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第6章 赤蜥蜴と赤羽根と過去の絆 第2話、赤い蜥蜴のおじちゃん その7

     第2話その7


「う、う~ん………」

 フリルフレアは鼻腔をくすぐる香ばしい匂いで目を覚ました。

「……ふ、ふえ…?」

 あまりに良い匂いだったので思わず体を起こすフリルフレア。そしてその美味しそうな匂いを嗅いでいくうちにフリルフレアは自分の意識がはっきりしてくのを感じていた。

(……あれ?…そういえば……)

 そこで始めてフリルフレアは自分が今まで眠っていたことに気が付いた。そして改めて自分の身体を見回したフリルフレアは自分が今まで地面の上に敷かれたシートの上で横になっていたことに気が付いた。さらに言えば、毛布も掛けられていたみたいだった。

「…………えっと……」

 何故こんなところで寝ていたのかうまく思い出せないフリルフレア。それにこの毛布を掛けてくれたのは一体誰なのか…?頭の中を疑問がよぎるが、正直考えることに集中できない。何故なら先ほどからあたり一面にあまりに香ばしくておいしそうな匂いが漂っていたからだ。この匂いはそう………まぎれもなく肉が焼ける香ばしくて美味しそうな匂いだった。

くぅ~…。

 あまりに美味しそうな匂いに思わずフリルフレアのお腹が小さく鳴る。考えてみれば先ほど胃の中のものを全部吐き出したような気がする。だから胃の中が空っぽだからお腹がすいているんだと自分を納得させながらも、お腹が鳴ったという事実に少し顔を赤くするフリルフレア。そしてその時そんなフリルフレアに声がかけられた。

「よう、目が覚めたか?」

「へ?」

 突然声を掛けられ思わず間抜けな返事をするフリルフレア。そして声のした方を見ると、そこには何やら串に刺した肉を片手にこちらを見ている赤い鱗のリザードマン……ドレイクの姿があった。彼が手に持っているこんがりと焼けた肉からは香ばしくて美味しそうな匂いが漂っており、先ほどからいい匂いを放っていたのはその肉だったことが分かる。

 そんなドレイクの事を見ていたフリルフレア。次第に彼が何をしたのか………ジャイアントグリズリーを素手で、しかも首の骨をへし折るという残虐な方法でなぶり殺したことを思い出した。そしてその後、彼がジャイアントグリズリーの首を赤い大剣で斬り落としたであろうことも思い出した。

「ミイイィィィィ!く、熊殺し!た、食べられちゃう!助けて……」

「いや、そんな人殺しみたいに熊殺しとか言われてもなぁ……」

 思わず叫んでその場から逃げ出そうとするフリルフレアにしょうもないツッコミを入れるドレイク。だがフリルフレアは立ち上がった瞬間身体に掛けてあった毛布を脚に絡ませその場で盛大に転びそうになっていた。

「ひゃあっ!」

「おっと……………大丈夫か?」

 盛大に転びそうになったフリルフレア。だが、フリルフレアの身体が地面に倒れ込むよりも一瞬早くドレイクが近寄ってきて彼女の身体を抱き止めていた。

「………あう…」

 突然のことに身体が反応できていないフリルフレア。だが、ドレイクが抱き止めてくれたおかげで倒れ込まずに済んで少しほっとしていた。だが、同時に今自分を抱き止めてくれたリザードマンが巨大な熊をあっさり殺した人物だと認識し、やはり怖くなってくる。

「ミ、ミイィィィ……あ、赤い蜥蜴のおじちゃん………」

「おいコラ、誰がおじちゃんだ」

「ミイイィィィ……私はチビだし痩せてるし美味しくないです……だから食べないでぇ……」

「いや、何の話だよ一体?」

「私なんか食べても美味しくないです…………だから助けてください…」

「いや、本当に何の話だよ?」

 ドレイクの腕の中でギュッと目を瞑り両手を握りしめて拝むように懇願するフリルフレアに対し、彼女の言っていることの意味が分からず思わずジト目になるドレイク。

 とりあえず、いつまでもフリルフレアを抱えていてもしょうがないので地面に下ろすドレイク。フリルフレアは自分の脚が地についたことで安心したようだが、それでもオドオドしながらドレイクのことを言上げていた。

「お、お願いですおじちゃん……じゃなくてドレイクさん……私のこと食べないでぇ…」

「だから喰わねえよバードマン何か!俺は今から焼きクマ喰うんだ!」

「や、焼きクマ………?」

 ドレイクの言葉にフリルフレアの眼が点になる。「焼きクマ」なる聞き慣れない言葉、そしてドレイクの持つ焼いた肉。そしてドレイクの言った言葉の意味を理解した瞬間フリルフレアは思いっきり引いていた。

「え………もしかしてそれって……」

「ん?さっきのデカい熊の肉だが?」

「……………」

 ドレイクの言葉に思わず無言で思いっきり後退るフリルフレア。

「何だよ?腹減ってんだろ?喰うか?」

 そう言ってドレイクは手に持っている焼けた肉………焼きクマ肉を差し出してくる。しかしフリルフレアはそれを見て首を勢いよくブンブンと横に振っている。

「い、いりません!……く、熊のお肉なんて食べれません!」

 思わず叫ぶフリルフレア。実はそれもそのはずで、ラングリア……と言うよりアレストラル王国では一般的にクマなどの野獣の肉を食べる風習が無かった。一般的には鳥や豚、羊、牛などが食べられていた。もちろんドレイクの様な冒険者たちは必要とあらば熊だろうが鹿だろうが何でも食べる。生きるためだからだ。だからアレストラル王国内で熊等のいわゆるジビエを食べるのは冒険者たちか、あるいは普通の食べ物に飽きた食道楽の貴族や金持ちたちがわざわざ好んで食べるくらいだろう。どちらにしろクマ肉など一般市民のましてや子供のフリルフレアが食べたいと思うような代物ではなかった。

「何だいらねえのか?美味いのに…」

 そう言って肉にかぶりつくドレイク。そのままモグモグと咀嚼してゴクンと肉を呑み込む。そして満面の笑みで「うめー!」とか叫んでた。ちなみにここが街中だったら近所迷惑である。

 そんなドレイクを不審そうに見ていたフリルフレア。クマの肉を食べるなどますます信用できない気がする。そしてフリルフレアはため息とともに周囲を見回して………とんでもない物が視界に入った。

 それは………………。

「……!…ウプッ……」

 思わず気持ちが悪くなって吐きそうになり、それでも胃の中に何も入っていないため吐き気を繰り返しながらも何も出てこないフリルフレア。

 フリルフレアの視界に入ってきた物、それは…………ドレイクが熊の肉を捌いたであろうあとであり、そこには………脚や腹の肉が切り取られ、内臓もはみ出ていて首も斬り落とされた………バラバラの熊の残骸が残されていたのだった。


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