第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第20話、最後の悪夢・悪夢の子 その19
第20話その19
その巨大な火球はいつからあったのだろうか?ドレイクはいつからそこに立っていたのだろうか?そもそもドレイクはいつ目を覚ましたのだろうか?
疑問は尽きないが、ドレイクはフリルフレアとウッドレンホニーから少し離れた所にいつの間にか立っていた。だが、どうにもドレイクが歩き回った形跡は見当たらなかったことからドレイクがフリルフレアの元へ歩いてきたのではなく、フリルフレアが飛び回ってドレイクの立っている場所の近くへ落ちてきたのだという事がうかがえた。
そしてその場に立つドレイクはしっかりと両足で大地を踏みしめ、両腕を上空に掲げていた。そしてそんなドレイクの遥か上空に巨大な火球が浮いていたのだ。その巨大な火球は直径が10m以上もあり、激しく燃え盛っている。そして地上では両手を掲げたドレイクの周囲から火の粉の様なものが滲み出るように上昇し、上空の巨大火球へと集まっていき火球の大きさを少しずつだか確実に大きくしていった。
「な、何故だ………?」
立っている……というよりも生きているドレイクを見てウッドレンホニーが眼を見開き驚愕の表情を浮かべている。
「蜥蜴野郎!何故お前が生きている!」
「何だよ、俺が生きてちゃいけないのかよ?」
「いけないに決まってるだろ!お前はさっき僕が殺して……それにフリルフレアの回復魔法でも回復しなかったじゃないか!お前は確かに死んでいたはずだ!」
「うるせえなぁ……そんなことはどうでも良いだろうが」
「良い訳あるか!……説明しろ!なんでお前が生きているんだ!」
「面倒くせえなぁ……」
激高しながらも問いかけてくるウッドレンホニーにドレイクは面倒くさそうな顔をしていた。そして激高し周りが見えなくなっているウッドレンホニーの隙をついてフリルフレアは何とか残った体力を振り絞ってその場から離れてドレイクの元へと駆け寄っていった。
「よかった……ドレイク、生きてるって信じてたよ」
ドレイクのそばへ駆け寄ってきたフリルフレアがその場にへたり込みながらもドレイクを見上げてそう言ってくる。それに対してドレイクは視線だけをフリルフレアに向けて口の端をニヤリと歪ませて見せた。
「わりぃ。正直くたばりかけてたのは事実だったんだがな……まあ、お前の回復魔法のおかげで何とか一命はとりとめたってところだ」
「そっか………さっきヒーリングフレイムをかけたことは無駄じゃなかったんだね…」
「まあな………それよりずいぶん長い間お前ひとりに任せちまったな…すまん」
「いいよ。こうしてお互い無事だったんだから…」
「けど、お前に助けられたのは事実だからな……借りが出来ちまったな」
そう言って苦笑いするドレイク。そんなドレイクを見て微笑んだフリルフレアだったが、とりあえずそれよりもさっきから気になっているモノへと視線を移した。
「ところで………あれ…何?」
フリルフレアはそれを見上げながらそう言った。フリルフレアの視線の先にあるモノ……それはドレイクの掲げた手のはるか上空に浮かぶ巨大な火球である。
「そうだ!そもそもあれは何なんだ⁉それにどうしてお前は生きているんだ⁉」
フリルフレアの疑問に便乗したのか、ウッドレンホニーが再び疑問を叫びながら喚き散らしている。その様子はすっかり取り乱しているように見え、ドレイクが生きていたことがよほど衝撃的だったのだという事が分かった。しかし当のドレイクの方は本当に面倒くさそうな顔をしてウッドレンホニーの方を見ている。
「うるせえなぁ……お前の攻撃をまともに喰らってぶっ倒れてたけど……まだくたばってはいなかっただけだっての」
「そんなバカな!じゃあ何でさっきフリルフレアが回復魔法をかけても目を覚まさなかったんだ⁉」
「フリルフレアの回復魔法をもってしても瞬時には回復できなかっただけだ。それでもなんとか時間をかけて体力を回復したんだよ」
「そ、そんなご都合主義みたいなことが起きるはずは……!」
「実際に起きちまったんだから仕方ねえだろ」
「くっ……」
ドレイクの言葉に口惜しそうに唇を噛むウッドレンホニー。ウッドレンホニーの方からすれば、倒したと思っていた相手が実は生きていて突然復活したようなものだ。受け入れ難いと感じるのもある意味仕方のないことかもしれない。そしてどれだけドレイクが生きているとこに文句を言っても状況が変わることは無いという事実に気が付いたのか、一度押し黙ったウッドレンホニーは、その視線を巨大な火球へと移し替えていた。
「ならば………その火の玉は……」
「おうよ……当然テメエを倒すための一撃だ」
不敵な笑みを浮かべるドレイク。そうしている間にも、ドレイクの周囲からは火の粉の様なものが上空へ舞い上がり火球を少しずつ大きくしていった。
(クソッ!……何で今更コイツが出てくるんだ!それに……死にかけから復活しただけのコイツのどこにこんな魔力が残っているんだ⁉)
ドレイクが生きていたことによる驚愕と焦りがウッドレンホニーから冷静な思考と判断力を奪っていた。
ウッドレンホニーはドレイクの創り出した巨大な火球が魔力をもとに創り出したものだと思っているようだったが、実際には違った。この火球はドレイクが爆火双球・砕を核として自分の氣を体内で炎と混ぜ合わせたものを少しずつ注ぎ込み巨大化させていった物なのである。つまり、今ドレイクの周囲から舞い上がっていく火の粉の様なものは実はドレイクが体内で氣と炎を混ぜ合わせたて作り上げた『炎氣力』とでも言うべき物なのである。
そしてその巨大な火球が少しずつ大きさを増していく事実もウッドレンホニーを焦らせている要因であった。だが、この火球を大きくしていくための炎氣力は氣……すなわち生命力や生命エネルギーと呼ばれるものを使っている。それならば、死にかけの状態から復活した直後のドレイクの身体のどこにそれだけの生命力が残っていたのか……それも疑問の残るところではあった。そしてフリルフレアはその事実に直感的に気が付いていた。
(ドレイク……あの火の玉をずっと大きくし続けているけど……身体は大丈夫なの?)
密かに心配するフリルフレアだったが、ドレイクもここまで来て後戻りするつもりはなかった。この一撃に……全てを賭けていると言っても過言ではないのだ。
しかし当然そのドレイクの気迫はウッドレンホニーにも伝わっていた。そしてウッドレンホニーがドレイクの火球に対抗するために導き出した答え、それは………。
「お前がその気なら僕もこうするまでだぁ!」
その瞬間ウッドレンホニーも両手を頭上に掲げた。そして次の瞬間、ウッドレンホニーの頭上に巨大な黒い魔力球が出現する。その魔力球の大きさは直径20m程もあり、ドレイクの創り出した火球のそれを上回っていた。
「何ッ⁉」
ウッドレンホニーがまだこれだけの魔力を隠し持っていた事実に驚くドレイク。しかも一瞬で魔力球を生み出したという事実から、まだ余力を残している可能性もあった。ドレイクの中にも少し焦りが生じる。そしてそれを感じ取ったのかウッドレンホニーが今度は勝ち誇ったような表情になった。
「ふん!蜥蜴野郎が生きていた時は少し焦ったが………それでも結果は同じだ!これで終わりにしてやる!」
叫びながらウッドレンホニーが両手を振り下ろした。その瞬間巨大な黒い魔力球が上空からドレイクに向かって飛んでいく。
「チッ!ヤロウ……これでも喰らいやがれぇ!」
対抗するようにドレイクも両手を振り下ろす。そしてウッドレンホニーの黒い魔力球と同様に巨大な火球がウッドレンホニーめがけて撃ち出されていった。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!」
「ふぬうううううぅぅぅぅ!」
互いに両手を突き出し、叫び声をあげながら互いに腕に力を込め、そこから各々生み出した巨大な球にエネルギーを注ぎ込むドレイクとウッドレンホニー。
ドレイクは火球に炎氣力を、ウッドレンホニーは黒い魔力球に魔力を送りながら火球と魔力球がぶつかり合う瞬間に備えてさらに力を込めた。
そして……周囲の空気を巻き込み、暴風を巻き起こしながら進んだ火球と魔力球がちょうどドレイクとウッドレンホニーの中間でぶつかった。
ドゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!
凄まじいエネルギーのぶつかり合いに轟音がとどろき、火花を散らし放電する。
「ゴラアアアアアァァァァァァァ!」
「ヌガアアアアアァァァァァァァ!」
ドレイクとウッドレンホニーが叫ぶ中、ぶつかり合った巨大なエネルギーの球は互いに拮抗しあい、地面を抉りながらその場で留まっているのだった。




