフレアは足音の主がドレイクかルーベルだと信じて疑っていなかったのだが………。
そしてそのままフリルフレアが待っているといよいよ足音の主が光の届く範囲に入ってきた。
「キャウン?」
「クゥ~ン……」
「スンスンスン……ワン!」
現れたその者達はまるで犬のような鳴き声をしており………。
「キャ、キャワイイイイイィィィィィ!」
次の瞬間フリルフレアの叫び声が遺跡内に響き渡った。
フリルフレアの前に姿を現したのは………………まるで子犬の様な顔をした小柄な生き物だった。
その生き物は身長は80cm位だろうか?子犬の様な顔をしており、当然尻尾も生えている。そして二足歩行しており、腰布を巻いていた。正直な話、まるで子犬が立って歩いているみたいでかなり可愛らしい外見をしている。
「な、何これ何これ何これぇ⁉かあぁわいいいいいぃぃぃぃぃ!」
目の前に現れた生き物の可愛さに、思わず両手を頬にあてて顔を上気させながら体をくねらせて感激しているフリルフレア。
正直フリルフレアは目の前に現れた生物が何なのか全く分かっていなかったが、あまり気にしてはいなかった。と言うよりも、顔が小型犬のそれで、まるで少し大きい小型犬が二足歩行しているようにさえ見えるその生物の可愛らしさに完全に気を取られており、他の事に気が回らなくなっていた。
「キュ~ン…」
「ワン!ワンワン!」
「キャンキャン!」
その生物は犬の様に鳴いたり吠えたりしながらフリルフレアに近寄ってくる。
「や~ん、可愛い!……ほら、こっちおいで?」
フリルフレアが満面の笑みのまま、その生物たちに向かって両手を差し出す。まるで「抱っこしてあげる」と言わんばかりの手の差し出し方だ。
そして、その生物たちはフリルフレアの差し出した手の匂いをまるで本物の犬の様に鼻を鳴らしながら嗅いでくる。そして……………
ガブリ。
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その生物たちの一匹に思いっきり手を噛まれたフリルフレア。凄まじい悲鳴を上げているが、その生物は噛み付いたフリルフレアの手を離そうとしない。それどころか、フリルフレアの手を喰い千切ろうとしているのか噛み付いたまま首をブンブン振っている。
「やだああぁぁぁ!痛い!痛い!離してぇ!」
手に走る激痛に思わず泣き叫ぶフリルフレア。しかしその生物はそんなことは気にもせずにぐいぐいと噛み千切ろうと引っ張ってくる。そしてさらに残りの二匹もフリルフレアに近寄ってくるとそのまま肩と太腿に噛み付いた。
「いやあああぁぁぁぁぁぁ!ヤダ!助けてぇ!」
フリルフレアの悲鳴が遺跡の中に響き渡る。フリルフレアは三匹が自分に噛み付いてきた今になって初めてこの生物が危険な生き物……魔物なのではないかという事に気が付いた。さらに………。
「ガウガウ!」
「グルルルル!ガウ!」
「ワウン!」
その生物…改め魔物は吠えながらも、喰い千切ろうとするだけでなく何度も場所を変えて噛み付いてくる。その子犬の様な顔をした魔物に何度も噛み付かれたフリルフレアは既に全身が嚙み跡だらけな上、そに傷から血が流れだして血まみれになっている。
「あ………あう………」
魔物に何度も噛み付かれかなり血も流したフリルフレア。体内の血液が足りなくなり朦朧としてくる。そしてフリルフレアはこの時になって初めて気が付いた。
(あ、そっか………この魔物達……もしかして…私を食べようとしてるんだ……)
そのことに気が付き恐怖を感じたが、その恐怖に反応できるほど体に力が残っていない。
(そっか………私、このまま食べられちゃうんだ………)
既に意識が朦朧とし、痛みも感じているかどうか怪しくなってきていた。
(…………パパ先生……ママ先生……みんな……………ごめん…ね……)
マディの病気も直せずにこのまま死んでしまうのは本来ならば無念で仕方がないだろうが、もうフリルフレアにそんなことを考える余裕は残っていなかった。
だが、その時………。
「その子から離れなさい!リトルコボルトども!」
バキィッ!
「ギャン!」
何者かが叫びながらフリルフレアに駆け寄ってきて、手に持った棒状の物でそのリトルコボルトと呼ばれた子犬の顔をした魔物を殴り飛ばしていた。
「うりゃ!うりゃ!」
バキィッ!ドガァッ!
「ギャウン!」
「キャンキャン!」
その駆け寄ってきた何者かが棒状の物を振り回しながらリトルコボルトを殴り飛ばしていく。それに対してリトルコボルトはフリルフレアを食べようとするのは諦めて早々に逃げ出していった。
「大丈夫ですか⁉」
そう叫びながらフリルフレアに駆け寄ってくる。そしてランタンの光の中へ現れたのは錫杖を手にしたエクレアの姿だった。どうやらランタンをフリルフレアの所に置いておいたので、暗闇の中を走ってきたらしい。
そして……自分の脇にしゃがみ込んで必死に語り掛けてくるエクレアを見上げながらフリルフレアの意識は闇の中に飲まれるように消え去っていくのだった。




