第6章 赤蜥蜴と赤羽根と過去の絆 第5話、遺跡の中で待ち受けるモノ その4
第5話その4
「言ってくれるじゃねえか蜥蜴野郎……ならこの俺が相手だ!」
高笑いを続けるドレイクに苛立ちを募らせたのか、ひときわ大柄な盗賊がドレイクの前に躍り出た。その体躯は相当なもので、見た感じヒューマンでありながら恐らく2mを超える長身だろう。体つきもかなりガッシリしており、単純な体の大きさならば大柄なドレイクや頭目よりも明らかに大きかった。そんな巨漢の盗賊が指の関節をバキバキ鳴らしながらドレイクの前に立ちはだかった。
「ウチの盗賊団でもお頭に続く実力を持つこの俺が相手だ」
「へえ……ちったあ骨がありそうだな…」
ドレイクはニヤリと笑みを浮かべながら足蹴にしていた盗賊を蹴り飛ばしてどかした。それに対して巨漢盗賊もニヤリと笑みを浮かべると担いでいた巨大な戦鎚を地面に放り投げた。
「おいお前……どうやら力自慢みたいだが……この俺に勝てるかな?」
そう言って巨漢盗賊はキメ顔で、盗賊団のくせに妙に白い歯をキラリと光らせながら自分の事を親指でビシッ!と指差している。巨漢、浅黒い肌、禿げあがった頭、濃い顔立ち、それらが合わさりいかにもむさ苦しい感じだが、巨漢盗賊の表情を見る限りどうやらそのキメ顔は自分でもカッコイイと思っているようだった。
ある意味では挑発とも取れる巨漢盗賊の行動、だがドレイクも口の端を吊り上げ不敵な笑みを浮かべている。
「おもしれえ…………力比べってことかよ」
「その通り、ククククク……」
「乗ってやるぜ……後悔すんじゃねえぞ?」
そんなことを言いながらバシン!と拳と拳をかち合わせるドレイク。
「そう来なくっちゃな!」
巨漢盗賊はそう言うと少し腰を落として両腕を広げた。そしてそのまま全脚力をもってして地面を蹴る。
ドゴン!
巨漢盗賊の脚が地面を砕く。そして同時に「ウオオオオオオオオォォォォ!」とすさまじい咆哮と共にドレイクに向かって突進していった。
それに対してドレイクも腰を落として両腕を広げほぼ同じ態勢をとる。そして自分自身も地面を砕くほどの勢いで地面を蹴り、突進してくる巨漢盗賊めがけて突撃していった。
「オラアアアアアアアアァァァァ!」
ドレイクの咆哮が響き渡り、ドレイクの脚が地面を砕きながら巨漢盗賊めがけて突撃していく。
そして………………。
バッシイイイイィィィィィィィィィィィィン!
激しい音と共にドレイクと巨漢盗賊がぶつかり合う。
「ぬおおおおおおおお!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
ギリギリギリ……。
ドレイクと巨漢盗賊が両手で組み付いたまま互いに押し返そうとして全身に力を込めていく。だがその巨体から繰り出される力は拮抗しているのか、互いに動きを止めたまま膠着状態に陥っている。
「何ぃ⁉あ、あいつと互角だと⁉」
「あの蜥蜴野郎、本当に冒険者ランク1かよ⁉」
「何て野郎だ……」
巨漢盗賊と互角の怪力を誇ると思われたドレイク。盗賊達はドレイクと巨漢盗賊の膠着状態を見て思わず怯んだ様子を見せていた。だが、そんな中頭目だけは余裕の表情を崩してはいなかった。
「おい!いつまでも遊んでいるんじゃねえ!さっさと終わらせろ!」
頭目の叱責が巨漢盗賊に飛ぶ。そして頭目の声を聴いた巨漢盗賊は口の端を吊り上げ残忍な笑みを浮かべていた。
「へへへ………お頭からああ言われちまったからな…」
「ん?」
「わりいが………お遊びはここまでだ!」
巨漢盗賊がそう叫んだ瞬間、ドレイクにかかる圧力が一気に増加した。よく見れば、ただでさえかなりの巨躯を誇る巨漢盗賊の身体の筋肉がさらに盛り上がっている。それを見れば、今まで巨漢盗賊が手を抜いていたのは火を見るよりも明らかだった。そして巨漢盗賊はドレイクに対して上からのしかかる様に力を込めてドレイクを押し込んでいった。
ギリギリギリギリ………。
組み付いたままながら完全に上から押し込む形になっている巨漢盗賊。残忍な笑みを浮かべた口の両端をさらに吊り上げ、完全に三日月型の様な邪悪な笑みを浮かべていた。
「これで終わりだなぁ………どうやって殺されたい?……地面に脳天を叩きつけられるのが良いか?それとも俺の戦鎚で一撃で頭をカチ割られるのが良いか?何ならこのまま全身の骨を粉々に砕いてやっても良いんだが………どれが良い?」
完全に自分が優勢なせいか残忍な笑みと余裕の表情で問いかけてくる巨漢盗賊。そしてそれに対してドレイクは……………。
「じゃあ………ステーキにハンバーグ、エビフライにじゃがバター、それにフライドチキン。お前らの金で俺が好きなだけ飯を食う………ってのが良いな」
巨漢盗賊の問いにいかにもあっけらかんと答えたドレイク。だが、その態度が巨漢盗賊の癇に障ったようだ。巨漢盗賊は目を吊り上げて全身にさらに力を込めた。
「そんな選択肢はねえんだよ蜥蜴野郎!テメエはここで死ぬ!この俺に殺されてなぁ!これは決定事項なんだよ!」
そう喚き散らしながら巨漢盗賊はドレイクを地面に叩きつけるべく、まず組み伏せようとさらに力を込めて……………………そこから全く動かない事に気が付いた。
「…………………………あれ?」
押してもだめなら引いてみろとばかりに今度はドレイクを引っ張って投げ飛ばそうととする巨漢盗賊。だが、身体を引こうとしてもドレイクが全く動かない事に気が付いた。
「へ?……………………あ、あれ……?」
巨漢盗賊の顔に困惑の表情が浮かぶ。もはや巨漢盗賊の力では押しても引いてもドレイクを動かすことが出来なくなっていた。意味が分からずドレイクの手から手を離そうとする巨漢盗賊、だが巨漢盗賊の手と組み付いているドレイクの手は、全くその手を離そうとしなかった。それどころか巨漢盗賊に手をすさまじい力で握って来ていた。
「う………い…痛い……手、手が……」
握り潰されそうなほど骨が軋んだその手に凄まじい激痛が走る。あまりの痛みに顔を歪める巨漢盗賊。だが、ドレイクはまだ巨漢盗賊を逃すつもりは無かった。
「どうした?………俺を殺すんじゃなかったのか?」
「ぐ………テ、テメエ……」
ドレイクの言葉を聞き巨漢盗賊が焦ったように暴れ出す。ドレイクから離れようと必死になって手を離そうとするが、ドレイクに掴まれた手はビクリとも動かない。こうなって初めて巨漢盗賊はドレイクが先ほどまで手を抜いていたことに気が付いた。
「こ、この野郎………さっきまで手を抜いて………」
「今頃気付いても遅せえよ」
ドレイクはそういうと巨漢盗賊の顔面の目の前で口を大きく開いた。その様子に周囲の盗賊達から「な、何やってんだアイツ⁉」「まさか噛み付こうとしてるのか⁉」「頭から丸かじりで………人間を喰うつもりか⁉」等とんでもない憶測が飛び交っている。だがドレイクはそんな盗賊達の想像を鼻で笑い飛ばしながら言い放った。
「悪いな、力比べはやっぱり止めだ。このまま…………片付けさせてもらうぜ!」
次の瞬間ドレイクの口の中で炎が渦巻き……。
ボオオオオオオオオオオオオォォォォォ!
巨漢盗賊の手を掴んだまま、ゼロ距離での炎のブレスが盗賊の巨躯を包み込み、一瞬にして激しく燃え上がっていくのだった。




