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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第14話、第十の悪夢・欲望 その11

     第14話その11


「…………………」

 フギが消滅した空間に向けて手を突き出したままフリルフレアは立ち続けていた。その瞳はまだ油断なくフギが居た空間を睨みつけている。万が一にもよみがえってくる可能性を警戒しているのだろう。

 しばらくそうしていたフリルフレア。後ろではドレイクとスミーシャもその様子を固唾を呑んで見守っている。だが………突如フリルフレアの身体がよろめいた。

「……ふにゃ」

 間抜けな声と共にその場に膝から崩れ落ちるフリルフレア。崩れ落ちる瞬間に一瞬だけフリルフレアの周りを炎が弾けたかと思うと、次の瞬間には元の姿へと戻っていた。もっとも三つ編みはほどけたままだったが。

「フリルフレア!」

「フリルちゃん!」

 ドレイクとスミーシャが慌ててフリルフレアの元へ駆け寄る。崩れ落ちてそのまま倒れ込みそうになるフリルフレアをドレイクが一瞬早く抱き止める。ドレイクの腕の中でフリルフレアはハァハァと荒い息をして辛そうにしている。かなり消耗しているのが分かった。

「お、おい!大丈夫か⁉」

「え、えへへ………やったよ…ドレイク……」

 心配するドレイクをよそにフリルフレアはそう言うと弱々しくVサインをして見せた。

「フリルちゃん………」

 スミーシャがVサインしているフリルフレアの手を両手で握りしめる。弱々しいフリルフレアを見て不安を隠せない様子だった。

「フリルフレア……お前…あの姿は一体……?」

「そうだよフリルちゃん!それに……こんなに消耗しちゃって……」

 ドレイクとスミーシャの言葉に弱々しく笑みを浮かべるフリルフレア。

「前に……言ったでしょ?……ザンブリエルを…倒した…力……」

「あの姿がそうだって言うのか?」

 ドレイクの言葉に無言で頷くフリルフレア。

「でもフリルちゃん、何で突然あんな姿に変身を…?」

 スミーシャの言葉に今度は無言で首を振るフリルフレア。そしてポツリポツリと口を開く。

「私も………何で…あの姿に……変身できるのか…分かりません…」

 そこで言葉を切るとフリルフレアは弱々しいながらも拳をグッと握りしめた。

「でも……あの姿こそ……私の……最強形態……名付けて……スーパー…フリルフレア…ちゃん……」

 弱ってるくせに正直どうでも良いことをあえて得意げに言うフリルフレア。消耗しきってやつれた顔をしているくせにその表情は得意げで……いわゆるドヤ顔だった。

「なるほど………そっか、スーパー可愛いフリルちゃん……か」

 スミーシャが口にした名前は若干違っている気がして、思わずドレイクがボソッと「なんか名前変ってないか?」とぼやいていたが完全にシカトしていた。そしてフリルフレアはドレイクの腕の中で倒れ込んでいたため少し回復したのか、先ほどよりも更にドヤ顔になって口を開く。

「そう…です。スーパービューティフルフリルフレアちゃん……です」

「いや、可愛いもビュリホーも、ついでにスーパーもどうでも良いだろ」

 ドレイクの冷静なツッコミが入るがこれもシカト。フリルフレア的にはどうやらあの変身した姿は普段の自分よりも可愛くて美しいということになっているらしい。ちなみにドレイク的には変身したフリルフレアはなんか神々しすぎるというか、炎の圧が凄すぎるせいもあって、いつものフリルフレアの方が良いし可愛いと内心思っていた。

「まさかフリルちゃんにあんな力があったなんて……」

「えへへへ…」

 スミーシャの言葉に照れ笑いを浮かべるフリルフレア。少し元気になったのか、ドレイクの腕の中で身体を起こしている。

「やっぱり私が孤児院でずっと良い子にして、ママ先生のお手伝いもしたし、弟妹のお世話もちゃんとしてたから、神様がご褒美に特別な力をくれたのかな……」

 突如そんな訳の分からんことをほざきだしたフリルフレアに、ドレイクはため息をつく。

「んな訳あるか。どう考えてもお前が死んでも甦る力……何だっけか?フェニックスに関係する力ってのと関わり合いがあるだろ」

「あ、あははは……やっぱりそう思う?」

「当然だ」

 ため息をつくドレイク。だが、そこでスミーシャが不満そうに割って入る。

「何でよ。別にフリルちゃんが可愛いから神様がくれた力ってことで良いじゃない。甦ることだって、神様がフリルちゃんを死なせたくないから復活させてくれるってことで………は!…と言うことは……フリルちゃんの可愛さは神にも認められてるってこと⁉さっすがフリルちゃん♫」

 神にも認められる可愛さとか言われ思わず照れてるフリルフレア。しかしドレイクは「アホか」とか言いながらジト目でスミーシャを睨んでいる。

「あのなぁ……そんな訳の分からん理由な訳ないだろ。フリルフレアの復活する力にしろ今の力にしろ、そんな力を持ってる理由はやっぱりフリルフレアの出生に関係がある可能性が高いだろう?だからこいつの力が何なのかちゃんと調べれば、こいつの生まれや昔の記憶にだってつながるんじゃないのか?」

「あ、なるほど。確かにそれならちゃんと調べた方が良いかもね」

 ドレイクの言葉に納得するスミーシャ。どうやらスミーシャ的には「神様がくれた力」というのは冗談半分の言葉だったらしい。

「でも……さすがに今は調べられないよね」

 フリルフレアはそう言うと、何とか立ち上がる。少しよろけていたがドレイクが支えてあげていた。そしてフリルフレアがはるか上空を見上げると、そこでは悪夢の崩壊が始まっていた。

「そうだな、もうこの悪夢も崩壊しそうだしな」

 ドレイクも後ろに視線を送ると、はるか後方で悪夢の空間が崩れ始めていた。

「え……ちょ、ちょっと何これ⁉」

 悪夢の崩壊に立ち会ったことのないスミーシャだけが一人パニックに陥っている。

「心配すんな。あの悪夢野郎を倒したからこの悪夢が崩壊するだけだ」

「悪夢が崩壊⁉それって……あたしたち大丈夫なの⁉」

 ドレイクの言葉に不安がるスミーシャ。しかしそんな不安がるスミーシャをよそにドレイクもフリルフレアも余裕の表情だ。もういい加減慣れてしまったのだろう。

「問題ねえよ。この悪夢が崩壊したらお前は目覚めてるはずだ」

「ローゼリットさんたちが先に目覚めているはずなので、詳しいことはそちらで訊いてください」

「え、ええ…」

 若干丸投げ気味なドレイクとフリルフレアに不安を感じるスミーシャ。だが、そうしている間にもどんどん悪夢の崩壊は進んでいる。

「てか、あたしは目覚めるって……赤蜥蜴とフリルちゃんは⁉」

「さっき話したろ?俺は呪いをかけられたせいで悪夢野郎の親玉を倒さないと悪夢から出られないし、フリルフレアは自分を悪夢に引きずり込んだ悪夢野郎を倒してないからまだ悪夢から出られないんだ」

「あたしは出られるの?」

「お前は恐らくさっきの悪夢野郎にここに連れてこられたんだろうから大丈夫だろ」

「そ、そう……」

 若干納得したようなしてないようなスミーシャ。この状況が少し不満そうだ。だが、ドレイクはそんなスミーシャを無視してフリルフレアを支えたままスミーシャから離れようとした。

「ちょっと赤蜥蜴、フリルちゃんをどこに連れ去る気よ」

「連れ去るってお前……俺の近くにいるとお前も俺の呪いに巻き込まれるんだよ。だから離れたんだ」

「何よそれ……あんたまさか…フリルちゃんと二人で愛のアバンチュールとしゃれこむ気じゃないでしょうね!」

「何だよアバンスト〇ッシュって……」

「ミイィィィ……。ドレイク、アバンス〇ラッシュじゃなくてアバンチュールね。アバン〇トラッシュじゃどこぞの勇者の必殺技だよ……」

 ドレイクのボケに突っ込むフリルフレア。もっともドレイクはボケようとしてボケた訳ではないのだろうが……。

 とにかく三人でしょうもない会話をしているうちに悪夢はどんどん崩壊していった。そして、ドレイクとフリルフレアから少し離れていたスミーシャも身体の一部が粒子化し始める。

「こ、これって……!」

「大丈夫ですスミーシャさん。このまま粒子状になってここから消えれば、そのまま現実で目覚めます」

「そ、そうなの…?」

 少々不安げだったが、「フリルちゃんが言うならば」と納得するスミーシャ。

「気を付けろよ踊り猫。魔導士ギルドのひょろひょろマスターは恐らく裏切り者だ」

「何よ突然………クロストフさんが?」

「ああ、とにかくお前は金目ハーフや弐号と合流して向こうの警戒をしてくれ」

 ドレイクの言葉に頷くスミーシャ。

「もうかなりの人数が目覚めてるはずですからクロストフさんが何か仕掛けてくる可能性もあります。用心してくださいスミーシャさん」

「うん、ありがとフリルちゃん」

 フリルフレアが心配してくれたのが嬉しかったのか少し力強く頷くスミーシャ。

「分かった。あたしはローゼやアレイたちと協力して事に当たるよ」

「ああ、頼む」

「お願いします」

「うん」

 最後に再び頷いたスミーシャ。そのままその身体は粒子となってこの悪夢から消え去っていった。そしてそうこうしている間にもドレイクとフリルフレアの周りはほとんど崩れ去っていた。

「じゃ、次に行こうかドレイク」

「そうだな」

 お互いの手を握り合うドレイクとフリルフレア。そしてその後すぐ、ドレイクとフリルフレアの足元も崩壊し、その身体が暗闇の中に放り出される。体中に落下感を感じながらドレイクとフリルフレアの意識は闇に飲まれていくのだった。



「………は!」

 思わず体を起こしたスミーシャ。呆然と周りを見回す。場所は見覚えがあるようでなさそうな場所……魔導士ギルドの魔法儀式用の実験場だった。すぐ横にはフリルフレアが横たわっており、かすかな寝息を立てている。そしてそのフリルフレアの片手を自分が握りしめていることに気が付いた。さらに視線を移動させると、フリルフレアの反対側の手をドレイクが握っており、フリルフレア同様ドレイクも寝ていることが分かる。思わず握っているフリルフレアの手をじっと見つめていたスミーシャはそこで今までの事を思い出した。自分は今まで悪夢の中に居たのだ。そしてそもそもそれ以前に悪夢に捕らえられたフリルフレアを助けるために彼女の悪夢の中へと侵入しようとしたのだ。結果的に自分も悪夢に囚われてしまったのだが、ドレイクとフリルフレアのおかげでこうして悪夢から目覚めることが出来たのだ。そのことを思い出したところでスミーシャはドレイクとフリルフレアの最後の言葉を思い出した。『クロストフが裏切り者』『何か仕掛けてくるかもしれない』そのことが頭の片隅に浮かぶ。

 だがその時、背後でザッという足音がした。慌ててフリルフレアの手を離し思わず反射的に振り返る。

「目を覚ましたか、スミーシャ」

 そこにはいつものように不愛想に見えながらも、どこかホッとしているような表情をしている相棒のローゼリットが居た。

「ローゼ!」

「正直な話、なかなか目を覚まさないから少し心配したぞ」

 そう言って苦笑いするローゼリット。しかしすぐに鋭い表情になると実験場の入口の方を向いて頷いた。そこにはフェルフェルが立っており、ローゼリットに頷き返しながら歩み寄ってくる。

「…うぇ~い…スミーシャ…オハヨー…」

「あ、うん、オハヨー……って、フェルも目覚めてたの?」

「…うん…フェルも…目覚めてたよ…」

 そう言うとフェルフェルは得意げに謎の小躍りを始める。相変わらず時々訳の分からない行動をするなと思いつつ、立ち上がってローゼリットに向き直るスミーシャ。

「赤蜥蜴とフリルちゃんからローゼやアレイと合流しろって言われてたからさ、フェルの名前出てこなかったし」

「ああ、フェルフェルはどうやら赤蜥蜴たちには合わなかったらしいからな」

「そうなの?」

「ああ、私もアレイスローも赤蜥蜴やフリルフレアの力を借りて悪夢を脱出したんだが、フェルフェルは自力で脱出したらしい」

 少し感心したように言うローゼリット。その言葉を聞いたフェルフェルは「……フ…フフフ…フェルは…優秀…有能……頭脳明晰…絶対無敵…美人薄命…焼肉定食…」とか得意げに言っている。

(………最後の二つはなんか全く関係ない気がするけど……)

 心の中でツッコミを入れつつ口には出さない事にしておくスミーシャ。だが、そんなスミーシャの心の内など気にもせず、ローゼリットはスミーシャの手を取った。

「とにかくスミーシャ、目覚めたばかりで悪いがすぐに手を貸してくれ」

「え?どうしたの………まさかクロストフさんが何か仕掛けてきた…?」

 悪夢の中のフリルフレアの言葉を思い出すスミーシャ。かなりの人数が目覚めたはずだからクロストフが何か仕掛けてくるかもしれないとフリルフレアに言われたのだ。

 だが、ローゼリットは「赤蜥蜴たちから聞いていたのか」と言いながら首を横に振った。

「クロストフが仕掛けてきた事かどうかまだ分かっていないが、今緊急事態なんだ」

「緊急事態?どうしたの?」

「悪夢が……ナイトメア共が何体もこちらの世界に進出してきてるんだ」

「ナ、ナイトメアが⁉」

 ローゼリットの言葉に驚きを隠せないスミーシャ。ナイトメアはてっきり悪夢の中でしか存在できないものだと思っていたのだ。

「今アレイスローが先行してライデン達と一緒に対処に当たっているが、戦力は少しでも多い方が良い」

「分かった、そう言うことなら急いだ方が良いね」

 スミーシャは自分の装備一式を確認しる。悪夢に侵入する時にフル装備できたのでちゃんと戦う準備は出来ていた。

「ただクロストフが自分は戦力にならないからとこのギルド内に残っている。あの男を野放しのままここを留守にするのはまずい」

「確かに……その通りだね」

「だから赤蜥蜴やフリルフレアたちの身体はフェルフェルに見ていてもらう」

 ローゼリットの言葉にフェルフェルは「…まかせて」とVサインしている。

「よし!行くぞスミーシャ!奴らはかなりの数だが、どうやらこっちの世界では悪夢の中ほどの力は発揮できないらしい。勝機は十分にある!」

「りょーかい!それじゃ急ごうローゼ!…フェル!あとはよろしくね!」

 スミーシャが手を上げるとフェルフェルも「……うぃ」と言いながら手を上げて応える。

 そしてローゼリットとスミーシャの二人は、魔法儀式の実験場を出るとアルミロンドの街中へと駆け出していくのだった。


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