第6章 赤蜥蜴と赤羽根と過去の絆 第4話、願い石を求める者達 その1
第4話、願い石を求める者達
第4話その1
「くっそ~………あいつらどっち行ったかな~……」
ドレイクはそんなことを言って、周りをキョロキョロと見回しながら森の中を歩いていた。そしてその肩には水浸しで目を回しているエクレアが担がれている。
ルーベルがフリルフレアを連れて河辺から去っていく間に、ドレイクは川の中で必死に岩にしがみついているエクレアを助けに行った。ドレイクが泳いで近づいていくと「きゃああぁぁぁ!な、何か真っ赤な水竜みたいなのが迫ってくるーー!イヤアアァァァァ!助けてえぇぇ!」とか意味不明なことを叫んで暴れ出したため、仕方なくドレイクはエクレアの首筋にちょっと強めの手刀を叩き込み、彼女の首の骨を折っ…………りはしなかったが、あっさりと気絶させてそのまま泳いで川から出てきたのだ。正直、泳いでいる間に眼を回しているエクレアの顔が水に浸かって溺死したりしないか不安もあったが、とりあえず川から出てみると肩の上の彼女は一応呼吸をしていたので、その後は気にしないことにした。
そしてそのまま意識の無いエクレアを担いだまま、フリルフレアとルーベルの行った方向に目星をつけて森の中へ入っていったのだった。
だが、目星をつけて適当に歩いているだけなので、当然フリルフレア達がどこにいるかなど全く分かっていない。そのうえ、ドレイク自身も森の地形を把握している訳では無いので、勢い良く森に入ったは良いが結局すぐに道に迷っていた。
「ん~……どっち行ったのかな~…」
そんな言葉をボソッと言いながらいったん足を止めるドレイク。闇雲に歩いていても道に迷うだけだと今気が付いたが、既に道に迷っているので完全に後の祭りだ。
「どうすっかな~……」
ちょっと考え込むドレイク。だが、当然なことだが考え込んだところで打開策など全く浮かんでこなかった。そして思わずため息をついたドレイク。だが、その時ふととある可能性に気が付いた。
(そう言やこの小娘とあの女魔導士は仲間だよな?………だったら、相手の居場所がわかる魔法とか使えねえかな?)
そんなことを考えたドレイクは肩に担いでいるエクレアに視線を送ってみた。
「……ん…う~ん……」
よく見ると担いでいるエクレアがモゾモゾと身動ぎし、何やら呻き声を上げている。どうやら目を覚ましそうだった。
「おう、丁度いいや」
そう言ってドレイクは無造作にエクレアの身体を地面に放り投げた。
ゴスッ!
「ンギァ!………………ううう……」
無造作に放り投げられたエクレアは当然落下に対する受け身などとれるはずもなく、無様に脳天から地面に落下していた。すごい音を立てて脳天と地面を激突させた上に悲鳴を上げてのたうち回っている。そしてドレイクは「い、痛い……」とか「頭が……頭が割れそうですぅ…」とか「死んじゃいそうですぅ…」とか喚きながら足元でのたうち回っているエクレアをしばらくジッと見ていた。エクレアはしばらく頭を押さえてのたうち回っていたが、しばらくして「ハッ⁉そうです!回復魔法を使えば!」とか叫ぶと、そのまましれっと立ち上がり、「……癒しよ!」とか叫んでいた。そしてそう叫んだ瞬間エクレアの身体が一瞬光り、そのまま彼女の脳天の傷が癒えていった。どうやら癒しの魔法で自分の傷を癒したようだった。
「おお、すげえな」
「はい、そうなんですよ!これこそ偉大なる神の奇跡………って、わああぁぁぁぁ!」
途中まで得意げに喋っていたエクレアだったが、隣にいるのがドレイクだと分かると悲鳴を上げてその場から飛び退いた。
「ヒィッ!あ、赤い…水竜……!」
「何で水竜が赤いんだよ。普通赤かったら火竜だろ?」
「で、でもでも……さっき泳いできたじゃないですかぁ!」
「泳ぐ火竜だっているかもしれねえじゃねえか………って言うか、そもそも俺火竜でも水竜でもねえぞ?」
「そんな顔しておいてよくそんなことおっしゃいますね」
「いや、俺リザードマンだから!そんな顔って……それを言ったらリザードマンが全員ドラゴンになっちまうよ!」
「な、なんと!………リザードマンの方でしたか……そ、それは失礼をいたしました、それではわたくしはこれで……」
「ちょっと待てやコラ」
適当に誤魔化してそそくさと去って行こうとするエクレアの襟首をガシッと掴んで逃がさないドレイク。そのまま顔を近づけるとジトっと睨みつける。
「お前らさっき、俺の事を人さらいだとか何だとか言ってやがったな……」
「ヒィッ!………な、何のことでしょうか……?」
顔を近づけてきたドレイクにビビり、思わず悲鳴を上げて顔を背けるエクレア。だがドレイクはエクレアの顔をガシッと掴むと自分の方を向かせた。
「とぼけんじゃねーよ……そもそもお前と連れの女魔導士が俺の事を人さらいだとか言ってケンカ吹っ掛けてきたんじゃねえか」
「ヒイイイイィィィ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ち、違うんです!私は悪くないんですぅ!」
「はぁ?」
「ルーベルさんが!ルーベルさんがあなたの事を人さらいに違いないって!……わ、わたくしは別に人さらいだなんて思っていないんですぅ!」
「本当か?」
「ほ、本当ですぅ!…だ、だからお願いです!助けてください!誘拐しないでぇ!強姦しないでぇ!殺さないでぇ!」
「……………………」
懇願しながら喚き散らすエクレアを見ながらドレイクは半ば呆れていた。つまりこの神官少女は何も悪くない……………と言って保身を図っているだけだと気が付いたのだ。大方ドレイクに乱暴されたり危害を加えられたしないように自分に都合よく言っているだけなのだ。下手をすると、ルーベルがドレイクを人さらいだと言ったのもウソかもしれない。
とにかく全力で保身を図っているエクレアに付き合っていてもらちが明かないので少し強引に話を進めることにする。
「おう、とりあえず殺さねえから俺の言う事よく聞けよ?」
「は、はいぃぃ!そ、それはもう、もちろん!」
「いや、そういう過剰な反応はいいから…」
「はいぃぃ!も、申し訳ございません!」
「過剰な反応はいいって言ったんだが……」
「へウッ⁉………す、すみません…」
面倒くさそうに睨み付けてきたドレイクの圧にビビり、ビクッとしながら縮こまるエクレア。ドレイクはそんなエクレアから手を離すと、呆れたようにエクレアの頭を指でコツコツとつついた。
「んで、お前名前は?……何か随分自分の保身に走ってたが…ホントに神官か?」
「は、はい……ホントに神官ですぅ。……………名前は、エクレア・グレイトンって言います」
「ハァ⁉エクレア⁉」
「ヒィッ!」
エクレアの名前を聞いた瞬間に眼を輝かせるドレイク。……というか、普段人の名前を全く憶えないドレイクが、聞いた瞬間にエクレアの名前を覚えたことに驚愕すべきなのだが、残念ながらそのことにツッコミを入れる人間はこの場には居なかった。
そしてドレイクは少しブルブルと手を震わせながらエクレアの両肩をガシッと掴んだ。
「お、お前……エクレアって言うのか…?」
「は、はいぃ……そうですが……あの、何か………?」
肩を掴まれビクビクして、恐る恐る訊き返すエクレア。それに対してドレイクは思わず拳をグッと握りしめて天を仰いだ。
「…………………美味そうな名前だな…」
「は?」
しみじみと訳の分からないことをほざいてくるドレイクに対し思わずエクレアの眼が点になる。美味しそうな名前と言われ訳が分からないエクレア。そんなエクレアをよそにドレイクの頭の中では細長く焼いたシュー生地の中にカスタードクリームを詰めて、上からチョコレートをかけた高級菓子の映像が浮かんでいた。ちなみに高級すぎてドレイクは食べたことがない。だが味を想像して思わず涎を垂らすドレイク。そしてそれを見た瞬間エクレアはハッとなり、ドレイクから身を守るように自分の身体を抱きしめた。
「ま、まさか美味しそうって………わたくしの身体が美味しそうってことですか⁉……いけません!わたくしは神にその操を捧げた身で……」
そんなことを言いながらドレイクからジリジリと後退し距離をとるエクレア。だがドレイクの方は頭の中をお菓子のエクレアに占拠されており、エクレアの事など1mmも見ていない。そしてドレイクが自分の事を全く見ていないことに気が付いたエクレアは少しドレイクの事をジッと見ていたが、「オホン」と軽く咳払いすると、わざとらしくスカートの裾を少しずつ上げていき太腿をあらわにしたり、法衣の胸元をはだけさせてわざと胸の谷間をチラリと見せたりしている。
「あ、あ~っと………嫌らしい視線に晒されて、思わず肌が露出してしまいましたぁ、どうしましょう……」
何かやたらとわざとらしく棒読みでそんなことをほざくエクレア。だが、ドレイクの方はいまだに涎を垂らして、脳内でお菓子のエクレアの味を想像している。そんなドレイクを見ていたエクレアの眼つきが突如ジト目となり………。
「おいコラ、こっち見ろよオッサン。シカトしてんじゃねえぞクソ蜥蜴野郎」
「誰がオッサンだコラ……てか、口悪いなお前」
突如暴言を吐き出したエクレアに、ツッコミを入れながらドレイクは「何か訳分かんねえ奴と関わり合いになっちまったなぁ……」と心の中でぼやいているのだった。




