第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第18話、悪夢王 その7
第18話その7
「こ、これは…⁉」
「…なに…これ……ヤバすぎる…」
アレイスローとフェルフェルが目を見開き驚愕の声を発する中、膨れ上がったクロストフの身体がグチャグチャになって魔法陣の中に消えると、次の瞬間巨大な何かが魔法陣を突き破って姿を現した。
「「「「「ぎいやああああああああああああああ!」」」」」
その現れた巨大な何かは聴く者を不快にさせる叫び声をあげるとアレイスローたちの方を見た。
その現れた何かは形容しがたい異様な姿をしていた。
全長は恐らく20m近いだろう。頭には頭髪の代わりに蠢く触手が無数に生えており、顔には瞼が5つある。だがその瞼の中には歯と舌が生えており、その瞼の中が目では無く口であることが分かる。そして逆に顔の下方にある口を開くとそこには巨大な一つの眼があった。身体はオーガの様に浅黒い筋肉質の身体で、右手の指の一本一本からさらにまた右腕が生えていた。また左腕は異様に大きく、長さだけならば体長とほぼ同じ長さがある。さらにその背中からは巨大な虫の様な羽が生えており、下半身は巨大な蛸の脚のようになっていた。もっともその触手の数は蛸の脚の数の比ではなく無数に生えていた。
そんな奇怪な化け物が突如現れ動揺を隠せないアレイスローたち。それでも彼らは冒険者としての本能で反射的に武器を取り出して構えている。だが魔法陣から現れた奇怪な化け物は自分に対して武器を構えているアレイスローたちを一瞥するとすぐに興味を失ったように顔を背けた。そしてゆっくりと周囲を見回した。
「「「「「……ここは……何処だ…?」」」」」
その化け物は顔にある瞼の口一つ一つから声を発した。その声は一つ一つ別の声であり、しっかりハモってはいたが聴き取りづらく聴く者を不快にさせる声だった。そして化け物は再びアレイスローたちの方へ視線を向けた。
「「「「「答えよ……ここは何処だ?貴様らは何者だ?」」」」」
「ああん?何だこの野郎、偉そうに」
「待ってくださいベルフルフさん」
どこか高圧的な態度で見下したように語り掛けてくる化け物。その態度に苛立ったのかベルフルフが魔剣を片手に前に出ようとする。だが、アレイスローは咄嗟にベルフルフをなだめて化け物の方を向いた。
「私たちは冒険者ですよ。あなたこそ何者ですか!」
「「「「「冒険者……つまりはこざかしい人間種共か…」」」」」
アレイスローの言葉を鼻で笑う化け物。アレイスローたちが矮小な人間種であると察したため改めて興味を失ったのだ。そしてアレイスローたちに背を向けるとその虫の様な羽を高速で羽ばたかせその場から飛び去ろうとした。
しかし、次の瞬間…。
「牙狼剣・飛天光牙!」
ズザン!
化け物が背を向けた瞬間ベルフルフが魔剣を振りかぶった。そして魔剣を振り下ろすと同時に光の刃が撃ち出される。これはベルフルフ自身の魔力と魔剣の魔力を混ぜ合わせて刃として撃ち出すベルフルフの技の一つだった。そしてその光の刃が化け物の背中をバッサリと斬り裂いている。
「待てよデカブツ」
「「「「「貴様……何の真似だ…」」」」」
化け物はその奇怪な容姿のため表情を読むことは出来ない。だが声の調子から明らかに苛立っているのが分かった。
「まあそう慌てんなよ。テメエ……悪夢王とかって野郎だろ?」
「「「「「ほう……人間風情が…我を知るか」」」」」
「知らねえよテメエなんざ。ただこれまでの流れでそうじゃねえかと思っただけだ」
そう言って化け物を鼻で笑うベルフルフ。化け物が自分の事を人間達が知っていると思ったことを自意識過剰だと嘲笑しているのだ。だがそのベルフルフの言動に化け物は明らかに気分を害したようだった。
「「「「「貴様……我を…この我を………この悪夢王カッドイーホを愚弄するか!」」」」」
化け物が……悪夢王カッドイーホがそう叫んだ瞬間、カッドイーホから魔力が放出された。その魔力はプレッシャーとなってベルフルフやアレイスローたちに襲いかかっていく。
「チッ!」
思わず舌打ちをするベルフルフ、そのプレッシャー自体には特に何か害がある訳では無かったが、それでもその異様な圧力に不快感は感じる。
「くっ……ヤな感じ…」
「同感ですね……不快感を禁じ得ませんね…」
スミーシャとアレイスローもその圧力に顔をしかめている。その後ろではフェルフェルが不快そうな半眼でカッドイーホを睨んでいた。
そしてローゼリットは………ひっそりと解析眼を発動させていた。クロストフはカッドイーホを復活させると言っていた。だが、その場に現れたこの巨大な化け物が本当に悪夢王カッドイーホかどうかは分からない。だから解析眼を使って化け物が何者であるかを確認したのだ。そしてローゼリットの解析眼により化け物はやはり………悪夢王カッドイーホだという事が分かった。
「チッ……やはり本物か…」
「ローゼ?」
ローゼリットの呟きを聞いたスミーシャが不思議そうにローゼリットの方を見た。そしてすぐに「あ、解析眼…」と気が付くと納得したようにうなずいた。
「なるほどね、本物ってわけか」
「そういう事だ」
頷くローゼリット。すぐにカッドイーホを睨みつけ両手に短剣を構えると、鋭く声を発した。
「アレイスロー!フェルフェル!ベルフルフ!私の解析眼で確認した、奴は悪夢王カッドイーホで間違いない!そして奴の力は現在6~7割程度だ!」
「「「⁉」」」
ローゼリットに対して思わず驚きの表情を向けるアレイスロー達。カッドイーホの力が7割程度とはどういうことなのか……?
「恐らくだが、ヤツは必要な分の魔力や恐怖、絶望と言ったエネルギーが十分じゃない状態で復活した可能性がある⁉それなら奴の力が不足しているのも頷けるからな!」
ローゼリットの言葉にアレイスローたちは頷きあっている。
「なるほど、確かにそれならばあり得る話ですね」
「…それって…つまり…」
アレイスローとフェルフェルが思わずベルフルフの方を見る。その視線を受けてベルフルフはわざとらしく牙を見せつけるようにニヤリと笑った。
「つまりは……悪夢王とか言って調子に乗ってやがる野郎をぶっ倒す絶好のチャンスだってことだろ!」
次の瞬間ベルフルフは魔剣を構えてカッドイーホへと飛び掛かっていった。




