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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第3話、消えてゆく者達 その1

     第3話、消えてゆく者達


     第3話その1


「今日はこのあたりで野営をしましょう」

 アレイスローのその言葉に全員が足を止めた。その場所は山の頂上近くながら開けた平地になっており、野営をするには申し分のない場所だった。

「オイラちょっと周りを見てくるぜ」

 そう言って荷物を置くとそのまま駆け出していくランビー。その様子を見ていたバレンシアは「やれやれ」と言いながら肩をすくめた。

「相変わらずせわしない奴じゃ。さて、ならば妾はテントの準備をするか」

「フェル…手伝う」

 テントを広げて組み立てようとするバレンシアに、フェルフェルが手を貸す。その様子を見ながら、フリルフレアは転がっている大き目な石を組んで焚火の準備を始めた。

「ドレイク、薪拾ってきて」

「りょーかい」

 そう答えるとドレイクは荷物を置いて薪になる木の枝を探しに行った。

「私はこのあたりに水源が無いか探してきます」

 そう言ってこの場を離れようとするアレイスロー。しかしそれをフリルフレアが引き止めた。

「待ってくださいアレイスローさん。水なら問題ありません」

 そう言って持っていた荷物の中から大きな鍋を取り出すフリルフレア。

「あのアレイスローさん、何か水を溜めておけるものってありますか?」

「水を溜めておけるものですか?そうですね……こんな物で良ければ」

 そう言うとアレイスローは金属製の折り畳み式のバケツを3個取り出した。

「水を溜めておけるものとなるとこれくらいしか……」

「いえ、これで十分です。お借りしますね」

 そう言うと広げたバケツや鍋の上に手をかざすフリルフレア。

「アクセス。水の精霊ウンディーネよあなたの命の滴を私に分け与えて…『メイクウォーター』」

 かざしたフリルフレアの掌から水があふれ出す。それを鍋やバケツに注いでいくとすぐにいっぱいになった。

「水を作り出す精霊魔法ですか……これは便利ですね」

 感心するアレイスローに、「えへへ」と頭を掻きながら照れるフリルフレア。

「まあ実際は水を作り出すんじゃなくて、水の精霊界から水を呼び出してるんですけどね」

「そうなんですか。ですが便利であることに変わりはありませんね」

「いえ~、そんな……えへへへ」

 褒められてうれしいのかまだ照れているフリルフレア。その後ろには周囲を警戒し見回していたチックチャックと、何やら考え込んでいたオルグが立っていた。

「念のためあたりを見回りしてくる。何か危険物が無いとも限らん」

 そう言うとその場を離れるチックチャック。それに対しオルグは未だ何か考え込んでいた。フリルフレアがそんなオルグを不思議そうに見つめる。

「あのオルグさん、どうしたんですか?」

「ふむ?何かねフリルフレア君」

「いえ、何か考え込んでらっしゃったみたいなので……」

 そう言ったフリルフレアに対しオルグは腕を組むと、困ったとでも言いたげに頭をひねっていた。

「いや何、どうするべきかと思ってね……」

「?……何をですか?」

「テントの中と外、どちらで寝るべきかと思ってね」

「………………は?」

 オルグの言葉にしばらく言葉を失うフリルフレア。真剣な顔で何を考えていたのかと思えば、非常にどうでもいい事だった。

「オルグよ。テントは妾達女子用じゃ、おぬしはテントの外で寝るがいい」

「何と⁉いま最も勢いのある名探偵である吾輩を差し置いて、助手である君たちがテントの中で寝るというのかね?」

 心外だと言いたげなオルグ。しかしその言葉にバレンシアとフェルフェルがジト目を送る。

「助手……誰?」

「これオルグ!妾達を勝手に助手扱いするでない!」

 文句を言うフェルフェルとバレンシア。その言葉にオルグは再び心外だと言いたげな顔をした。

「吾輩の助手という栄誉を授けたというのに何が不満なのかね?まったく……仕方がない、助手はフリルフレア君で良いか」

「わ、私ですか⁉」

 驚きの声を上げるフリルフレアだったが、当のオルグは何が不満なのか分からないと言いたげだった。

「バレンシア君も、フェルフェル君も後で後悔しても知らぬぞ?仕方がない、助手のフリルフレア君は吾輩と一緒に外で寝る……」

「わ、私はドレイクの相棒なんで!」

 お断りしますと言いそうな勢いで両手をバタバタと振るフリルフレア。その様子に目つきを鋭くしたオルグはフリルフレアの顎を指でつまむとクイッと自分の方を向かせた。そしてフリルフレアの紅い瞳を覗き込む。

「何だねフリルフレア君。吾輩よりもリザードマンのドレイク君の方が良いと言うのかね?リザードマンとバードマンよりもヒューマンとバードマンの方が夜の相性は良いと思うのだがね?」

「へ?夜の相性?」

 ポカンとするフリルフレア。設置中のテントの横でフェルフェルがフリルフレアと同じような顔をしていたが、その横ではバレンシアがオルグに鋭い視線を送っていた。

「オルグよ、夜の営みがしたいんじゃったら一人でアラセアへ帰るが良いわ。冒険者は仕事の最中は無駄な体力を使わぬようにするものなんじゃ」

「そうですよ。下手をすれば命取りになりますからね」

 アレイスローもバレンシアに同意とばかりに頷いていた。

「わ、吾輩はただ…吾輩と夜を共にするという栄誉を彼女たちに分け与えてあげようと……」

「アラセアでどれだけチヤホヤされていたのかは知らんが、少なくとも冒険者にとっておぬしと寝る事なぞ何の得にもならぬわ」

 きっぱりと言い捨てるバレンシアに、「グヌヌヌ」と唇を噛むオルグ。そんなオルグの様子を見ながらフリルフレアは「名探偵ってこんなのだったっけ……」と幻想が打ち砕かれていく思いだった。数年前にラングリアの図書館で読んだ小説に出てくる名探偵はもっとキリッとしていて格好よかった気がする。ため息をついたフリルフレアはそのまま食事の準備をすることにした。

 カバンの中から小さなまな板を取り出すと、マゼラン村で分けてもらった食材を取り出した。肉はさすがに腐ってしまうかもしれないの干し肉だったが、野菜は生のものを分けてもらえた。そしてちょうどいい土台が無かったので宝珠を入れている箱の上にまな板を置き、その上でナイフを使って野菜を切り始める。

「食事の準備かえ?」

「はい、どうせドレイクがたくさん食べるので今日は私が作りますよ」

「なるほど、確かにドレイク殿はよく食べる様じゃからな」

 そういうとバレンシアはテントを止める杭を打ち、テントを完成させた。そして手の埃を払うとフリルフレアの傍に近寄ってきた。

「何を作るのじゃ?」

「これは干し肉で出汁を取った野菜スープです」

「ほう、良いのう」

 満足げに頷いているバレンシア。そこにアレイスローとフェルフェルも近寄ってきた。

「野菜…スープ…良い」

「そうですか?私としてはスープよりも肉のたっぷり入ったシチューの方が好みなんですが……」

 口々に自分の意見を言うフェルフェルとアレイスロー。その二人の様子にふと気が付いたフリルフレアは手を止めて二人に視線を向けた。

「そう言えば、フェルフェルさんってもしかして鶏肉と卵、苦手ですか?」

「…うん。…フェル…鶏肉と…卵…食べれない」

「ほう、よく分かったのうフリルフレア」

 感心するバレンシア。褒められてちょっと照れたフリルフレアはフェルフェルに視線を送った。

「バードマンって本来は鶏肉とか卵を食べないって聞いたもので……私はヒューマンに育てられたので普通に食べますけど」

「そう…フェルも…他のお肉は…食べれる…」

 そう言って微笑み合うフリルフレアとフェルフェル。そしてフリルフレアは今度はアレイスローに視線を向けた。

「アレイスローさんはお肉食べられるんですか?」

「私ですか?私は肉、大好きですよ?」

「え?そうなんですか?」

 先ほどのスープよりシチューの方が良かった発言は聞き間違いじゃなかったと気付くフリルフレア。

「あれ?でもロックスローさんは……あ、でもあのロックスローさんは偽物だったわけだし……?」

「兄に化けていたそいつが何と言っていたかは知りませんがね、エルフでも冒険者となると普通に肉を食べますよ」

「そ、そうなんですね」

「まあ私はともかく、確かに兄は肉を食べませんでしたけどね」

「そうなんですか?」

「ええ、兄は極度の偏食だったので肉はおろか魚もチーズも生臭物は一切食べませんでした。ひたすら生の野菜が好きで、よく生野菜に塩を振ったものをバリバリ食べながら白の葡萄酒のガブガブ飲んでいましたよ」

「バリバリ?……ガブガブ?」

 その擬音がロックスローのイメージと結びつかず頭に?マークを浮かべるフリルフレア。

「兄は偏食でしたが大食いだったので滅茶苦茶野菜食べてましたよ」

「えっと……エルフの秘伝の兵糧丸は……?」

「よくご存知ですね。あれも兄は好きでよく自作していましたよ。肉好きの私の口には合わないのですがね」

 そう言って肩をすくめるアレイスロー。バルゼビュートは別段ロックスローをまともに演じていた訳で合は無かったんだと改めて気付かされた。

「おーい、戻ったぞ」

 その時そんな声と共にドレイクが戻ってきた。途中で合流したのかその後ろにはランビーも続いている。二人ともかなりの木の枝を担いでおり、ドレイクに至っては左腕に鹿らしき動物を抱えていた。鹿らしきと曖昧な表現だったのは、その動物の首が無かったからだった。

「でっかい鹿を捕まえたぞ、焼いて食おうぜ」

「……………」

 さすがに鹿を捕まえてくるとは思っていなかったので言葉を失うフリルフレア。しかし、バレンシアは「ほほう、見事じゃのう」と感心しており、フェルフェルとアレイスローは「フェル…鹿なら…食べれる」「鹿肉ですか、良いですね」と食べる気満々だった。

「どうでも良いけど、こいつ走って鹿に追いついたんだぜ……」

 信じられないと言いたげなランビー。大柄なくせに意外と素早いドレイクが信じられないのだろう。

「どうでも良いが、こんな大きな鹿、誰が捌くのじゃ?」

「まあ、任せておけ」

 そう言うとドレイクは大剣を引き抜く。そして鹿の身体を横たえると、そのまま大剣を振り被った。

「てりゃっ!」

 ドカンドカンと振り下ろされるドレイクの大剣。気が付けば鹿の身体は4分割されていた。

「………それでその後どうするの?」

 若干冷たいフリルフレアの言葉が響く。そして大剣を鞘に納めたドレイクは腕を組むとフリルフレアに視線を向けた。

「あとは任せた」

「ミィィィ!ほらぱっやり私任せじゃない!」

 盛大にため息をつくフリルフレア。そして仕方ないとばかりに短剣を引き抜くと、鹿の切り身を皮を剥ぐようにして切り開き肉を取り出していった。その手際の良さはかなりのもので、瞬く間に肉が切り出されていく。

「ふむ。大したものだねフリルフレア君。吾輩のために頑張ってくれたまえ」

「いや、別にオルグさんのために頑張っているのではないと思いますが……」

 言いにくそうにツッコミを入れるアレイスロー。その後ろでは見回りを終えて戻ってきたチックチャックが何事だと言いたげな顔でこちらを見ていた。


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