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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第18話、悪夢王 その4

     第18話その4


 にやにやと気味の悪い笑みを浮かべていたクロストフはハッと我に返った。手元には四角く折りたたんだ手拭いと水瓶、たった今水瓶の中の水を手拭いにたっぷりとしみこませているところだった。

「危ない危ない、妄想で満足して好機を逃すところだった」

 思わずそう自嘲気味に呟くクロストフ。妄想の中でリュートを殺し、ドレイクとフリルフレアも殺したクロストフだったが、それで満足するわけにはいかない。そもそもクロストフにとって今回の殺しは邪魔者を消し去るという以上の意味があるのだ。

 そもそもクロストフがカッドイーホの復活を目論んだのはアルミロンドの西にある遺跡をひそかに調査したことがきっかけだった。そこで封印された悪夢王カッドイーホの声を聴き、悪夢の王である自身の復活に手を貸せば褒美としてナイトメアにしてやると言われて今回の事を目論んだのだ。まあ目論んだといっても今回の事件のほとんどはカッドイーホ自身が計画したことであり、クロストフはほとんどそれを補佐していただけにすぎなかったのだが……。

 そもそも、クロストフがなぜナイトメアになることを望んだかというと、それは彼の異常な性癖が原因だった。クロストフは人を……特に美少年や美少女を苦しめて殺すことに異常な性的興奮を覚える人間だった。さらに言えば年齢もある程度若い方が良い。幼い方が良いと言っても良いかもしれない。最高なのは7~12歳位の美少女を苦しめて殺すことだ、それが一番興奮するだろう。だが、それより年上でも美少年や美少女ならばできるだけ苦しめて殺したいという欲求を常々持っていたのだ。

 実際クロストフは魔導士ギルドのギルドマスターをする傍らこっそりと転移魔法を用いて遠くの街へ赴き、そこで美少年や美少女を誘拐して連れ帰り、こっそり苦しめて殺したりして楽しんでいたのだ。もちろん殺した後の死体は魔法で完全焼却するので証拠は何一つ残らない。それに遠くの街から被害者をさらってきているので自分が疑われることもないだろう。

 正直今までで一番クロストフが興奮した殺しは1年ちょっと前に遠くの街からさらってきた8歳位のヒューマンの少女を殺した時だった。その時はその8歳の幼い少女の身体を厳重に縛り上げたうえで口の中にたっぷりと布を詰め込み、さらに鼻の上から顎の下までをスッポリと覆うように手拭を厳重に巻き付け猿轡をしていた。そしてその少女をあおむけの状態で台座に固定し、顔を動かせないようにしたうえでその猿轡に向かって数滴ずつ水滴を垂らしていったのだ。最初水滴は猿轡の手拭いにしみ込み何の意味もなさないように思えた。だが、水滴がだんだんしみこんでいき、手拭がじっとりと濡れていったときにその行動の意味が発覚したのだ。水で濡れた手拭いは空気を通さない。よって少女は手拭いが濡れていくにつれてだんだんと息苦しくなっていくのだ。だんだん、だんだん少しずつ苦しくなっていく。そして手拭いが完全に濡れて呼吸を塞ぎ切った時には少女は眼を見開いて涙を流したまま必死になって空気を求めて暴れていた。だが、その行為も虚しく肺の中に空気が入ってくることは無かった。そして少女は恐怖と絶望の中たっぷりと時間をかけて苦しみぬいて死んでいったのだ。クロストフにとってはこうやって美少女や美少年を苦しませて殺すのが何よりも興奮するのだった。だが、もちろん罪もない少年少女がそんな残酷な殺され方をすれば騎士団や自警団が黙っていないし冒険者が動くかもしれない。そう思って死体は処理してきたのだが、今度は行方不明事件として結局捜査は開始されることとなった。もっともそれらはアルミロンドから遠く離れた街での調査なのでクロストフの名前が容疑者として挙がることは無いだろう。だがそれでも多少の不安はあるし、毎回毎回遠くの街まで転移魔法で獲物を探しに行くのも大変だった。そんなときにクロストフはカッドイーホの声を聴き、ナイトメアになることの利点を発見したのだった。

 ナイトメアになれば自由に悪夢を造ることが出来る。そうなればわざわざ転移魔法で遠くの街まで行かなくても好きに人間達を悪夢に引き込むことが出来る。それに悪夢の中で好きなように殺して、現実でその人間が命を落としてもその死体は特に汚れもなくきれいなままだ。当然現実では死因など分かるはずもなく、謎の不審死となるが、行方不明などになって下手に捜索されるよりずっと良いし、死体の始末もする必要が無い。それにナイトメアが悪夢を自在に操れるという事は、クロストフがナイトメアになれば悪夢に連れ込んだ少年少女たちを好きなように好きなタイミングで殺すことが出来る。それも思いっきり苦しめて殺すことが出来るのだ。クロストフにとって被害者の苦しむ顔が見れて最も価値のある殺し方は窒息死だったが、他にも斬殺、撲殺、焼殺どれもありだった。そしてそれらを自由に行うことが出来るナイトメアになるという事はクロストフにとってこの上なく魅力的な提案だったのだ。

 クロストフはほくそ笑むと手拭いを懐にしまい込んだ。まずは騒がれる前にリュートを殺さなければならない。そしてその上で邪魔なドレイクを殺し、最後にフリルフレアをたっぷりと苦しめて殺す……クロストフの頭の中はもう先ほどの妄想でいっぱいになっていた。

 クロストフは頭の中で妄想という名の犯行のシミュレートを行いながら足早に儀式魔法の実験場へと向かった。そしてすぐに実験所に到達すると入口の扉の前で軽く深呼吸した。

 殺しをする前はいつものことだが、やはり少し緊張する。同時に期待に心臓が高鳴っている。高揚感の様なものさえ感じていた。

(さあ、まずはリュートを殺して……彼はどんな苦しむ姿を見せてくれるかな)

 緊張のせいか少し震える手で扉を上げる。

キイィィィ……。

 建付けが悪いのか軋んだような音を立てて扉が開いた。

(チッ!………余計な音を…!)

 思わず心の中で舌打ちするクロストフ。それでも何とか身体を実験場の中に滑り込ませて扉を閉める。閉める時もやはり小さくキイィィィ…と音を立てる扉。思わず本当に舌打ちしそうになるのを必死にこらえたクロストフ。このまま扉に鍵などかけていたら音で完全にばれてしまうかもしれない。残念ながらこの扉は内側からでも鍵を使わないと鍵を閉められないのだ。クロストフは仕方なく鍵をかけるのは諦めて実験場の中を見回した。予想通り中の中央付近にドレイクとフリルフレアが眠っており、その近くで横たえられたアルウェイの死体を前にリュートが泣いているのが分かった。そして都合の良いことにリュートはクロストフに対して背中を向けていた。思わず内心ほくそ笑むクロストフ。こっそりと忍び足でリュートの背後に近づいていった。自然と心臓の鼓動が早くなっていく、呼吸も心なしか荒くなっているが緊張と期待が入り混じった精神状態のクロストフはそのことに気が付いていなかった。そしてリュートの背後から近づいて懐から手拭いを出し、リュートを抱え込むべく両手を広げた。

 そして次の瞬間……。

「………クロストフさん…」

「え⁉」

 背中を向けたままのリュートに呼びかけられ思わず声を上げるクロストフ。

(しまった!思わず声を上げて……)

 声を上げてしまったことを後悔するクロストフ、これでリュートに気付かれてしまったと思ったが、そもそもリュートの方から声をかけてきた時点で既にクロストフの存在に気が付いていたのだと気付く。

「ど、どうしたのかねリュート君……な、何かあったのかね?」

 平静を装いリュートに声をかけるクロストフ。だが実際には声は上ずっていた上にどもってしまっていた。

「兄さんが……兄さんが死んでしまったんです………」

 落ち込んだ声でそう言ってくるリュート。その言葉にクロストフは胸をなでおろす。リュートは兄の死がショックで落ち込んでいるのだ。ならば今は慰めるように近づきそこで隙をついて襲い掛かればいい。そう決意し、さらにゆっくりと近づくクロストフ。

「兄さん……裏切ってたんです……ナイトメアとつながってて………兄さん自身もナイトメアになってたんです……」

「そ、そうなのかね……それはショックだっただろう、かわいそうに…」

 そう言いつつもリュートを押さえつけるため両手を広げて近づいていくクロストフ。そしてリュートのすぐ背後まで来た時だった。

「………あなたが、兄さんをたぶらかしたんですか?」

「え?」

 とっさにリュートの言った言葉の意味が理解できず間抜けな声を上げるクロストフ。だがそれに対して振り向いてクロストフの方を向いたリュートは涙にぬれた瞳でクロストフの事を睨みつけていた。

「裏切り者のあなたが……兄さんをたぶらかしたのかって訊いたんですよ!」

 そう叫んだリュート。怒りと悲しみのあまり震えているその手にはアルウェイの予備の武器である短剣が握られていた。そしてリュートは感情のままに両手で握りしめた短剣を突き出し………。

サシュッ!

 リュートの持った短剣がクロストフの脇腹に突き刺さっていた。



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