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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第14話、第十の悪夢・欲望 その3

     第14話その3


「うわああぁぁぁぁぁ!」

 しばらくして床に倒れたままだったスミーシャが悲鳴を上げながら飛び起きた。そしてそのまま「ハァ……ハァハァ……」と荒い息のまま周囲を見回している。そしてそんなスミーシャをドレイクとフリルフレアは腕組をしたまま見ていた。

 ちなみに、この場にはドレイクとフリルフレア、スミーシャの三人しかいない。偽物のフリルフレア、ローゼリット、フェルフェル、アレイスローの4人はスミーシャが眼を回している間にドレイクが殴って消滅させておいた。さらに正確に言うと、フリルフレアの偽物だけはドレイクが殴るのに躊躇したのでフリルフレア本人が盛大に「フリルフレアちゃんキック!」とかいう謎の蹴りをぶちかまして消滅させていた。

「起きたみたいだな」

「そうだね」

 そんなことを言いながらドレイクとフリルフレアは「やっと起きたか」とでも言いたげにため息をついている。そんな二人を見ながら「ハァ……ハァ……え…と……あれ?」と呟き改めて周りを見回すスミーシャ。この場にいるのが自分とフリルフレアとドレイクの三人だけであることに気が付き、安心したように深く息を吐いた。

「ほぅ……………夢か…」

「ミイィィ?何が夢なんですかスミーシャさん?」

「あ、フリルちゃん……あのね?」

 少し疲れたような表情のスミーシャ。そう言って力なく笑うとゆっくりと立ち上がった。

「それがさ……なんか悪夢見ちゃって……」

「悪夢……ですか?」

「うん…」

 やつれた感じで頷くスミーシャ。フリルフレアはキョトンとしている。

「どんな悪夢だったんですか?」

「それがね………その夢の中であたしはフリルちゃんやローゼと仲良くイチャイチャしてる訳なのよ……そんでフェルやアレイ、赤蜥蜴なんかもいたんだけど……なんかもう一人フリルちゃんと赤蜥蜴が出てきてさ……」

「ふむふむ」

 適当に相づちを打つフリルフレア。ちなみにドレイクが後ろで「わざとらしい」と言いたげにジト目を送っている。

「そんで何か赤蜥蜴同士で殴り合ったら片方の赤蜥蜴が消えちゃってさ……」

「消えちゃったんですか?」

「そう……でもそんなことはどうでも良いのよ。………その後にさぁ……あとから現れた方のフリルちゃんに…………大っ嫌いって言われちゃったのよ……」

 自分で言っておいてショックすぎたのか、その場でガクッと膝から崩れ落ちるスミーシャ。相当ショックを受けているのが分かる。しかし、それを言った当のフリルフレアは眼をパチクリさせながら一言。

「スミーシャさん、それ夢じゃないですよ?」

「…………へ?」

 フリルフレアの言葉に思わず固まるスミーシャ。フリルフレアの方を見ながら完全に動きが固まっている。そしてそんなフリルフレアとスミーシャを見ながらドレイクがため息交じりに寄ってきた。

「おいフリルフレア、別に夢ってことにしてやりゃ良いんじゃねえのか?」

「え?でも……嘘は良くないと思うし…」

「別にあながち嘘でもないだろ。そもそもここ、悪夢の中なんだし」

「あ、そっか…」

 手をポンと打って納得するフリルフレア。確かにドレイクの言う通りここは悪夢の中なので、スミーシャの言う「悪夢見ちゃって」という言葉もあながち間違いではない。問題は気絶しようが夢から覚めようがまだ悪夢の中だということだ。

「え?ちょっと待って………フリルちゃんが大っ嫌いって言ったの⁉」

「ええ、言いましたけど?」

「誰に?」

「スミーシャさんに」

 まだ呆然としているスミーシャ。だが、その言葉を頭が理解してくると、そのまま頭を抱えて叫び出した。

「ウソォ!何で⁉何で何で何で⁉なんであたし嫌われてるの⁉」

 納得いかないらしいスミーシャ。フリルフレアに詰め寄っているが、フリルフレアはケロッとしたまま少し冷たい口調で口を開いた。

「私の事放っておいて悪夢の中でハーレム作ってるような人は嫌いです……」

「ハーレム⁉え⁉ちょっと待って!ってことは、あの甘えてくるフリルちゃんや甘えさせてくれるローゼは……」

「偽物は成敗しておきましたけど?」

「偽物⁉…てか成敗⁉」

 ショックを受けて頭を抱えるスミーシャ。どうやら、フリルフレアに大っ嫌いと言われたこと以外にも、実際にハーレムが存在し、しかしそのハーレムにいたフリルフレアとローゼリットが偽物で既にいなくなっていることにショックを受けているようだった。

「は!ちょ、ちょっと待って!何も消えた方が偽物だとは限らないじゃない!こっちのフリルちゃんと赤蜥蜴が偽物の可能性も……」

 何やらとんでもないことを言い出すスミーシャ。しかしそのスミーシャの言葉にフリルフレアが不満そうに眼を吊り上げている。

「ミイィィィ。スミーシャさん、私が偽物だって言うんですか?」

「へ⁉あ、えっと……いや、別にそう言う意味じゃ……」

「じゃあ、どういう意味ですか?」

 ジト目のままスミーシャに詰め寄るフリルフレア。詰め寄られたスミーシャはフリルフレアの迫力に若干押されていたが、ふと何を思ったのかフリルフレアの顔を両手で掴んだ。

「……えっと……何ですかスミーシャさん?」

「ああ、うん……ゴメンねフリルちゃん」

 そう言ったスミーシャはおもむろにフリルフレアの唇に自分のそれを重ねた。そしてそのまま吸い付くようにフリルフレアの唇を吸い上げる。

「んん!…んんんんん!」

 思わず顔を真っ赤にしてもがくフリルフレア。そしてドレイクが「な、何やってんだコイツ……」と呟きながら固まっている間にフリルフレアから唇を離した。

「……ふう」

 ポン!と音でもしそうな感じで唇を離すスミーシャ。

「っぷはぁ!」

 対してフリルフレアは「ハァハァ…ハァ…」と息を荒くしながらスミーシャを睨んでいた。

「ちょ、ちょっと!何するんですか踊り猫さん!」

「やぁん!フリルちゃん!ちゃんと名前でよ・ん・で♡」

「絶対呼びません!」

 突然唇を奪われたことでスミーシャに対して警戒度MAXになっているフリルフレア。スミーシャの事を結構すごい眼で睨んでいる。

「おい踊り猫。お前何で突然フリルフレアにキスなんか…」

 ドレイクも釈然としないのか口を挟む。しかし当のスミーシャはどこか得意げだ。

「フッフッフ。それはもちろんこのフリルちゃんが本物かどうか調べるためよ」

「「はあ?」」

 スミーシャの予想外の言葉にドレイクとフリルフレアの声がハモる。スミーシャの言っていることの意味がいまいち理解できなかったからだ。もっともフリルフレアはその後「私本物なのに…」とかブツブツ呟いている。

「フリルフレアが本物かどうか調べるのとキスするのと何の関係があるんだよ?」

「ああ、うん。それはね、フリルちゃんの唾液の味を確認してたの」

「………唾液の味…?」

 スミーシャの言葉に思わず「何言ってんだコイツ」という眼になるドレイク。フリルフレアはスミーシャの言葉のキモさに数歩後退っている。

「そうそう。唾液の味が一緒なら多分本物なんじゃないかなって」

「唾液の味って……どうやって比べんだよ」

「あ、それは大丈夫。あたしフリルちゃんの唾液の味知ってるから」

「はあ?」

「いやね?野営してるときに見張り中暇じゃない?そんなときに時々こっそりばれないようにフリルちゃんにチューとかしてるからさ。しょっちゅう」

「しょっちゅう⁉」

 スミーシャの言葉に開いた口が塞がらないドレイク。

(この女……見張り中に何やってんだ……)

 スミーシャの完全にアウトな告白に思わずめまいを覚えるドレイク。フリルフレアはそれを聞いて鳥肌が立ったのか自分の身体を抱くとそのまま急いで唇を拭き、ドレイクの後ろに隠れた。そしてドレイクの陰からスミーシャを睨んでいる。

「やっぱりスミーシャさん………変態ですね」

「変態⁉とんでもない!これはフリルちゃんに対する真実の……そう真実の!愛!」

 大袈裟に天を仰ぐスミーシャ。フリルフレアはもうすでに完全にドレイクの後ろに隠れていた。

 そして天を扇いでいたスミーシャはふと何かに気が付いたのか、ドレイクとその後ろのフリルフレアをまじまじと見つめていた。

「何だよ踊り猫」

「いや……考えてみたら……本物なんだよねそのフリルちゃん」

 スミーシャの言葉にドレイクの後ろから顔だけ出すフリルフレア。

「だから!そうだってさっきから言ってるじゃないですか!」

「ゴメンゴメン。それであたし……そう言えばなんかフリルちゃんを助けに向かってた気が……」

「今頃思い出したのかよ……」

 呆れるドレイク。そして………全部思い出したのか、スミーシャは「そうだ!フリルちゃん無事だったの⁉」とか叫びながらフリルフレアに飛びついて抱き付こうとしていた。ちなみにフリルフレアには当然のように逃げられていた。


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