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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第19話、力を合わせて その8

     第19話その8


 『サテライトノヴァ』を発動させるために魔力を集中させ、ファンナや魔導士達の魔力も借りて魔力を収束させていったアレイスロー。だが集まった魔力では『サテライトノヴァ』の発動にわずかばかり……それこそ魔導士一人分ばかり足りていなかった。その事実にあせるアレイソロー。だが次の瞬間「アレイスローさん!僕の力も使ってください!」という叫びと共にアレイスローに向けて魔力が注ぎ込まれてきた。

「⁉……一体…誰が?」

 突然のことに驚きを隠せないアレイスロー。思わず声のした方に振り向いていた。

 そこに居たのは………リュートだった。

 兄アルウェイの裏切りに打ちひしがれて、さらにその兄の死に絶望してふさぎ込んでいたリュート。そして怒りのままにクロストフを刺し、その後抜け殻のようにへたり込んでいたリュートが今ここに駆けつけたのだった。もちろん今のリュートはそんな抜け殻の様な顔はしていない。むしろ決意に満ちた、どこか吹っ切れたような顔をしていた。

「……どうやら、吹っ切れたみたいだね」

 片膝をついたファンナがリュートを見ながらグッと親指を立て見せる。それを見たリュートはそれに応え、同じようにグッと親指を立てて見せた。

「僕は……僕は決めたんです!兄さんの分も…強く生きるって!」

 そう叫びアレイスローに向けてさらに魔力を送り込むリュート。その様子を見てファンナは安堵したように微笑んでいた。

 実はファンナはここに来る前にサイザーと共にリュートと会っていたのだった。

 町中に溢れかえったナイトメアに対し、サイザーと共にメッツ達騎士団やシンシアたち魔導士団、それに冒険者ギルド所属で悪夢から目覚めた冒険者たちに魔導士ギルドの実戦経験のある魔導士、回復要員として神殿の神官たちに声をかけて回ったファンナ。ドレイク達の様子が気にかかるからというサイザーと共に一度魔導士ギルドの儀式魔法実験場へ立ち寄ったのだ。そこでファンナは泣きながら血まみれの短剣を握りしめて自分の喉元へ向けて震えているリュートを見つけた。そしてその時サイザーが慌てて短剣を取り上げたのだった。

「一体どうしたんだいリュート?」

 泣いているリュートにやさしく問いかけるファンナ。そもそも冒険者ギルドのギルドマスターであるファンナはアルミロンドを拠点にしているセオル兄弟とは面識があった。そして同時に兄アルウェイの危なっかしさや、弟リュートの内気な性格など常々気にかけていたのだ。そしてそんなリュートが短剣を今にも自分の喉に突き刺そうとしていればとめもするし、何があったのか事情も気になる。その上その後ろには寝たままピクリとも動かないアルウェイがいる。気にもなろうというものだ。

「リュート…私だ、ギルドマスターのファンナだ。分かるな?」

「…………はい…」

「一体何があったんだ?」

「………兄さんが………兄さんが…」

 次の瞬間堰を切ったように声をあげて泣き出したリュート。ファンナとサイザーは思わず顔を見合わせたが、リュートに付き添って彼が泣き止むまで慰めていた。

 そしてリュートは少しずつ話し出した。兄アルウェイが裏切り者だったこと。その原因は兄の自分に対する想いだったこと。そして悪夢の中でアルウェイはドレイクに討たれたこと。兄に最後に「強く生きてほしい」と言われたこと。そして目覚め兄の亡骸のそばで泣いていたこと。ドレイクから裏切り者だと教えられたクロストフを短剣で刺したこと。クロストフは逃げたが、自分はそのまま命を絶とうとしたこと。でも兄の言葉が頭をよぎり死ぬことが出来なかったことなどを話した。

 それを聞いたファンナとサイザー。サイザーは「何てことだ……アルウェイが…」と言葉を詰まらせていた。そしてファンナはいまだめそめそしているリュートの両頬をまるで叩くような勢いで両手でピシャッ!と挟むと、無理やり自分の方を向かせた。

「しっかりしろリュート!アルウェイのことは残念だったが、それでもお前は自らの命を絶たなかった!それはお前がアルウェイの言葉をちゃんと受け止めていたからだ!それにもしお前がここで自分の命を絶てばアルウェイの死が無駄になる!私はそう思うぞ」

 そう言ってリュートの瞳を覗き込んだファンナ。リュートは涙にぬれたままの瞳だったがそれでもしっかりとファンナの事を見つめ返してきた。

「リュート、今すぐ立ち直れとは私は言わない。でもお前は芯のしっかりしたヤツだ。だからいずれ必ず立ち直ると信じているぞ」

 そう言うとファンナはリュートから手を離して立ち上がった。

「リュート……敵は強大なナイトメアの王だ。そして現状ナイトメア共が街中で暴れ回っている以上親玉の王が街中に出てこないとも限らない。だから私は切り札を使ってでもナイトメアの王を倒そうと思っている」

「……切り…札?」

 切り札という言葉にピンとこない様子のリュート。ファンナはそこで一冊の魔導書を取り出した。

「この魔導書はアルミロンドの魔導士ギルドに保管されている魔導書の中でも群を抜いた強力な魔法が記されている。この魔法ならば例え悪夢の王が現れても倒せるはずだ。だがこの魔法を使うには多大な魔力が必要になる。だからリュート……お前がもしアルウェイの想いをくみ取り強く生きようというのなら、その力を貸してくれ」

 ファンナはそれだけ言うとサイザーと共に実験場を後にしたのだった。そしてファンナはサイザーと共に街中のナイトメア達を冒険者や騎士団たちと倒しながら強大な魔力を感じ取り、悪夢王カッドイーホと戦うアレイスロー達の元へやってきたのである。

 そして街中でのアレイスロー達と悪夢王カッドイーホとの戦いが白熱する中、リュートは一人アルウェイの最後の言葉を噛み締めていた。「強く生きろ」という言葉を胸に秘めて立ち上がったのだ。今ここで泣いたままうずくまっていたらこのまま一生強くはなれない気がしたのだ。何より、兄アルウェイは確かに裏切り者だったが、それでも自分に向けた想いや言葉は真実だったと信じたかった。事実、最後の瞬間アルウェイは自分が命を落とした後でもリュートには強く生き抜いてほしいと思っていたのだ。そしてリュートは兄のその意思を感覚的なところで感じとることが出来た気がしたのだ。その後リュートは自分の脚で一歩を踏み出し、自らの意思でファンナとサイザーの後を追ってこの戦場へと辿り着いたのである。

「僕の魔力の全てを……アレイスローさんに!」

 懸命に魔力を送り続けるリュート。アレイスローはリュートから送られてきた魔力で『サテライトノヴァ』発動のための魔力がほぼ溜まってきたことを感じ取った。だが同時に………決定的なところでほんのわずかに…本当にほんのわずかに発動に足りないことも感じ取っていた。

(クソッ……せっかくリュートさんが力を貸してくれたというのに……これでは…!)

 そのほんのわずかな魔力の不足がアレイスローに焦りをもたらす。そしてそのアレイスローの表情を見たファンナも事態を察知し、両手を地についていた。

「そんな……これだけ魔力を集めても足りないのか…」

 思わず絶望感が押し寄せてくる。前線でカッドイーホに拘束魔法を放っている魔導士達から魔力を借りることも考えたが、シンシアたち前線メンバーはある意味こちらよりも危険な現場にいる。そのうえカッドイーホの動きを封じるには今いる前線のメンバーだけでは足りないくらいなのだ。これ以上数を減らせば悪夢王は再び好き勝手暴れ始めるはずである。そうすれば最悪ここまで魔力を集めて発動させた魔法を防がれたり避けられたりする可能性がある。それでは意味が無かった。

「どうすれば……」

 ファンナの口から絶望感に満ちた呟きがもれる。

(ここまで来て……ここまで来ておきながら奴を倒せないのか…!)

 ファンナの心が絶望に染まりかける。アレイスローが魔力を集中させながらも額から嫌な汗を流す。このままでは負ける……アレイスローの心にも絶望感がにじみ出てきた。

 ………だが……リュートは全く絶望していなかった。

「まだ……まだです!まだ諦めません!」

 反射的に叫ぶリュート。その瞬間リュートは腰の後ろから1本の杖を取り出した。その杖はリュートが普段使っている魔導士の杖ではなかった。その杖は………クロストフがリュートに脇腹を刺されたときに落としていった杖だった。その杖はわずかばかり光を放ち魔力がこもっていることがうかがえた。

「杖の力を解放する!アルファ・ラー・ミラル・マグレスト……『マジックブースト!』」

 次の瞬間リュートの持った杖が強い輝きを放ち、その輝きがリュートを包み込む。そしてリュートを包み込んだ光はそのまま掌に収束し、そこからアレイスローに向けて注ぎ込まれていった。

「こ、これは……!」

 思わず驚愕の声を上げるアレイスロー。リュートから注ぎ込まれてきた魔力によってついに『サテライトノヴァ』発動に必要な魔力が集められたのだった。


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