第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その4
第2話その4
ドレイクとフリルフレアがアレイスローに続いて部屋に入ると、テーブルの上にたくさんの料理が並んでいた。外を見ると既に薄暗くなっており、夕食にはちょうど良いい時間だった。
「この料理は?」
「この村の村長さんの奥さんと娘さんが用意してくれたんです。何でも冒険者行方不明事件の現場がこの近辺という噂のせいで村の信用が失墜しているらしく……事件調査のために来た私達を歓迎してくれたのですよ」
ドレイクの言葉にそう答えるアレイスロー。「どうです?一緒に食事をしながらお互いに自己紹介するというのは?」というアレイスローの提案に二つ返事で答えたドレイクは嬉々として席に着いた。そんなドレイクの卑しい態度に顔を赤くし、恥ずかしそうに顔を俯かせたフリルフレア。遠慮がちにドレイクの隣に座った。
「もう!恥ずかしいからもうちょっとお行儀良くしてよ!」
「行儀じゃ腹は膨れないだろ」
恥ずかしそうに小声でドレイクを叱るフリルフレアだったが、ドレイクにまったく反省した様子は無かった。
そんなドレイクとフリルフレアの様子をアレイスローたちは笑いながら見ていた。
「後で村長さんに話しておきますから、ドレイクさんとフリルフレアさんも今夜はこの離れに泊っていくと良いでしょう」
「何から何まですみません、アレイスローさん」
「恩に着るぜ、え~と……金髪優男弐号」
「ちょっとドレイク!…また変な呼び方して!」
「いやだって……アレ…スロ…?って長くて覚えづらいから」
「もう……本当にいつもいつも…」
そう言って恥ずかしそうに両手で顔を隠すフリルフレア。当のドレイクは早く食事にありつきたいとばかりにうずうずしていた。
「あの~、出会った時から気になっていたのですけど、その金髪優男って言うのは……もしかして兄のことですか?」
「はい、そうなんです。実はこのドレイク、どういう訳か人や物の名前を全く覚えられないほどお馬鹿で……」
「おい待てフリルフレア!誰がお馬鹿だ!」
「ミィィィ、ドレイク以外にいないでしょ?」
ドレイクの抗議の声は華麗に受け流すフリルフレア。そのまま深々とため息をついた。
「名前が覚えられないものだからその人の第一印象で勝手なあだ名をつけて呼んでるんです。相棒の私の名前さえ最初は覚えなかったんですよ」
「何と、それは酷いな。男ならば女子は丁寧に扱うものじゃぞ、赤鱗の友よ」
「あ、ああ。そうだな…すまない」
テーブルの端の席に座っている女リザードマンの言葉に素直に謝罪するドレイク。そのドレイクの素直さに驚いたフリルフレアは目をまん丸くしてドレイクを見ていた。
「ドレイクが素直に謝罪した…?」
「何だようるさいな…」
若干バツが悪そうな視線をフリルフレアに送るドレイク。そんな二人を見ていたアレイスローが「さあ、それでは食事にしましょう」と声をかけたことで晩餐が始まった。
「おお、美味そうだな」
そう言ってさっそくハンバーグに手を出すドレイク。大皿にたくさん乗っていたハンバーグだったがドレイクが半分近く自分お皿の上に奪い去る。
「ああ!オイラが眼を付けていたのに!」
そう言ってホビットのランビーも大皿からハンバーグを奪っていく。
「こらランビー、あまりがっつくものではないぞ?」
「あ、すいません姐さん」
女リザードマンの言葉に素直に頭を下げるランビー。その女リザードマンは素直なランビーの様子に満足そうに笑うと、自身もグラタンに手を伸ばした。
フリルフレアもドレイクに「本当にお行儀良くしてよね」と釘を刺すと、ジャガイモのたっぷり入ったオムレツを自分の皿に取った。アレイスローやチックチャック、バードマンの少女、仮面の男も各々料理を皿に取り口に運んでいる。
これだけの大人数だったが料理が足りなくなることはなさそうだった。仕事中と言う事で酒こそ出ていないが、この豪勢な料理は村長なりの歓迎の証なのだろう。
そして食事を勧める中、アレイスローが口を開く。
「それではそろそろ自己紹介に移りましょうか」
アレイスローの言葉に各々頷く。ドレイクとフリルフレアも異論は無かった。
「あ、じゃあ私達から自己紹介します」
「え?後で良いじゃんか」
「良いからやるの!」
フリルフレアの言葉に不満そうだったドレイクだが、フリルフレアに睨まれて仕方なく自己紹介を始めた。
「それじゃ俺から。ドレイク・ルフトだ、見ての通りちょっと珍しい外見をしてるが、5年以上前の記憶が無いから詳しいことは分からん。職業は戦士でランクは13、赤蜥蜴って言えば分かる奴もいるんじゃないか?」
「ほう!やはりドレイク殿が噂の赤蜥蜴じゃったか。妾の見立てに狂いは無かったな!」
「さすがは姐さんですね!」
女リザードマンの言葉に喝采を送るランビー。アレイスローは驚いたように女リザードマンを見ていた。
「そんなことまで見抜くなんて流石ですねバレンシアさん。私は単に珍しい色の鱗だな~、位にしか思っていませんでしたよ」
「ふふ、同じリザードマンとして以前から注目していただけの話じゃ。噂の赤蜥蜴をな」
そう言ってバレンシアと呼ばれた女リザードマンはドレイクに視線を向けた。その視線を正面から受け止めニヤリと笑うドレイク。二人のリザードマンの間に何とも言えない大人の空気が流れる。どことなく色っぽく笑うバレンシア。ドレイクの浮かべる笑みもそれに応えている様に見えた。だが、ドレイクはすぐに視線を逸らすとフッと笑いながらフリルフレアの頭にポンと手を置いた。
「こいつの保護者でもある。よろしく頼む」
「ミイィィ!子供扱いしないでって言ってるでしょ!」
そう言いながらフリルフレアは頭の上からドレイクの手をどかす。そしてそのまま一度席から立ち上がった。
「ええと……初めまして、ドレイクの相棒でフリルフレア・アーキシャと申します。私もドレイクと同様、5歳以前の記憶が無いので翼が赤い理由とかは分かりません。多分そういう家系に生まれたんだと思うんですが……。職業は精霊使い、ランクは2になったばかりの駆け出しです。よろしくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げるフリルフレア。そんなフリルフレアの言葉に、バードマンの少女が初めて口を開いた。
「未成年…なのに…冒険者…?」
「あ、すみません。私一応15歳ってことになってます」
「そう……でも…記憶…無い?…親は…」
たどたどしい口調で言うバードマンの少女。しかし、口調のとこは気にせずバードマンの少女に微笑みかけるフリルフレア。
「私はヒューマンの孤児院で育ったものですから……本当の両親というものを知りません。ですが、私にとっては孤児院のパパ先生やママ先生が実の親も同然なんです」
「…ごめん…」
謝罪するバードマンの少女に「気にしないでください」と言って微笑むフリルフレア。そんなフリルフレアの頭を「偉いぞ」とばかりにワシャワシャとドレイクが撫でた。
「ドレイク、髪が乱れるんだけど」
「元から乱れてるだろ」
確かにフリルフレアは元から酷いくせ毛だったが、今はドレイクが乱暴に撫でたせいで余計グシャグシャになっていた。
そしてフリルフレアが席に着いたのを見計らってアレイスローが立ち上がった。
「それでは改めて…私から自己紹介したいと思います。一応このパーディーのリーダーを務めさせてもらってますアレイスロー・ストランティスです」
そう言ってドレイクとフリルフレアに頭を下げるアレイスロー。双子というだけあってどこから見てもロックスローと瓜二つだった。瞳の色も同じ紫で、違いといえば髪が銀色でわずかにロックスローよりも短い位だった。ローブを羽織っており、その手には宝玉の付いた杖を持っている。
「見ての通りのエルフで職業は魔導士、ランクは10です。ドレイクさん、フリルフレアさんよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるアレイスロー。そしてアレイスローが席に着くと、今度はチックチャックが立ち上がった。食事中だというのに真っ白い全身鎧を身にまとい、大振りの盾を背負っていた。長剣はテーブルに立てかけられている。
「改めて名乗らせてもらおう。チックチャック・セレドだ。ヒューマンで歳は25、職業は戦士だが騎士を自称させてもらっている。ランクは9だ。見知りおいてもらおう」
そう言ったチックチャック。白い全身鎧に目が行きがちだが、意外にも顔立ちは整っており、黒髪も短く切りそろえていてさながら本当に騎士の様だった。
チックチャックが席に着くと今度はバレンシアが立ち上がった。相変わらずドレイクに対して大人の雰囲気漂う視線を送っている。
「妾はバレンシア・ワーグナー。見ての通り青鱗の民だ」
そう言ってバレンシアは腕の鱗をドレイク達に見せつけた。青鱗の民という彼女の言葉通り、バレンシアの全身は美しい青い鱗で覆われていた。瞳は鱗と同様青く、顔立ちはリザードマンでありながら一目で女性と分かる気品と美しさがあった。恐らく彼女はリザードマンの価値観からすればかなりの美人なのだろう。法衣の様な衣を纏っており、手元のテーブルには見事な薙刀が立てかけられていた。
「ラトファイ竜皇国の首都ラトファイデルで代々竜司祭をしていた家系の出身でな、妾自身も竜司祭をしておる。当然仕える竜王様は我らが水竜公ラトファイ様じゃ。ランクは11.今後ともよろしく頼む、ドレイク殿」
「ああ、こちらこそよろしく頼むバレンシア」
「え⁉」
バレンシアとドレイクがそう言って握手をする中、フリルフレアが驚愕の声を上げる。それは信じられないことを聞いた、そんな様子だった。
「ドレイクが……ドレイクが一回で人の名前を覚えるなんて……」
信じられないと言いたげにドレイクを見つめるフリルフレア。しかしドレイクはいたって真面目な雰囲気でフリルフレアに視線を向けた。
「リザードマンの名前を覚えないなんて失礼だろう」
「リザードマンじゃなくても名前を覚えないなんて失礼だと思うけど……」
ドレイクにジト目を送るフリルフレア。ドレイクはとぼける様にそっぽを向いている。
「フリルフレア、じゃったな。リザードマンというものは同族意識が強いのじゃ。故にドレイク殿は妾の名を覚えるし、妾もドレイク殿に敬称を付けて呼ぶ。そういうものなのじゃ」
「は、はあ……」
そう言われても何となく腑に落ちないフリルフレア。ドレイクに視線を送ると、勝手に何やら納得してウンウン頷いている。
「リザードマンてのはたとえ部族が違っても互いに敬意を表すことを忘れないものなんだ。その相手がたとえ闇に属する黒鱗や紫鱗の部族であってもそれは変わらない」
「そういうものなの?」
何となく納得がいかないフリルフレアだったが、それをいま議論しても仕方が無かった。そのままバレンシアが席に着くと、次はホビットのランビーが立ち上がる。
「姐さんの次はオイラの番だな。オイラはランビー・フロイツ。言っとくけどヒューマンの子供じゃなくてホビットだからな!間違えるなよ!歳は20歳。ランク5の盗賊だ」
そう言って胸を張るランビー。ヒューマンの子供と間違えそうなほど小柄で、茶色の髪もボサボサだったが、悪戯好きそうな黒い瞳はらんらんと輝いていた。
「小柄だからって舐めてると痛い目を見るぜ。そっちのチビッ子とは違ってな」
そう言ってフリルフレアを指差してケラケラと笑うランビー。何のことか分からずポカンとしていたフリルフレアだったが、ランビーが指差しているのが自分の事だと気が付くとむくれながら言い返した。
「チビッ子って…身長だったらランビーさんの方が小さいじゃないですか!」
「おいらはホビットとしては平均的だぜ?チビッ子ちゃんはバートマンとしてはオチビなんじゃないの?」
ニヤニヤしながら言い返してくるランビー。どうやらフリルフレアをからかっている様だった。そんなランビーに対し何も言い返せず半ベソかくフリルフレア。
「これランビー、あまりフリルフレアをからかうでない」
「こらチビ。うちのチビッ子をあんまりイジメるな」
ランビーに対しバレンシアとドレイクが声をかける。ランビーはドレイクに視線を向けるとすぐにプイっとそっぽを向いてしまうが、バレンシアも自分に視線を送っている事に気が付くと、慌てたように頭を下げた。
「は、はい!すいません姐さん!」
「謝るんなら妾では無く、フリルフレアにじゃ」
「はい!………わりい、言い過ぎた」
バレンシアに対しては二つ返事で答えていたランビーだったが、その割には仕方なくといった感じでフリルフレアに誤るランビー。
「お前……何か他の奴とバレンシアに対する態度、違い過ぎないか?」
ランビーの態度に疑問を口にするドレイク。それを聞いたランビーは両腕を組んで得意げな表情をした。
「当たり前だろ!オイラは姐さんの一番弟子なんだからな!」
「一番弟子?」
疑問を口にするドレイク。その疑問に答えたのはバレンシアの方だった。
「ランビーはな、昔スラム街でスリをして生計を立てていたんじゃ。その時妾と出会って改心し、それ以来妾の弟子を名乗るようになったのじゃ」
「要するに押しかけ弟子か」
ドレイクの言葉に「うるせー、押しかけじゃねえ!」と言って舌を出すランビー。そしてそのまま自己紹介は終わりだとばかりに席に座る。次に立ち上がったのはバードマンの少女だった。フリルフレアよりは身長が高いが、それでも小柄な部類に入るだろう。長い藤色の髪をポニーテールにしており、緑の瞳は眠たそうに半分閉じている。背中に生えた大きな青い翼が印象的だった。
「フェルは…フェルフェル・ゼリア…17歳…バードマン…狩人…ランク5…」
フェルフェルと名乗ったその少女はそれだけ言うと、これで紹介は終わりとばかりに席に座る。周りの人間が何も言わないところを見ると、彼女はいつもこんな感じなのだろうと想像できた。
「あのフェルフェルさん。フェルフェルさんはどちらの出身なんですか?」
フリルフレアが手を上げて質問する。同じバードマン同士、気になるところがあるのだろう。
「フリルフレア…ごめん…フェル…素性明かせない…集落の掟…」
そう言って首を横に振るフェルフェル。どうやら出身の集落の掟で素性を明かせないと言う事らしい。
「あ、そうなんですね。すみません、余計なことを訊いて…」
頭を下げるフリルフレア。実は彼女としては初めての同族の知り合いであるフェルフェルのことをもっと知りたかったのと、もしかしたら自分の素性に繋がる何かを知っているかもしれないという多少の打算があったのだが、掟で禁止されているのならばこれ以上訊く訳にはいかなかった。
少し残念そうな雰囲気のフリルフレア。しかしフェルフェルは相変わらず眠たそうな目のまま席に座ってしまった。
そして最後、仮面をつけた男の番になると全員が仮面の男に注目した。今までずっと黙って食事をしていた仮面の男。綺麗に切りそろえられた黒髪をしており、顔の上半分のみを隠す仮面と、シルクハットにタキシード。瞳の色は仮面に隠れてわからなかったが、どう考えてもこんな村の中に居る格好では無かったし、そもそも冒険者の格好ですらない。ドレイクが胡散臭げな視線を送っていると仮面の男は無言で立ち上がると、次の瞬間クルクルとその場で回転し、ポーズを決めた。
「「は?」」
ドレイクとフリルフレアの声がハモる。アレイスローたちは特に驚いた様子も見せていない。見慣れているのだろうか?
「ふむ…なるほど。ドレイク君と言ったね?君は戦士としては優秀だが、相棒のフリルフレア君の扱いがなっていないみたいだね。フリルフレア君はそんなドレイク君にもっと常識的な行動をとってほしいと思っている。違うかな?」
「はぁ?」
「あ……合ってる」
何かイラついたのか不機嫌そうに言うドレイクと、信じられないと言った風な表情のフリルフレア。二人の視線の先で仮面の男は不敵に笑っていた。
「何、驚くことは無い。今迄の君達の行動や会話を見聞きして推理しただけの話なのだよ」
「推理?」
フリルフレアの言葉に頷くと、再びポーズをとる仮面の男。
「申し遅れたね。吾輩は今アラセアで!否!アレストラル王国で最も勢いのある探偵!その名も仮面の名探偵オルグ!」
「探偵⁉」
「何だ、冒険者じゃないのか」
驚きの声を上げるフリルフレアに対し、興味なさげなドレイク。
「彼は独自に冒険者行方不明事件を調査していたのですが、私たちのパーティーが仕事の依頼を受けたことで接触してきましてね、彼の希望で共に調査することになったのです」
「その通り、吾輩が調査に乗り出したからにはこの事件は解決したも同然」
そう言って胸を張ってドヤ顔しているオルグに対し、ドレイクはあからさまに胡散臭げな視線を送る。
「探偵って………調査の役に立つのかこいつ?」
そう言ってオルグを睨むドレイクに対しフリルフレアは尊敬の眼差しを送っていた。
「すごい……名探偵だって…」
キラキラした目でオルグを見つめているフリルフレアにドレイクは頭を抱えたい気持ちになった。




