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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第15話、第十一の悪夢・喰 その2

     第15話その2


「いやあぁぁぁぁ!人喰い虫ぃ!」

「……いや、人は喰わんだろ……」

 巨大カマキリを前に妙な悲鳴を上げるフリルフレアと、それにツッコミを入れるドレイク。だが、次の瞬間巨大カマキリが口にくわえていた物を落とした。

 それは……………人間の…恐らくヒューマンの腕だった。

「……あれ?」

 思わず眼が点になるドレイク。何で突然そんなものが?と思うが、巨大カマキリがくわえていたとしか考えられない。と言うことは………。

「あ、もしかして本当に人喰い虫野郎か?」

「いやあああぁぁぁ!本当に人喰い虫ぃ!やだぁ!食べられるぅ!」

 悲鳴を上げて騒ぎだすフリルフレア。そしてピーピー喚いている割にはしっかりと短剣を引き抜いて構えている。

「お前……実は虫平気なんじゃねえの?」

「何でよ⁉」

「いや、意外と冷静に構えてるし…」

 ドレイクの言葉にとんでもないと言いたげに首をブンブン振るフリルフレア。

「私は虫が嫌いなの!だからさっさと殺しちゃわないと安心できないの!」

「あ、そう言うもんなのか…」

 若干台詞は不穏だったが、虫嫌いな人間などそんなモノだろうと考え直すドレイク。考えてもみれば、小さな虫は平気で潰しているのだから、それが大きくなっただけの話なのだろう。叩き潰せないから武器で殺そうとしているだけだ。結局虫の駆除と何ら変わりない。

「ま、どっちにしろ人喰い虫野郎となれば……無視するわけにはいかねえよな……」

「う、うん…そうだよね」

「ああ、虫だけにな……」

「……………」

 ドレイクの虫だけに無視と言う寒いダジャレに思わずゴミを見るような視線を送るフリルフレア。ドレイクも言った後に恥ずかしくなったのか、若干気まずそうにしている。

 だが、ドレイクとフリルフレアがそんなことをしている間に、巨大カマキリはドレイクとフリルフレアの品定めを終えたようだった。そのままフリルフレアの方を向くと長い鎌状の腕を構えてくる。

「ミイィィィ!や、やる気なの⁉」

 巨大カマキリに対して短剣を構えながらもへっぴり腰のままドレイクの後ろに下がっていくフリルフレア。そしてそのままドレイクを見上げる。

「ドレイク、頑張って!」

「お前が戦うんじゃないのかよ……」

 フリルフレアの行動に呆れてため息をつきながらもドレイクは背中から大剣を抜き放つ。

「まあ良いか……そんじゃ」

 そう言って首の関節をポキポキ鳴らしているドレイク。そのまま大剣を片手で構えると、巨大カマキリが「シャーーー!」と威嚇してくる。

「早速相手になってもらうぜ!」

ズダン!

 その瞬間、凄まじい踏み込みの音が辺りに響き渡る。凄まじい力での踏み込みによりドレイクの足元に伸びていた木の根が踏み砕かれる。そしてドレイクは一瞬にして巨大カマキリとの間合いを詰めていた。

「シャアァァァ!」

 ドレイクに反応するように鎌状の腕を振り上げる巨大カマキリだが、ドレイクの大剣は既に振り上げられていた。そして巨大カマキリは本能的に察したのだろうか?自分の攻撃よりもドレイクの攻撃の方が速いと判断したらしく、その鎌状の腕を頭の上で交差させていた。ドレイクの大剣を防ぐつもりなのだろう。だが、それに対してドレイクは余裕の表情だった。そして振り上げた姿勢のまま大剣を両手で握り込む。

「チェェェストオオオォォァァァ!」

 その瞬間ドレイクの大剣が巨大カマキリに振り下ろされる。そしてその一撃は、一刀のもとに巨大カマキリを両断していた。頭の上で交差された鎌状の腕は半ばあたりで叩き斬られている。どうやら巨大カマキリの鎌くらいではドレイクの大剣は防げないようだった。

 声もなく両断されて倒れ込む巨大カマキリ。そのまますぐに黒い粒子になって消え去っていく。

「大したことねえ……」

「ミイイィィィ!」

「ん?」

 フリルフレアの突然の叫びに思わず振り返るドレイク。するとフリルフレアの目の前に体長50cmくらいの大きな芋虫が居た。しかも、すぐにボトボトと木の上から何匹も落ちてくる。すぐにフリルフレアは大きな芋虫の群れに囲まれてしまった。

「い、いやああああぁぁぁぁぁ!た、助けてドレイク!」

「あ~………」

 数えたくもないが、見た限り十匹以上いるのは分かる。正直それだけの巨大芋虫の群れと言うのはドレイク的にも少々気持ち悪い。

「よし、フリルフレア!」

「何⁉」

「ガンバレ!」

「がんばれないいぃぃ!」

 悲鳴を上げるフリルフレア。既に涙目に……と言うよりも泣いている。よほど虫が怖いのだろう。

「お願いお願いお願い!お願いだからドレイクゥ!」

「……あ~……はいはい、分かったよ…」

 あまりにも涙ながらに懇願してくるフリルフレアに、しかたないとばかりにため息をつくドレイク。そのままフリルフレアに向かってもぞもぞと這い寄っていく芋虫を蹴飛ばしながらフリルフレアの元へと急いだ。

「ミイイィィィ!ド、ドレイク!」

 ドレイクがすぐそばまで来ると、そのままドレイクに飛びつくフリルフレア。よほど嫌なのか、ドレイクにしがみ付き、その背中にへばりついている。ちなみにドレイク的にはフリルフレアが飛びついてきた時に足元にいた芋虫を思いっきり踏んづけていったのが気にならなくもない。

(……こいつ、実は虫平気なんじゃねえの…?)

 そんなことも考えたが、虫を嫌いなふりをしても意味がないだろうという結論に達した。

「よっし、そんじゃ行くぞ」

「ちょっと待ってドレイク!」

「っと……何だよ?」

 フリルフレアをちゃんとおぶってから駆け出そうとしたところを止められ、思わず前のめりにコケそうになるドレイク。そのまま背中のフリルフレアにジト目を送っている。

「ドレイク!ちゃんと害虫どもを駆逐していかないと!」

「お前、言い方……」

 フリルフレアの物言いに不穏な物を感じるドレイク。しかし当のフリルフレアは気にもせずに後ろからドレイクの顔を覗き込もうとしている。

「だって、あの人喰い虫が町の人を襲ったら大変じゃない!」

「いや、ここ悪夢の中なんだから放っておけばいいんじゃねえの?」

「でも、ここで死んだら現実でも死んじゃうんだよ?」

「あ、そう言えばそうだな…」

 面倒くさいとも考えたが、確かにフリルフレアの言うことも一理ある。全く戦えない民間人も数多くこの悪夢に囚われているのだ。そんな人々が人喰い虫に襲われたらまず助からないだろう。

「しょうがねえなぁ…」

 ため息と共にドレイクはいまだモゾモゾと蠢いている芋虫共に向き直った。面倒なので一気に片付けることにする。

「虫共!食らいやがれ!」

グオオオオオオオオオオ!

 ドレイクの口から炎のブレスが撃ち出される。そしてそのブレスで芋虫共を薙ぎ払うと、その場には焼け焦げた芋虫の死骸だけが残ったが、すぐに粒子状になって消え去っていった。ちなみに幸いなことに森には燃え移らなかったみたいである。

「ミイイィィィ!やった!」

「よっしゃ!そんじゃ行くぞ!」

 フリルフレアを背負ったままその場から駆け出すドレイク。芋虫がもう死んでいるのでフリルフレアを下ろして良いのではないかと思うが、ドレイクは特にそのことに気が付く様子もなくフリルフレアを背負ったまま走り続けた。

 そしてしばらく走り続けると、不意に視界が開けた。

「おっとと……」

 慌てて急ブレーキをかけるドレイク。フリルフレアが「どうしたの?」と顔をのぞかせている。

 ドレイクの目の前には急な斜面が広がっていた。どうやら今までいた森は山の上にあったようだった。そして森を抜けた先は急な斜面……と言うよりも崖に近い角度だった。

「………どうしようか、ドレイク?」

「そうだなぁ……」

 目の前は普通に考えればとても降りられる場所ではない。そして後は元いた森だ。散々歩かされたので戻るのは避けたいところだ。と、その時………。

「「キャアアァァァァァァァ!」」

「「うわああぁぁぁぁ!」」

 突如いくつもの悲鳴が聞こえてくる。声のした方に視線を向けると、急斜面のはるか下方に多数の人が集まっていた。正確な人数は分からないが、ざっと見た限りでは50人近く居そうだ。そしてその集団の周りに獣のようなものが居た。それも多数であり、人々を取り囲んでいる。どう考えても魔物の類に人々が襲われているように見えた。

「ドレイク!」

「フリルフレア!しっかり掴まってろ!」

「へ⁉え、ちょ……ドレイク⁉」

 ドレイクはフリルフレアが途中で落ちないようしっかりと押さえながら、その急斜面を一気に駆け下りていった。


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