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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その6

     第2話その6


「グルルルルルルル!」

 唸り声をあげる2体のキマイラ。それに対する様にドレイクとバレンシア、チックチャックが武器を構えて立ちふさがる。さらにその後ろにはアレイスローとランビー、フェルフェルが続いていた。そしてフリルフレアとオルグはさらにその後ろに控えていた。

「なななな何かね⁉あの化け物は⁉」

 オルグがアレイスローの後ろに隠れながらキマイラを指差した。

「あれはキマイラという魔物です。なかなか厄介な魔物ですのでオルグさんは下がっていてください。フリルフレアさん、オルグさんの警護をお願いします」

「え?あ、はい。分かりました!」

 アレイスローの指示で慌ててオルグに付き添うフリルフレア。ドレイクが何も言わないところを見ると、アレイスローに指示に納得している様だった。

 そしてそうしている間に最前線はキマイラに斬りかかる。

「デアリャアアアアア!」

「はああああああ!」

「せいやああああ!」

 雄叫びと共に斬りかかるドレイク、バレンシア、チックチャックの3人。ドレイクの一撃はキマイラの肩口から胸部の辺りを斬り裂き怯ませる。一方バレンシアとチックチャックの斬撃はもう一方のキマイラの前足や山羊の顔にダメージを与えていた。

「ゴルアアアアアア!」

「グルルルルル!」

 唸り声をあげる2体のキマイラ。内1体は目の前のドレイクに襲い掛かるとそのまま獅子竜山羊の3つの首で食らいつこうとしてくる。

「オルアアアアア!」

 次の瞬間大剣を左手に持ち替えたドレイクの右の拳が唸りを上げた。そして凄まじい勢いで中心の獅子の頭に拳を叩き込む。

「ギャウン!」

 悲鳴のような叫び声を上げるキマイラ。だがすぐに体勢を立て直すと再びドレイクの襲い掛かった。

「は!」

ガキィン!

 激しい音を立ててドレイクの大剣とキマイラの獅子や竜の牙がぶつかり合う。そしてそのまま圧し掛かろうとするキマイラ。しかしドレイクはキマイラの巨体からなる衝撃をしっかりと受け止めていた。

 一方のバレンシアとチックチャック。こちらの対するキマイラはその鋭い爪を何度も素早く繰り出してきた。しかしそれらはチックチャックの大盾(ラージシールド)によってことごとく阻まれていた。そしてその隙に薙刀を繰り出すバレンシア。薙刀を回転させ、時に斬り払い、時に突き刺す華麗な演舞の様なその連撃にキマイラは傷だらけになり追い込まれていく。そして同時にチックチャックの長剣もキマイラの爪を弾き、脚や顔を斬り裂いていった。

「行きますよバレンシアさん!『エナジーブラスト!』」

 そして援護とばかりにアレイスローの魔法が何度も飛来する。低級、中級の呪文魔法を無詠唱で発動できるアレイスローにとって低級魔法を無詠唱で連発することなど容易い事だった。

「そろそろ決めるそ、チックチャック!」

「心得た!」

 次の瞬間チックチャックが大盾を正面に構えて突撃する。そしてそのまま大盾ごとキマイラに体当たりする。強烈なシールドバッシュに体勢を崩すキマイラ。そしてその隙をついてバレンシアの薙刀が閃く。

「せい!はあ!」

 キマイラの前足2本を斬り裂くバレンシア。その斬撃は骨の半ばまで達していただろう、斬り飛ばすとまではいかなかったが前足を行動不能にしたのは間違いなかった。

「今じゃ!アレイスロー!」

「了解しました!『ライトニングジャベリン!』」

 アレイスローに突き出した杖の先端から電撃の槍が撃ち出される。

ズガガーーン!

 轟音を上げて撃ち出された電撃の槍はキマイラの腹を撃ち貫いていた。そのまま声もなく倒れ込むキマイラ。その身体は砂の様に崩れ消え去っていった。

「よし!ドレイク殿、すぐに加勢を!」

 バレンシアがそう言ってドレイクに向き直った瞬間だった。

バスッ!

 何かが爆ぜる様な音。そして次の瞬間「ガアアアアア!」とキマイラが叫びをあげる。見ればフェルフェルの撃ち出した弩弓の矢がキマイラの獅子の眼に突き刺さっていた。

 それを見てニヤリと笑うドレイク。

「やるじゃねえかカワセミ。あとは任せとけ!」

 そう言うとドレイクは全身の筋肉に力を込める。そして叫び声を上げながらも自分に圧し掛かろうとしているキマイラを押し返し、そして弾き飛ばす。

「おおおおおお‼」

 弾き飛ばされ体勢を崩すキマイラ。そしてそこに追い打ちをかける様に大剣を肩に担いだドレイクが迫ってきていた。

「チェストオォォォーーー!」

ザバァン!

 ドレイクが振り下ろした大剣は激しい音を立ててキマイラの胴を両断していた。砂の様に崩れて消えていくキマイラを見ながら一息つくドレイク。

「ようカワセミ、助かったぜ」

 大剣を鞘に戻しながらフェルフェルに向かってそう言うドレイク。しかし、それを言われた当のフェルフェルは意味が分からず周囲をキョロキョロと見回し、そしておずおずと自分の事を指差した。

「カワセミ…フェル…のこと?」

「おお、そうだが?」

 ケラケラ笑いながらそう言うドレイク。そこにオルグの隣から戻ってきたフリルフレアが怒りながら怒鳴ってきた。

「ちょっとドレイク!また変なあだ名付けて!フェルフェルさんすいません、ウチのドレイクが勝手に変な呼び方して…」

 そう言って頭を下げるフリルフレア。そしてドレイクをキッと睨みつける。

「バレンシアさんの名前は覚えられて何でフェルフェルさんの名前は覚えられないのよ!」

「いや、だって……フェルフェ……って、長すぎて…」

「そこまで覚えられてるのに何で覚えられないの⁉あと1文字だよ1文字⁉」

 相変わらずのドレイクに頭を抱えるフリルフレア。

「覚えにくい…なら…フェル…でも構わない」

 そう言ってくるフェルフェルにフリルフレアは瞳に涙を滲ませながら彼女の手を握りしめた。

「ありがとうございますフェルフェルさん!ほらドレイク!これなら覚えられるでしょ!」

「え?いや、えーと……フェ…フェ……フェラ?」

 ドレイクの言葉に、隣で話を聞いていたランビーが「ブフー!」と吹き出してそのまま爆笑し始める。

「フェ、フェ、フェラフェラってことか?ぎゃはははははは!」

 ランビーの爆笑があたりに響く。しかし爆笑こそしていないものの、アレイスローも肩を震わせて「く、くくく」と笑いを堪えていたし、オルグは「ドレイク君、それはいくらなんでも酷いな」と言いつつも、声を上げて笑っていた。バレンシアに至っては「何じゃドレイク殿、もしやご無沙汰で溜まっておるのかえ?」と妖艶な笑みを浮かべていた。対してチックチャックだけは「下ネタとは…くだらん」と不愉快そうにしていた。

 ちなみに話の中心だったフリルフレアとフェルフェルの2人はその「フェラ」が何を意味するのか分かっていないみたいだった。

「もう、みなさん何笑ってるんですか?はあ……良いドレイク、フェルフェルさんだからね!フェ・ル・フェ・ル・さん!」

「分かったよ……フェ…フェ…えーと………カワセミ」

「もうー!何でそうなるのよ!」

 あまりに名前を覚えないドレイクに、いい加減にしてほしくなるフリルフレア。しかし言われた当のフェルフェルはあまり気にしている様子は無かった。

「フェル…別に…カワセミでも…良い」

「そんな、フェルフェルさん!」

「ほら見ろ!本人がいいって言うんだから問題ないだろ」

「ムムムム……」

 勝ち誇るドレイクに対し悔しそうにドレイクを睨みつけるフリルフレア。しかしその横ではフェルフェルが首を傾げていた。

「ところで…何で…カワセミ?」

「あ、それは確かに気になりますね」

 そう言って口を挟んでくるアレイスロー。確かに何故カワセミなのか気になるところではある。

「いや…単に何かカワセミみたいな青い羽根をしてるから……」

 そう答えるドレイク。その横ではフリルフレアが頬を膨らませていた。

「何よそれ。私の時は適当に『羽根が赤いから赤羽根』とか言ってたくせに!」

 またまた涙目で睨みつけるフリルフレア。どうやらフェルフェルのあだ名がちょっと考えられていたものであり、それに対し自分のあだ名が単純な理由で付けられていた物であることに嫉妬している様子だった。

「それだったら私の時だってもうちょっと考えたあだ名をつけてくれても良かったじゃない!」

「いや、だって赤い羽根の鳥なんて知らねーし……」

「良いじゃない!『鳳凰』とか『不死鳥』とか『火の鳥』とかでも!」

「まあそれなら確かに赤そうだが……それじゃこれから『フェニックス』とか呼ぶか?」

「もう今は名前で呼んでるからいいの!」

 むくれながらそう言うフリルフレアに、ドレイクは「それなら別にいいじゃねーか」と小声で呟いていた。

「しかしドレイク殿」

 そこにバレンシアが口を挟む。バレンシアは何か思うところがあるのか、腕を組んで何やら考え込んでいた。

「人の名前を覚えるのが苦手とか言っておったが、もしや皆の名も覚えておらぬのか?」

「何言っているんだ、バレンシア・ワーグナーだろ?ちゃんと覚えてるぞ」

 そう言ってちょっと得意げな顔をするドレイク。その横ではフリルフレアが「ドレイクがファミリーネームまで覚えてる!」と驚いていた。

「ドレイク殿、妾の名を覚えてくれるのはありがたいが、他の者達はどうなのじゃ?」

 そういうとバレンシアは試しにアレイスローを指差した。

「あ奴の名は?」

「え~と……ア、アレイ………金髪優男弐号……いや長いから弐号だな」

「弐号さん?」

 ドレイクの言葉を聞いたフリルフレアがアレイスローの方を見る。アレイスローは複雑な顔をしながら頭を掻いていた。

「その……『弐号さん』だと愛人みたいなので……出来ればやめてほしいんですけど…」

「ほら見ろ、さん付けはいらないからやっぱり弐号だ」

「いや、出来れば弐号の方をやめてほしいんですけど……」

 何やら得意げなドレイクにアレイスローの言葉は届いていなかった。

 その様子を楽しそうに見ていたバレンシア。次にランビーを指差す。

「ランビーはどうじゃ?」

「こいつはコソ泥だな」

 ドレイクの言葉に顔を真っ赤にして怒るランビー。

「何だよコソ泥って!せめて大怪盗とか義賊とかそういうのにしろよ!」

 食って掛かるランビー。しかしドレイクは特に気にせず「元スリなんだろ?やっぱりコソ泥じゃんか」と言って鼻で笑っていた。

「これこれランビー、あまり騒ぐでない」

 そう言いつつも少し楽しそうなバレンシア。ドレイクがみんなにどんなあだ名をつけるのか楽しんでいる様子だった。

「フェルフェルはカワセミじゃったし……チックチャックはどうじゃ?」

「こいつは…え~と…白鎧野郎…」

「俺の名が覚えられないというのなら、『白騎士』と呼んでもらおう!」

 ドレイクが白鎧野郎と言い切る前にチックチャックが言い放った。彼の不機嫌そうな様子から、ドレイクに勝手に仇名を付けられるのが気に喰わないらしい。

「え?白騎士?」

 ドレイクは疑問の声を上げたが、チックチャックはいたって真面目だった。ドレイクに決められるくらいならと自分で仇名を考えたらしかった。

「いや、でも白鎧野郎の方が覚えやす…」

「白騎士だ!」

 ドレイクの言葉を遮って有無を言わさぬ口調で言い切るチックチャック。それを聞いたドレイクは仕方ないとばかりにそれを認めた。

「分かった白騎士だな」

 ドレイクの言葉に満足そうに頷くチックチャック。その後ろではいつの間に回り込んだのかオルグが首を突っ込んできた。

「何やら謎の気配がする。吾輩に解けぬ謎は無いぞ?」

 そう豪語するオルグを指差して、バレンシアはため息をついた。

「オルグのことは何て呼ぶのじゃ?」

「え?迷探偵で良いんじゃないか?」

 バレンシアの質問に即答するドレイク。

「そうだよね!やっぱりオルグさんは名探偵なんだ!」

 フリルフレアが瞳をキラキラさせて両手を握りしめている。探偵という職業に憧れでもあるのか、尊敬の眼差しを向けていた。

「いや、迷う方の迷探偵」

 ドレイクの言葉にオルグ本人が不満を口にする。

「待ちたまえ。吾輩の様な名探偵を捕まえて、何処に『迷う』方の『迷探偵』となる要素があるというのだね?」

 そう言って自信たっぷりに胸を張るオルグ。しかしドレイクは胡散臭いものでも見る様な眼でオルグを見ていた。

「そうは言っても、今のところ何の役にも立ってないからな。なあ迷探偵」

「グヌヌヌ」

 口惜しいとでも言いたげにオルグは唸り声をあげていた。


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