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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第19話、力を合わせて その3

     第19話その3


ドゴオオオオオオン!

 カッドイーホの長大な左腕が唸りを上げてストーンゴーレムに直撃する。そしてそのまま通算3体目のストーンゴーレムはあっけなく破壊された。

「おわわわわわわ!」

 アレイスローが慌てながらスミーシャ達の所まで後退していく。

 正直、攻撃と防御両方を期待して創り出したストーンゴーレムだったが、実際にはほとんど防御にしか役に立たなかった。かなりの力があるはずのストーンゴーレムだったが、実際にはその攻撃は単調であり、カッドイーホに殴りかかっても簡単に防がれてしまっていたのだ。そして防御にしてもカッドイーホの攻撃を数発受けるだけでストーンゴーレムはあっさりと破壊されてしまった。正直大して役に立たなかったというのがアレイスローの感想だった。アレイスローが後退する隙を作るために4体目のストーンゴーレムを創り出してカッドイーホに突撃させたが破壊されるのも時間の問題だろう。

 アレイスローはスミーシャ達の所へ行くと、カッドイーホに対して注意を向けながらもローゼリットの容態を確認した。

「ローゼリットさん大丈夫ですか?意識は?」

「血を流しすぎたみたいで……まだ起きてないよ」

 そう言って首を横に振るスミーシャ。正直ローゼリットが抜けるのは戦力的に痛いのだが、さすがにこの状況で無理矢理叩き起こして戦わせるわけにもいかない。

「…回復…魔法…なら…目を…覚ます…と…思う…」

「回復魔法かぁ……」

 フェルフェルの言葉に思わず頭を抱えるスミーシャ。ドレイクとフリルフレアも含めたスミーシャ達のパーティーの回復係は基本フリルフレアだ。彼女の優秀な回復魔法にはかなり助けられている。だが残念なことにフリルフレアはまだ目を覚ましていない。ローゼリットに回復魔法をかけるなど無理な話だ。

「…こんな…時に…霊薬(エリクサー)…もって…いれば…」

 思わずぼやくフェルフェル。最上級の回復薬である霊薬を使えば恐らくローゼリットも意識を取り戻すだろう。だが、残念ながら霊薬は貴重でかなり高価な代物である。買う場所によって多少値段が上下するが、下手をすると1本で5000ジェル以上もすることがある。おいそれと持ち歩けるものではない。フェルフェルも以前は1本持ち歩いていたが、以前フリルフレアに使った後新しく補充出来ないでいた。

「…どう…する…?」

「………とりあえずもう一本ポーション飲ませて……後は様子見るしかないよね…」

 フェルフェルの言葉に苦い顔でそう答えるスミーシャ。この状況で自分に出来ることが何もないことが分かっているだけに心苦しいところだった。

「それしかないですね。スミーシャさん、エクスポーションは?」

「持ってない、ハイポーションだけ」

 アレイスローの問いに首を横に振りながら答えるスミーシャ。アレイスローはフェルフェルにも目配せするが、彼女も首を横に振った。

「…フェルの…エクス…ポーションも…さっき…ので…終わり…」

「とりあえずハイポーションだけでも飲ませとく」

 スミーシャはそう言うと荷物の中からハイポーションを取り出した。そしてローゼリットを抱きかかえると彼女の口に少しずつハイポーションを流し込んだ。

「…スミーシャ…口移し…の…方が…早い…」

「そういうの良いからフェル。ってか、ローゼはあたしが見てるから向こうどうにかしてよ……」

 少し顔を赤くしながらそう呟くスミーシャ。どうやら意識してしまってローゼリットの唇に自分の唇を合わせることが躊躇われるらしい。そしてスミーシャの言葉にアレイスローとフェルフェルはカッドイーホの事を忘れていたことを思い出した。

 慌ててカッドイーホの方を確認する二人。はたして悪夢王カッドイーホは……ベルフルフが一人で抑え込んでいた。

「ウォウウォウウォウゥゥゥゥーーーン!……よっしゃ行くぜ!」

 狼の遠吠えの如き叫びと共にベルフルフの身体が魔力の光に包まれる。ベルフルフの魔剣『ウォークライブレード』の魔力の一つである『ウォークライ』が発動したのだ。これによりベルフルフの戦意は高揚し、さらに身体能力も上昇していた。

「ヒャッハアアァァァァァ!オラオラオラオラオラオラオラァ!行くぜぇ!」

 ベルフルフの魔剣が光速で振り回される。一見メチャクチャに振り回しているだけに見えるベルフルフの剣技だが、その実その太刀筋は全て計算し尽くされたものだった。迫るカッドイーホの触手を最小限の動きで斬り飛ばし、迫りくる巨大な拳を剣先のわずかな動きだけでそらしていく。そして急所がどこかは分からなかったが、それでも確実に急所と思われる場所……人体で言えば急所となる場所へ刃を叩き込んでいく。その凄まじい剣技はそれこそこのまま一人で悪夢王と呼ばれる存在を倒してしまうのではないかと思えるほどだった。

「一人で大丈夫そうに見えますけど……さすがにそういう訳にはいきませんよね」

 ベルフルフの様子を見たアレイスローはそう言って杖を構えた。隣ではフェルフェルが超長距離射程狙撃弩弓に矢をつがえている。

「ベルフルフさん!広域爆裂魔法で行きます!退避してください!」

 アレイスローが魔力と精神を集中させながらベルフルフに向かって叫ぶ。ベルフルフは面倒くさそうに「あん?面倒くせえな。邪魔すんじゃねえよ」とぼやきつつも、大人しくカッドイーホから距離を取っていた。そしてその瞬間アレイスローの杖の先端に魔力が収束する。

「ヴァル・リィズ・イド・ヴェルド・エクス・ヴレア…『オーバーエクスプロージョン!』」

ドゴオオオォォォォン!

 魔法の発動と共にアレイスローの杖の先端の魔力がカッドイーホに撃ち込まれる。そして魔力は収束しカッドイーホの巨体を包み込むほどの大爆発を起こしていた。

「…チャンス…撃ち…抜く…」

バスン!

 アレイスローに続き、フェルフェルがカッドイーホに向けて超長距離射程狙撃弩弓の矢を撃つ。爆発の煙が晴れぬうちに撃ち込まれた矢はカッドイーホに直撃する。そしてフェルフェルはすぐに次の矢を装填しカッドイーホを撃つべく超長距離射程狙撃弩弓を構える。アレイスローも次の魔法を撃つべく杖を構え精神を集中させていた。

「もう一撃!」

「…撃ち…込む…」

 アレイスローとフェルフェルが次の攻撃に移ろうとした、その瞬間だった。

ビュオン!

 完全に次の攻撃の体勢になっていたアレイスローとフェルフェル。その二人に対してカッドイーホの右手の5本の指が高速で迫って来ていた。後方から魔法と矢で攻撃してくる二人をカッドイーホが邪魔者だと認識して排除しようとしたのだ。

 迫る尖ったドリル状の指。ローゼリットを貫いたのと同じその指はアレイスローとフェルフェルにも致命傷を与えかねない。だが、攻撃の体勢を取っていた二人にはとてもではないがこの状況からの回避や防御は不可能だった。

「まずい……」

「…殺られ…る…」

 アレイスローとフェルフェルの額から嫌な汗が流れ落ちた………その瞬間だった。

「危ない!」

ギイィン!

 迫りくる5本の指とアレイスローたちの間に何者かが立ちはだかった。そしてその何者かは手に持った円盾(ラウンドシールド)でカッドイーホの鋭い指を防いでいた。

 それを見たカッドイーホが不快そうにこちらを睨みつけている。そして間に入ったその何者かは額の汗を拭いながらアレイスローたちの方へ振り返った。

「危なかったな……大丈夫かアレイスロー、フェルフェル?」

 そう言って腰の刺突剣(エストック)を引き抜いたのは街でレッサーナイトメアを討伐して回っていたライデンだった。


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