表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

296/614

第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第15話、第十一の悪夢・喰 その7

     第15話その7


「こ、これは…⁉」

 ファンナの驚愕の声はその場の悲鳴や喧騒にかき消されていった。

 悲鳴を聞きつけ急いで皆が待機している場所まで戻ったドレイクとフリルフレアとファンナ。3人が眼にしたのは、今まさに大量の魔物たちに襲われている民間人たちだった。

「ひっ!む、虫!」

 悲鳴を上げてフリルフレアが身を固くする。民間人たちを襲っている魔物は見た限り大きく分けて2種類に分類された。1つは先ほどまでドレイク達が戦っていたナイトメアビースト……ただしこちらのナイトメアビーストは全体的に先ほどのもの達よりも大柄であり体長は170~200cm以上のものまでいる。そしてもう一種類がフリルフレアの苦手とする虫型の魔物だった。全体的にナイトメアビーストよりも小柄だが、それでも体長120cm以上ありそうなものがたくさんいる。そしてそれらの魔物は一様に民間人たちに襲い掛かり、その肉を貪っていた。そう………この魔物たちは人食いの魔物だったのだ。

「む、虫が……人を食べてる…」

 その光景を目にし、思わず足が震えるフリルフレア。巨大な虫型の魔物……ナイトメアインセクトとでも呼称すべきだろう……が人を襲いその肉を喰っている光景に思わず恐怖を覚えたのだ。それにナイトメアインセクトは様々な虫の姿をしており、先ほどドレイク達を襲ったカマキリ型やバッタ型、芋虫型もいたうえ、最悪なことにゴキブリ型もいた。虫嫌いなフリルフレアが悲鳴を上げたのも当然の事だろう。だが、それでもこの状況をいつまでも黙って見ている訳にはいかなかった。ドレイクは素早く背中の大剣を抜き放つと、おそらく合計50匹以上いるであろう魔物の群れに向かって突撃しながら叫んでいた。

「フリルフレア!今は怖がってる場合じゃねえ!とにかく上空から魔法で少しでも敵の数を減らせ!」

「ふえ⁉………う、うん…そうだね!」

 ビビッていたところに突如声をかけられビクッと反応するフリルフレア。そんな状態だったので膝がガクガク震えているフリルフレアだったが、今はビビっている場合じゃないと考え直す。そして両膝を思いっきり叩いて震えを無理矢理止めると一気に上空へ飛び立った。

 バッサバサと羽ばたく音を立てながら空中で停滞するフリルフレア。眼下では魔物たちによる凄惨な殺戮劇が繰り広げられている。

「く、来るな!来るな……ギャアアアアァァァァァ!」

「た、助けてくれぇ!死にたくな…グゲ!」

 腰を抜かした男がにじり寄るナイトメアビーストに向かって棒を振り回す。だが抵抗むなしく無残にも喉笛を喰い千切られて絶命した。

 別の男は逃げまどっていたところに背後から羽音を響かせて飛来したバッタ型のナイトメアインセクトに頭を噛み砕かれて絶命している。

 それだけではなかった。子供を庇った母親がカマキリ型のナイトメアインセクトに首を斬り落とされ、そのままその身体を貪られている。

 自分だけ助かろうと少女をナイトメアビーストの方へ突き飛ばして、その隙に逃げようとした小太りの男は、そこに飛来した数匹のゴキブリ型のナイトメアインセクトに生きたまま体を貪られて死んでいった。そして突き飛ばされた少女もナイトメアビーストに首をかき斬られ、その屍を貪られている。

 ペルシ、スプラ、ルーシーの3人が何とか皆を救おうと懸命に応戦しているが、敵の数が多すぎてとても対処しきれていなかった。

 フリルフレアは上空からそれを見て、自分の頬を両手で思いっきり叩いた。

(今は怖がってる場合じゃない!みんなを助けなきゃ!)

 そう思うと不思議と虫も怖くなくなってくる。そう……しょせんは魔物、すなわち倒すべき敵なのだ。フリルフレアは魔法発動のために精神を集中させた。

「くらえ!『フェザーファイア!』」

ズダダダダダダダアァン!

 フリルフレアの手の平と翼の先から撃ち出された無数の炎の羽根が魔物たちを撃ち抜いていく。とにかく数を減らしたいので羽根を拡散させて広範囲に撃ち出していった。範囲攻撃になるため攻撃力は下がってしまうが、それでも小さめのナイトメアインセクトならばうまくいけば一撃で倒せる。それにすぐに次の魔法の準備に入り、そのまま連続で撃ち出していく。広域拡散型のフェザーファイアの連射はこういう状況においてはかなり有効だった。特に動きの遅い芋虫型のナイトメアインセクトなどは良い的だった。

「このまま連射で…」

 さらにもう一発!と意気込むフリルフレアだったが、その耳に嫌な音が聞こえてきた。

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…。

 何かが振動するような耳障りな音、それが羽が細かく振動する音だと気が付いた時にフリルフレアの首筋に嫌な汗が流れ落ちた。慌てて音のした方を見るフリルフレア。そこには………自分目掛けて飛来するゴキブリ型のナイトメアインセクトの姿があった。

 その瞬間、さっと血の気が引いて青ざめるフリルフレア。

「い、いやあああぁぁぁぁぁ!」

 上空を飛んでいるからと油断していた、考えてみれば虫は空を飛ぶものも多いのだ。

 フリルフレアは涙目になりながら両手と翼の先を自分に向かって飛んでくるナイトメアインセクトに向けた。

「『フェザーファイア!』『フェザーファイア!』『フェザーファイアアアァァァ!』…」

 先ほどまでの意識はどこへやら、一気にパニックに陥ったフリルフレアはとにかく魔法を撃ちまくっていた。

 幸いにもフリルフレアの撃った炎の羽根はナイトメアインセクトたちを問答無用で撃ち貫き、焼き尽くして消し炭に変えていった。

 一気に消耗し、身体に相当な脱力感を感じるフリルフレア。それでも何とか魔法を使おうと意識を集中させながら眼下の状況を確認した。

 フリルフレアの眼下ではドレイクの奮戦が続いていた。状況はかなり悪い…完全な乱戦状態だった。

 正直に言って大剣を振り回すドレイクにとって乱戦はあまり得意な物ではなかった。そもそもドレイクはどちらかと言えば単騎で先行して突撃からの殲滅と言う戦法の方が得意なのだ。何故ならば、自分の周りに味方や保護対象などが居るとまともに大剣を振り回せないからだ。その点周りに敵しかいない状況ならば、目につく物を片っ端から倒していけばいいだけだ。ドレイクにしてみればその方が絶対に楽だった。味方に当たらないように気を使いながら戦うなど正直面倒でしかない。だからドレイクは今、民間人や味方に当たらないように大剣を比較的コンパクトに振るい魔物を倒していた。

「ふん!せい!ぜりゃあぁぁ!」

 大剣を片手で振るいナイトメアビーストを叩き斬り、空いた左手で飛来してきたゴキブリ型のナイトメアインセクトを叩き潰す。さらに足元から近寄ってきたイモ虫型のナイトメアインセクトはあるいは蹴り飛ばし、あるいは踏み潰す。

「チッ!……面倒くせえ…」

 ドレイクの口から思わず愚痴がこぼれる。ナイトメアビーストもナイトメアインセクトも正直大した敵ではない。だが、こうも数が多いうえに、パニックを起こした民間人たちが辺りをウロチョロしているので思う存分大剣を振り回すことが出来ないのが面倒だ。それに民間人を巻き添えにしてしまうことを考えると炎のブレスも使うことが出来ない。正直かなり厄介な状況だった。

 ドレイクだけではなく、ペルシ、スプラ、ルーシーの3人も苦戦を強いられていた。3人はバラバラには行動せず、パニックになりながらも動けずにいる民間人の女子供を守るように陣形を組んでいた。ペルシとスプラが前に出て、ルーシーがその一歩後ろから魔法で援護をする。さらに民間人たちをルーシーの後ろに下がらせ、手出しさせないようにしていた。

 そしてファンナの方も全体の状況を確認したのち、ペルシたちに合流する選択肢を選んでいた。正直すでに民間人にかなりの犠牲者が出ている。もう全てを救うことは出来ない状況だ。それならば少しでも多くそしてより力の弱い者たちを守らなければと考えたのだ。例え民間人でも若い男ならば多少は自分の身を守ることが出来るだろう。しかし女子供老人となるとそうもいかなかった。そしてそんな中で………苦渋の決断だが、老い先の短い老人まで守っている余裕は無かった。それに………。

「ひいいいぃぃぃ!」

「お、お助けええぇぇ!」

「ワ、ワシャまだ死にたくないんじゃぁぁ!」

 口々に喚き散らしながら腰を抜かしている老人たち。だが、意外にもそんな元気に喚き散らしている老人たちが多数存在している。

(あまり老人たちは狙われていない…?魔物と言えど、年老いたまずい肉は食いたくないということなのか?)

 ファンナの脳裏にそんな考えがよぎる。しかしそう思えるほど老人たちの数はそれほど減っていなかった。そしてそれならばなおのこと女子供を守らなければならない。

「ペルシ!スプラ!援護する!…アフ・ラー・ミラル・アムル……『エナジーアーム!』」

 ファンナの魔法が発動した瞬間、ペルシの長鎗とスプラの小剣に魔力の光が宿る。武器の攻撃力を増加させる強化魔法だ。

「助かりますファンナさん!」

 ペルシの言葉に軽く手を上げて応えるファンナ。そして次の魔法を使おうと精神を集中させ……………そこに隙が生じた。

ドガッ!

「キャア!」

 突然の衝撃に思わず悲鳴を上げて倒れ込むファンナ。ファンナの背後から忍び寄っていたナイトメアビーストが突進を喰らわせたのだ。そしてナイトメアビーストはファンナにのしかかり、その動きを封じる。

「…くぅ!」

 思わず口から呻き声が漏れるファンナ。だがナイトメアビーストはその巨体でファンナにのしかかっており、まともに動くことが出来ない。

(まずい!しくじった!)

 周囲の状況や自分に接近する敵の動きに注意を払っていなかったことをいまさらながら後悔するファンナ。だが………時はすでに遅かった。

「「「ファンナさん!」」」

 ペルシ、スプラ、ルーシー、そして上空から全体を見ながら魔法で攻撃を繰り返していたフリルフレアの声が響き渡る。

 そしてそんな声が響き渡る中…………………ファンナに向けてナイトメアビーストの鋭い牙が振り下ろされたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ