第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第20話、最後の悪夢・悪夢の子 その15
第20話、その15
ズドガアアアアアアアアァァァァン!
ドレイクがウッドレンホニーに叩き込んだ巨大な火球が大爆発を起こす。そして大爆発をまともに受けたウッドレンホニーはボロボロになりながら地面に落ちていった。
「ッシャァ!これでどうだ!」
上手いこと技を直撃させられ思わずガッツポーズをするドレイク。そんなドレイクをフリルフレアは若干ポカンとしながら見ていた。
「え……えっと……ば、爆火双球……砕?」
「おうよ!」
「なに……今の技もその場で考えたの?」
感心しているというよりはそれを通り越して呆れている感じのフリルフレア。しかしそんなフリルフレアに対してドレイクは「チッチッチ」と指を振って見せた。
「『砕』は今考えた技じゃねえんだなこれが、『拳』と一緒にだいぶ前から温めていた技って訳よ。まあ、『烈』と『撃』はさっきその場で考えたんだけどな」
「あっそ……」
思わず頭を押さえるフリルフレア。何となく頭が痛くなってきた気がした。
両手に火球を纏う爆火双球といいそこから派生する『拳・撃・烈・砕』の派生技といいどう考えても普通の人間のできる技ではない。そもそも氣に炎を混ぜるとか言っている時点で無茶苦茶強引な力技なのだ。そしてこれまでは上手くいかなかったのだろうが、悪夢の中だからと言って精神力で悪夢をねじ伏せ技を成功させてしまうとかどう考えても異常だった。しかもその技の内の2つはその場で考えたとか言っているのだ。炎の翼を生やしただけでも凄い事だというのに………つくづく相棒の人間離れした戦闘センス……と言うか強引な力技にある意味戦慄を覚えるフリルフレア。
(って言うか……どうでも良いけどさっきの爆火双球・砕って技……あんな至近距離で爆発したら自分もダメージくらうんじゃ……)
そう思ったが、見た限りドレイクはピンピンしている。それを見たフリルフレアはジト目になって呆れていた。ミスリル並みに硬い鱗のおかげでダメージが無かったのか、はたまた自分の氣が混ざってるから本人はダメージを受けないのか?どういう事だかは知らないが、どうやら爆火双球の巻き添えをくらってもドレイク本人はダメージを受けないらしい。
つくづく呆れる頑丈さだし、フリルフレアはもう一つ思うところがあった。
(もしかしてドレイク………まだ他にも完成させてない技とか隠し持ってるんじゃ……)
ありえない話じゃないと思いながら、ふとウッドレンホニーの落ちた地面の方を見ていた。そこでは………。
「フ、フフフフ………やってくれたね蜥蜴君……」
超速再生で既に無傷の状態まで回復したウッドレンホニーがこちらに向かって飛んできていた。
「そんな……もう回復を…」
ウッドレンホニーの再生速度に改めて驚愕するフリルフレア。
「やっぱり一撃で完全に消滅させないと……」
「そうだな………チッ!爆火双球・砕でも一撃じゃ無理か…」
舌打ちしながらドレイクはウッドレンホニーを睨んでいた。正直、完成させたばかりとはいえ爆火双球・砕は現在ドレイクが素手の状態で出せる最も破壊力のある攻撃だ。その攻撃で一撃で倒せないとなると………。
「……ここは私の出番かな」
そんなことを言いながらちょっと得意げな表情になっているフリルフレア。何となくフリルフレアが何を言いたいのかは分かったが、念のため訊いてみる。
「どういうことだよ?」
「決まってるじゃない。ドレイクの最大攻撃で倒せないんだったら、もう私の最大攻撃しか残って無いじゃない」
「お前の最大攻撃ってなんだよ?」
「プロミネンスブラストに決まってるじゃない」
「あれか………」
フリルフレアの言葉に渋い顔になるドレイク。超熱線を撃ち出すフリルフレアのプロミネンスブラストは確かに強力な魔法だ。単純な威力ならばアレイスローのブラストレイと同等かそれ以上かもしれない。ドレイクの爆火双球・砕と比べても遜色ないのも事実だろう。だが逆を言えばそれほど明確な差がある訳でもない。それを考えると仮にプロミネンスブラストを完全な形で直撃させたとしてもウッドレンホニーを一撃で葬むれるかどうかは疑問が残るところだった。
普通の魔物相手だったならばこれで十分に決定打となっていただろうが、生憎とウッドレンホニーは超生命力と超速再生を併せ持つ異常な魔物だ。決して普通の魔物ではない。それを考えるとどうしても決定打に欠けると言わざるを得なかった。
(………クソッ……どうする?)
思わず心の中で悪態をつくドレイク。だがそうしている間にもウッドレンホニーがすぐそこまで迫って来ていた。
「さっきのはなかなか痛かったよ!お返しをしなきゃね!」
その瞬間飛来するウッドレンホニーの周囲におびただしい数の黒い魔力球が出現した。
「とりあえずは蜥蜴君、さっさとくたばってよね!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドオオン!
その瞬間黒い魔力球を全てドレイクのみに向けて撃ち出すウッドレンホニー。
「チッ!……ヤロウ!」
ドレイクはとっさに体内の氣を前方に壁を作るようなイメージで放出していた。これはアルウェイとの戦いで実践した氣の防御壁だ。
だが、あまりにも数の多い黒い魔力球が次々と防御壁を撃ち、何度も撃ち抜き、ついには破壊していく。
「クソッ!」
予想以上にあっさりと防御壁を破壊され思わず防御態勢をとるドレイク。だが、それを待っていたとばかりにウッドレンホニーは頭上に凄まじく巨大な黒い魔力球を出現させていた。
「さっきの技のお返しだよ」
そう言って残忍な笑みを浮かべたウッドレンホニー。そのままその巨大な黒い魔力球を思いっきりドレイクに叩き込んでいった。
ドガアアアアアアアアアァァァァァン!
「ぐああああああああ!」
「ドレイク!」
黒い巨大な魔力球の直撃を受けて思わず叫びながら地面へと落ちていくドレイク。フリルフレアが落ちていったドレイクの元へと急いで飛んでいった。
ドガアン!
思いっきり地面に叩きつけられるドレイク。衝撃で炎の翼が消え去り、さらに無数の魔力球と巨大魔力球、そして墜落の衝撃で全身がボロボロになっている。それでも見た限り骨折や四肢の欠損など重大な損傷が無いのはひとえにドレイクの頑丈さのおかげであろう。
「ドレイク!治療を!」
倒れ込んでいるドレイクのそばに降り立ったフリルフレアが急いで回復魔法を使うべく精神を集中させる。
「すぐに治すからね!ヒーリングフレ……ムグッ⁉」
フリルフレアが魔法を発動させようとしたその瞬間だった。突然フリルフレアの足元の地面から謎の黒い手が伸びてきたのだ。そしてその黒い手は魔法発動のための言葉を叫ぼうとしていたフリルフレアの口を塞いでしまったのだ。そしてさらにフリルフレアの足元から何本も黒い手が伸びてきてフリルフレアの手首や二の腕、肩、太腿、脛、足首など体中を掴んでその動きを封じてしまった。
「ふぅ!……んん!…むうう!」
口を塞がれて魔法の発動はおろか喋ることもできないフリルフレア。さらに黒い手に全身を拘束されてまともに身動きが出来ない。何とか暴れ回ろうともがいてはいるが、全くの無意味だった。
「危ない危ない、君の回復魔法は優秀だからね、ここは封じさせてもらうよ」
そんなことを言いながら余裕の表情で地上に降りてくるウッドレンホニー。
「テメエ……悪夢小僧、これは…」
ボロボロの状態ながら何とか立ち上がるドレイク。傍らで拘束されているフリルフレアを見た後ウッドレンホニーを睨む。しかし当のウッドレンホニーは得意げな表情で余裕の笑みを浮かべていた。
「あれ?どうしたのかな?僕はナイトメアチャイルドなんだよ?悪夢の中は自在に操れるんだからこれくらい朝飯前だよ」
そう言って嫌らしい笑みのまま「ケケケケケ」と笑うウッドレンホニー。
「そうかよ………それならこれで!」
その瞬間そのボロボロになった身体からは想像できないほどのスピードでウッドレンホニーに向かって走っていくドレイク。間合いを一気に詰めながら拳を振り上げる。
「ウオオオオオオォォォ!」
叫びながらウッドレンホニーに拳を振り下ろすドレイク。だが、次の瞬間……。
ドガガガガガアァァン!
ウッドレンホニーが手を一振りし、そこから見えざる何かが撃ち出された。それは……不可視の衝撃波だった。
「ガアアアアァァァ!」
不可視の衝撃波の直撃を受け吹き飛ぶドレイク。先ほどからウッドレンホニーが黒い魔力球での攻撃に切り替えたので不可視の衝撃波の事を失念していたのだ。そして衝撃波で吹き飛ばされそのまま倒れ込むドレイク。
「ふむう!んん!……ふふうう!」
口を塞がれたままのフリルフレアが必死に何か叫ぼうとしているが、残念ながらそれが声になることは無い。そしてフリルフレアの視線の先では倒れ込んで動けないでいるドレイクにウッドレンホニーが歩み寄っていくのが見えた。そしてウッドレンホニーは頭上に手を掲げるとそこに魔力を集中させた。その瞬間巨大な魔力球がウッドレンホニーの頭上に出現する。それを見た瞬間フリルフレアはウッドレンホニーが何をしようとしているのかが分かった。
(だめえ!逃げてドレイク!)
口からは呻き声しか出せない、せめて心の中で叫ぶフリルフレア。だが、その言葉が届いたにしろ届かなかったにしろ、ドレイクは倒れたまままともに動けないでいた。
「じゃあね、バイバイ蜥蜴君」
そしてウッドレンホニーは勝ち誇った表情でその巨大な魔力球を撃ち出す。
ドレイクめがけて。
「ふぐうううううう!むうううううん!ふううう!」
思わず叫ぼうとして呻き声を上げるフリルフレア。だがその声が届いたとしても恐らく意味はない。なぜならドレイクは今まともに動けなかったからだ。
「クソッ……やべぇな…」
その瞬間巨大な黒い魔力球がドレイクを吞み込み………大爆発を起こすのだった。




